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エアカメラを求めて2-EOS Kiss Digital X


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このページに掲載された画像はすべて内原恭彦氏により加工された作品です。(編集部)

 前回「エアカメラ」という造語をぼくが思いついたかのように書いてしまったが、よく思い返してみると写真家の福居伸宏さん( http://www.nobuhiro-fukui.com/ )のblogに書かれていた「エア・カメラ」という言葉がオリジナルである。念のために記しておく。

 Kiss Digital X(以下「KissX」と表記)を使い始めて2週間ほどで、約5,000枚の写真を撮った。KissXはまだ完全に手に馴染んでいるとは言えないが、前回に引き続き現時点での使用感などを書いてみたいと思う。


ありがたい軽さ

 このところずいぶん気温が下がり、秋らしい好天の日が続いている。この季節は太陽の高度が下がり、光線の入射角が水平に近づく。事物の影は長く伸び、建物や人物のま正面に陽光が照らしつける。大気中を長く進むせいか太陽光線は黄色味を帯び、どこか日没の雰囲気を感じさせる光となる。秋は快晴の日であっても色温度は低いのではないだろうか。

 もちろん季節による陽光の色の変化などごくわずかだろうし、デジタルカメラのオートホワイトバランスで自動的に補正もされているだろうし、そもそもRAWで撮って現像ソフトでホワイトバランスを変更してしまえば、そうした変化は無視しうる程度だろう。ただ、こうした陽光の色の変化というのはむしろ撮影者の気分に影響を与えるという気がする。太陽の光に季節を感じると、写真を撮りたくなる。

 あいかわらず自転車に乗ってはあちこち移動しながら写真を撮っているのだが、電車に自転車を持ち込んで遠出をするのではなく、比較的自宅に近い新座市や川越市といった荒川沿いの地域を撮ることが多い。この辺はかなりしつこく“攻め”ている場所なので同じような被写体を何度も撮ってはいるのだけど、カメラを変えると写真がどう変化するのかな、という興味も感じる。

 気分が乗っているときは6GBのMicrodoriveを使い切ってもまだ撮り足りないと感じるときもある。RAWで撮影した場合、6GBのMicrodoriveに593枚ほどの写真を保存することができる。かならずしも毎日それだけの分量を撮影するわけではないが、さらに大容量のCFが欲しくなった。



 1日に何時間も撮影していると、KissXのボディの軽さはやはりありがたい。D100やD70も充分軽量だと思っていたが、それでも長時間撮影していると1日の終わりに首筋や肩に凝りを感じることもあった。KissXの場合はストラップで首から下げていることすらまったく意識にのぼらない。これは交換レンズがコンパクトであることも一助になっている。冬場は上着も厚く重いものになるのでさらにKissXの軽さが際立つ。

 ただし前回にも書いたことだが、2週間経ってもあいかわらずホールディングしづらく感じる。現時点でぼくがKissXに感じる一番の問題点は「持ちづらい」ということにつきる。逆に言うとそれ以外に深刻な問題点は感じない。

 大型化された液晶モニターはKissXの売りのひとつだが、屋外の明るい場所だとちょっと色味がわかりづらい気がする。液晶モニターをより明るく表示するように設定すれば解決するのかもしれないが、バッテリーの消費が気になる。

 とても細かいことなのだけど、モニターの表面のプラスチックがすでに傷だらけになってしまっている。ぼくのカメラの扱いが雑であるということがその原因なのだろうけど、これまで同じように使ってきたデジタルカメラはここまで短期間で傷はつかなかった。もしかしたらモニターの表面が軟らかい材質なのではと疑っているが、そういった事柄は仕様には記されないので真相はわからない。

 液晶モニターの使い勝手で気になることがある。撮影直後にモニターに自動的に画像が表示されるのだが、その状態では過去の撮影画像にアクセスすることができない。過去の撮影画像を表示させるには、「再生」ボタンを押して「再生」モードにした上で「プレイバック」(ほんとうは何と呼ぶのかわからないが)ボタンを押す必要がある。連写によって複数の写真を撮影した場合プレビューで表示されるのは最後の画像だけである。その状態で「プレイバックボタン」を押すと「測光モード」の画面になってしまう。「再生ボタン」を押すには左手を使う必要があるので、それもわずらわしい。この操作に関してユーザーが設定をカスタマイズできるのではないか、と今マニュアルを調べてみた。すると「SET」ボタンを「再生」ボタンとして割り当てることができたので、これによって右手だけで過去の画像を表示させることが可能となった。これで多少はマシになった。




初めての単焦点レンズ

 今回、初めて50mm F1.4の単焦点レンズを使ってみた。これまでほとんど28-200mmや18-200mmといった高倍率ズームレンズしか使ってこなかったのだけど、単焦点レンズに対して予想していたよりも違和感や不自由さは感じなかった。28-200mmを使っていた時は、たいていはワイド端である28mm(42mm相当)か望遠端のどちらかを多用しており、ズームによってフレーミングを決定するような使い方はあまりしていなかった。

 そもそもぼくはこれまであまり構図について考えることはなかった。構図に関しては「撮りたいものを画面の真ん中にできるだけ大きく入れる」という原則にしたがいつつ、さほど厳密さを求めずにすばやくフレーミングしてシャッターを押すようにしてきた。ミリ単位できびしく画面構成を追及するような制作態度とは正反対である。



 なぜそうしたかというと、まず作為を排したいという気持があった。これはぼく個人の事情に限られることだが、シャッターを押す前により良い写真を撮ろうと頭で考えて試行錯誤すると、むしろ良いものが撮れないのだ。それよりは偶然にまかせて多数のカットを撮ることによって、意図を超えた面白い写真が撮れることが多いような気がする。もちろん、これは極端な意見だしぼく自身においてもかならずしもベストなやり方だとは思っていない。

 50mmの単焦点レンズは、ある意味ではズームレンズよりは構図の自由度が低い。たとえば「撮りたいもの」を画面に収めようとしても画角がせますぎて入りきらない場合もあるだろうし、逆に隙間が空いて余計なものが写りこむこともあるだろう。いずれにしてもフレーミングや構図について以前よりは工夫したり考えざるを得なくなった。

 構図に対する考え方や好みも少し変わった。思い通りに撮れないこともあるけど、むしろそのことによって思いがけなく面白い写真が撮れることもある。結局「自分はどんなレンズでも良いのだ」と再確認した。

 自分でも興味深い変化としては、縦位置の構図が非常に増えた。厳密に数えたわけではないが、以前は縦2:横8くらいの割合だったのが縦4:横6くらいになったのではないだろうか。なぜ縦位置が増えたのか考えてみたけど、自分でもよくわからない。本能的にしっくり来る構図を求めるとこうなった、としか言えない。もっともKissXのボディは縦位置に構えやすいというのも理由のひとつだとは思うが。



 そもそも単焦点レンズを使ってみたのは、ある人から「画質のことを云々するなら単焦点レンズ使ったほうがいいですよ。画素数1.5倍分くらいの効果はありますよ」と言われたこともきっかけのひとつだった。使ってみたら、さすがに1.5倍よく写るとまでは言えないけど、以前使っていたEF 28-200mm USMとは雲泥の差だと思った。他のレンズと比較したわけじゃないから厳密なことは言えないけど、ディスプレイ上で等倍で細部を見てみると、カリカリにシャープというのではないがディテールの情報量が豊かであると感じる。それでももしかしたら見た目のシャープさではサイバーショット DSC-R1のほうが優るかもしれない。それは発色やコントラストも手伝ってのことではあるが。

 KissXの解像感に関しては、現像ソフトによっても異なる気がする。残念なことにRawShooterはKissXのRAWファイルに対応していない。もはやRawShooterは開発が停まっているので仕方がないのだけど、誰かがRawShooterにパッチをあてるなどしてKissXに対応させてくれるとうれしいのだけど……。

 ぼくはKissXのパッケージに同梱されたRAW現像ソフトDPP(Digital Photo Professional)をメインに使っている。DPPは画質を調整するためのパラメータが少ないというデメリットはあるが、最終的に出力される画像(TIFFやJPEG)の画質は良好であると思う。ピクチャースタイルを後から変更できるというのもメリットと言える。

 個人的な見解だけど、SILKYPIXはKissXのRAW現像に関してはややディテールが損なわれる印象がある。遠景の木の葉や路上の石ころの質感といった微細なテクスチャーが補間によって丸め込まれてしまう気がする。Adobe Photoshop Lightroomのβ版は、画質の調整もやりやすいし出力結果も満足なのだけど、ぼくのPC環境ではとにかく重すぎて使いづらいのが残念だ。もうすこし軽快に動作するならLightroomで現像するのがベストかもしれない。

 このレンズは開放F値が1.4と明るいのも特徴的だ。これまでぼくの使っていたズームレンズのF値は3.5から5.6である。というふうに数値だけ見ても、実際にどういう具合に写るのかは使ってみるまで想像はつかなかった。単純に三脚を使わずに手持ちで夜景が撮影できればいいなと思っていた。夜景といっても都心の繁華街と郊外とではかなり明るさが異なりはするものの、ISO感度を800に上げることで、かなりの状況で手持ち撮影が可能になる。夜の街を自転車で走りながら、これまでならブレてしまって撮ることをあきらめていたような光景を手持ちでサクサクと撮ることができるのはたしかに新鮮で、一種のパワーを手にしたような気分になりもした。



 ただし、帰宅してPC上でそれらの写真を眺めてみると1/30秒や1/80秒ではごくわずかに手ブレしているカットが多くてがっかりした。夜景に限らず、KissXで撮る写真はずいぶん手ブレが多いことに気づいた。その理由は、まず焦点距離が50mmである分、28mmよりはブレが目立ちやすいということ、画素数が多くなった分、PC上で等倍でチェックするとわずかなブレが目立つということ、さらにボディがホールディングしにくいというようなことが考えられる。シャッタースピードをかせぐために日中でも基本的にはISO感度は200に設定し、場合によっては400にすることもある。やはり手ブレ補正機能があったほうがいいと思った。

 これもまた素朴な印象だけど、50mmというのは思った以上に被写界深度が浅く感じた。これまでぼくはほとんど絞り優先でF11まで絞ってパンフォーカスにして撮影していた。APS-Cサイズのセンサーを持つデジタル一眼レフではきれいに被写界深度にもとづくボケが得られないと思っていたので、ハンパにボケた絵柄よりはいっそパンフォーカスで奥行き感や立体感を感じさせない絵画的な写真のほうが面白いんじゃないかと思っていたからだ。ところが50mmの焦点距離ではF11まで絞ってもパンフォーカスにはならない。ピントを合わせる距離にもよるが、奥行きのある風景などはどうしても前ボケや後ろボケが生じてしまう。かといってF11以上に絞りこむと、当然回折が発生してシャープさが損なわれる。いずれにしても被写界深度によるボケを考えながら撮影する必要に迫られることになった。



 このレンズについての感想としては、逆光時でもほとんどゴーストやフレアが発生しないことや、色収差(画面の周辺の高コントラスト部分に発生する赤色や青色のにじみ)が目立たないことも気に入っている。

 前述したようにF11まで絞った時は手ブレを防ぐためにISO感度を400まで上げることもある。EOS DIGITAL系は伝統的に高ISO感度でもノイズが少ないというメリットがあるのだけど、よく指摘されるようにKissXはこれまでのEOSに比べると確かに若干、高ISO感度時のノイズが多い印象がある。色ノイズはそんなに多くはないが、粉っぽいノイズはISO400からでも視認できる。とはいえ他のメーカーの機種よりはノイズレスだと思うが、RAW現像時にトーンを持ち上げて明るくしたりするとかなりノイズが目立ってくる。ちょっとイヤなのはランダムに発生するのではなく画面の縦横に平行な走査線のようなパターンが目につくことだ。このようなノイズはおそらくイメージセンサーを使っている以上避けられないものだし、他のデジタルカメラにも存在する。DPPのノイズリダクション処理がそれをけっこう巧みに消してくれるのが救いである。

 以上、インプレッションめいた文を書いてみたが、結論としてぼくはかなりEOS Kiss Digital Xを気に入った。まあ、ぼくはどんなカメラでも使い込めば気に入ってしまうのだけど。KissXもできれば長く使いたいものだ。ただ、ハイエンドクラスの機種に比べると耐久性や堅牢性は当然かなわないわけなので、今後はその辺にも注意しながら使っていきたい。




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  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/11/30 01:04
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