赤城耕一の「アカギカメラ」

第29回:一眼レフの正しい愛し方とは。PENTAX K-3 IIIと過ごした半年

「おまえさ、仕事で使うカメラはミラーレスカメラなのに、なぜPENTAX K-3 IIIをほめ讃えるのか」というご意見を一部のカメラファンのみなさまから頂戴しております。

ええ、私はカメラと名のつくものなら防犯カメラでも内視鏡カメラでも好きなものですから節操がないわけですが、最近はますます一眼レフに対して愛着が湧いてきました。これはスペック云々とかいう意味ではありません。

今回はうちにいらしてから半年が経過するリコーイメージングのPENTAX K-3 IIIについて、少し掘り下げてお話をしようかと思います。うちにお越しいただいた個体はとても元気に活躍しております。

黄色い壁の家。年月を経た適度なヤレが郷愁を誘うわけですが、住んでいる人は気に入っているという感じがわかるわけです。ディテール描写がいいですね、なんて無理に説明していますが結局は筆者の“好物”です。
PENTAX K-3 III HD-PENTAX DA 20-40mm F2.8-4 Limited(F9・1/500秒)ISO 400

アサインメントの撮影の場合は時間も効率も品質も重視せねばならないわけですから、筆者も躊躇なく最新のミラーレス機を使って撮影します。職業写真家としてはずっと底辺にいるものですから常に納期を急かされたりして、みなさんが想像されているよりもいろいろと大変なのです。でも最新のカメラは高性能ですからこちらが至らぬところを助けられることも多いわけです。顔認識や瞳AF、手ブレ補正がないと生きていけないカラダになってしまいました。

プライベートな時間では、あいかわらず、ペンタックスSPのシャッター音にシビれたり、明るいわけじゃないけど、マットのフォーカスのキレがいいキヤノンF-1に感心したり、ニコンFのF-36モータードライブの動作音を聞きたいがために、これらフィルム一眼レフを持ち出す機会はそれなりにあります。

結局はトライXを詰めて、空き地の隅に倒れたバイクとか、古い銭湯の煙突とか撮影して楽しんでいるのですが、最近ではこれらのフィルム一眼レフの代わりにPENTAX K-3 IIIを持ち出す機会も増えてきました。こういうところで最新のミラーレス機を持ち出すとですね、なんだか仕事を思い出してしまうからでしょうか。

「配管マニア」なんで、隣のビルの解体で露わになった配管とか、撮らないわけにはいきません。しかもできるだけ高画質で。筆者はマイクロフォーサーズ機もアサインメントに使いますが、APS-Cフォーマットではさらに余裕の高画質に見えます。
PENTAX K-3 III HD-PENTAX DA 20-40mm F2.8-4 Limited(F4・1/8,000秒)ISO 400
街中でよく見る防犯シールの「誰か見てるゾ」って好きなんですが、人間ではなくても目線を感じることがあるわけですよ。これも出会うとシャッター押します、間違いなく。
PENTAX K-3 III HD-PENTAX DA 20-40mm F2.8-4 Limited(F5・1/250秒)ISO 400

先日、某地方新聞の写真部の若いカメラマンの方とお話をする機会があったのですが、この方は「仕事以外ではカメラを見るのもイヤだ」と言ってました。

私の価値観とはかなり違うけど、気持ち的には仕事以外ではあまりEVFとか見たくない感じもします。朝からスマホ見て、TV見て、撮影でEVF見て、画像確認でタブレット見て、合間にスマホでメールして、仕事場に戻って、PCを見てって、数年したら大昔の米国のB級映画みたいな「恐怖の液晶人間」になったりしないでしょうか。筆者ならば、仕事から離れたら一眼レフでまったりしたいとか思うんだけどね。

K-3 IIIの良さはまず、どこかのメーカーの言葉をお借りしますと、本気のヘリテージデザインであるということです。ええ、ボディ中央の出っ張りの中にはモノホンのガラスペンタプリズムが入っているので、必然の出っ張り三角形なのです。しかも軟弱なストロボなんか内蔵していません。ここに漢気を感じます。ミラーレス機のデザインのためのなんちゃって三角形とは違います。

一眼レフのファインダーは、暗いところでは暗く、明るいところでは明るく見えるという、社会の窓、じゃない、社会に開かれた窓を見ている感じがいいわけです。ファインダーを見つつ、写真を最終的に完成させるまでの算段を、撮影者はあれこれ短い時間に考えるわけですが、これまでAPS-Cの一眼レフでもっとも気に入らなかったのは、画質がどうのということではなくて、その光学ファインダーがとにかく井戸の底を覗くような小ささだったこと。これが嫌で35mmフルサイズの一眼レフを仕方なく使っていたわけです。

K-3 IIIはAPS-Cの一眼レフなんだけど、ファインダー倍率は1.05倍です。すごいです。同社の35mmフルサイズ機並みなので、“一眼レフはスペックよりもファインダー命”とする筆者としましては、これだけで涙出そうです。肉眼に刺さります。刺さると痛いですが、大満足なわけです。

それでいて、K-3 IIIは我が家の先住民であるK-1よりも圧倒的に小さく軽量なので、これも使用頻度が高くなる理由です。K-1はどうしても「どてらを着た」旧来のデジタル一眼レフの域を出ていません。K-3 IIIはシェイプアップされていますから魅力的です。はい、デブは自分に足りない部分に憧れるものです。

真俯瞰でフレーミングしても腕がぷるぷるしない小型軽量カメラは正義ですね。最近はミラーレス機でも重たいのがありますからねえ。ミラー付きのK-3 IIIより重たいとかあり得ないですよ。よく反省してください。
PENTAX K-3 III HD-PENTAX DA 20-40mm F2.8-4 Limited(F8・1/250秒)ISO 400

この全体の雰囲気ならば、ボディ上部の右手側にはシャッタースピードダイヤルが欲しかったところですが、ここは前後の電子ダイヤルを使い、上部や背面のLCD(液晶表示)やファインダー表示を見ながら設定せよという現代流のオーソドックスなやり方です。

ボディ上部の右後ろには何も表記がない小さなダイヤルが存在していますが、これは今回調べましたら「スマートファンクションダイヤル」と呼ばれており、シャッタースピードダイヤルにはなりません。なんだか高速道路のETC専用出口みたいな名前ですが、各種機能をあらかじめ登録して割り当てて、素早く設定変更ができるようです。筆者は一度もこのダイヤルを使ったことがありません。ファインダーから目を離さずとも各種設定ができるようにとの配慮のようですが、私には表示のアイコンを見ても機能のわからないものが一部あります。勉強不足ですみません。

スマートファンクションダイヤル。背面の電子ダイヤルと間違えたりするんですが、上手な使い方を知らないので、誰か教えてくださいませ。

このスマートファンクションダイヤル、ときおり背面側の後電子ダイヤルと間違えて回してしまい、何か設定が変わってしまったんじゃないかとビクビクすることがあるので、とにかく気をつけて触れないようにしております。それでいて私は取り説を読むのが嫌いですから、今度リコーさんに正しいPENTAX K-3 IIIの使い方を習いに行ってこようと思います。すぐに忘れる可能性もありますが、これでさらに便利に使うことができるはずです。

ボディ上部の左手側には露出モードダイヤルがあります。これも私はAv(絞り優先AE)とM(マニュアル)を使うことがほとんどなので、あまり動かさないですねえ。でも操作の感触は悪くないですね。5カ所もあるユーザーセッティング(U1〜U5)も私には設定内容を覚えるのが難しいように思えるので、ここは潔くISO感度ダイヤルにしちゃうという手もあるのではないかと。え?「シャッターダイヤルとISO感度ダイヤルをつけたら、あのZなんちゃらに似てしまう」と? 仰るとおりですが、似てても誰も文句は言わないと思うなあ。

モードダイヤル。しっかりした作り込みです。ユーザーセッティングのポジションがたくさんあるのですが、これって、全て使い分ける人はいるんですか? いるんだろうなあ。
背面のフォーカスセレクターです。通称グリグリ。これも昨今は必須装備と言われます。非搭載のカメラは叩かれたりします。ですが筆者は時おりこの存在を忘れたりします。急いでいる時はフォーカスロックの方が早かったり。中央のAFエリアが一番精度高いし。

K-3 IIIはAv(絞り優先AE)の時に、電子接点を持たないレンズでもそのままシャッターを切ればAEが機能するところもお気に入りです。K-1はこれができず、電子接点のないレンズで絞り開放のままで撮影してしまい、人生もろとも絶望したことがありますが、ちゃんと改良されています。この仕様を開発・搭載したエンジニアさんにはコロナ明けに一杯ご馳走しようと思います。

ペンタックス一眼レフのエラい点として、ボディ内AFモーターを省略することなく残していることも嬉しいです。このため古いFAレンズなどは、ものすごく大きな動作音を立てながら力強く懸命にフォーカシングしようとします。この時フォーカスリングに触れていようものなら、こちらの指まで回転に巻き込まれそうな印象です。こういうのがヤな人は最新のレンズ内モーターAFのペンタックスレンズを使うべきでしょう。

KAF2マウント。基本形式は不変です。時代に合わせて進化しています。5時方向にある2つの接点はレンズ内モーターの電源供給に使います。元々はパワーズーム用だったとか。いいですね工夫があって。
かなーり昔に購入した大口径の標準ズームレンズでも「スターレンズ」ですからね、今でも通用する写りをします。ワイド端28mmって、今ではなんだか素朴な感じすらしますねえ。パワーズームも使えてしまうという見事な互換性。
PENTAX K-3 III smc PENTAX-FA☆28-70mm F2.8 AL(F3.2・1/80秒)ISO 800 モデル:ひぃな
これも古いスターレンズの望遠ズーム。えらく高価でした。歪曲とかしっかり補正してますし、色収差も気になりません。でもね、すごく重たいです。覚悟は必要です。パワーズームも使えます。夕刻撮影なんで感度少し上げてますがあまりにもフツーな描写をします。
PENTAX K-3 III smc PENTAX-FA☆80-200mm F2.8 ED [IF](F3.2・1/125秒)ISO 800 モデル:ひぃな

繰り返しになりますが、ミラーレス機はシャッターを切る前からEVFやLCDを見て、おおよそ出来上がりの画像が推測できますから仕事ではとても安心ですが、「私事」ではつまらないと思うことがあります。撮影前に予知能力、想像力、妄想力を楽しめるからこそ、一眼レフを使う意義があると言っていいくらいです。

それには優れたファインダーを持つ一眼レフが必要ですが、K-3 IIIのファインダーはお釣りが来るくらい大きく、マット部分の切れ込みも良い感じです。もっともK-3 IIIだってシャッターを切ってすぐにLCDで「答え合わせ」(画像確認)ができますから、そんな大袈裟なものじゃないのですが、それでも撮影者の予測が的中した場合は、その場でひとり密かに喜んだりするわけです。

フィルムカメラの場合は現像するまで撮影結果の可否がわかりません。よく最近の入門書に「フィルムカメラは現像が仕上がるまでのドキドキがいい」なんて書いてあるのを目にしますが、アサインメントの撮影の時に成功か否か、毎回ドキドキしていたら早死にしてしまいますので、予知能力を磨き、スキルを応用して、心臓に負担がかからないようにする。これができるのがプロでもあるわけです。

PENTAX K-3 IIIの魅力とは、そうした予知能力を磨く楽しさも含め、使用した時に「ここに戻ってきた」と思える安心感とか心地よさがあることだと思いますね。一眼レフが主流になり始めた頃、レンジファインダーカメラはなくなってしまうと言われました。もちろん一時はかなり衰退しましたが、現在でも主流のカメラではありませんが、趣味性の強いライカは生き延び、プロの中にも愛用者は多くいます。

ではミラーレス機が出てくるともう一眼レフはいらないのか。どうでしょうか。一眼レフカメラがなくなってしまうと、趣味としてはつまらないと思いますよー。

隠れスターレンズといわれた35mm F2レンズ。最近マイナーチェンジされ、コーティングが新しくなっていますが、普通に使う分には古いものでも大丈夫そうです。素晴らしい写りです。軽いのでK-3 IIIと相性いいし、正統派の50mmに近い画角でフレーミングできます。
PENTAX K-3 III smc PENTAX-FA 35mm F2 AL(F8・1/2,000秒)ISO 400
街にあるモニュメントが気になって撮影してしまうのは、リー・フリードランダーの影響で、というのは嘘ですが、最近トシくってきたためかお地蔵さん撮るのも好きなんですよね。K-3 IIIは街に連れ出しやすいカメラです。
PENTAX K-3 III HD-PENTAX DA 20-40mm F2.8-4 Limited(F10・1/1,000秒)ISO 400
東京の無機質な街並みって画になるわけですが、どうにも構成的な写真になってしまうのです。いやらしいですね。が、レンズ性能とかカメラの画作りは判断しやすいですね。ヌケの良い描写です。
PENTAX K-3 III HD-PENTAX DA 20-40mm F2.8-4 Limited(F10・1/800秒)ISO 400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)