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D200雑感



 1カ月ほど前、ニコン D100を壊してしまった。浦安あたりを自転車に乗ってウロウロしていた時、シャッターボタンにつけっ放しにしていたレリーズが自転車のどこかに絡まり、それに引っ張られるようにしてシャッターボタンがボコッと取れてしまったのだ。あわててシャッターボタンを手ではめてみたが、そんなことをしても直るはずもなく、シャッターの押せないD100は無用の長物と化してしまった。

 修理に出すしかないのだが、その間どうやって写真を撮ればいいのだろうと途方に暮れた。1台しか持っていないカメラが使えなくなると、言いようのない心細さにおそわれた。一般的には、写真家は何台かのカメラを所有しているのが普通である。「同時に2台のカメラを使えはしないだろうに、無駄なことだ」と心中ひそかに笑っていたのだが、そうした備えのないぼくはいざアクシデントに出くわすとあわてふためいて、森川智之さん( http://www.morikawatomoyuki.com )にニコン D70を貸してもらった。



 D70とD100は同じ600万画素だし大差ないだろうと思って使ってみると、断然D70のほうが画質がよかった。今さらD70の話をしてもしょうがないが、D100にくらべると発色が良くてディテールもスポイルされていない。なんだかD100を修理してまで使う気が失せてしまった。D100はぼくが初めて買ったデジタル一眼レフカメラで、まる3年使った愛着のあるカメラではあるが、そろそろ新しいカメラに替えようと思っていた矢先でもあった。

 ちょうど沖縄に行くにあたって編集部からニコン D200とAF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6Gをお借りしたこともあって、今回はD200のことを中心にハードウェアとしてのカメラについて思うところを書いてみようと思う。

 「18-200mmは人気のあるレンズなんでメーカーから借り受けるのは困難なんですよ。その代わりこれで記事書いてくださいね」と編集者のshin1ro氏に言われ引き受けたものの、D200と18-200mmを実際に使ってみるとひたすら良くできたカメラで、ぼくが言うべきことなど何もない。ボディがもう少し軽ければいいな、とか、バッテリーがもう少し持てばいいのに、とか、ISO400以上で高感度ノイズがさらに少なければいいな、などと思うことはあるが、そういった事柄もすでに散々指摘されていることである。「記事」の書きようがなくて困ったのだが、せめて今回の写真はすべてD200で撮ったものをリサイズせずにオリジナルのピクセルサイズで掲載して作例とさせていただこうと思う。



 これまで、ぼくはごくわずかな機種のデジタルカメラしか使ったことがない。列挙してみると、

 ソニー サイバーショット DSC-F55K(1999~2000)
 ソニー サイバーショット DSC-F505(2000~2002)
 富士フイルム FinePix 1700Z(2002)
 ニコン D100(2002~2006)
 キヤノン EOS-1D Mark II(2004~2005)

 1カ月以上使ったカメラはこれくらいだ。非常識なまでに少ないカメラ遍歴だが、これがぼくとカメラの関わり方なのだと言うほかない。なぜあまりカメラを変えないかというと、そもそもカメラ自体にさほど興味がないということもあるが、ひとつのカメラを体の一部になるくらい使い込みたいという気持があるからだ。完全なカメラや機材システムを求める事は職業写真家には必要なことだろうが、ぼく自身は完全なシステムを追求するよりもカメラの欠点をも生かしたいという欲求がある。たとえばノイズや色カブリもそれをただちに排除するのではなく、それもまたひとつの現実として受け入れじっくりと検討してみたい。検討してみたところで何か結論が出るわけでもないけど……。



 上に挙げたデジタルカメラはどれも愛着があるし、自分なりに徹底的に使い込んだと思う。レンズキャップをつけたこともなければ、カメラバッグに入れたこともなく(そもそもカメラバッグなんて持ってないし)ストラップで首からぶら下げるかポケットに入れたままあちこちに出かけ、ボディは傷とホコリだらけで最終的にはボロボロになって壊れたものが大半だが。

 中でも一番印象深いカメラを問われると数カ月だけ使用したFinePix1700Zを挙げたい。このデジタルカメラは、画質も使い勝手もぼくが使ったカメラの中では最低だった。ホワイトバランスはメチャクチャだしノイズだらけでトーンも発色もファンタスティックなほどに奇妙。今思うとレンズは壊れていたのではないかと思うほど不均一な描写で、ボディはホールドしづらくバッテリーの持続時間は短い。数年前のコンパクトデジタルカメラとしてはごく平均的な製品である。

 要するにD200などとは対極にあるようなカメラなのだが、FinePix 1700Zを持って写真を撮りに出かけるときの楽しさといったらなかった。それは純粋に写真を撮る喜びだったのだけど、FinePix 1700Zで撮った写真を今見返すとやはり「作品」としてはセレクトできないな、というのが実感である。FinePix 1700Zが発売された2001年から5年を経て、デジタルカメラは飛躍的に進歩したし、ぼく自身の写真への接し方も変わった。ただ喜びのためだけに写真を撮るということから「作品」を撮るという考えにとりつかれてしまったのだ。



 さて、D200について多少なりとも感想のようなことを記したい。まずデジタル写真にはやはりある程度の画素数というのは必要だなと思った。デジタルカメラの評価において画素数がすべてではないのは言うまでもないことである。と同時に画素数はもっとも重要な要素のひとつでもあることも否定できない。

 D200で撮った写真をA4サイズのインクジェットプリンタでプリントしたところ、A4プリントとしてはじめて十分な解像感を感じた。一般にインクジェットプリントに必要な解像度は360dpiと言われている。特にEPSONのプリンタなどは360dpiのデータに最適化されていると聞いたことがある。したがってA4サイズでプリントするには横12インチ(30cm)×360dpi=4,320ピクセルほどが必要になる。D200のファイルサイズは横3,820ピクセルなのでこれでもやや足りないのだが、見た目にはこれでもう十分だと感じる。つまりこれ以上多くのピクセルが存在してもプリンタの性能的には無意味だということだ。仮に4×5のフィルムをスキャンしたデータであったとしてもA4サイズにインクジェットプリントするならD200と解像感的には差がないと思う。

 乱暴に言い切ってしまうとやはり800万画素程度のデジタル写真ではA4サイズにプリントするには解像感が足りない。実用上問題はないがディテールを仔細に観察すると目伸ばしによるピクセルの補間や荒れが視認できる。D200の画像ではそれが見当たらないということだ。

 もちろんプリントにおける解像度は指標にすぎず、たとえばぼくは600万画素のデータをA1サイズでプリントしたこともあるし、それはそれで作品として成立するとは思う。ただ、そういった作品としての価値とは別に、緻密さや「高精細なデータが現前している」という存在感のようなものも感覚に訴えかけてくるものである。D200にはそういった意味でのプリントの満足をもたらしてくれる。



 ちなみに「D200の画像にはシャープさが足りないから800万画素のEOS 20Dと大差ない」という意見を目にしたこともあるが、ぼくはそうは思わない。以前に撮影したEOS-1D Mark IIの画像と見比べると明らかにD200のほうが解像感が高い。もっともこれはレンズの性能も加わっていると思うが。ぼくがEOSにつけていた28-200mmのズームレンズはイマイチだったからだ。解像感の話ばかりするのも何だが、同じく1,000万画素のサイバーショット DSC-R1と比べると、解像感としてはR1のほうがやや上回るかもしれない。解像感というか分解能というべきかもしれないが。やはりR1のレンズはかなりすごいという気がする。もっともこれらの感想は感想にすぎず、チャートを使って測定したわけでもなく同一条件で比較したわけでもないのだが、誰の目にもかなりはっきりとわかることではないかと思う。



 画質というかトーンに関しては、まず「白トビしにくいな」という印象が強かった。このところ使っていたD100はなにしろ4年前のデジタルカメラなのでラチチュードが狭くハイライト周辺が飽和して白飛びしてしまうという欠点があった。D100の白飛びを防ぐために露出アンダーで撮影してRAW現像時に補正したり、RAW現像ソフトSILKYPIXのハイライトコントローラといった機能を使うという手間をかけていたのだが、D200は適正露出で普通に撮っても白トビに関してほとんど問題がない。適正露出で撮影するのがトータルな画質において最良の結果になるのは言うまでもない。

 ぼくの印象ではD200の画像をRAW現像時にヒストグラムやトーンを大幅にいじると画像として不自然な破綻したものになりがちである。つまり撮影時に画像としてすでに最適化されているので、それ以上ユーザーが補正する余地があまりないのだ。レタッチ不要というのは歓迎すべきことだが、最新のデジタルカメラの画質という意味では当然のことかもしれない。ただ、長時間露光で撮影した場合は、これまでと同様にRAW現像時に試行錯誤しながらトーンを最適化していく必要がある。



 ノイズに関しては、可もなく不可もなくと言ったところか。ぼくはたいていの場合はISO200で撮影しているのだけど、ノイズが気になるならISO100で撮影すればEOS系のデジタルカメラと遜色ないと思う。それよりもデジタル写真においてぼくが気になるのは画面の暗部におけるノイズである。ノイズというか暗部の諧調が不足してザラザラの黒い粒子が目立つアレである。D200はこの問題点が比較的改善されているのが好ましいと思った。

 VRレンズの手ブレ補正効果に関しては、「ないよりはマシ」くらいに思っていた。効果があまり実感できなかったからだ。補正されてしまった手ブレには画像を見ても気づかないわけだし、一定量を超えて補正し切れなかった手ブレを見ると、その効果が疑わしく感じられるのだ。もちろんそれは単にぼくが無知だったわけで実際には手ブレ補正はとても有効だった。

 それに気づいたのは、自分がかつて非VRレンズで撮った写真をPC上でじっくりと検討してみた時だ。意外なほど多くの写真がごくわずかにブレていた。以前はピントが甘かったりカメラの画質のせいだと思っていた画像における問題点のかなりの部分が手ブレによるのかもしれないと思った。三脚で固定しないかぎり、どんなに高速シャッターを切っても厳密に言えば画面はごくわずかにブレているとも言えるわけで、そうした気づかないほどの手ブレを補正してくれているとすればVRレンズというのは今後ますます重要性を増すのではないかと思った。



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内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/08/31 00:00
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