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「辺境」は意外と近くにある──木更津


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このページに掲載された画像はすべて内原恭彦氏により加工された作品です。(編集部)

 先週はインフルエンザにかかって、あまり写真が撮れなかったため、かなり欲求不満が高じていたのだが、体調が回復したのでさっそく輪行(電車などに自転車を持ち込み運搬すること)して、千葉県木更津市に出かけた。

 木更津はぼくのうちからは総武線と内房線を乗り継いで、だいたい2時間ほどの距離にある。天気予報から晴れそうな日の目星をつけた上で、午後に雲が増えることを避けるために早朝の5時に家を出た。まだ真っ暗な中を駅まで自転車を走らせていると、東の空に三日月よりもわずかに細い月がかかっていた。

 木更津は何となく気になって、何度か写真を撮りに来たことはあるのだが、いまだにぼくにはよくわからない街である。わからないというのもヘンだけど、たとえば東京近郊の私鉄の駅前の街などはどこも構造的には似通っていて、少し歩き回れば商店街や住宅街といった街区の布置が把握できるのだが、木更津のように都心から離れた地方都市は、そのような街の構造のようなものが異質で、理解しにくいのだ。

 木更津の駅前の大通りはずいぶんさびれているのだけど、むしろ駅から少し離れた国道16号線沿いのほうは郊外型の店舗が建ち並んでおり、見慣れた郊外の景観を見せている。wikipediaなどで木更津について調べると、江戸時代の昔からバブル期に至るまで、東京湾や房総半島の交通の要として何度か栄えたものの、現在は不況のあおりで経済的には停滞しているということらしい。港の近くには、寂れてはいるものの往古の華やかさの名残をしのばせる歓楽街があったり、駅付近には門前町の趣のある古い町並みが息づいている。誰が何のために泊まるのだろうと思わされるような観光ホテルが何軒も建っているのだが、もしかしたら近隣の製鉄所や工場への出張者が利用したりするのかもしれない。

 ぼくは写真を撮ってまわっているだけで、特に地理や歴史に関心があるわけではないのだが、興味を引く風景というのはどこかしら地理的あるいは歴史的必然とむすびついて独特の有りようを示しているような気がする。



 早朝の木更津駅に着くと、昇りはじめたばかりのまっ黄色な太陽が、強い光を街に投げかけていた。木更津駅の周辺には、登校中の高校生と老人ばかりが目に付く。ぼくはお気に入りのパタゴニアのショルダーバッグ(見かけは安っぽいズダ袋だがハイテク素材によって198.4gの質量しかない)に、千葉県の地図とEOS KissXのバッテリー充電器と予備のMicrodriveと飛鳥のTripper(80GBのHDDを内蔵した携帯型ストレージ)を入れて、ノド飴をなめながら自転車を走らせた。



 木更津港内には赤い橋で結ばれた中の島という小さな島があって、ちょっとした公園になっている。高い位置にある橋の上から東京湾を眺めると、隣町の新日本製鉄所や、東京湾の対岸にある横浜ランドマークタワーや川崎の工場などがよく見える。地図で距離を測ると、木更津から川崎まで直線で26kmほどで、思ったよりも近い。

 海上の奇妙な形の建造物は、あとから調べると「風の塔」という名前の海底トンネルの通風口だった。中の島にかかる赤い橋はドラマ「木更津キャッツアイ」にも登場したらしく、橋のいたるところに記念の落書きが書かれている。「木更津キャッツアイ」は見たこと無いんだけど、この街を舞台にドラマを撮りたくなる気持はなんとなくわかる。ただ、ドラマを見て木更津見物にやって来た人たちは想像とのギャップを感じはしなかっただろうか?



 木更津の上空(正確には木更津沖だが)は、羽田空港への進入コースにあたるらしく、ひっきりなしに高度と速度を下げた旅客機が通過していく。5分間隔ほどだろうか、とにかく空を見上げるとかならず飛行機が目に入る。海と反対側に目をやると成田から飛び立ったとおぼしき飛行機が目に入る。さらに陸上自衛隊木更津駐屯地からはチヌーク(2つのローターを持つ輸送ヘリコプター)の編隊が飛び立つといった具合で、かなり木更津の空はにぎやかなだ。



 木更津市街を外れて海沿いにアクアラインのほうに進むと、小櫃川(おびつがわ)沿いに農地が広がる。海のそばの低湿地の趣がある。曲がった細い農道や防風林で囲まれた古風な造りの農家が点在する一方で、産廃処理施設や土木建設会社が場所を占めている。要するに荒川や国道16号線沿いとも似かよった、ぼくがたいへん好む風景が広がっているのである。

 いくら好みだからといって、いつもこの手の場所の写真を撮っているとどうしても似たような写真になってしまう。「畑やゴミの写真ばかり撮っててもしょうがねえよな」という自嘲的なセリフをぼくは時々口にするのだが、半分はジョーク、半分は本気だ。できるだけ何でも撮るようにしたいと思いつつも、なかなかそうはいかない。開き直るわけじゃないが、そうそう良い写真や面白い写真ばかり撮れるわけないし、もし撮れると思ったらそれはまず勘違いだろう。自転車に乗りながらそういったことばかりウダウダ考えてしまうのだが、とにかくしつこく1枚でも多く1時間でも多く写真を撮るしかないだろうというところに思い至る。「ヘタな鉄砲も数打ちゃあたる」というポリシーはゆるがない。

 実際同じような場所でも、季節や時間帯や撮る側の気分などは写真を撮るたびに異なっているわけで、この場所を撮り尽くしたいうことはなかなか言えないと思うのだ。ほんとうに撮り尽くした時にこそ、別の場所や別のモノが撮れるのだという気がする。



 小櫃川の河口付近は海水と淡水が混じりあう汽水のような場所になっており、付近の路上は夏になると、多数のベンケイガニがチョロチョロと走り回る。川岸の草むらを勝手に拓いて作付けした個人菜園では、ハクサイが霜にやられて腐っている。橋の下には打ち捨てられた住居の残骸が朽ち果てており、さすがにこんなところで暮らすのは無理だったのだろうと思わされもする。湿気と潮気と蚊がすごそうだ。

 小櫃川の川底は黒い砂泥が積もってそのまま遠浅となって東京湾につながっている。木更津の海は潮干狩りの名所でもある。この季節は人気もなく、寒々しく海の家が門戸を閉ざしているが、暑苦しい夏にはまた違った風景が楽しめそうで、いつかまた訪れたいものである。



 木更津周辺の県道や農道は、道幅はせまく歩道がないにもかかわらず、意外と車の交通量が多い。自衛隊の駐屯地脇の一直線の道路などをものすごいスピードで飛ばしていくスポーツカーも田舎にはよくある光景で、飛ばしたくなる気分はわかるがカメラを持って自転車でウロウロするにはあまり向いていない。ひさしぶりに自転車で遠出したこともあって、この日はかなり気分よく写真を撮ることができた。とはいえ、何度も言うようだが気分よく写真が撮れた時のほうが、写真の出来が良くないことのほうが多いことは先刻承知なのだが……。

 最近は、遅まきながらAppleのiPodを買って音楽を聞きながら写真を撮っている。というより、ほとんど自転車に乗っているときしかiPodは聴かないので、音楽を聞くために自転車に乗っているのか、写真を撮るために自転車に乗っているのかわからない状態だ。のんびりと自転車に乗りながら音楽を聴くのはいい気分ではあるが、音楽を聴きながら写真を撮るのは良いことなのかどうか疑問もある。やはり集中力の幾分かは音楽に持っていかれる気がする。

 たとえば仮に退屈と感じるような場所を写真に撮っている時、退屈だからこそ写真を撮ることに集中して気分を盛り上げていき、それによってさらに写真を撮りたくなるというような、“モチベーションの正のフィードバック”とでも言うべき状態になることがある。退屈な時、音楽で気をまぎらしてしまったり、音楽に集中しすぎると、度を越した写真への執着というようなものは薄れてしまうかもしれないと危惧している。まあ、自分が撮った写真を見返すと、iPodを聴いていようが聴いていまいが大差ないのだけど……。音楽が写真に影響を与えることがあるとすると、それはそれで面白いことだと思っている。



 KissXを使い始めてから1カ月ほどが過ぎた。HDD内を検索するとKissXで9,881枚の写真を撮っている。あいかわらずボディのホールディングはしっくりと来ないままである。もしかしたらオプションのバッテリーグリップを取り付けたほうが、持ちやすいかもしれないとも思う。最初のころに気になった手ブレはだいぶ軽減することができた。気をつけてホールディングし、基本的に日中でもISO感度は200で撮り、曇りの日や多少薄暗い時は400に変更することもある。夜間はISO800くらいは平気で使っている。高感度ノイズが少ないというKissXのメリットを活かしていきたい。

 高感度ノイズが少ないのは良いのだが、現像時にDPP(Digital Photo Professional。KissX標準添付の現像ソフト)の「明るさ調整」パラメータを使ってゲインアップすると、かなりノイズが目立ってくる。これは最近の1,000万画素超のセンサーに共通した傾向のようにぼくは思っている。D100やD70の頃は、現像時に明るくしてもここまでノイズが浮き出すことはなかったように思う。

 ぼくはクセのようにカメラ本体の露出補正を-1にしている。これはハイライトの白トビを恐れるのと、露出優先AV時にシャッタースピードをかせぐという意味合いと、アンダー目のトーンが好きだからという理由がある。こうしたセッティングでRAWで撮っておいて、現像時に白トビしない程度に明るく補正したり暗部だけを持ち上げたりということをやっていたのだが、KissXだとこうした撮り方ではザラザラとしたノイズが目立ってちょっと気になる。当り前のことだが、やはり露出は適正のほうが好ましい。KissXはほとんど白トビもしない。



 KissXで気になるのはAFの精度である。PCのディスプレイでチェックすると、ピントが合ってない写真がけっこうある。ぼくはAFでカメラまかせである。AFモードは「ONE SHOT」で、中央1点のセンサーで測距している。ピントを合わせたい場所が画面中央でない場合は、半押しフォーカスロックしてからフレーミングし直している。もしかしたらこのやり方が上手くいっていないのかもしれない。あるいはボディかレンズの不具合なのかもしれない。

 いずれにしてももう少し注意深く撮影しないといけない。ただ、ファインダーを見てもピントが合ってるのかどうかなんてわからないし、撮影画像を拡大表示してもよくわからない。以前はピントが合っていようが合っていまいがたいして気にしなかったのだけど、今はピントくらいは合わせたいと思っている。この気分もまたいつか変わることはあるかもしれないが。



 この日は全部で780枚ほどの写真を撮った。朝の8時から午後1時頃までだろうか。もっと撮りたいものはあったが、KissXのバッテリーが切れてしまったのだ。仕様によると最大撮影可能枚数は500枚なので文句はないのだが、場合によっては一気に1,000枚以上撮りたいこともあるので、予備のバッテリーを購入する必要がありそうだ。今さらながら気付いたのだけど、ISO感度の設定によってCFへの撮影可能枚数が変化する。1GBのCFの場合、

ISO100104枚
ISO200102枚
ISO400100枚
ISO80097枚
ISO160093枚


となっている。ISO感度が高いファイルのほうがノイズが多いのでRAWの圧縮率が低くなるのだろう。



 バッテリーが切れてしまったら、デジタルカメラはお手上げだ。こういうときにかぎって次から次へ撮りたいものが目につく。今回はバッテリー充電器を持参していたのだが、あたりは一面の畑と荒蕪地である。どこにも充電できそうな場所は無い。

 木更津市街からはかなり離れていたので、隣の袖ヶ浦市のJRの駅まで行って、マンガ喫茶かなにかで充電しようと考えた。ところが適当に勘にまかせて袖ヶ浦駅を目指したものの、なかなか見つからない。地図を見ても縮尺が大きくて自分が今どこにいるかもわからない。JRの線路に沿って移動してなんとか袖ヶ浦駅を見つけたが、通りすぎるのも道理で、ほとんど駅前に何も無い。マンガ喫茶などあるわけもなくあきらめてそのまま電車に乗って帰宅することにした。駅前に行けば何かしらあるだろうという考えは、地方ではあてはまらないのだ。こういっては大げさかもしれないが、デジタルにおける「辺境」は意外と近くにある。




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内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/12/21 00:16
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