デジカメ Watch
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胸騒ぎのするデジカメ--サイバーショット DSC-R1



 最近のデジカメはどれもこれも似ているな、という素朴な感想を持っている。たとえ細部に意匠を凝らしてはいても、コンパクトデジカメは薄いボディにアルミやシルバーの質感といったところが申し合わせたようにそっくりだし、デジタル一眼レフも言うまでもない。カメラにあまり関心のない人が見たら、どれも見分けがつかないのではないだろうか。

 もちろん、それぞれのカメラ・メーカーが機能や売れ筋を合理的に追求していくと、正しい解がひとつに収束していくのはある意味当然のことかもしれない。ただ、数年前はもっと変わったデジカメがあったように思う。

たとえば、サイバーショット DSC-F505Kのようなきわめて印象的なカメラである( http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/199908/99-0823/index.html )。F505はぼくが使った中で一番愛着のあるデジカメだが、とにかく形が奇妙でインパクトがあった。見た目は突飛な形のようだが、実際にはたいていの上着のポケットに収まるし、ホールディングの良い扱いやすいデザインだった。そして、何よりもスイバル式(レンズ部分と本体が独立して回転するデザイン)であることによって、自由な撮影アングルが得られる点が際だっていた。そういった便利さもさることながら、ぼくはF505の「カメラらしくない」形にひかれたのだと思う。友人からも「お前なら買うと思った」とか「ウチハラらしいカメラだよね」と言われたものだ。

 F505を2年間にわたって壊れるまで散々使い込んだ後、ぼくはデジタル一眼レフに乗り換えた。いったんデジタル一眼レフの使いやすさを知ってしまうと、もうそれ以外は使う気にならなくなった。しかし、あまりにも合理的でまっとうなプロダクトとしてのデジタル一眼レフに飽き足らない気持もずっともっていた。「あまりにもカメラっぽすぎる。遊びがなさすぎる。もっとヘンテコなカメラが欲しい」というわがままな気持だ。



 サイバーショット DSC-R1が発表されたときは、とても興味をひかれた。ライブビュー可能なバリアングル液晶ディスプレイと大型のCMOSセンサーという組み合わせは他に類を見ないものだった。これこそ、ぼくが求めていたカメラかもしれない、という気がした。

 実際にR1を目の前にすると、いわゆる「ネオ一眼」と呼ばれるカメラを連想させるところもあって、やや中途半端なデザインだと思った。個人的にはF505やF828の後継として、もっとぶっ飛んだ形でもよかったと思う。いずれにしても、このカメラは人によって好き嫌いがはっきりとわかれるだろう。ただ、ぼくはかならずしもカメラに見た目の格好良さやいわゆる「良いデザイン」は求めていない。ちょっと格好悪いくらいのデザインのほうが好きなのだ。なんだかけなしているのかほめているのかよくわからないけれど、そういった意味でR1は基本的に支持したいカメラである。

 これはぼくの勝手な空想だが、R1のデザインはどこか米軍の攻撃ヘリコプター「アパッチ」もしくは「コブラ」を連想させる。具体的にどこが似ているんだと言われると困るけど、色や質感、ポップアップストロボあたりの面の取りかた、ちょっとした出っ張りといったディテールが、そう思わせるのだ。ぼくはひそかにR1を「コブラ」というコードネームで呼んでいる。

 2週間ほどR1をお借りして使ってみた。その感想を一言で言うと「画質は一眼レフ、使い勝手はコンパクトデジカメ」ということになる。画質のすばらしさはデジタル一眼レフ並みかそれ以上だが、きびきびしているとは言いがたい動作や使用感はコンパクトデジカメのそれである。



画質

 画質について賞賛したい気持でいっぱいなのだが、そもそも画質には客観的な指標が無い以上どうしても主観的な印象で語ることになってしまう。主観的な印象を語っても有意義なレビューはあるけれど、ぼくにはそういった芸はないので、あまり詳細を書き連ねるのは控えたい。ただ、これまで使ったデジカメの中でもっとも高画質だと感じたし、プリントしてみるとその良さがさらに実感できた。出自の近い撮像素子を使っていると思われるD200やα100などと較べてみると、どういう結果が出るか興味深い。

 気になったのは、JPEGで撮る場合のセッティングである。シャープネス、彩度、コントラストはすべて最低にしたほうが良いと思う。デフォルトのシャープネスは輪郭強調の縁取りが目立ち、かえって解像感を損なっていると思う。彩度やコントラストに関しては好みもあるが、すべて控えめにしたほうが本来の画質の良さが得られると思う。

 もちろんRAWで撮れば、この限りではなくあとから現像ソフト上でいくらでも好みの絵作りを追い込める。ちなみにRAWファイルの容量は20MB程度にもなるのだが、これはなんとかならないのだろうか? まったく圧縮されていないとしか思えない。同じ1,000万画素機のD200では、圧縮されたRAWのファイルサイズはこの半分である。

 標準で添付されている現像ソフトImage Data Converterは、ちょっと触った限りでは、動作は軽快で機能も充分なソフトだと感じた。ただ、同じRAWファイルをSILKYPIXで現像して比較してみると、かなり画質に差がある。色合いやトーンの話ではなく、比較的ノイジーな暗部の質感のディテールがずいぶん違う。これも好みかもしれないが、ぼくだったらSILKYPIXを使うだろう。



レンズ

 画質に非常に貢献していると思われるのがカールツァイス・バリオ・ゾナーT*である。まず解像感が高い。色収差が少ない。歪曲も少な目。そこそこ明るい。逆光時のゴーストも少な目。ただ、あらためて思うのだけど、デジタルカメラにおいてレンズや撮像素子などを独立して論じることは難しい。たとえば解像感というのは、レンズと撮像素子とさらにいうとソフトウェアも大きく関与する。色収差なども、最近では現像ソフト上で軽減させることもできるわけだ。そういった意味では、レンズから撮像素子からカスタムチップから何から全部ふくめてひとつの系として設計されているR1のような一体型のカメラには、優位性もあるはずだ。

 このレンズは135フォーマット換算で24mmという広角からのズームレンズである。ぼくは広角はあまり好きではない(と自分では思っていた)のだけど、あればあったで広角側もけっこう使ってしまった。ただ、撮る時は面白いのだが、結局のところあとから見返すとワイドな画角の写真は使えないものが大半だった。やはりぼくにはワイド側はせいぜい28mmで充分だ。


バリアングル液晶ディスプレイ

 R1のもっとも大きな特長として、自由に回転する液晶ディスプレイがあげられる。これをボディ上部の定位置にセットすれば、ウェストレベルアングルで撮影することができる。もともとぼくはサイバーショットF505を使っていた時期が長く、この撮影スタイルには馴染みが深い。一眼レフに乗り換えてからは顔の前にカメラをかまえる撮影スタイルになってしまったが、高さにしてほんの数十cmの違いも写真には大きく影響する。

 ウェストレベルアングルでの撮影はは路上でのキャンディッド・フォト(声をかけないスナップ写真)に適している。一眼レフを眼前にかまえて撮影すると、カメラと視線が一体化してどうしても攻撃的な撮り方になってしまうが、ウェストレベルアングルで撮影する場合、路上に静かにたたずんで傍観者のような視線で写真が撮れるからだ。

 ただ、残念なことに、この液晶ディスプレイは日中の屋外ではきわめて見づらく、場合によってはEVF(電子式ビューファインダー)のほうを使わざるをえないこともある。



レスポンス

 動作のレスポンスは良いとは言えない。といっても、その原因はぼくが使ったしょぼいMicrodriveのせいかもしれない。今時の高速なCFやメモリースティックを使えば、もっときびきび動作するかもしれない。ぼくが使った環境では、起動時間そのものはまずまずなのだが、Microdriveへのアクセスが数秒待たされる。数枚連続して撮影すると書き込みで数秒待たされ、さらに撮影画像の再生も数秒待たされる、といった感じである。

 最初はそのレスポンスの悪さに苛立ったが、自分でも意外なことに馴れてしまった。画像ファイルサイズが大きいせいで撮影可能枚数が減ったこともあり、普段のようにあまり考えずにバシャバシャ撮るということができず、じっくりと被写体を選んでシャッターを押さざるをえなくなり、それはそれでありだと思った。

 オートフォーカスの合焦速度も一眼レフに較べるとのんびりしている。ただ、暗いところやフォーカスが合いづらい状況下でも、まったく合わないということはなかった。他の一眼レフだとAFが迷っていつまでたっても合焦しないこともあるのだけど、R1は最終的にはフォーカスを外すことはほとんどなかったのは評価できる。



夜景

 R1は意外と夜景を撮るのに向いている。三脚などは使わず、自転車に乗ったまま1/10秒くらいのシャッターを切っても、案外ブレていなかった。ホールディングしやすいからだろう。首からストラップで吊るしたR1をやや引張り気味にして両手でウェストレベルアングルに支え、さらに膝も使って(自転車のサドルにまたがることでこういう姿勢がとれる)4点で保持すると安定する。ぼくの場合デジタル一眼レフだと1/30でもブレてしまうことが多い。自転車に乗ったまま夜景を撮影できるというのは、とても楽しかった。

 夜間はR1の液晶ディスプレイも明瞭に見ることができる。ISO感度は400以上に上げて撮影したが、もちろんそれなりにノイズは乗ってくる。ぼくはノイズはあまり気にしない、というかむしろ好きなくらいなので、それについては特に不満はない。ただ、現像ソフトで後からトーンをいじって明るくしていくと、トーンが破綻してしまい色味がおかしくなる場合があった。これはぼくのやり方がマズいというか、まだ画像の特性をよく把握していないせいかもしれない。



胸騒ぎのするデジカメ

 今の時代にR1のような個性的なデジタルカメラが登場するということはすばらしい。ソニーはデジタル一眼レフのαシリーズを発表したが、サイバーショットのハイエンド機も出しつづけてほしいと思う。

 ぼくはどんなカメラを使っても、最終的な写真の仕上がりは同じになってしまうので、カメラはなんでもいいやと思っていた。しかしR1を使うことによって、自分の写真が少し変わったかもしれないと思う。写真の見た目の変化ではなくて、写真を撮る気持が軽く揺さぶられるような気がした。このカメラを使うと、どういう写真が撮れるか予想もつかないし、これまで撮ったことのない写真が撮れるかもしれない、という予感を抱いたのだ。ぼくにとってR1は胸騒ぎをおぼえるカメラである。



第2回Web写真界隈トークイベントのお知らせ

 アリジゴクドットネット(内原恭彦+徳増憲太郎+森川智之)によるスライドショウおよびトークショウを行ないます。

日時:2006年7月8日(土曜日)16:00開演
場所:ビジュアルアーツギャラリー東京(新宿区西早稲田3-14-3 早稲田安達ビル)
料金:1,000円(入場時精算) 地獄ロム(お楽しみデータをCD-Rに焼いたもの)付き
定員:40人(完全予約制)
ご予約お問い合わせ:yuchihara@yahoo.co.jp
詳細その他の情報:http://d.hatena.ne.jp/uzi/20060708




内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/06/22 00:34
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