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「LUMIX DMC-G1」で楽しむマウントアダプター(ライカMマウント編)

Reported by 中村文夫


 ライカMマウントとは、ライカが1955年に発売したライカM3に採用されたレンズマウントだ。カメラボディは時代と共に進化を遂げたが、レンズのマウントの方は50年以上も不変。デジタルカメラのライカM8も、同じマウントを採用している。

 ライカM3以前、ライカはバルナック型と呼ばれるレンジファインダー機を発売していた。このカメラのマウントは、ねじ込み式のスクリューマウント。マウントの正式名称はライカスクリューマウントで、ライカの頭文字のLを取ってLマウントと呼ばれることも多い。

 Mマウントを採用する際、ライカは旧タイプのライカスクリューマウントとの互換性を保つためマウントアダプターを開発。ライカスクリューマウントレンズをM3に使えるようにした。つまりライカMマウントを採用したボディには、Mマウントだけでなくライカスクリューマウントレンズも装着可能だ。

 ライカのレンズは、独特の描写をすることで定評がある。文章で説明するのはとても難しいが、解像力やコントラストが高いと言ったことだけでなく、ボケ味や立体感など数値では表せない要素を含めて評価されることが多い。特に数十年も前に作られたレンズは、現在のコンピュータ技術を駆使して製造されたレンズにはない個性的な描写をすることで知られている。これがいわゆる「レンズの味」で、レンズグルメと呼ばれる熱心なファンたちは、これを味わい尽くすことに必死になっている。


G1が可能にしたライカMレンズ用アダプター

 ライカのレンジファインダー機用レンズには数多くのサードパーティー製が存在する。特にライカスクリューマウントレンズは日本をはじめ世界各国で製造され、その数は数百種類を下らない。またMマウントレンズの種類はスクリューマウントに比べると少ないが、最近のライカブームの影響で、多くの製品が誕生した。これらのレンズの中には、とんでもない超個性的な写りをするものから、ライカ製に限りなく近いもの、故意にライカとは違った描写を狙ったものなどがある。いずれにしてもライカマウントレンズほど、さまざまな表情を見せてくれるレンズはほかにないだろう。

 今さら説明するまでもなく、フィルム用に設計されたレンズをデジタル一眼レフに取り付けて撮影をすると、デジタル用レンズとは、ひと味もふた味も違った描写になる。だが一眼レフのレンズマウントは各社で仕様が異なるため、違うメーカーのレンズとボディを組み合わせることは基本的に不可能。そこで誕生したのがマウントアダプターだ。AEやAFなどの機能は失われるが十分に撮影を楽しむことができる。


LUMIX DMC-G1
 マウントアダプターはあらゆるカメラボディとレンズの組み合わせを可能にするものではない。使用できるレンズは一眼レフ用に限られ、ライカMマウントを始めとするレンジファインダー機用レンズが使えるアダプターはこれまで存在しなかった。

 この理由はレンジファインダー機のフランジバック(マウント面からフィルム面までの距離)にある。一眼レフはボディ内にミラーがあるため、フランジバックは、45mm前後が主流(35mm判の場合)。これに対しレンジファインダー機はミラーが不要なのでフランジバックが短く、ライカMマウントでは27.8mmに設定されている。そのためマウントアダプターを介してレンジファインダー機用レンズを一眼レフボディに取り付けると無限遠が出ない。要するに接写専用になってしまうので実用性に欠け、製品化されなかったのだ。

 だがマイクロフォーサーズの登場で事態は一変した。マイクロフォーサーズのフランジバックは20mm弱。ミラーレス構造のためレンジファインダー機よりフランジバックが短く、無限遠で撮影できるマウントアダプターの製造が可能になった。今回はマイクロフォーサーズ規格対応の第1号機、LUMIX DMC-G1に、ライカMマウントおよびLマウントのレンズを装着してみた。


早くもライカMマウントアダプターが登場

 現在マイクロフォーサーズ→ライカMマウントアダプターを発売しているのは、宮本製作所と近代インターナショナルの2社。どちらの製品もライカMマウントレンズをマイクロフォーサーズボディに装着するための製品で、ライカスクリューマウントを取り付ける場合は市販のライカMマウントアダプターを併用。レンズ個々の最短撮影距離から無限遠までピントが合う。


レイコール製マウントアダプター「LeicaM-M4/3」(レンズ側)

ボディ側

 DMC-G1はミラーレスだが、マウント内の余裕は意外と少ない。ローパスフィルターと撮像素子の間隔が広いうえフォーカルプレンシャッターが、レンズ寄りにあるので、アダプターに取り付けた際、後部が0.5mm以上飛び出すレンズは使用不可。さらにレンズ後群の外径がアダプターの内径(30mm)を越すレンズも利用できない。具体的には、前後対称型の光学系を採用したスーパーアンギュロン21mmのほか、ロシア製ルサール20mm F4などが、これに該当する。いずれにしてもマウントアダプターの利用はあくまでもイレギュラーな使い方なので、トラブルが起こった場合のリスクは使用者が負うことが原則だ。


マイクロフォーサーズのマウント内は意外と狭く、レンズ後群が出っ張ったレンズの中には取り付けられない製品もある ライカスクリューマウントをレンズを取り付ける際はMマウントアダプターを併用

マウントアダプターをボディに取り付けたままレンズだけを着脱することもできる

最初にすること

 DMC-G1でマウントアダプターを利用するに当たり、必ず行なわなければならない作業がある。それはカスタムメニューのいちばん最後にある「レンズな無しレリーズ」をONに設定すること。デフォルトの設定はOFFなので、そのままだとレンズ非装着時にシャッターが切れないのだ。


マウントアダプターを使用する際はカスタムメニューのレンズ無しレリーズをONにセット。これを忘れるとシャッターが切れない

ピントの合わせ方

十字キーの←ボタンを押すと、MFアシスト画面を表示。さらに十字キーで拡大する部分を選びMENU/SETボタンを押すと、その部分が拡大される
 DMC-G1のファインダーは、撮像素子に写った像をモニターに写し出すライブビュー。マウントアダプターを介してライカMマウントレンズを取り付けた場合も、そのレンズが結んだ像が写し出される。ただしライカMマウントレンズは手動絞りのため、絞りを絞り込むと被写界深度が深くなりピント合わせがしにくくなる。また像が暗いとカメラ側でゲインアップを行なうので像がノイズだらけになる。つまりピント合わせのときは絞りを開放にする必要がある。

 正確なピント合わせのためには、DMC-G1のMFアシスト機能が威力を発揮する。これはモニター上の任意の位置の画像を拡大する機能で、十字キーの←ボタンを押すとMFアシスト画面を表示。さらに十字キーで拡大する部分を移動させ、MENU/SETボタンを押すと、その部分が拡大される。

 また、このとき前ダイヤルを操作すると倍率がアップ。正確なピント合わせが可能になる。なお発売時のファームウェアは、10秒経過すると自動的に画面の拡大が解除されるようになっていた。だが最新のファームウェア(Ver.1.1)では、シャッターボタンを押すなどの、新たな操作をしない限り拡大状態を維持。まさにマウントアダプター使用者のためとしか思えないバージョンアップだ。

 MF使用時は必然的にモニターの使用時間が長くなる。そのためAF使用時に比ると電池の持ちが悪くなる。背面モニター使用時における撮影可能枚数の公称値は330カットだが、今回は100カットを過ぎた当たりから電池消耗警告が出始めた。個人差もあるだろうが、マウントアダプター使用時は予備電池を用意したほうが賢明だ。


MFアシスト画面 拡大された画面

露出について

 これまで私はマウントアダプターを用い、さまざまなレンズをデジタル一眼レフに組み合わせて撮影してきが、絶えず露出に悩ませられた。というのは露出計の示す通りの値で撮影しても、必ずしも適正露出にならないからだ。主な原因はカメラの測光方式にある。ファインダー光学系の中に測光用光学系が組み込まれている関係で、このことを考慮した専用レンズでないと誤差が出てしまうのだ。

 だがDMC-G1では、このようなことがほとんどなかった。DMC-G1は撮像素子に写った画像を解析して露出を決めているので誤差が出にくいのだろう。もちろん、ライカMマウントレンズにはレンズ固有の情報を記録したROMは内蔵されていないしマウントアダプターにも電気接点はない。したがって、専用レンズと100%同じとは言えないが、これまで使ってきた一眼レフほど極端に露出が狂わない。


撮影モードはPモードがお勧め

マウントアダプターを使用する際はプログラムAEが便利。前ダイヤルを押してから回転させると露出補正が作動する
 DMC-G1にマウントアダプターを使用した場合、撮影モードはマニュアル、絞り優先AE、プログラムAEの撮影モードが利用できる。この中で私がお勧めするのは、プログラムAEだ。プログラムAEを選ぶと実絞りAEになる。これだけでは絞り優先AEと変わらないと思われるかも知れないが、実は露出補正の方法が微妙に異なるのだ。

 最初は、このことが分からず、絞り優先AEで撮影していた。だがこのモードでは前ダイヤルにちょっと指が触れただけで露出補正が勝手に作動してしまう。これに対しプログラムAEだと、前ダイヤルをワンプッシュしてからでないと露出補正が作動しない。つまりプログラムAEを選べば露出補正の誤作動が防げるのだ。

 もちろん、こんなことは説明書に書かれているはずもなく、試行錯誤の末に見つけ出した撮影方法だ。だが落ち着いて考えてみると、マウントアダプター装着時のため仕様としか言いようがない。つまり、このカメラは最初からマウントアダプターを使うことを前提に設計されている。まさにこの点については確信犯と言えるのではないだろうか。




●作例

※モデル:原智美(はらともみ)ルフ・プロモーション
  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで 表示します。


ミノルタMロッコール28mm F2.8


ミノルタMロッコール28mm F2.8

 1981年、レンジファインダー機のミノルタCLE用として発売された広角レンズ。DMC-G1に組み合わせると約56mm相当の標準レンズになる。

 絞り開放では柔らかな描写だが、絞るにつれてコントラストとシャープさがアップ。特にF8以上に絞ると、非常に緻密な画になる。


DMC-G1 / Mロッコール28mm F2.8 / 約4.7MB / 3,000×4,000 / 1/10秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / フィルムモード:ダイナミック DMC-G1 / Mロッコール28mm F2.8 / 約4.4MB / 3,000×4,000 / 1/320秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード

DMC-G1 / Mロッコール28mm F2.8 / 約4.6MB / 4,000×2,672 / 1/1,600秒 / F5.6 / 0EV / ISO125 / WB:晴天 / フィルムモード:スタンダード DMC-G1 / Mロッコール28mm F2.8 / 約4.3MB / 4,000×2,248 / 1/320秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード / シーンモード:夕焼け

ライカズミクロンM 35mm F2


ライカズミクロンM 35mm F2

 非球面化される前の製品。DMC-G1に組み合わせると大口径中望遠レンズとして使用できる。

 比較的新しいレンズなので、逆光でもフレアが出にくく高いコントラストが保たれる。絞り開放時から像は非常にシャープ。ただしボケにややクセがあり好き嫌いが分かれるだろう。


DMC-G1 / ズミクロンM 35mm F2 / 約4.2MB / 2,672×4,000 / 1/800秒 / F2 / 0EV / ISO100 / WB:日陰 / フィルムモード:スタンダード DMC-G1 / ズミクロンM 35mm F2 / 約4.5MB / 2,672×4,000 / 1/320秒 / F2 / 0EV / ISO100 / WB:日陰 / フィルムモード:スタンダード

DMC-G1 / ズミクロンM 35mm F2 / 約4.0MB / 3,000×4,000 / 1/125秒 / F2 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:ダイナミック DMC-G1 / ズミクロンM 35mm F2 / 約5.0MB / 2,672×4,000 / 1/100秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / WB:晴天 / フィルムモード:ダイナミック

SMCペンタックス-L 43mmF1.9スペシャル


SMCペンタックス-L 43mmF1.9スペシャル

 一眼レフ用のLimitedレンズをライカスクリューマウントに変更した製品。解像力よりも見た目の美しさに重点を置いて設計されている。このレンズもDMC-G1に組み合わせると大口径中望遠レンズになる。

 絞り開放時は全体にソフトな印象を受けるが、拡大すると、ちゃんとピントが合っている。ボケ味が軟らかく、グラデーションのトーンのつながりもよい。


DMC-G1 / L 43mmF1.9スペシャル / 約4.6MB / 2,672×4,000 / 1/160秒 / F1.9 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード DMC-G1 / L 43mmF1.9スペシャル / 約3.9MB / 4,000×2,672 / 1/60秒 / F1.9 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード

DMC-G1 / L 43mmF1.9スペシャル / 約5.2MB / 4,000×3,000 / 1/40秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード DMC-G1 / L 43mmF1.9スペシャル / 約4.1MB / 2,672×4,000 / 1/500秒 / F1.9 / 0EV / ISO125 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード / シーンモード:夕焼け

キヤノン50mm F0.95(Mマウント改造品)


キヤノン50mm F0.95(Mマウント改造品)

 国産レンジファインダー機用レンズの中で最も明るいF値を誇る大口径標準レンズ。本来はキヤノン7専用だが、このレンズはライカMマウントに改造してある。描写性能より大口径化に重点が置かれているので、開放で撮影すると非常にソフトな描写になる。

 絞り開放では像はかなり軟らかくフレアも目立つ。逆光にも弱く、想像できないようなゴーストが発生することも。かなりのクセ玉だが、実際に撮影してみて、これほど面白いレンズはほかにない。


DMC-G1 / 50mm F0.95(Mマウント改造品) / 約2.6MB / 2,672×4,000 / 1/800秒 / F0.95 / 0EV / ISO125 / WB:オート / フィルムモード:ダイナミック DMC-G1 / 50mm F0.95(Mマウント改造品) / 約4.5MB / 2,672×4,000 / 1/80秒 / F0.95 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / フィルムモード:ダイナミック

DMC-G1 / 50mm F0.95(Mマウント改造品) / 約4.0MB / 2,672×4,000 / 1/6秒 / F0.95 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:ダイナミック

ニッコールS.C 5cm F1.4


ニッコールS.C 5cm F1.4

このレンズの最短撮影距離は1.5フィート(約45cm)だが、3.4フィート(約1m)以下は距離計が連動しない。だがDMC-G1のライブビューを使えば正確なピント合わせができる

 1950年にニコンが発売したライカスクリューマウントレンズ。非常にコンパクトだが、鏡筒が真鍮製なのでズッシリと重い。

 開放で撮影したときの描写は想像以上にソフト。特に接写に使用すると、ソフトさが増大する。


DMC-G1 / ニッコールS.C 5cm F1.4 / 約4.9MB / 3,000×4,000 / 1/160秒 / F1.4 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:ダイナミック

ライカエルマー9cm F4


ライカエルマー9cm F4

 1952年に製造されたライカスクリューマウントの中望遠レンズ。このレンズの歴史は古く、最初の製品は1931年に登場している。

 非常に古いレンズで、しかも展望台の窓越しに撮影しているので、コントラストが低くなってしまった。絞り開放だと像は甘いが、絞るとシャープになる。


DMC-G1 / エルマー9cm F4 / 約4.1MB / 4,000×2,248 / 1/100秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード / シーンモード:夕焼け DMC-G1 / エルマー9cm F4 / 約4.4MB / 4,000×2,672 / 1/30秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 / フィルムモード:スタンダード

ライカテリート200mmF4(ビゾフレックス用)


 レンジファインダー機を一眼レフ化するビゾフレックスと組み合わせて使うための望遠レンズ。マウントアダプターを使えば、こんなレンズもDMC-G1で楽しめる。

 発売は1960年。特殊低分散ガラス登場以前の製品だが、目立った色収差はなく像はシャープ。ヌケも良く全体にスッキリした描写だ。


DMC-G1 / / 約3.9MB / 4,000×2,248 / 1/160秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / フィルムモード:スタンダード / シーンモード:夕焼け




最後に

 今回、マウントアダプターを介してライカ用レンズを使ってみて、ピント合わせの重要さを再認識させられた。DMC-G1は、MFアシストを使えばシビアなピント合わせが可能。それほどシャープでないと思っていたレンズでも、きちんとピントさえ合わせれば非常にシャープな画が撮れることが分かった。大袈裟な表現だが、DMC-G1は古いレンズを蘇らせるための最高のツールと言えるのではないだろうか。



URL
  パナソニックLUMIX DMC-G1関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/10/02/9224.html



中村文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2009/01/13 00:08
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