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エアカメラを求めて-EOS Kiss Digital X



 エアギター( http://airguitar.jp/ )という言葉がある。ハードロックなどの演奏をバックに、手に何も持たずギターを演奏する振りをする一種のパフォーマンスで、このところ世界的に盛り上がっている。空気を演奏するからエアギターなのだが、そこから転じてエアカメラという言葉を思いついた。カメラを持たずに写真を撮る振りをするわけだ。

 デビュー前のある写真家はフィルムを買う金すらなくて、フィルムの入っていないカメラのファインダーをのぞいてはピントを合わせシャッターを空打ちしていたそうだが、それは写真を撮る欲求をなぐさめる行為であると同時にトレーニングでもあったのかもしれない。

 それはともかくとして、ぼくも空気のような軽いカメラを夢想することがある。奇妙なことに写真を集中して撮っているとだんだんカメラの存在が希薄に感じられ、被写体と目がダイレクトに触れ合う気のする瞬間がある。もちろん現実にはカメラを使っているのだが、カメラを操作しているという意識はなく、目が写真を撮っているとでもいうような感覚。眼球にカメラを移植するというようなSF的な話を持ち出すまでもなく、写真を撮ることに夢中になっているときは、エアカメラを操っていると言えないだろうか。

 今のところそうしたエアカメラ状態を実現するには、とりあえず現実のハードウェアとしてのカメラを用意するしかない。それはどんなカメラでもいいというわけではなく、手と目になじんで空気のごとく自在に機能するものでなくてはならない。



 先週末にEOS Kiss Digital X(KDX)とEF 50mm F1.4を買った。カメラを買うのは2002年にD100を買って以来なので、4年ぶりということになる。カメラにあまり関心のないぼくだが、さすがに4年前のデジタル一眼レフであるD100には古さを感じざるを得なくなってきた。実売価格が10万円以下のエントリー機でも1,000万画素が普通のご時世だ。それでもD100が壊れなければまだまだしつこく使い続けたかもしれないが……。新しいデジタル一眼レフカメラを買うにあたって、まずはどの機種にするか決める必要がある。基本的な条件としては、安価であること、1,000万画素以上であること、軽量であること、くらいだろうか。

 EOS 5Dはぼくには高価である。内蔵ストロボがついていないことも気になった。それでもその画質の良さから当初は選択肢のひとつだったのだけど、KDXが発表されたことで候補からは外れた。

 次にソニーのα100が気になった。1,000万画素、ボディ内手ブレ補正機能、ダストリダクション、と今どきのセールスポイントをすべて押さえている。ぼくはカメラ屋の店頭で展示機にCFを入れて何枚か試しに撮影してみた。まず、思っていたほど手ブレ補正が効かないように思えたが、それはぼくがカメラの手ブレ補正機能をそれまで使ったことがないために過大に期待していただけで、実際には手ブレ補正というのはその程度の効果であるらしかった。RAWで3枚ほどしか連写できないことがもっとも気になった。バッファ(撮影画像ファイルをメディアに書き込む前に一時的に保存するメモリ)が一杯になってからの回復も速いとは言えなかった。



 次に候補となったのはニコンのD200である。これは1カ月ほどお借りして沖縄にも持って行き、気が済むまで使わせてもらった。D200は非常によくできていて欠点は見あたらなかった。あえて言うと、知り合いがみんな持っていてお揃いになることや、ボディのサイズや質量がやや大きめ、ということが気になったくらいだ。このカメラを買っても後悔することはないだろうな、と思ったが、ぜひとも欲しいという気持にもならなかった。

 一眼レフではないがソニーのサイバーショット DSC-R1を買うことも真剣に考えていた。このカメラについてはこの連載ですでに書いたことではあるが、とにかく解像感にすぐれ、高画質であることが訴求ポイントだった。ただし動作が軽快でないことや、ボディが大きすぎるということがぼくにとってはマイナスだった。R1を使うと面白い写真が撮れそうだったが、撮れないものもたくさんあるだろうと思った。ニコンのD80は、ほとんど検討もしなかった。これだったらD200にする。

 ペンタックスのK10Dは、サンプル画像を見てその画質の良さに目をみはった。22bit A/D変換という技術についてはよくわからないのだけど、サンプル画像が自然で豊かな色合いであることはよくわかった。ボディ内手ブレ補正機能やダストリダクション機能もついている。ボディがやや大きく重いことと、RAWファイルのファイルサイズが大きめであるということが気になった。なによりもまだ発売されていないので買いようがない。



 カメラを選ぶ基準というか条件というのは、人によってさまざまだと思う。たとえば、ファインダーの見え具合を重要視する人もいれば、バッテリーの持続時間を気にする人もいるだろう。記録メディアがCFかSDメモリーカードかということもトータルコストに影響するから、見逃すわけにはいかない。すでに持っている交換レンズが使えるボディを選ぶということも、当然あるはずだ。

 ぼくの場合は、カメラを長時間首からストラップでぶら下げているので、できるだけボディは軽いほうがいい。街中でスナップをすることもあるので、寸法も小さくて目立たないほうが好ましい。時にはひとつの被写体をパノラマのように複数枚に分けて分割撮影することもあるので、ある程度連写が可能であるほうがいい。実際のところRAWで20連写できるEOS-1D Mark IIでも、100枚以上の分割撮影をしているとメモリーカードへの書き込みの待ち時間が生じることがある。それは極端な例だけど、最低でも10連写でき、バッファ・フルからの開放が速くないと分割撮影をする気にはなれない。

 個人的にはファインダーの見え具合はほとんど気にしない。ノーファインダーとまではいかないけど、ファインダーは大まかな構図を決める手助けくらいに考えている。もちろんファインダーは見やすいに越したことはないし、細部まで仔細に見ることができるなら話は別だ。中判カメラのファインダーくらい大きなイメージが見えるならもっとじっくりと細部を検討したりピントをマニュアルで合わせたいと思う。液晶ディスプレイがもっと高画素化して、光学ファインダーと同等な見え方でライブビューできるようになるとすれば面白いのだが。



 結局のところKDXが最有力候補となった。手ブレ補正がついていないことはマイナス要因だが、手ブレ補正機能のついたレンズを使うという選択肢もある。さらにキヤノンのお家芸である高ISO感度時のノイズの少なさがあれば、シャッタースピードをかせぐことで手ブレを避けることもできるのではないかと思った。RAWで11連写できることもポイントが高い。

 気になることもなくはなかった。なにしろキヤノン初の1,000万画素を越えるAPS-Cサイズのイメージセンサーなのだ。画質がどんなものかネット上のサンプル画像でチェックはしてみたが、結局のところ自分で使って写真を撮ってみないと本当のところはわからない。このセンサーを最初にエントリー機に載せてきたのも、もしかしたら一種のテストなんじゃないかと疑いもした。テストというのは言いすぎだとしても、より改良されたセンサーがミッドレンジ機であるEOS 30Dの後継機種に使われることは間違いないだろう。

 つまらないことだが、ぼくはKissという名称はあまり好きになれない。子どもを撮る母親にアピールしているということは理解できるのだけど、それってほんとうに有効なのかなと疑問に思う。要するにデジタル一眼レフを使って子どもを撮ろうとする母親には、Kissという名称は逆効果じゃないかな、と思うのだ。デジタル一眼レフを使おうという母親はKissという甘ったるい名称に心ひかれない気がする。育児をしている母親が子どもを撮るためにはデジタル一眼レフよりももっとふさわしいカメラがあるのではないか。たとえばピンクで耐水性があってフルオートで室内でもブレずに撮れるようなカメラのほうがアピールすると思うのだけど……。まあ、育児をしたこともないぼくが口をはさむべき事柄ではないだろう。ただ、海外ではKissという名称が使われておらず、北米ではRebel(反逆者)という正反対のイメージを持つ言葉が使われているのが面白い。



 ぼくはキヤノンのレンズは持っていないので、KDXに取り付けるレンズを買う必要があった。これについても、膨大な数の交換レンズ群から適当なものを選ばなければいけない。無難なのはこれまでと同様に高倍率ズームレンズを1本買って、それですべての撮影をまかなうということだ。以前ならそうしていただろう。

 ところが、このところいくつかのカメラやレンズを試用させてもらった結果「レンズによって画質が異なる」というごく当たり前の事実に気がついた。これまで写真については「写ってればいいんだ」くらいに思っていたのだけど、実際にPCのディスプレイ上でピクセル等倍で写真を検討してみると、いいものはいいし、悪いものは悪い。ぼくは作品を作るにあたって必ずしも高画質な写真を必須とは考えていないのだけど、気分の問題として気持のいい画質と悪い画質というのは歴然とある。

 といってもぼくが気にするのは解像感と色収差くらいで、その他の階調や描写などは比較でもしてみないと正直わからない。また、ズームレンズはどうしても開放F値が暗くなるのでそれも気になりはじめた。逆光時のゴーストの発生もレンズによってぜんぜん違うし、広角における画面の歪曲の程度もレンズによって異なる。ある程度の年数、写真を撮ってきた人には自明かもしれないこれらの事も、実際にいくつかのカメラやレンズを使ってみないといつまでたっても実感できないことではある。

 というわけで、今回は初めてEF 50mm F1.4という単焦点の標準レンズを買ってみた。写真学校の学生が最初に買うようなレンズかもしれない。このレンズを買ったのは、以前この連載に登場してもらった写真家の山田大輔さん( http://www1.odn.ne.jp/~caa31720/ )の影響もある。山田さんはニコンの50mm F1.4を使っている。薄暗い非常階段や定食屋の電灯の下にぼんやりと浮かび上がるトンカツ定食の写真などに魅かれたからだ。

 APS-Cサイズのセンサーを持つKDXでは、50mmのレンズは1.6倍にあたる80mm相当の画角となる。ぼくは中平卓馬の写真が好きなのだけど、中平さんは今は100mmのレンズを使っている。そのこともちょっと意識した。



 カメラ屋の店頭で手にとって見たことはあるものの、実際にKDXを買ってみると実に小さく感じる。これは設計するのが大変だっただろうな、と思うほどだ。ボタンの配置やボディの形状は、すっきりしているけど密度を感じるデザインで気に入った。店頭で見たときは高級感は感じなかったのだけど、ストラップで首からぶら下げたり机の上にぽんと置いてみると、しっくりくる。チープシックと言ったらほめ過ぎかもしれないがぼくには似合いのデジカメだと思っている。

 ただ、その小ささが裏目に出て手に持ちにくい。ぼくの手は大きいほうではないが、右手でホールドすると小指がややボディからはみ出す。すべての指をグリップにそえようとすると今度は親指があまってしまう。最初はどうにも持ちにくかった。いろいろ持ち方を変えても上手くいかず、撮影していると次第に親指、中指、薬指3本だけでカメラボディをつまむような持ち方になってしまう。人差し指はシャッターボタンを押すために必要で、小指は行き場を失ってしまう。こんな持ち方ではすぐに指が痛くなってしまうし手首にも負担がかかる。これは自転車に乗りながら片手で撮影しようとしたせいもあって、両手でカメラをかまえれば問題はない。

 2、3日使っていると次第にカメラの持ち方のベストポジションを指が覚えてくれたようで、特にホールディングに困難は感じなくなってきた。それでも、やはりカメラはしっかりとホールドできるかできないかで、指や手への負担が大きく異なるということがわかった。



 シャッターボタンのフィーリングはあまりよくないと思う。まず指で触れるとプルプルと遊びがある。半押しとか押し込みもちょっと違和感がある。AFへのタイムラグがあると、ボタンを押しっぱなしにしてしまいよく2連写してしまう。ぼくは触感のような感覚的なことにはあまりこだわるほうではないのだけど、自分でも意外なことにけっこう気になる。これもそのうち馴れることができるだろうか。

 KDXには背面の液晶モニターにすべての情報を表示する。つまり上面にサブの液晶ディスプレイなどはついていない。液晶モニターに表示される画面は大きく分けると3種類あることになる。撮影画像とメニューとカメラの設定情報である。設定情報というのは絞り値やISO感度や露出補正や残り撮影枚数などである。これらの情報は通常はサブの上面液晶ディスプレイに常時表示される類のものだ。これら3種類の情報を必要に応じて切り替えて表示するのだけど、これもけっこうわずらわしい。さらにファインダーをのぞくと自動的に表示をオフにする機能があったりするのも、ぼくにとっては混乱の元だ。とりあえずマニュアルを見て操作方法を学ぶか、馴れるしかないだろう。

 実際に撮影してみた画像については次週に書いてみたい。




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  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/11/16 00:26
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