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太陽ヲ貴方ニ──叶芳隆


叶芳隆「太陽ヲ貴方ニ」
http://visfoto.exblog.jp/
1953年生まれ
秋田県在住
※記事中の写真はすべて叶芳隆氏の作品です。


太陽ヲ貴方ニ
叶芳隆氏

 今回ご紹介する叶芳隆(かのう・よしたか)さんはエキサイトブログのユーザーだが、前回の相馬泰さん、前々回の河本順子さんもエキサイトブログを利用して写真を発表している。偶然だがエキサイトブログのユーザーが3人続いたことになる。「太陽ヲ貴方ニ」を初めて知ったのも、エキサイトブログをやっているどなたかのリンクからだった。

 この記事で紹介している写真家はみなそうだけど、「太陽ヲ貴方ニ」の写真もひと目見た瞬間に惹きつけられた。どの1枚の写真を見ても、写真家の濃密な個性がしみ込んでいるようだ。「個性」なんていう言葉よりもむしろ「体臭」と言ったほうがぴったりくるくらいだ。

 そして、これらの写真の多くが携帯電話のカメラで撮られているということにも驚かされた。「写真を撮る上で、カメラは何だっていい」という言葉はよく耳にするし、高機能だが大型のカメラよりも、小型で機動性にすぐれたコンパクトデジタルカメラの優位性を説く意見もある。だが、携帯電話のカメラで撮られた、作品として本当に質の高い写真というのは初めて見た。かと言って「携帯電話で撮っている」ということを主張しているわけでもないし、それこそ携帯電話で撮ったということを抜きにしても、じっくりと見てみたくなる興味深い写真であることにかわりはない。

 「太陽ヲ貴方ニ」のすべてのログに目を通し、写真や文章を見ていると、携帯電話で撮った写真は叶さんのごく一部であるということがわかってきた。モノクロフィルムでも撮るし、撮る場所にしても、自分の足下から世界中のあちこちまで妙なこだわりがない。要するに、写真をやるうえで型にはまらず、自由で多様であるというところが、どの1枚の写真にも、叶さんという写真家の「体臭」をしみ込ませている理由ではないか、と思った。


──写真をどのようにして学びましたか?

 高校2年の時、サッカー部とふた股かけて所属していた写真同好会で、写真を始めました。暗室のあらましは先輩から習ったが、高校時代は少し写真をかじっただけ。22歳、初めての海外でインドに行った時もカメラは持参したものの、旅行写真以上のものは撮りませんでした。それからしばらくの間、カメラに触る事もなく、写真とは縁遠くなっていました。

 1986年に雑誌「写真時代」(白夜書房)の「森山大道と街を歩く」という企画に参加したことが発端で、「フォト・セッション86」結成に参入しました。フォト・セッション86というのは、暗室となるアジトを借り、写真展をし、写真集を出そう、という単純明快な目的を持っていました。10名ほどのメンバーの中には、猪瀬光、楢橋朝子、広瀬勉などがいました。

 撮り溜めた写真を見せっこする例会が、毎月西新宿のアジトで開かれ、森山大道さんが言わば講師役(深瀬昌久さんも1度、ゲストで来たことありました)。僕はそのつど、秋田から電車で上京しました。昼頃から始まった例会は夕方あたりからは酒盛りで、そこに時々、兄貴分の尾仲浩二さん( http://onaka.mods.jp/ )、山内道雄さん、瀬戸正人さん( http://www.setos.jp/ )なんかが遊びに来る。その中で「写真との関わり合い」をいろいろ考えさせられるようになりました。不毛な議論もあったけれど(たいてい朝まで続いた)、それも含めて今の僕の写真にとって、ある意味タフでしなやかな肥やしになっていると思います。フォト・セッション86は何度かのグループ展と、2冊の写真集を残して、2年ほどで開散。

 この当時、僕はいくつかのパーソナル・ギャラリーに足を運ぶようなりました。西新宿にあった、尾仲浩二さんと藤田進さんの「街道」、青森県八戸にある仲居裕恭さんの「北点」などです。それらに挑発されたのか1989年、地元でギャラリー「WHISTLE」を仮設して初個展。そこがすぐ使えなくなって、飲み屋「ノーサイド」でも写真展をしました。1999年、新たに自分のギャラリー「vis」を開き、不定期に写真展を行なっています。

 東京で開いた写真展としては、1993年に笹塚の「03FOTOS」、2004年に新宿の「プレイスM」での「迂回」シリーズ、2005年の「GAW展(ゴールデン街アートウェーブ展)」への参加などがあります。それらの展示は1回だけをのぞき、すべてモノクロです。

 年内には、どこかで写真展を開きたいと思っています。



──ブログを始めたのはいつですか?

 2005年5月29日です。

──ブログを始めたきっかけは何ですか?

 日記がわりに。撮った日とか写真の周辺の記録にもなるし、何より簡単そうでしたから。少しデジタルもいじってみようかと。

──Webサイト(ホームページ)ではなく、ブログを使っているのはなぜですか?

 上の答えとダブります。なるべく撮ってから時間が経たないほうが、生っぽくて楽しめるんじゃないかな。まとめようとしないことのラフさが、気持ちよかったりします。ただ「太陽ヲ貴方ニ」はいつパタリと止めても不思議はありませんし、その危うさも嫌いではありません。写真は止めるつもりはありませんが。


──エキサイトブログを利用しているのはなぜですか?

 見たうちではデザインまあまあかなと思って。電脳音痴であれこれできないし、エキサイトブログに慣れてきたということもあります。

──どれくらいの頻度で更新していますか?

 毎日ならなお良しでしょうけど。気が向いた時でいいから、ほどほどにしようと思ってます。

──ブログ更新にかける時間はどれくらいですか?

 5分から30分、気分で結構まちまちです。



──写真に費やす時間はどれくらいですか?

 僕はアマチュアなので、写真とは全く別の仕事を持っています。ただ、融通のきく環境にあるので、短時間の散歩であればまあまあ行けます(その代わり、呼び出しをくらう時も、ままある)。日常的には週数回、2時間程のご近所散歩というところでしょうか。もっと時間が取れれば、離れた町に出かけたりもします。撮影のための仕事休みは、取りたいとき適時にとる感じです。旅休みするときは、周囲に頭が下がります。感謝、感謝です。

──どういう撮影スタイルですか?

 日々撮る写真は、近所のいつも歩き慣れたとこばっかです。天気が良いと少し遠くまでチャリンコ暴走することもあります。

 自動車免許を持っていないので、旅先ではいつも電車やバス。乗り物を利用した旅では、車窓からの眺めも、待ち時間も、ワンカップも楽しんでます。着いたら、ひたすら歩く。路地を歩く時には、今晩の呑み屋の目星を付けるという楽しみもあります。

──どのようなカメラやレンズを使っていますか?

 ブログに載せる写真は、最初は東芝Allegretto M4でした。壊れてからはCASIOの携帯A5406(時々ノイズが入るようになってきたのでぼちぼち機種変更を考えてますが、まだまだ捨てがたい)。たまにリコー Caplio GX。

 フィルム撮影には、モノクロはオリンパス OM1、ペンタックス MEスーパー。カラーはニコン F3、ペンタックス MZ-M。レンズはいずれも35mm F2.8を使ってます。ファインダーとかシャッターの巻き上げとか、しっくり来るものと乗れないものあります。撮るときのリズムってありますからね。

──フィルムとデジタルの使い分けについてどう考えていますか?

 やはり使いこなせるのは、長年馴染んできたモノクロ・フィルムと印画紙です。暗室(フィルムを自家現像したりプリントすること)も好きなので、自分の手の中で息遣いができる気がします。写真展ではそんなプリントを直に見てほしいと思います。もっとも、そうしたプリントに込められた、撮る側の「五感の波動」のようなものは、撮る側の思い(=行為)であり、見る側が必然として感じ取らなくてならないとは思いませんが。

 デジタル写真やブログは、すぐできるすぐ見れる直行便みたいな感じです。デジタルの画像は、モニターで見ると角度によって明暗や色の印象が変わるのが面白いですね。自分で、この角度いいねとか思ったりする時あります。大きなスクリーンに映ったスライドショウにも、少し興味をもち始めました。そんな使い方も、デジタルには似合ってると思います。

 確かに僕の中ではフィルムとデジタルは別物という感覚はあるけど、どちらにしても自分が出てしまうものだし、身体にしっくりきてワクワクできればいい。あくまでも自分の写真行為の「乗り」の話しなので、他人の写真を見るときはフィルムとデジタルの垣根はありません。もし今から写真を始めるのなら、たぶん、フィルムは選択しなかったと思います。



──フィルムで撮ったものはブログには載せないのですか?

 フィルムで撮ったものは、やっぱりプリントで見せたいのです。今のところブログに載せる気はないです。

──ブログに写真を載せることと、ギャラリーなどでの展示の違いはどうですか?

 ブログはまずは日々のメモ。シリーズみたいに続ける事もありますが、一編一編完結してる方が多いです。写真展はトータルで何を見せようか、何ができるかみたいな感じです。

──叶さんがなさっている自主ギャラリー「vis」について教えてください。本山周平さん(以前にPhotographers' galleryに参加していた写真家。その後日本各地を移動しながら個展を行なった)も以前に展示されていますよね。

 地元には写真展をやってもいいような、いい箱がなかった。思った時に、すぐやれるような自分の場所が欲しかった。visは自宅の1室で9坪ぐらい、奥は暗室です。僕専用のギャラリーなのですが、本山さんみたいな「写真展やらせてください」と言う奇特な方もおられる。波長のあう人であれば、貸さない訳ではありません。僕の好きな歌唄いの友部正人さん、橋本はじめさんのライヴもしました。

 ただ、僕もギャラリーも無名だし、秋田で僕のような写真に興味を示してくれる人はそうそういない。そんな状態だから何か面白い事ができないものか、これからも課題です。



──ブログを拝見すると、人物が写っている写真よりも風景が写っている写真のほうが多いですね。

 一時期、スナップが好きで上野や新宿で人ばっかり撮ってたいた時期がありました。トラブルがあっても臨場感がまたたまらなくて、撮ってるときは確かに楽しいのですが、ある時、何か自分と結びつかなくて違和感を感じてしまいました。今は風景に生々しさを感じたり、どきどき片思いの気持ちを感じたりします。僕は惚れやすい性格なのかもしれません。でもきっと風景にしてもそれは人が好きなんですよ。

──写真を撮りたくなる場所について教えてください。

 僕の住んでるところは秋田の内陸地、山と川に囲まれたところで、実はかなり名の知れた観光地。秋田は生まれ育ったところだし、今もとても住みやすい所ですが、大好きな土地でもあり大嫌いな土地でもあります。とにかく見栄っ張りで決まって酒飲み、自殺率全国一、出生率全国最低、所得は低いし、離婚率も高い、でもその暗さは表からは見えない。食い物だけは自慢できるほど旨い土地柄です。

秋田はもう撮り飽きたと思っても、一歩外にでればまだまだ撮り切れてないと思ったりする。初めての所は何処に行っても興味津々なのだけれど、何故か前に来た事あるところじゃないかと思ったりもする。いずれどちらでも外に出れれば楽しいことです。
いつも山の近くにいるものだから、行きたい方向は自然と海の方に向いてしまいます。知らない場所に行くと、僕はひどく方向音痴で地図を見るほどに迷子になってしまします。ただ鼻だけは効くみたいで、地図は見ずに歩いた方が時間はかかっても大概は好きな場所に辿り着きます。昼寝の庭、草の匂い、水門、砂利山、ポンプ小屋、引込み線、イワシの塩焼き、波止場・・・
旅は好きだし、日本にしろ異国にしろ、行った事のないところをもっと撮ってみたい。そしてやっぱり足元も飽き足らずしつこく撮り続けていきたい。そう、思ってます。

──これまで旅された場所で、印象に残っているのは?

 奄美(古仁屋)、沖縄(糸満)、石垣島、北海道(浜頓別)、韓国(仁川)、フランス(トゥーロン)、スペイン(ヴィゴ)、ポルトガル(セジンブラ)、東北はいろいろ、でもたいてい港町。


──光の当たり具合に特徴があるように思うのですが……。

 むしろ影の部分が気になります。真っ黒にごりっと潰されるか潰されないかのその部分に、やわらかさというか、愛おしさに似たものを感じてしまいます。

──色にも特徴を感じます。目で見たとおりの現実の色合いとは違って見えるのですが?

 僕にしてみれば、撮ったとき眼に滲み込んだ色と同じように感じるのですが、もし他人と幾ぶん違っているとすれば、小さい頃に見た総天然色の映画、父の撮ったカラー8mmの映写、本屋で見入った図鑑たち、それらの色が眼底に入り混じっているのかもしれません。

 フィルムで多く撮っているのはモノクロです。自分にとっては最も付き合いやすいですから。ただ最近はネガカラーでも撮っています。ブログを始めてからカラーも面白くなってきました。まだ明確なくくりも無いしどんな展開になるのか、自分でも楽しみです。

──ネット上での交流について教えてください。ブログなどで知り合った人はいますか? 他人の写真サイトをご覧になりますか?

 交流は少ないですね。あんまり愛想良くするのも苦手なので。でもいつも楽しみに覗いてるブログがいくつかありますし、たまには、カギコメ(エキサイトブログでは、そのブログのユーザーだけに見えるコメントを書き込むことができる)で嬉しいコメントもらったりします。



──好きな写真家や写真について教えてください

 いろいろいますが、皆、日本の方です。湿気の感じる写真が身体に合います。あと僕には撮れない生理的な写真。

 まだプリントは見たことがないのですが、1度見たい写真は、木森恵子さんの写真です。面識はまったくありません。galeriaQ(新宿にあるギャラリー。http://www.galeriaq.com/ )の案内葉書を2枚拝見しただけなのですが、どちらも雑草の写真がとても衝撃的でした。まだ机の中に、大事にしまってあります。

──写真以外で関心のあることで、写真に影響しているものはありますか?

 人それぞれ旅先で出会うものは違う。同じ所を旅しても、歩くところも違えば見るところも違う、当然撮る写真も違う。

 だから僕が出会えたものや場所や、僕が巡り会えた人たちは、僕が歩んで来た諸々のものに繋がっている。写真にしても音楽にしても、どこかで響き合える人とはいつか会えるようになってると思います。

 旅をしていると、なぜかふと浮かび上がる歌があったりします。今だ写真を撮る意味など見つかりませんが、そうした歌と同じように、ふと浮かび来る写真があったとしたら、そんな写真がいい。

 そうですね、やっぱり旅に出たいですね。イベリア半島の海岸沿い、まだ半分ぐらいしか周ってないから、残した所に行ってみたいです。あと渋~いのは、中途半端な町中の鄙びた温泉旅館の旅。駅からさほどの所に、隠れたようないい温泉の安宿があったりするのです、開眼しました。湯上りの一杯はたまらないし、旅の空はカメラを肩になお楽しい!



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2007/03/22 00:14
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