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SILKYPIX Developer Studio 3.0を使って



 市川ソフトラボラトリーのRAW現像ソフト「SILKYPIX Developer Studio 3.0」(以下SILKYPIX 3.0と表記)がリリースされた。ぼくが普段使っているRAW現像ソフトはSILKYPIXとRawShooterのふたつで、これらを場合によって使い分けている。RawShooterについては以前書いたので、今回はSILKYPIXについて書いてみようと思う。

 ぼくは最初はカメラメーカーがカメラに同梱しているRAW現像ソフトを使っていた。D100ではNikon Viewを、EOS-1D Mark IIではDPP(Digital Photo Professional)といった具合である。「RAW現像ソフトなんてどれも大差ないだろうしメーカー純正のソフトが一番カメラに合っているだろう」と思っていたからだ。そのころはNikon ViewもDPPも特に不満なく使っていた。機能的にはいくつか物足りなく感じることもあって、たとえば当時使っていたバージョンのNikon Viewではグレー点の指定によるオートホワイトバランスがついていなかったり、DPPではノイズリダクションをOFFにすることができなかった。

 とはいえPhotoshopを使えば写真の調整は何とかなるので、RAW現像ソフトは16bit TIFFを出力しPhotoshopへ受け渡すための“橋渡し”くらいに捉えていた。当時のDPPはフォルダ内の多数のRAWファイルをサムネイルで一覧表示するのに時間がかかったので、DPExというビューアーソフトでRAWファイルを閲覧して選択したファイルを右クリックしてコンテキストメニュー経由でDPPで開くというような、今から思うととても手間のかかる作業を行なっていた。何でもそうかもしれないけれど、それしか手段がなければそれで何とかするし、そのことをそんなに不満には思わないものだ。



 では、なぜSILKYPIXを使い始めたかというと、ちょっとした手違いでNikon Viewが使えなくなってしまったことがきっかけとなっている。試用版のNikon Captureを自分のPCからアンインストールしたらなぜかNikon Viewが起動しなくなってしまった。仕方なくNikonのホームページから最新のバージョンのNikon Viewをダウンロードしてインストールしてみた。新しいNikon Viewはいくつかの機能が付け加わえられていたのはよいのだけど、動作が非常に重かった。当時使っていたぼくの非力なノートPC(Pentium III 1.2GHz&Intelのオンボードグラフィック)でははっきり言ってまともに使うことは不可能だった。Nikon Viewの良いところは比較的動作が軽いことだったのに、バージョンアップしたNikon ViewはNikon Capture並の使用感だった。その時D100のNEF(RAWファイル)を多数現像する必要があったので、あわててネットでフリーの汎用RAW現像ソフトを探してSILKYPIXを試しに使ってみることにした。

 名前だけは知っていたSILKYPIX(Developer studio 1.0)を使ってみたところ、まずその動作の軽さが気に入った。ひとまずパラメータ類をいっさいいじることなくデフォルトの状態でRAWファイルを現像してみた。率直な印象として「きれいだな」と思った。「ソフトの違いによってここまで画質が変わるのか」とも思ったし、ヘンな言い方だけど「D100でEOS-1D Mark II並の画質が得られるんじゃないか」という言葉も浮かんだ。こうした感想は今思うと錯覚も多分に含まれているし、詳細に比較検討したわけではないので無意味なのだけど、とにかくSILKYPIXの最初のインパクトは大きかった。それ以来約2年にわたってほとんどのRAW現像をSILKYPIXで行なってきた。写真集を作るために、数年間に撮影した数十万枚の写真すべてに目を通してセレクトして現像する作業を数カ月かけて行なったときは、SILKYPIXがなかったらこうした作業は不可能だっただろうと思った。最近ではSILKYPIXとともにRawShooterも使い始めたのだが、どうしてもこのふたつのソフトの比較の話になる。ぼくにとってはどちらも必要なので優劣をつける気はない。



速度

 ソフトウェアにおいて動作速度というのはとても重要な要素で、個人的にはもっとも気になる点だ。速度といってもたとえばフォルダ内の多数のファイルをサムネイルとして表示する速度とか、画像の拡大縮小やパンをした際のレスポンスとか、パラメータを変更した時の画面の更新の速度とか、最終的な書き出しに要する時間とか、ソフトウェアにおける処理は多岐にわたっていて「ソフトの速度」と一言で要約するのは難しい。が、大雑把に言うならやはり総合的にRawShooterのほうが軽快さでは勝っているかもしれない。なによりもRawShooterは「最終的な現像とHDDへの書き出し保存」(この処理について統一された用語というのはないのだろうか?)をバックグラウンドで行ないながらも、あらゆる操作がストレスなく並行して行える点が圧倒的だ。数百枚から千枚近い写真を撮って帰ってきてただちにこれらの写真を見てみたいという時にはやはりRawShooterをたち上げてしまう。

 ただ、多数の写真をサムネイル表示する速度はRawShooterもSILKYPIXもほぼ互角である。1枚のRAWファイルを全画面表示した場合のレスポンスも大差ない。ただしRawShooterがフォルダ内の複数のRAWファイルのプレビューキャッシュを作った後なら、SILKYPIXに勝るかもしれない。



 ちなみにストップウォッチ片手にふたつのソフトの処理時間をいろいろ計ってみたのだけど、その時々によって誤差が非常に大きい。常駐ソフトが起動していたりiTunesで音楽を再生していたりするだけでも異なるし、HDDをデフラグしたり再起動直後かどうかでも異なる。要するに普段の作業時におけるレスポンスの差は誤差の範囲におさまるので論じるのは無意味だろう。いずれにしても、ぼくが使ったRAW現像ソフトの中ではこのふたつのソフトの軽快さは群を抜いている。

 最終的な画像の書き出しに要する時間に関しては多少はっきりしたことが言えるが、同じRAWを現像してみるとだいたい40%ほどRawShooterのほうが速かった。また、デフラグをかけてもRawShooterはあまり変化しないがSILKYPIXは20%ほど速度が向上した。面白いのはSILKYPIX 1.0の現像が非常に速いことで、3.0よりも倍以上速い。SILKYPIX 3.0は現像処理エンジンが改良されて高画質化されているということなので、それとはトレードオフする形で現像に時間を要するのは仕方がないことかもしれない。ただ、個人的には倍以上時間をかけたところで画質が“倍”向上するわけではないし、ピクセル単位で比較してようやくわかるくらいの違いしかないのだから、手っ取り早く大量にRAW現像をする必要がある場合はSILKYPIX 1.0を使うのも有効なやり方かもしれないと思った。



画質

 SILKYPIXのオンラインマニュアルやWEBページを見ると、高画質であるということをひとつの売りにしている。画質というのは客観的な指標がないからどうしても主観的な言い方になってしまうけれど、RawShooterよりもたしかに高画質だと思う。同じRAWファイルをSILKYPIXとRawShooterで現像してPhotoshop上で400%まで拡大表示して見てみると、SILKYPIXのほうがディテールをよく表現していると思った。RawShooterは画像の本来まっすぐであるべき部分がモザイク状にギザギザとアーチファクトを露呈していて、細部が埋もれてしまっている。SILKYPIXは補間がうまくいっていることをうかがわせる滑らかさを示しつつ、細部が拾い出されている感じだ。

 SILKYPIX 2.0までは滑らかではあるが画像のディテールの尖鋭さを欠く印象があって、全体として“ねむい”印象があった。かといってシャープネスを適用すると輪郭強調の不自然さから逃れることはできなかった。その点RawShooterはとにかくシャープで尖ったテイストの絵作りでインパクトがあった。これはぼくの思い込みかもしれないけれど、SILKYPIX 3.0のβバージョンであるHIMAWARIが公開されてβテストが行われていた時、インストールして使ってみると画質がとてもシャープになっていて、これまでのSILKYPIXの印象とはずいぶん異なっていた。ちょっとRawShooterの尖ったテイストに近いものを感じて個人的には好ましかったのだけど、3.0の製品版では多少その印象が緩和されているのではと思った。ある意味では画像のチューニングが熟成されたということかもしれない。

 いずれにしてもここで書いていることはピクセルを等倍以上に拡大表示して目を皿のようにして見比べて気づくことで、個人的には些細なことだと思っている。たとえばネコのヒゲの1本が解像しているかどうかは、ぼくにとってどうでもいいことで、それよりは写真の全体としての印象が自分の気に入るかどうかだけを問題にしている。その点RawShooterは野蛮とさえ言えるような特徴的な絵作りで面白い。それにくらべてSILKYPIX 3.0はどんなRAWでもそのポテンシャルを引き出してくれそうな安定感がある。



ハイライトコントローラ

 SILKYPIX 3.0にはハイライトコントローラという機能がある。画面上のハイエストライト領域で色と階調を調整する機能で、具体的には白トビや彩度の飽和を回避することができる。オンラインマニュアルを見てもかならずしもこの機能のすべては理解できていないのだけど、ヒストグラムを見ながらパラメータをいろいろ変更していくことで最適な結果を得ることはできるはずだ。画面上では一見白トビしているようでも、データ的には階調の情報が残っている場合にそれを救い出してくれる機能だという風に理解している。

 もちろん完全に白トビを解決してくれるわけではないし、デジタルカメラのラチチュードを広げてくれるわけではない。それでもこの機能があるとないとでは大違いでSILKYPIXの大きな優位点のひとつだと思う。ハイライトコントローラを使うときはお互いに関連しあう複数のパラメータを同時に変更しながら作業することが必要である。さらには露出補正やコントラストなども考慮しながらスライダーを動かしたほうがいいだろう。そして、この機能も万能ではなく限界があることを忘れてはならない。



レンズ収差補正

 「シェーディング」、「ディストーション」、「倍率色収差」といった3種類の補正機能があり、これらも実に強力である。

 「シェーディング」はいわゆるレンズの周辺減光を補正してくれる。画面中央から外周部にかけて序々に明るくしたり暗くしたりすることができる。これはパノラマ撮影した画像をスティッチングするときつなぎ目の明るさをそろえることもできる。「ディストーション」はレンズの「タル型」、「糸巻き型」と呼ばれるような歪曲を補正してくれる。使い方は簡単でリアルタイムで処理される画面を見ながらスライダーを動かせばよい。ただ、この機能も万能ではなくて歪曲を完全に補正できないこともある。いずれこうした補正機能がさらに進化してより完全なものになることを期待している。

 「倍率色収差」はズームレンズなどで顕著に現れる、コントラストの強い部分の境界に生じる色のにじみを消し去ってくれる。この機能もうまくいくときは完全に色のにじみを消してくれるのだけど、場合によっては画面の一部を修正すると別の箇所が破綻してしまうこともある。オンラインマニュアルにくわしい説明が載っているのでそれを参考にして使用すべきだろう。

 これらの補正機能はどれもデジタル写真ならではのものだと言える。うまく使えば撮影時の問題点をある程度カバーしてくれるだろうし、補正というのにとどまらず表現手法のひとつとして使うこともできるかもしれない。たとえばシェーディング機能によってわざと周辺減光を画像に加えた「ノスタルジートイカメラ」というプリセットのパラメータが用意されている。「ノスタルジートイカメラ」というプリセット名を見たときはあまりにもあざとい感じがして苦笑してしまったのだけど、実際に使ってみるとなかなか面白かった。自分自身の手で画像に調整を加えていくのもいいけど他人が組み立てたパラメータを適用することであらかじめ予想のできない変化が自分の写真に生じることも面白いと思う。



 SILKYPIXでは複数のパラメータのセットを「テイスト」という呼び名で保存したり自動的に適用することができる。ぼくの場合は基本的にはノイズリダクションとシャープネスをOFFにすることが多いのでそのような設定をテイストとして登録し、フォルダを開くと自動的にすべてのRAW画像にそのテイストを適用することにしている。もちろん改めて1枚ごとに詳細な調整を加えて完成させていくわけだが、作業を効率化するためにも「テイスト」という方法は便利である。

 SILKYPIXにはさらにいくつかの面白い機能がある。「RAW Bridge」という機能はJPEGやTIFFといったRAW以外の画像をSILKYPIXに読み込みRAWと同等の調整や処理を行なうことを可能にする。ユーザーが特別なことをしなくてもJPEGやTIFFをSILKYPIXに読み込むだけで、ソフトウェアの内部で擬似的にRAWファイルへと変換されているらしい。最初からカメラでRAWとして撮影したファイルとまったく同一ではないと思うが、いわばJPEGファイルを「逆アセンブル」するようなものか……。この機能によってJPEGで撮影した写真もPhotoshopなどで調整を加えるよりもより自然で精緻にレタッチすることができる。

 個人的に気に入っているのが「フィルム調」というパラメータのプリセットである。その名の通り画像をフィルムで撮影したかのような色合いへと変えてくれる。どの程度フィルムの色調を再現しているのかはわからないが、忠実なシミュレーションとしてではなく画像の雰囲気を手軽に変更してくれる機能として興味深い。

 おそらくデジタルカメラは現実の被写体の色をできるだけ正確に測定するように設計されているはずだが、その結果として「なんとなくデジタル写真っぽい色合い」というのが形作られてきているように思う。そうしたデジタルカメラの進化はもちろん正しいことだし、より正確な色が捉えられるようになってほしいとは思うが、それとは別の“色彩体系”のようなものがあってもいいと思う。必ずしも現実を忠実に再現するものではないが、趣きがあってユーザーの自由な創作意図を反映するような色合いを簡単に作ることができる、そういった機能がRAW現像ソフトに取り入れられると面白いのではないかと想像している。




URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/

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内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/10/19 01:13
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