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Lightroom雑感


※このページに掲載された画像はすべて内原恭彦氏によりLightroomで加工された作品です。
画像をクリックすると3,888×2,592ピクセルの大きな画像を開きます。(編集部)

 アドビシステムズの「Photoshop Lightroom」(以下Lightroom)のベータ版を使ってみたので、その感想を書いてみたい。今回使用したのは、製品版となるLightroom 1.0のベータ版である。

 これまで長期間にわたりLightroomのパブリックベータテストが行なわれて来たが、いよいよ3月下旬に日本でも製品版が発売される。ぼくも以前にベータ版をダウンロードして試用したり、発表会にデモを見に行ったり、Lightroomには関心をはらってきた。ぼくはほとんどRAW(RAWとは“生”という意味。デジタルカメラのセンサーからの信号を未加工のまま記録したファイル形式)で撮影しているので、RAW現像ソフトは普段の作業に欠かせない。そして、何種類か存在するRAW現像ソフトのうちのどれを使用するかという判断を、まず下す必要がある。

 以前に、この連載で市川ソフトラボラトリーのSILKYPIX Developer Studioと、PixmantecのRawShooterというふたつのRAW現像ソフトについて書いたが、ぼくはずっとこのふたつのソフトをメインに使ってきた。ところがキヤノンのEOS Kiss Ditail X(Kiss X)を使い始めてからは、Kiss Xに同梱されているDigital Photo Professional(DPP)というRAW現像ソフトを使っている。その理由は、RawShooterはそもそもKissXのRAWファイルに対応していないので使えないということと、SILKYPIXよりもDPPによる現像結果のほうが自分の好みに合うからだ。

 とはいえ、DPPの操作性や機能に完全に満足しているわけではなく、よりしっくり来るRAW現像ソフトを探し続けていた。今回Lightroomのベータ版をある程度使ってみて、ぼくとしては手ごたえを感じている。もっとも、完全に使い込んだわけではないので、あまり歯切れの良いことは言えないかもしれない。



 とりあえずLightroomを使ってみた感想の要点をまとめると次のようになる。

1) 動作はまだ軽快とは言えない
2) ぼくはDPPからLightroomに乗り換えるつもりである

 Lightroomは、高機能でインターフェースもすぐれており、汎用RAW現像ソフトの本命になるかもしれないと思う。総合的にDPPに優っていると思うし、KissXのRAW現像はすでにLightroomだけで行なっている。欠点はただひとつ、動作が重いことだ。ただ、「Lightroomが重い」という意見はベータテストのころから意外と耳にしなかったように思う。みなさん普通に使えているようで、「Lightroomが重いと感じているのはおれだけなのかな?」とすら思った。

 ソフトウェアの動作が「重い」かどうかは、使用環境にもよるし、主観も加わるのでなかなか判断しづらいことではある。ぼくが使っているPCのシステムは、Core Duo 1.66GHz、メモリ1GB、HDDの空きスペースは65GBと、Lightroomの使用条件を満たしている。グラフィック業務に特化した最新最強のマシンではないが、そこそこのパワーはあるはずだ。他のRAW現像ソフトの場合は、この環境で複数のアプリケーションを同時に立ち上げ、MP3を再生したりネットにつないだり余分なタスクをこなしつつ、何の問題もなく動作する。

 ところがLightroomを使う場合は、まず再起動してHDDをデフラグ(ファイルの断片化の解消)してから、Lightroomだけを立ち上げ、それ以外にはWebブラウザすら起動せず常駐ソフトなども切った、きわめてクリーンな状態で使っている。それでもLightroomで数千枚単位の大量のRAWファイルを扱っていると、だんだん動作のレスポンスが悪くなり、最悪の場合はフリーズしてしまう。ただし、数百枚程度のRAWファイルを扱っているかぎりではおおむね軽快に動作するようだ。以前のベータ版に較べると動作はより軽快になってきている。



 では、具体的にどういう操作をすると重く感じるかというと、「ファイルの読み込み」時にスクロールバーをドラッグしたりした場合や、ファイルを全画面表示させながら矢印キーを押して次々に画像を切り替えていった時、あるいはオンラインヘルプをIEで同時に表示させた時など、徐々に動作のレスポンスが悪くなり、苛だって性急にマウス操作を繰り返したりすると、最悪の場合はフリーズする。HDDへの読み書きに負荷がかかりすぎると動作があやしくなってくるようだ。ソフトのクセのようなものを把握した上で、禁忌となるような操作は避けるという注意も必要かもしれない。

 付け加えておくと、Lightroomが正常に動作している状態では、操作はけっして重くはない。等倍で全画面表示された画像をドラッグしたりズームした場合の画面の再描画は、他のRAW現像ソフトと同等以上である。RAWからJPEGその他のファイルに変換してHDDに書き出す場合の速度は、他のRAW現像ソフトを圧倒している。もしかしたら操作を先読みしてバックグラウンドで現像しているのではないかと疑いたくなるほどだ。「調子のいいとき」は全画面表示した画像を矢印キーで次々と表示させていくこともできる。「調子のいいとき」というのもヘンな言い方だが、Lightroomを使っていると同じ操作をしているつもりでもレスポンスがよい時と悪い時の差がはなはだしいので、ひと言で「重い」とか「軽い」と言い切れないところがある。だからユーザーによって評価が異なるのかもしれない。

 ぼくはソフトウェアの設計については何も専門知識は持っていないが、Lightroomというソフトは、バックグラウンドで非常に複雑で膨大なタスクが行なわれていることを感じさせる。なにしろ常に複数のHDDがカリカリ言っていることからもそれが察せられる。Windowsの場合はマイドキュメント→マイピクチャーの中にLightroomというフォルダが作られていて、そこにはデータベースファイルとプレビュー表示用のファイルが収められているようだ。ぼくの場合約2万枚のRAWファイルを読み込んだ時点で、そのフォルダの容量は4GBを超えている。今後も日々LightroomにRAWファイルを読み込むたびに、その容量は増え続けることになるだろう。



 さて、Lightroomの動作の「重さ」について言葉を重ねすぎたような気もするが、そういった欠点をふまえてもなおLightroomには使い続けたいと思わせる魅力が確かにある。具体的には、画面をマウスでワンクリックするだけでズームインとズームアウトが行なえるというようなちょっとした使い勝手から、大量のRAWファイルを管理するデータベースとしての機能を受け持つ「ライブラリ」というモジュールと、非常に高機能な画像調整機能を持った「現像」というモジュールが統合されているという本質的な面まで、さまざまな点が挙げられるだろう。ぼくはまだLightroomの機能をすべて把握しているわけではないが、使ってみて気づいたメリットについて思いつくままに記してみよう。

 まず画面のUI(ユーザーインターフェース)に工夫が凝らされている。限られた広さであるPCのディスプレイで画像をできるだけ大きく表示するためにメニューバーやパネルの類をすべて隠すことができる。パネル内のスライダーやボタン類も使用頻度の低いものはロールアウトによって非表示にすることもできるし、総じてLightroomのUIはカスタマイズ性にすぐれている。

 Lightroomのもっとも大きな特徴は「モジュール」という概念かもしれない。Lightroomにおける作業内容は「ライブラリ」、「現像」、「スライドショー」、「プリント」、「Web」のいずれかのモジュールに分類され、それらを切り替えるたびにUIやメニューの内容が変更される。これまでのいわゆるRAW現像ソフトというのは「現像」モジュールに該当し、Picasaのような画像データベースソフトは「ライブラリ」モジュールにあたると考えることができる。モジュールというソフトウェアデザインは非常に多機能化した3DCGソフトではよく採用されているもので、限られた画面内に使用可能なコマンドを効率的に配置したり、ユーザーの自然なワークフローに合致するためには有効かもしれない。

 アドオンとして新たにモジュールを付け加えていくことも可能であるらしい。ただ、ぼくの場合は「ライブラリ」と「現像」というモジュールを頻繁に行き来する場合が多く、その操作をやや煩雑に感じた。こういった点に関しては、充実したキーボードショートカットなども使って操作に慣れるべきなのかもしれない。



 「ライブラリ」モジュールは、要するに画像データベースと考えていいと思うのだけど、個人的にはこれまで画像データベースソフトはあまり使ったことがなかったので、非常に便利なものだと感じた。大量の画像ファイルを管理することは誰にとっても難問だと思うが、とりわけぼくはそれが苦手で、ほとんど何も「管理」はしてこなかった。撮影年月日を記したフォルダにRAW画像を放り込んでいるだけである。このやり方の問題は、後から特定の写真を見つけるのが難しいということだ。しかも毎日数百枚ずつ撮影しているので1年で10万枚、1.5TBずつ写真が増えていっている計算である。外付けHDDも年に数台づつ増えていっている。展覧会なり媒体での発表などで、過去の写真からセレクトし直したり現像し直したりする必要が生じた場合、まず特定のRAWファイルを見つけるだけで丸1日かかったりしてイヤになる。Lightroomを使うことによってこうした問題がかなり解決するのではないかと思っている。

 具体的には、RAWファイルに「キーワード」、「フラグ」、「レーティング」、「カラーラベル」といったいくつかの手段でタグ付け(しるし付け)をすることができる。そして「コレクション」という仮想的なフォルダのようなものに簡単に、かつ自由に写真を収納していくことができる。「コレクション」は自由な名前をつけていくつでも作ることができるし、ひとつの写真を複数の「コレクション」に収めることもできる。オリジナルのRAWファイルをディスク上で実際にコピーしたり移動しているわけではなく、それを参照するデータベース内の処理として行なわれているだけである。



 1日の終わりに撮影した数百枚の写真を通して見る際に、気になる写真に「フラグ」を立て、「コレクション」に登録しておけばとりあえずの簡易的なセレクションは完了したことになる。写真のセレクションのポイントは、折にふれ自分の写真を何度でも見直してはセレクションし直すことであり、また現像やプリントを行ないつつセレクションするということだと思う。

 つまり、自分の写真に対するセレクションの基準というのは日々揺れ動き、成長変化するものだから、1回セレクションしたらそれで終わりということはないはずだ。かつては見過ごしていた写真が、何度も見直すうちにセレクションに加わることもあるし、逆にセレクションから外されることもあるだろう。

 デジタル写真をセレクションするためには、そうした「写真の見直し」ができるだけストレスなく行なえることが大事だと思っている。そういった点で、Lightroomの「ライブラリ」における「コレクション」や「タグ付け」は有効であり、「ライブラリ」と「現像」というモジュールがひとつのソフトの中で統合されていることも、決定的な優位点だと思う。



 「現像」モジュールは、画像の色あいやトーンを調整する作業を受け持っている。非常に多機能で、唯一レンズに起因する歪曲収差の補正機能が見あたらないくらいだ。ベータ版では、ついにゴミ取りに便利な「スポット修正」コピースタンプツールがついた。多機能化を推し進めるならいっそのこと、レタッチに欠かせないスタンプツールやマスクやレイヤー機能もつけてくれればいいのにと思うが、その辺はPhotoshopの領分とみなされているのだろう。

 「現像」モジュールで行なった操作はすべて「ヒストリー」(履歴)として記録される。ただし「ヒストリー」内の個々の操作を部分的に取り消したりすることはできないようである。「ヒストリー」を書き出したものは「プリセット」とすることもできる。最初からいくつかの「プリセット」が用意されているが、その中には「セピア調」と銘打ったものもあって、いろいろと応用が利きそうだ。もっともこうした機能は他のRAW現像ソフトにも備わっている。キヤノンのデジタルカメラにおけるピクチャースタイル(プリセットで用意された画像調整用パラメータ)がLightroomでは反映されないが、手作業でピクチャースタイルを再現する「プリセット」を作成することもできるかもしれない。

 「現像」モジュールにはRAWファイルだけでなく、TIFF、JPEG、PSDといったファイル形式も読み込むことができ、RAWとほとんど同じ調整を施すことができる。ただし、JPEGファイルのホワイトバランスは色温度を指定して変更することはできないようである。



 「現像」によって得られる画質は、SIKYPIXほどなめらかではなく、DPPほど解像感重視ではなく、その中間のような印象である。特徴的なのは明暗のトーンがコントロールしやすい点だろう。「白とび軽減」パラメータは非常に効果的だし、「黒レベル」パラメータを使うと黒ツブレを回避することも容易である。トーンカーブを直接マウスでドラッグすることでコントロールすることもできるし、同様にヒストグラムを直接マウスで操作することで変更することもできる。白トビするギリギリのハイライト部の調整が簡単にできる点が、他の現像ソフトに対する優位点であるように思う。以前は「バイブランス」と呼ばれていたパラメータが「自然な彩度」と名称変更された。バイブランス(viblance)とは「活気に満ちた」「あざやかな」というような意味だと思うが、特に人の肌の色を見栄え良く調整するのに特化したパラメータで、利用価値は高いだろう。

 個人的にちょっと気になるのが「シャープ」パラメータで、輝度の差が大きいところに縁取りが目立ってしまう。たとえば水面のさざなみに光が反射して白い点を生じているような絵柄では、「シャープ」の適用量を30以上にすると輝点のまわりに黒い縁取りを生じて不自然になる。

 「スライドショー」、「プリント」、「Web」といったモジュールに関しては、ざっと見てみただけだが、使いようによってはLightroomだけで、デジタル写真による作品を作ることができるかもしれないと思った。「スライドショー」モジュールは特に有用で、大量の写真にひとまず目を通すには、スライドショーとして自動再生するのがもっとも手っ取り早いからである。ただ、残念ながら完全にスムーズには再生されないようだ。



 今回Lightroomのベータ版を使って感じたのは、これまで自分が使っていたRAW現像ソフトにはない使い方ができるのではないか、という予感のようなものだ。ぼくがソフトウェアに求めることは「動作の軽快さ」、「機能性」、「安定性」などが挙げられるが、それに加えて「理屈抜きで使ってみたいと思わせる魅力」というものもソフトには必要ではないかと思った。ソフトウェアも道具なのだから、厳密に検証して判断することも必要だが、それよりもまず「使ってみたい」と思わせてくれないことには始まらない。まだベータ版で未知数な部分はあるが、ひとまずLightroomをメインのRAW現像ソフトとして使ってみようと思う。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/

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内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2007/02/08 01:11
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