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【プリンタ特集2007年冬】キヤノン「PIXUS MP970」

~完成した画質性能に使い勝手も向上

オープンプライス(店頭価格:3万4,800円前後)

 ここ数年、キヤノンのプリンタには毎年、安定したひとつの傾向がある。それは5色インクを用いたミドルクラスのプリンタに、人気が集中するという傾向だ。今年はPIXUS MP610がそれに相当する。

 ハイエンド指向が比較的強いと言われているエプソンと対比して比較されることが多いというのが理由だろうが、では写真画質性能を重視した上位機に力を入れていないのか? と言えば、そのようなことはない。


高密度プリントヘッドで速度と画質を両立

7色インクを採用する
 PIXUS MP970は緑や赤といった特殊インクを用いた写真印刷機能のスペックはフォト重視のPIXUS Proシリーズに譲るものの、写真画質プリンタの定番とも言える染料系インクを用いた6色プリントを楽しめる。しかもインク滴サイズは1pl(ピコリットル)。

 かつて90年代、インク滴が1plになれば、濃度を下げたフォトインクなしに、粒状性の低い写真画質を引き出せると言われていた。その通りの製品はキヤノン自身が5色/4色インク機で採用していたが、フォトインクを用いた機種にも用いている点が差別化のポイントとなっている。

 加えてMP970にはもうひとつの顔が備わっている。それは顔料系ブラックも加えた7色インクシステムを採用したことで、普通紙への良好な文字印刷が可能という点である。

 このプリントヘッドは一昨年のMP950から引き続き採用されているもの。一般にインク滴サイズが小さくなると階調性、粒状性が改善されるが、一方で単位面積当たりに打ち込むインク滴が増えるため、印刷速度は低下する。

 これをキヤノンは、半導体プロセスによる微細な多ノズルヘッドを特徴とするバブルジェット方式の利点を活かし、1plノズルに5plノズルをペアで配置し、必要に応じて打ち分けることで速度低下を最小限に抑えつつ、明るい色における滑らかな質感と良好な階調を実現しているわけだ。さすがに薄いインクを使わないMP610よりは遅いものの、それでもLサイズフチなしが30秒程度で印刷された。ライバルよりは遅いものの、ここまで来れば、あまり不満はないというユーザーがほとんどだろう。


LED光源スキャナで、使い勝手が向上

メモリカードはCF、Microdrive、スマートメディア、メモリースティック、メモリースティックPRO、SDHC/SDメモリーカード、MMCに対応
 さて、では今年モデルの変更点だが、まずデザインが変更された。従来は最上位機のみほかとは異なるデザインが与えられていたが、今年は下位モデルと共通のデザイン意匠となった。

 機能面ではスキャナ方式の変更が目立つ。4,800×4,800dpiだった解像度は4,800×9,600dpiに変更。これは読み取り走査方向の解像度を高めただけだが、従来は一般的なラインCCDと蛍光管によるスキャナ方式を採用していたのに対して、新モデルは光源にLEDを採用している。

 LEDタイプというと、CIS(Contact Image Senser)方式を思い浮かべる読者もいるだろうが、あくまでもセンサーはラインCCD。LED光源の光量向上に伴い、蛍光管を用いる必要がなくなったのだ。このため、ラインCCDの深い被写界深度、透過原稿対応といった優れた特徴と、LED光源のもつウォームアップ時間不要という立ち上がりの素早さの両方を兼ね備えた扱いやすいスキャナになった。

 特にコピー機能を電源投入直後に使用する場合など、複合機として使う際の使い勝手が向上する。

 もうひとつはネットワークプリントへの標準対応だ。ネットワーク対応はヒューレット・パッカードが先行して積極的に対応しているが、ヒューレット・パッカードが無線LAN搭載モデルも用意しているのに対して、本機は有線LANのみ。複合機の場合、必ずしもPCの近くに置かれない可能性があるという意味では、無線LAN機能がオプション設定なのが残念だが、しかし有線であってもLANへの標準対応は素直に喜ばしいことだ。


Easy-Scroll Wheel
 このほかに関しては、Easy-Scroll Wheelと3.5型カラー液晶モニターを用いた操作系統などは従来機と共通。しかし、従来機にあったEasy-Scroll Wheelによる操作のまどろっこしさは、ある程度は解消されてきている。

 Easy-Scroll Wheelはクルクルとホイールを回転させることで操作項目を選べ、その際に各機能の説明を読みながら誰でも機能の内容を把握できるという利点がある。クルクルと回すと、それに合わせてアイコンがアニメーションするのも直感的と言えばそうだろう。ただし、ダイレクトに機能を選択するボタンがないため、シンプルではあるが煩雑というのが欠点だった。

 基本的にはこの点に変化はないものの、メニュー構成を変更し、頻度の高い設定項目などにアクセスしやすいよう配慮したことで、操作時のストレスは減った。一方、操作方法を丁寧に説明、あるいは手取り足取りとウィザード形式でヘルプを見ながら操作を勧める機能など、初級者向けの機能は以前にも増して充実。ヘルプの内容が吟味されたことで、以前よりも理解しやすくなっている。

 非PCユーザーでも、きちんと使いこなせるようにとのEasy-Scroll Wheel採用も、やっとこなれて目的を達成しつつある。


ウィザード形式での操作
ヘルプ機能も装備

自動補正機能は人物優先のつくり

 さて、では各種機能の中から、簡単に特徴的な部分をピックアップしてみたい。

 まず紹介したいのが、写真を自動補正する機能を大幅に強化したことだ。写真の自動補正はエプソンがEPSON Colorとして改良を重ねてきているが、それと同様の機能をキヤノンも搭載してきたのである。その中でキヤノンの自動補正機能の特徴を挙げるならば、人物優先の補正アルゴリズムということだろうか。

 従来からキヤノンのプリンタは人肌の質感表現にこだわった絵作りを行なっていたが、その考え方を一歩進め、顔検出により人物の位置を検出。さらに画像の特徴を分析、分類して、それぞれに適切な補正を適応的に行なう。

 たとえば人肌は中間輝度を持ち上げ気味にして、影の部分が濃くなりすぎないように描写。肌色そのものも、顔色が良くなるよう色調をほんの少し変えているようだ。またバストアップのショットと、風景の中に人物を入れたショットでは処理が異なり、バストアップや顔のアップでは写真全体がやや軟調に。風景の中の人物は人物をソフトに仕上げながら、背景のコントラスト感を損なわないようにバランスさせるといった、部分ごとの処理が行なわれる。

 このほか、風景でも通常の風景をコントラスト良く表現するだけでなく、夜景など特殊なシーンの判別も行なってるという。すべてのシーンを適切に判別できるわけではないが、なかなかの精度で出力してくれる。

 この自動補正機能を使いこなすため、写真のサムネイルに印を付けて印刷する「フォトナビシート」もマイナーチェンジ。自動補正するか否かをシート上のマークで指定できる。このほか、手書き文字や絵を写真印刷時にオーバーレイできる「手書きナビシート」も、手書きエリアにうっすらと写真を印刷しておくことで使いやすさが大幅に向上している。


フォトナビシートで自動補正の有無を指定できるようになった 写真を薄く印刷しておいて、手書きしやすくした手書きナビシート

完成度の高い画質

 さて、気になる印刷品質だが、今回の印刷システムも3年目となり、昨年からの大きな進化はない。昨年モデルのサンプルと同じ写真を印刷させてみたが、若干、色相が異なる色間のグラデーションがスムースになっているものの、通常は気付かないレベルだ。

 もっとも、すでに粒状性、階調性といった基本的な特性、明度や彩度、色相の変化に対するリニアリティ(直線性)は良く、いわゆるインクジェットプリンタとしてチェックすべきだった過去の要素は完成の域に達している。

 あえて最大のライバルであるエプソンと比較するならば、メリハリよりも階調を広く見せようとするキヤノンに対し、エプソンは階調性を損なわない程度にトーンカーブを最適コントロールして画像から立体感を引きだそうとする。

 両製品とも色をたっぷり載せてきれいな写真を演出しようとしている意図が見える絵画調だが、その方向がやや異なる。これは好みで選ぶしかなかろう。

 これ以上となると、ポジフィルムが表現できる色域までの再現性や、カラーマッチングシステムとの相性、アナログ的階調表現への挑戦といったことがテーマになるだろうが、それは複合機のPIXUSではなく、写真プリンタのPIXUS Proに求めるものだろう。

 “写真がきれいな複合機が欲しい”ということならば、本機の画質でも十分に高い完成度がある。加えて背面、全面、両方からの給紙メカや自動両面プリント&コピー、DVD/CDレーベルプリント&コピーなど、メカニズム面も充実している。

 2年前に驚くほど多ノズルのヘッドを実装し、それをベースに改良を重ねてきた成果が、ここに来て見事に結実してきた。



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/pixus/lineup/mp970/

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キヤノン、自動画像補正機能などを強化したインクジェット複合機(2007/09/26)


URL
  プリンタ特集2007年冬
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special2/2007/12/21/7635.html



本田 雅一

2007/12/21 00:12
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