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写真の星──村上仁一
[2008/05/15]

アパートメント ウェブ フォト ギャラリー──兼平雄樹
[2008/04/10]


2007年

2006年

Jonh Sypal.com──ジョン・サイパル



 John Sypal(ジョン・サイパル)さんは、高校の英語講師として働きながら日本で暮らす若いアメリカ人写真家である。Johnさんの写真ブログは大西みつぐさんに教えてもらった。Johnさんは2005年のjuna21(ニコンが主宰する若い写真家のためのコンテスト)を受賞したが大西さんはその時の審査員である。写真に対する情熱と旺盛な好奇心に満ちたJohnさんを大西さんは評価しており、一緒にカメラを手に東京の街をスナップして歩くこともあるらしい。

 Johnさんのブログ( http://kenshukan.net/john/ )は、2004年から続いており更新も頻繁である。日本語と英語が混在して書かれたテキストは、写真やカメラに関する話題が中心となっている。毎日のようにアップロードされる写真は、人々や町をPolaroidからEXILIM、Leicaといったさまざまなカメラで撮ったものだ。それらの写真を見て感じられるのは、特定の方法や美意識によってしばられない自由さと、写真を追求するエネルギーである。

John Sypal「Jonh Sypal.com」
http://www.johnsypal.com/
1979年米ネブラスカ州生れ
2004年より千葉県松戸市在住
2003年個展「Nihonjin, The Japanese」(University of Nebraska, Rotunda gallery)
2005年個展「Nebraska, The Good Life」(新宿ニコンサロン)
2007年個展「The Difference Between」(コニカミノルタプラザ)


Jonh Sypal.com
John Sypal

──いつから写真を撮り始めたのですか?

 高校の時から写真を撮り始めたんだけど、ほんとうに「恋に落ちた」のは2001年の大学の時。美術専攻だったんだけど、そこで2人のよい先生に出会った。ぼくが今、写真を撮っているのは、彼らのおかげ。1人の先生はモダニズムの写真家が好きで、ゲイリー・ウィノグランド、リー・フリードランダー、ウィリアム・クラインなんかを教えてくれた。もう1人の先生は、もう少し新しい現代の写真への関心を導いてくれた。2人とも「nature of photography」(写真の本質)がわかっている人だった。大西先生のように。

──使っている機材は?

 カメラはたくさん使うけど、75%くらいはLeica MP。レンズはコシナの28mm。それ以外に良く使うのは、デジカメのEXILIM、ペンタックス67。

──どれくらいの頻度で写真を撮りますか?

 とにかくいつも1台はカメラを持っている。平日は学校の仕事が午後5時半まであるからあまり撮れないけど。週末や夏休みなんかは1日中撮ってるな。朝9時に出かけて夜の9時に帰ってくるとか。

──暗室作業はしますか?

 モノクロは現像プリントまで自分でやります。使っているモノクロフィルムは富士フイルムのプレスト(ネオパン)。日本に来た最初の年は1年で660本撮った。カラーは機材がなくて、自分ではプリントできない。



──日本に来たきっかけは?

 高校生の頃から日本のマンガやアニメが好きになって、日本に興味を持つようになった。その頃、交換留学生でやってきた日本人の女の子と付き合い始めて、日本語を勉強するようになった。大学の日本語の授業の成績はあまりよくなかったけどね。その間、交換留学生として日本に数カ月滞在したこともある。とても新鮮な体験だった。6年間つきあった日本人のガールフレンドと別れたあと、高校生に英語を教えるために日本にやってきて、3年経つ。

──普段はどんな風に写真を撮っていますか?

 歩くのが好きだから、東京の街を散歩しながら写真を撮る。留学生だったとき寮のあった、小田急線向ヶ丘遊園から夜の新宿の街を見ると、街全体が光り輝いていてきれいだった。それで向ヶ丘遊園から新宿まで歩いたこともある。今でも南千住から新宿までとか、原宿から池袋まで歩きながら写真を撮ることもある。

──ブログを見ると女の子のポートレートが多いんだけど……

 本当に多いね(笑)。でも「女たらし」じゃないよ。みんな友だち。どうやって知り合うかって? 学生時代からの知り合いや、ネットで知り合った人、街中で声をかけて知り合った人など。たとえば桜の写真を撮りに武道館のあたりに行ったら、女の子が4人で写真を撮りあっていた。1人がカメラを持って残りの3人を撮り、順番にカメラを渡していって3人ずつフレームに収まる。かわいそうだから「撮りましょうか?」と言って4人を撮ってあげた。ついでにぼくのカメラでも撮らせてもらうわけ。

 あるいはこの子は、街で見かけて声をかけて、モデルになってもらった。おもちゃのデザイナーをやっていて、いつもこういう少しレトロな格好をしている。バレーをやっているからポーズも決まっている。とても強い子。

 写真を撮らせてもらっている子の中には「ジョン、もう写真は撮らないで」と言う子もいる。一番聞きたくない言葉だ。でも、ぼくは本当はいろんな子を撮るんじゃなくて、1人の女性を撮りたい。荒木(経惟)が奥さんの陽子を撮ったみたいに……。



──ブログやWebをやるのはなぜ?

 他人の写真ブログをよく見る。いいブログがたくさんあって、見すぎて時間がなくなって困るくらい。特に好きなのは「Digikazi」(以前取材した梶岡禄仙さんのサイト)や、ヤマサキコウジ。まさか自分がやるとは思わなかったけど、他人のブログを見ていて自分もやってみようと思った。でも、コンピュータの知識があるわけじゃないから、メインのjohnsypal.comは、友だちに意図を伝えて作ってもらった。お礼に昔のカメラをあげた。

 ブログのいいところは考えすぎないこと。ポートフォリオ・サイトだと写真の順番とか考えないといけないけど、ブログは毎日撮った写真をそのまま載せられる。ブログは自分のためにやっている。自分で見返すために。2年前に何をしていたか、というメモリーの代わりでもある。

──写真展を見に行ったり、写真集を見たりもしますか?

 すごくよく行くよ。渋谷のパルコブックセンターとか青山のシェルフとか。根津の古本屋「およよ書林」とか。そこで古い日本の写真雑誌を買ったりする。こないだ松戸のブックオフでHIROMIXの「ガールズブルー」を300円で買った。ブックオフは写真集のことよくわかってない。おかげで安く買えたけど。

──HIROMIXが好き?

 うん。でも写真よりも彼女の顔が好き(笑)



──Johnさんの写真について「日本人と違った視線を感じる」というコメントを見かけたことがあるのだけど、ぼくはそうは思いませんでした。確かに個性的な視線であると感じるけれど、それは外国人であるからではなくて、Johnさんという個人に特有のものであると思います。

 そう? そうかもね。話はずれるかもしれないけれど、アメリカ人の間では「ジャパニーズ・キッチュ」というのが流行っていてムカつく。日本人を見ると「Wacky」(風変わりな)というか、なんか面白いことやってくれるよ、という期待がある。回転寿司とか自動販売機とか原宿のゴスロリとか。ああいうのを面白がっているアメリカ人は自分たちが頭が悪いと言っているのと同じだよ。ソフィア・コッポラの「ロストイントランスレーション」という映画にもそういうところがちょっとあった。FlickrでJapan groupとかTokyo lifeとかで検索すると、そういう写真がいっぱいある。外国人は自分が見たいものしか見ないんですよ。もっと良いものあるのに……。

──スナップについてどう思いますか?

 スナップってなんでしょうね? ぼくは自分がストリート・フォトグラファーだとは思わない。いろいろ撮るから。ウォーカー・エバンスとかもすばらしいけど、スナップは生な感じ。Moment、一瞬を捉えるもの。そこに構成が偶然生じる。それを期待する。ぼくにとって写真は答えを出すものじゃなくて、質問。もっともっと聞きたい。答えが出たらもう写真は撮らない。

──今は路上で他人を撮ることが難しくなっているけど……?

 アメリカで公園に行って、子どもの写真を撮ったりしたら、すぐにポリスがやってくる。こないだ亀戸天神に行ったら、おばあちゃんが連れてきた子どもが池の亀に石を投げてた。そういうとき「Hi! How are you? 写真撮っていいですか?」と言って写真を撮る。そうするとおばあちゃんに「よかったねー。写真撮ってもらって」と感謝される。すぐに帰国する外国人旅行者だと思われてるからかな?



──人を撮ることについて。

 コミュニケーションだね。あの人を知りたいから、写真を撮る。あの人を知ることで、ぼくもぼく自身を知ることができるんじゃないだろうか? おたがいに学べる。

──写真の美について。

 美しくない写真なんて撮れないんじゃないかな? ダメな写真なんてないんじゃないかな? ぼくはどんな写真からでも学べると思う。アマチュアとかプロとか関係なく。古い写真にはいいものがいっぱいあるけど、デジカメで撮った写真もいいと思う。よく人が「この写真はダメだ」というけど、「どうして?」って知りたい。エステティックス(Aesthetics:美学)とか考えると、弱いものはあるけれど……

 Kodakの「よい写真を撮るヒント」という本がある。昔、写真の先生は「それを読んで、全部逆にやってください」と言った。プロやアーティストはみんなわかってること。でも、それはぼくにとってとても勉強になりました。




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  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2007/10/18 00:51
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