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「この大きさに勝算があるんだ」−−FinePix F30



4年ぶりのコンパクトデジタルカメラ

 富士フイルムのコンパクトデジタルカメラFinePix F30( http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/finepixf30/index.html )をお借りして使ってみた。コンパクトデジタルカメラをちゃんと使うのはほぼ4年ぶりである。その間ずっとデジタル一眼レフだけで写真を撮ってきた。デジタル一眼レフならではの動作の軽快さや画質の良さに惹かれたからだが、コンパクトデジタルカメラにも興味は持ち続けていた。ネット上でさまざまなサンプル画像をチェックしたり店頭で手に取って見たりもしたが、実際に買って使ってみたいと思うコンパクトデジタルカメラには出会えなかった。

 そうした中でもF30はもっとも興味を引かれるカメラだった。F30だけでなく先行する機種であるF11やF10さらにはF810などの画質の良さに注目していて、自分が使ってもいないのに他人に薦めたりもしていた。ネット上で見ることのできるサンプル画像はとにかくシャープでノイズが少なく発色も自然だった。「これはもしかしたらD100よりもシャープなんじゃないか?」とすら感じた。ぼくがコンパクトデジタルカメラを買うなら第一候補はF30だと思っていた。



「この大きさに勝算があるんだ」

 大友克洋のマンガ「アキラ」( http://www.amazon.co.jp/gp/product/406319339X/ref=pd_bxgy_b_img_b/250-9147851-2308261?ie=UTF8 )の中で「この大きさに勝算があるんだ」というセリフが出てくる。手のひらに収まるくらい小さなカスタムメイドのレーザー銃(ストーリーの中では実際には銃ではなくてレーザーポインターなのだけど)を手にした『大佐』が口にするセリフだ。「もっと大きく作れば高い性能が発揮できるのに……」というようなセリフに対する返答である。「アキラ」というマンガを読んだことのない人には伝わりにくい話かもしれないけど、このセリフはぼくにとってとても印象的で、携帯機器全般に通用するキャッチフレーズのように思っている。

 デジタルカメラにおいても、画質や操作性などに加えて「大きさ」という要素も重要な評価基準であることは言うまでもない。特にコンパクトデジタルカメラは、女性がハンドバッグに入れて邪魔にならない大きさであるかどうかがマーケティング的なポイントだと聞いたことがある。

 ぼく自身はデジタル一眼レフカメラをストラップで常に首から下げて一日中ウロウロしているのだが、通常その重さはほとんど気にならない。ただしカメラの見た目の大きさというのは気になることがある。カメラを下げて道を歩いていると行き交う人がちらっとカメラのほうに視線をやることがある。なんだかんだ言ってデジタル一眼レフカメラを下げている人の絶対数は少ないわけで、どうしても違和感というか注意を喚起してしまうのだ。縦位置グリップのついたEOS-1D Mark IIのような巨大でマッシブな形をしたカメラならなおさらのことで、近所を歩いていると「ヘンな人感」はさらに増す。

 もちろんデジタルカメラをどのように携帯しようが完全に自由なのだけど、TPOをわきまえることも大切だろう。ぼくはカメラバッグなどに入れて持ち歩いたりはしないが、食事や買い物のために店内に入る時やプライベートスペースではバッグにしまうこともある。デジタル一眼レフカメラの「ものものしさ」というのが気にさわることもあるのだ。ぼくは街や路上でキャンディッド・フォト(声をかけずに撮影するスナップ写真)を撮ることも多いのだけど、理想は街に溶け込んだようにして撮ることである。そういった意味でデジタル一眼レフカメラはかならずしも理想のスナップカメラとは言えない。コンパクトデジタルカメラを手に、「この大きさに勝算があるんだ」と言いたい。



路上にて

 週末の朝に宅配便で届いたF30を充電する時間もないまま街に出た。バッテリー充電のためのACアダプターや画像をバックアップするためのノートPCを持って、上野、秋葉原、御徒町などを自転車に乗って撮影した。初めてのカメラなので、とにかくどのような画像が得られるのか撮ってすぐにディスプレイで確認したかった。用事を済ませて秋葉原に向かうころにはそろそろ日が傾きかけていた。

 自転車に乗りながらF30でスナップを撮ったのだけど、まず最初に問題になるのがカメラをどうハンドリングするかということである。デジタル一眼レフカメラならストラップで下げるのが順当なやり方だが、コンパクトデジタルカメラをネックストラップでぶら下げるのは今ひとつかっこよくない気がする(個人的な好みだろうけど)。だいたいネックストラップなんて同梱されていない。結局シャツの胸ポケットに入れておいて、時おり取り出して撮影するという当たり前なやり方に落ち着いた。ポケットのないシャツの時はどうすればいいのだろうか? とちょっと考えてしまったけど。F30は胸ポケットに入れるにはやや厚みと重さが気になるが、でっぱりやテーパーのないほぼ完全な箱型の形状は、慣れればポケットへの出し入れがしやすいことに気づいた。それでもついついポケットにしまうのがわずらわしくなって手に持ったまま自転車を走らせてしまった。そもそも自転車に乗りながらカメラを扱うというのが危険でよくないのは言うまでもない。



 F30の操作は最初は非常にやりづらく感じたけれど、2、3日で慣れてしまった。どうもぼくは意外と順応性があるというかカメラの使い勝手が悪いことはあまり気にならないようだ。そのカメラを使ういくつかのメリットさえあるならデメリットのほうは無視してしまえる。F30はけっして操作性が良いとは思わないし、いまだにマニュアル露出の設定の仕方もわからないのだけど「写るんだからいいじゃん」と思ってしまう。気になる点は多々あるけれど全部些細なことでぼくとしては許容範囲だ。ひとつだけ気になる点を挙げるとすればストロボの強制発光をさせた時の調光のばらつきくらいか。おそらく初心者と呼ばれるような人がF30を買ってから、困ったり後悔したりすることはないだろう。



画質

 秋葉原の人ごみを縫うようにしてスナップを撮っているうちに、メモリーカードいっぱいまで撮影してしまった。6メガピクセル/JPEG/FINEすなわち最高画質だと1GBのxDピクチャーカードで340枚撮れる。カフェに入ってF30をノートPCにUSBケーブルでつないで画像をバックアップした。F30で撮影できるファイル形式はJPEGだけだが、それらの画像をSILKYPIXのRAW Bridge機能を使って読み込んで擬似的にRAWファイルのようにさまざまな調整を行なってみた。今回掲載されている写真はすべてSILKYPIXでなんらかの処理を行なっているので、F30で撮影したままの画像ではない。

 F30で自分が撮った画像を見た印象は、期待していたほど高画質ではないということだった。画面がざらつき階調も不足している。SILKYPIXでいろいろとパラメータをいじってみても、いじればいじるほど悪くなっていくような気がする。メーカー提供のサンプル画像をはじめ、これまでぼくがネット上で見てきたF30の画像はもっと良い感じだったのに。

 結論から言うとそれはぼくの撮り方がよくなかったのである。ぼくは基本的にISO感度は100や200で、シャッター速度を稼ぐためと白飛びをさけるために露出補正をマイナスにして撮った画像をSILKYPIXで露出値を上げることでトーンを明るくするやり方で撮影していたのだけど、撮影後の画像のトーンを明るくするとノイズ(というかザラつき)が目立ち、暗部では階調が損なわれ平板な見え方になってしまう。



 メーカー提供のサンプル画像は細心のライティングがほどこされ完璧な露出で撮影し、後処理などは一切行なっていないはずである。そうした最適な露光条件下では、F30は高精細で豊かな色合いの画像を写し取ることができるのは、サンプル画像を見れば一目瞭然である。ただし、ベストな条件からわずかでも外れたり撮影後の画像に手を加えると、F30の優位性は崩れ凡庸なカメラになってしまう。つまりF30は「JPEG撮って出し」に特化したカメラで、後処理でトーンをいじることはご法度と言っていいかもしれない。

 F30の画像を検討してみると、ノイズリダクションによって色ノイズを完全に消し去りつつ、ディテールと分離し難いノイズ成分は無理に消さずに残し、輪郭強調というよりはディテールを強調するシャープネスをかなり強めにかけた画像という気がする。

 F30は高ISO感度でもノイズが少ないというのが売りのカメラで、たしかにコンパクトデジタルカメラとしてみるとその通りなのだけど、より大型のセンサーを使っているデジタル一眼レフカメラにはかなわないのは仕方がない。F30においては、上述したようなぼくの撮り方はナンセンスで、素直にISO感度を上げて撮ったほうが良い結果が得られるようだ。



御徒町

 上野や御徒町に移動して写真を撮っているうちにバッテリーが切れてしまった。仕様によるとフル充電で約580枚の撮影ができるとのことで、これは充分な枚数だと思う。外出先でバッテリーを充電する必要が生じた場合、ぼくはマンガ喫茶に入る。それ以外の飲食店などでは電源を貸してくれないことが多いからだ。以前はもうちょっと融通の利く場所が多かった気がするのだけど、いろいろ事情があるのだろう。マンガ喫茶でふたたびバックアップとバッテリーの充電を行なう。この日は結局1,000枚近く写真を撮ったのでこうした手間がかかってしまったが、大容量のメモリーカードや予備のバッテリーを用意すればそれも問題ない。ただ充電時にオレンジ色のLEDが点灯するだけで充電のステータスのようなものが示されないので、どの程度充電されたのか、あとどのくらいの時間が必要なのかがわからない。

 夜の御徒町は面白い。東京で一番東南アジアを感じさせる街かもしれない。普段なら三脚を立てて長時間露光で撮影するのだけど、自転車に乗りながらストロボを焚いてスナップをした。自転車に乗りながらだといちいち液晶ディスプレイを見ていられない。ノーファインダーでF30を持った手を伸ばしてさまざまな体勢で写真を撮る。道を行く人も「おかしな人が写真を撮ってるな」くらいで気に留めもしない。久しぶりに感じるこの身軽さはとても心地よい。ただし撮った写真を後から見返すと、光量不足のせいもあって使えないものが多かった。



RAW

 F30は誰でも簡単に最適な写真が撮れることを目指しているカメラだということは理解できるのだけど、RAWで撮ることができればいいのにと思わされることもある。たとえばオートのホワイトバランスは必ずしも正確ではないが、RAWで撮っていれば後から容易に色調を補正できる。個人的にはRAWで撮ってノイズリダクションとシャープネスの適用量を自分で設定したい。まあ、F30のように割り切りの潔いカメラにRAWは似合わないかもしれないけど。

 などと、考えていたらshin1roデスクから、「FinePix S6000fd( http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/finepixs6000fd/specs.html )というカメラのCCDはF30とまったく同じでRAWで撮れるそうですよ。」と教えてもらった。ちょっと興味をそそられるんだけど、S6000fdはいわゆるネオ一眼で重さが660グラムある。これだったら一眼レフを使ったほうがいいんじゃないかと思ってしまう。あくまでもF30は「この大きさに勝算がある」のだから。




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  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/09/21 01:06
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