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Web写真界隈トークイベントを終えて


イベントとしてのスライドショウ

 先週末の土曜日に、高田馬場のビジュアルアーツ・ギャラリーで森川智之さん、徳増憲太郎さんと一緒に「第2回Web写真界隈トークイベント」を行なった。この連載記事をご覧になった方も何人か来てくださったようだ。足を運んでくださった方々にはこの場を借りてお礼を申し上げたい。

 「幻のティーンネージャーを探して」というよくわからないイベント名だったのだが、徳増さん( http://john.cage.to/ )が開演時刻を過ぎても現れず、あやうく彼自身が幻になりかけるというハプニングもあった。

※今回の画像のリンク先はすべてQuickTimeムービーです。再生にはQuickTime 7.1が必要です。再生環境に関するお問い合わせは受け付けておりません。(編集部)

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 今回のイベントは「スライドショウをやりたい」というのがそもそもの動機となっている。スライドショウと言ってももちろんデジタル写真だから、スライドフィルムもスライド映写機も使いはしない。PC上のビューアーソフトでデジタル写真を再生表示して液晶プロジェクターからギャラリーの壁面に投影するというやり方である。

 スライドショウにはどこかしらノスタルジックな雰囲気がある。子どものころ近所の家で大阪万博かなにかのスライドショウを見たことがある。闇の中に不鮮明な写真が次々と浮かび上がっては消え、いつ果てるとも無く延々と続いていたのを憶えている。スライド映写機の「カシャッ、カシャッ」という音も印象的だ。子供心にワクワクすると同時にねむけをもよおすそれらの映像は、はまさに「幻灯」という古めかしい言葉が似つかわしいものだった。

 もちろんスライドショウという言葉は、PCのソフトウェアにおいて今でもごく普通に使われている。たとえばPowerPointのようなプレゼンテーションソフトや画像ビューアーで連続的に画像を表示する操作をスライドショウと呼ぶのは、周知のとおりだ。スライドショウとは古くて新しい言葉と言えるかもしれない。


 今回のイベントのようにPCと液晶プロジェクターを使ってデジタル写真を映写する場合、スライドショウという以外に良い呼び方はないものかと考えることもある。幼いころに体験した薄暗いスライドショウと、ビューアーソフトのメニューをクリックする「スライドショウ」は、かなりかけ離れたもののように感じるからだ。かといって、たとえば「プロジェクター・ショウ」とか「プロジェクション・イベント」などと勝手な造語をならべたところで語感の座りもよくないし、意味不明でもある。ぼくがPCを使って行なうスライドショウは果たしてスライドショウと呼んでいいのだろうかという居心地の悪さを感じなくもない。

 居心地の悪さといえば、スライドショウを見ていると耐えがたい“ねむけ”をもよおすことがある。写真の内容にかかわらずひきずりこまれるようなねむけである。この意見に多くの人が賛成するところからすると、ぼくだけの症例ではないらしい。これは画像ビューアーでスライドショウを見るときも同様で、下手すると5分くらいで意識を持っていかれてしまう。

 これは、催眠術でキラキラ輝く金属片を使って被験者を催眠状態に導くのと同様な現象ではないかと思う。つまり人間は暗闇に座って光を眺めていると眠くなるという心理学的な事実があるのではないだろうか、と素人考えで推測しているのだが、実際のところはどうなのだろうか? スライドショウが進むにつれて観客の全員が眠りに落ちてしまったとしたら、それはそれで面白い気もするけど、客席でうとうとしている人がいるとやはり気まずい。

 スライドショウというのは内容もさることながら、場所や環境も重要だと思う。劇場のように着席したままプロジェクターの映像をみんな押し黙って見るというやり方は、あまり良い鑑賞法とは言えない。何十分も続くような作品だと、ある意味拷問のようなものだ。自由に歩き回ることのできる広い空間で上映され、そうしたければいつでも立ち去ることのできる環境のほうが心地よく鑑賞できるのではないか。実際のところ、ナラティブ(物語的)でないスライドショウを着席したまま見るのはせいぜい10分が限界だと思う。スライドショウに限らず、作品というのは「鑑賞者が無視することもできる」ことを前提にした上ではじめて自由に創作が可能になるのではないか……。とは言っても、立ちっぱなしで長時間の作品を見てもらうというのも無理があるし、その辺はなかなか難しい。

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 これまで何人かの写真家のスライドショウを見る機会があったが、その中で2人の写真家のスライドショウが印象に残っている。

 タカ・イシイ・ギャラリーでトヨダヒトシさんの「NA-ZUNA」というスライドショウを見たことがある。トヨダヒトシさんは、スライドショウしかやらない写真家であると聞いている。つまりプリントを展示したり、出版物に写真を載せたりというような発表手段は取らないらしい。それを聞いてとても興味をそそられた。まるでライブだけを行なってレコーディングをしないミュージシャンのようだと思った。トヨダヒトシさんの写真は、ある特定の日時に特定の場所で行われるスライドショウでのみ見ることができるわけである。

 ぼくもふくめて多くの写真家は、写真を発表する方法について、知らず知らずのうちに常識に捕われてしまっている可能性がある。できるだけ多くの人に自分の写真を見せるために、マスメディアやWebを利用しようと考えるのもひとつのやり方だが、むしろ限られた人に限られた場所で限られた時間だけ写真を見せるというやり方もありうると思う。トヨダヒトシさんの1枚1枚の写真自体はぼくの好みではなかったが、スライドショウの徹底したあり方として興味深かった。

 Photographers' galleryで行なわれた石内都さんの「スライドトーク」も面白かった。「始まりとは何か-From YOKOSUKAを巡って」というタイトルで、石内都さんが育った横須賀の写真を映しながら横須賀と自分について語るものだった。数十年前に撮られた粒子の粗いモノクロ写真には、米軍基地や旧赤線地帯を抱える横須賀という特別な街の光景が写しとられている。

 それらのスライドを映しながら、飄々としてほのかなユーモアをたたえた口調で石内都さんが話すのを聞いていると、横須賀という場所がとても魅力的に感じられすぐさま行ってみたいという気にさせられると同時に、石内都さんの写真をもっと見たくなった。写真について作者自身が話すということはとても重要なことだと、あらためて思わされもした。写真に言葉をつけ加えることができるのはスライドショウの大きな特長のひとつかもしれない。


静止画とムービーの中間のような作品

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 今回のイベントでは、何本かの短いムービーを上映した。ムービーと言ってもビデオカメラなどは使っていない。デジタル一眼レフカメラで連写した複数の静止画を、Adobe After Effects(デジタルビデオの編集および合成ソフト)でつなぎ合わせた作品である。しかも最終的にQuickTimeやAVIのようなムービーファイルにするのではなく、数百枚のJPEG連番ファイルとして書き出した。それらのJPEG連番ファイルをVix( http://homepage1.nifty.com/k_okada/ )という画像ビューアーソフトのスライドショウ機能で再生表示している。

 こういった変則的な作品を作ろうとした意図としては、静止画でもなくムービーでもない“中間的”な作品を作りたいという動機が挙げられる。もっともどのように作られたものであっても、PCで再生する以上、結局のところ見た目はムービーということになってしまうのかもしれないが。

 通常のビデオはフレームレートは30fps(1秒間に30フレームを表示する)だが、Vixの場合は最高でも10ftpで、しかもPCのHDDの転送速度やグラフィックカードの性能や状態によって、さらにフレームレートは下がる。Windowsの画面再描画が追いつかなくて、画面の一部が切れたような見え方になることもある。

 そのような見え方はぼくの意図したところで、ある意味不完全なムービーにおいて、フレームが露呈することも面白い。パラパラアニメのように静止画を素早く連続的に表示すればムービーになり、ムービーの再生になんらかの齟齬を来たした場合、それは静止画とみなすこともできるわけで、静止画とムービーというのはまったく異なった映像というふうにはぼくは考えていない。

 デジタル一眼レフで撮影するもうひとつの理由は、よりハイレゾ(高解像度)な映像を撮るためでもある。ハイビジョンカメラを使うことなく、手元のスチルカメラでより高精細で低圧縮な画像が得られるのではないだろうかと考えた。実際にはJPEG、FINE、SMALL(1,600×1,064ピクセル)という設定で撮影している。これ以上大きなピクセルサイズで撮影しても、液晶プロジェクタの画面サイズが対応しきれない。

 最近のデジタル一眼レフは、JPEGであればメディアの容量の限界まで連続で撮影できるようだ。リモコンのボタンを押しっぱなしにしておけば、EOS-1D Mark IIも延々と数千枚以上シャッターを切りつづけることは可能だ。実際そのように撮ってみたこともあるが、撮った画像をあとから見返すことも難しいし、ムービーの素材としてすら使えそうなカットは少なかった。

 この手の撮影はスチルともムービーとも違ったノリで臨むべきかもしれない。撮影のきっかけとしては、気になるモノの気になる瞬間にシャッターを押すことに違いはないが、「決定的瞬間」を切り取るというのではなくて、その前後の時間も連写によって絡めとるとでもいうか……。研ぎすまされた究極の1枚を狙うのではなく、もっと弛緩した、とろけるような時間の連なりを自堕落に採集するようなノリで撮影しているような気がする。

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 連写によって得られた膨大な枚数のJPEG画像を、Adobe After Effectsにフッテージ(映像素材)として読み込んで編集する。After Effectsを使うのは、かつてCGムービーを作っていた時に使い慣れたソフトであるというだけであって、今どきのPCに標準添付されているような簡単なビデオ編集ソフトでも、同様な作業はできるはずだ。

 After Effectsにおける編集作業でもっとも重要なのは、時間軸の編集作業である。デジタル一眼レフの連写機能というのは、最大でも8fps(1秒間に8連写)である。実際にはシャッタースピードがそれより遅くなったり、バッファメモリがいっぱいになった状態ではさらに秒間コマ数は下がる。いずれにしても、それらの画像を通常のビデオのフレームレートで再生するなら、いわゆるコマ落としの映像のごとくめまぐるしいほどに高速で動き回るイメージとなってしまうだろう。

 したがって最初に行なうのはタイムリマップという機能によって、時間軸を10倍かそれ以上に引き延ばす作業である。これは要するにスローモーションにするということである。さらに「フレーム合成」というオプションをチェックすることで、フレーム間が補間されてより自然な見え方となる。After Effectsはエフェクトと呼ばれる画像処理フィルターの類が充実しているのが特長なのだが、ぼくはエフェクトはあまり多用しないほうである。それでもカラーバランスとレベル補正とグロー(明るい部分からその周囲にかけてぼんやりと光が拡散していくような効果)などのエフェクトはわずかに適用する。

 After Effectsは凝った作業をしようとすればキリがないソフトだが、ぼくはむしろ生々しさの感じられる映像を作りたいと思っている。それでも、普段スチルのデジタル写真を扱うときよりは禁欲的ではなく、トリミングしたりブラーをかけたり、映像を工作する楽しさを味わいつつ作業している。


スライドショウの可能性

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 ぼくはデジタルカメラの背面の液晶ディスプレイで、自分が撮った写真を十字キーを押しながら次々と再生表示して見ていくのが好きだ。また、ビューアーソフトや現像ソフトなどで、写真をスライドショウ方式で見ていくのも好きだ。つまり1枚の写真だけを見るより、多数の写真を連続して見るほうがもともと好みなのである。カメラの液晶ディスプレイで見る写真も一種のスライドショウと言えないだろうか? そう考えるならスライドショウという形式はさらに広がりを持ったものとしてととらえることができるし、それは「写真の見方」ともかかわってくることだと思う。

 つまり、写真を楽しく見せる、あるいは見るにはどうすればいいか? と考えるきっかけにもなると思うのだ。スライドショウにおいては鑑賞者と作者が交流を持つわけだし、言葉や音のような写真以外の要素を組み入れていくこともできる。スライドショウが人を楽しませたり、場合によっては逆に苦痛を与えることもあるだろう。エンターテインメントや演劇性といったことも考えさせられる。

 もちろんスライドショウというのは写真のプレゼンテーション(提示)のひとつの方法にすぎず、それ以外にプリントや展示やWebなど写真の見せ方はたくさんあるだろう。それらに優劣をつけたり対立したりするのではなくて、写真自体の可能性を拡張するものとして考えていきたい。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/07/13 01:43
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