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【新製品レビュー】キヤノン「IXY DIGITAL 3000 IS」

~ついにマニュアル露出を搭載したフラッグシップ“IXY”
Reported by 吉森信哉

 キヤノンの「IXY DIGITAL」と言えば、スタリッシュ系コンパクトデジカメの代表的なシリーズ。今回紹介する「IXY DIGITAL 3000 IS」は、そのIXY DIGITALシリーズの最新フラッグシップモデルである。36~133mm相当の光学3.7倍ズームレンズは、前モデル「IXY DIGITAL 2000 IS」と同仕様だが、撮像素子は有効1,210万画素CCDから、さらに高画素な有効1,470万画素CCDが搭載されている。また、キヤノンが誇る映像エンジンも、従来の「DIGIC III」から新型の「DIGIC 4」へと進化。さらに「サーボAF」や「暗部補正」といった自動機能を搭載しただけでなく、各種のマニュアル機能も搭載する。

 今回は「ブラック」と「シルバー」のカラーバリエーションがあり、ブラック仕様はIXY DIGITALシリーズとしては新鮮に感じられるものだ。ちなみに、前モデルのIXY DIGITAL 2000 ISには、ボディ素材にチタンが採用されていた。このあたりがほかのモデルとは違う風格につながっていた。だが、今回のIXY DIGITAL 3000 ISのボディ素材はアルミ。フラッグシップモデルとしては少し物足りない点である。


コントロールホイールの操作性が向上

 IXY DIGITALフラッグシップの象徴ともいえる連続曲面のカーバチャーデザインは、これまで以上に“曲面っぷり”が目立っている。グリップ部分を絞った(へこませた)点は前モデルと似ているが、今回のモデルでは上面のライン(正面から見た場合)も曲線を描いているのだ。このあたりのデザイン変更は、優美に感じるか、奇異に映るか、人によって評価が分かれるだろう。もちろん、ほかとは違う個性的なデザインだし、手にした時のフィット感も良好である。





 ただし、底面までも曲線的(丸っぽい)なのは感心しない。テーブルなどに置く際に不安定になるからだ。また、そういった場所に立たせた状態でレンズ鏡筒が動くと(電源オンオフやズーミングで)、重量バランスが崩れて倒れる危険性も高いのだ。底面には小さな足(ポイント)が4つ設けてあるが、それだけでは安定感が保てない。かといって、背面を下にして置くのは、液晶モニターの外側の枠にキズがつきそうでイヤだし……。ちなみに、この不満点は前モデルにもあった。言い方は悪いかもしれないが「デザイン性を優先した弊害」と言える部分だろう。

 操作面での特徴は、回転操作で機能の設定や切り替えができる「コントローラーホイール」を採用している点。このホイールは、今年の春に発売された「IXY DIGITAL 820 IS」と「IXY DIGITAL 95 IS」にも採用されているが、その操作感はあまり良好ではなかった。回転に節度がなくてスカスカ、というフィーリングの問題もあるが、最も問題なのは“実際の回転量と変更量が一致しない”という点。ホイールを慎重に回転させたら反応しなかったので、少し勢いをつけて回転させたら必要以上に変更されてしまった……という事が起きやすいのである。この感覚のズレには、かなりストレスを感じたものだ。

 だから、IXY DIGITAL 3000 ISにコントロールホイールが採用されたのを知った瞬間、正直ガッカリしてしまった。しかし、実際に操作してみると、以前のホイールとは少し違う感じを受けた。回転に節度がないのは同じだが、以前に感じていた“回転量と変更量のズレ”は、あまり感じられなかったのである。


撮影モードの切り替えは、基本的にはこのモードダイヤルで行なう(PとMの切り替えはコントローラーホイールを使用)。ロック機構はないが、適度なクリック感があるので、不用意に動いてしまう危険性は少ない。ホールディングの際には適度な指掛かりになってくれる ユルユルと節度のない動きが気になるが、回転操作と設定変更のズレが少なくなったように感じるコントローラーホイール。まあ、個人的には十字ボタンで事足りるのだが

丸みを帯びた上面部に配置されてる電源ボタン。ボタンの周囲に窪みや枠が設けられていないので「不用意に作動してしまうのでは?」という不安も覚える。だが、このボタンはかなり強く押さないと作動しないので、そういった心配は必要ないだろう バッテリーは2000 IS、920 IS、820 IS、95 ISなどと共通。記録メディアはSDHC/SDメモリーカード。これまでと同様、内蔵メモリーは搭載していない

待望のマニュアル露出とMFを搭載

 ボクは、初代IXY DIGITALからIXY DIGITAL 810 ISまで10数台のIXY DIGITALを買って使用してきた。そんなボクがIXY DIGITALに感じていた不満は「マニュアル的な機能に乏しい!」という点である。

 露出制御の基本はプログラムオートで(1秒以上の長時間はマニュアル設定が可能)、フォーカスの基本はAF。「それがシリーズのコンセプトで、オート撮影で事足りる人が使うカメラだよ」と言われたら、まあ、返す言葉はない。でも、同じキヤノンのコンパクトデジカメでもPowerShotシリーズだと、下位のモデルもフル露出モード(P、Tv、Av、M)でMF機能搭載だったりする。なのに、IXY DIGITALシリーズはフラッグシップでも“プログラムでAFのみ”なのである。ところが、今回のIXY DIGITAL 3000 ISには、待望のマニュアル露出とMFが搭載されているのである。

 ただし、マニュアル露出には制約もある。シャッター速度は1/3段刻みで調節できるが、絞り値は開放と最小の2段だけで(数値はズーム域によって変わる)、しかもその値はNDフィルター挿入の有無で調節される。だから、光量は変えることはできてもボケの度合いは変わらない。ともかく、マニュアル露出が搭載されたことで、シャッター速度の効果がある程度は選べるようになったし、露出レベルの“決め撃ち”もできるようになったのはウレシイ。


マニュアル露出は、モードダイヤル「P/M」の状態で、コントローラーホイールを回転させて呼び出す。その後FUNC./SETボタンを押してFUNC.メニュー内の[TvAv]を選び、コントローラーホイールでシャッター速度を、十字ボタン左右で絞り値を設定する。画面右にはそのときの露出レベルをマークで表示。PowerShot G10張りのシャッター速度スケールがそそる! 液晶表示ではなく、ファインダーを見ながら撮影する「クイック撮影」モードも新機能だ。液晶モニター上には主な撮影情報が表示される。シャッターボタンを押さなくてもピントと露出を合わせ続けるので、通常のモードよりもチャンスに強い。……が、バッテリーの消費は早くなる(通常の約280枚から約180枚に減少)。また、ファインダー枠と撮影画像との“位置のズレ”も気になるので、ノーファインダー撮影が適しているかも

 ほかの新機能としては、動いている被写体にピントを合わせ続ける「サーボAF」が挙げられる。設定の手順は、MENU内のAFフレームモードの項目を「顔優先」か「中央」にして、サーボAFの項目を「入」に設定する。シャッターボタンを半押しし続けると、青色のAFフレームが表示され、被写体にピントを合わせ続けてくれるのだ(サーボAFでない時には緑色のフレームが表示される)。もちろん、EOS並の追従性能(前後の動きに対する反応)とはいかないだろうが、顔検出機能の性能が高いこともあり、画面内を動きまわる人物に対する追従性能は、予想以上に良好だった。

 画面内の暗い部分を補正する「暗部補正」も、今シーズンのモデル(IXY DIGITAL920 IS、PowerShot G10、PowerShot SX10)とともに搭載される新機能である。この補正機能は、撮影時に設定できるほか、再生時にも使用できる(元データを補正して別ファイルとして保存する)。

 ただし、再生時だと「自動」、「強」、「中」、「弱」の中から選べるが、撮影時だと「自動」しか選べない。「自動」だと絵柄によって補正効果が強かったり弱かったりするので、イメージ通りの補正にならない場合も出てくる。だから、撮影時にも「強~弱」の中から選べるとベストなのだが。


PモードとMモードの切り替えは、コントローラーホイールの回転による“呼び出しナシ”のダイレクト操作で切り替わる。不用意に変わってしまわないかと不安になるが、実際には、切り替わる前に現在のモードが表示されるため、いきなり変わる訳ではない 撮影時に選べる暗部補正の項目は「自動」と「切」の2種類。この機能の設定を頻繁に変えるなら、ボタン機能登録をしておくと便利

マニュアル露出モードが搭載されたことで、ストロボ撮影時の背景描写(明るさ)コントロールにも期待した。ストロボ光が届かない背景の明るさは、シャッター速度に依存するからだ。だが、マニュアルモードだと、ストロボ光の調節が難しくなる。プログラムモードでは1/3段刻みの「ストロボ調光補正」が可能だが、マニュアルモードでは3段階の「ストロボ発光量」調節しか使えない。これでは適切なストロボ光量を得るのが難しい


十字ボタン左でMFを選び、表示される距離表示を参考に上下キーで距離を調節する。この際、MENUの「ピント位置拡大」を入に設定しておけば、画面中央部を拡大表示することができる。……とまあ、MFの手順はそう難しくないのだが、説明書(カメラユーザーガイド)によると、その状態でシャッターボタンを半押しすると「もっともピントが合う位置に微調節されます」とある。なんじゃそりゃ!? これでMFと呼べるのだろうか?

良好な高感度画質

 特徴でもある「有効約1,470万画素CCD」の搭載には、期待感よりも不安感を抱く人もいるだろう。コンパクトデジカメ用の何倍にもなる大きな(面積が広い)撮像素子を採用するデジタル一眼レフでさえ、1,500万画素クラスの製品はまだ数えるほど。高感度時の描写(主にノイズの発生具合)や、レンズ性能が1,470万画素に堪えうるだろうか。

 最も懸念した高感度時の描写は、予想以上に良好だった。確かに、ISO400くらいまで感度を上げると、絵柄によっては「ちょっとキビシイかも」という印象を受けることもある。だが、最近の高画素コンパクトデジカメでよく見られる、ハケで塗ったような“のっぺり感”はあまりないし、細部のディテール消失や不鮮明さもさほど気にならない。こういった画質の面で、新開発の映像エンジン「DIGIC 4」の優秀さを垣間見ることができる。

 なお、レンズ性能に関しては、広角側の四隅などで、ボケたようで不鮮明な部分も見られるが、それ以外はシャープでクリアな描写だった。


まとめ

 これまで“オート専用”という印象が強かった、IXY DIGITALシリーズ。しかし、本機はマニュアル機能(露出、フォーカス)も搭載しているので、これまで以上に“表現の幅”を広げることができる。マニュアル機能は誰にでも使いこなせるものではないが、これまで以上にフラッグシップ度が高まったといえるだろう。ボク自身「撮像素子の画素数やボディ素材だけのフラッグシップはもういい!」と思っていただけに、今回のIXY DIGITAL 3000 ISのマニュアル寄りの仕様は、とても新鮮で興味深いものだった。

 絞りが2段しかないとか、MFも「厳密なMFではない」とか、ズームレンズの広角側が28mmをカバーしていないとか、いろんな不満点もある。それでも、これまでのIXY DIGITALとは違う“マニュアル志向”の仕様や、ブラックボディの質感や佇まいは、これまで数々のIXY DIGITALシリーズを買ってきたボクの目にも魅力的に映ったのである。


 

●作例

  • サムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。


画角

広角端
IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.9MB / 4,416×3,312 / 1/250秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 7.7mm
望遠端
IXY DIGITAL 3000 IS / 約4.9MB / 4,416×3,312 / 1/80秒 / F5.8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 28.5mm

歪曲収差

 広角側だとタル型の歪曲収差がそれなりに見られる。だが、その収差よりも、四隅の像のアマさの方が気になる。望遠側はほぼ完ぺきで収差は感じられない。また、四隅までシャープに描写されている。


IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.7MB / 4,416×3,312 / 1/20秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 7.7mm IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.2MB / 4,416×3,312 / 1/6秒 / F5.8 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 28.5mm

ISO感度

 ISO200くらいから部分的にノイズ感が見られるようになるが、さほど気になるほどではない。ISO400も予想以上に良好な描写で、最近の高画素コンパクトデジカメに見られるような“塗り込めた”ような嫌らしい描写ではない。それ以上の感度も、最近のコンパクトデジカメとしては比較的ナチュラルで好感が持てた。

 なお、ISO3200はシーンモードの中から選択する(モードダイヤルをSCNにして設定する)。ISO3200時の記録画素数は200万画素に限定されるし、描写に関してもイマイチ。ノイズ感はさほど感じないが、不鮮明な印象を受けてしまう。


ISO80
IXY DIGITAL 3000 IS / 約4.6MB / 4,416×3,312 / 1/4秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm
ISO100
IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.1MB / 4,416×3,312 / 1/5秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm
ISO200
IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.6MB / 4,416×3,312 / 1/10秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm

ISO400
IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.8MB / 4,416×3,312 / 1/20秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm
ISO800
IXY DIGITAL 3000 IS / 約6.7MB / 4,416×3,312 / 1/40秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm
ISO1600
IXY DIGITAL 3000 IS / 約7.0MB / 4,416×3,312 / 1/80秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm

ISO3200
IXY DIGITAL 3000 IS / 約639K / 1,600×1,200 / 1/160秒 / F3.5 / 0EV / WB:オート / 11.5mm

暗部補正

暗部補正:なし
IXY DIGITAL 3000 IS / 約4.6MB / 3,312×4,416 / 1/200秒 / F10 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 11.5mm
暗部補正:あり
IXY DIGITAL 3000 IS / 約4.8MB / 3,312×4,416 / 1/200秒 / F10 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 11.5mm

レタッチマイカラー

共通データ:IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.9MB / 4,416×3,312 / 1/800秒 / F4 / 0EV / ISO80 / 16.3mm


オフ(元画像) くっきりカラー すっきりカラー

セピア 白黒 ポジフィルムカラー

色白肌 褐色肌 あざやかブルー

あざやかグリーン あざやかレッド

H.264ムービー

 動画の仕様は最大640×480ピクセル、30フレーム/秒という標準的なもの。今季の新製品から圧縮効果が高いH.264コーデックを採用したことで、従来の約1.6倍の記録時間を実現している。

 なお、これはボク個人の印象になるが、キヤノンのコンパクトデジカメは、画像だけでなく音声のクォリティも高い。具体的にはクリアで聞きとりやすく感じるのだ。だから、けっこう利用している。

  • 画像をクリックすると動画をダウンロードします。
  • 元の動画ファイルの後半部分を削除し、再生時間を短くしています。
  • 再生環境などの問い合わせには対応いたしません。ご了承ください。
H.264 / MOV / 23.8MB / 640×480ピクセル / 30fps


自由作例

IXY DIGITAL 3000 IS / 約6.1MB / 4,416×3,312 / 1/30秒 / F5.8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 28.5mm IXY DIGITAL 3000 IS / 約4.8MB / 3,312×4,416 / 1/60秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO160 / WB:オート / 7.7mm (マクロモード最短距離付近)

IXY DIGITAL 3000 IS / 約6.4MB / 4,416×3,312 / 2.5秒 / F14 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 23.5mm (マニュアル露出・三脚使用) IXY DIGITAL 3000 IS / 約7.2MB / 4,416×3,312 / 1/8秒 / F2.8 / 0EV / ISO250 / WB:オート / 7.7mm

IXY DIGITAL 3000 IS / 約7.0MB / 3,312×4,416 / 1/60秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 7.7mm IXY DIGITAL 3000 IS / 約6.5MB / 3,312×4,416 / 1/8秒 / F2.8 / 0EV / ISO320 / WB:オート / 7.7mm

IXY DIGITAL 3000 IS / 約4.1MB / 3,312×4,416 / 1/40秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 7.7mm IXY DIGITAL 3000 IS / 約7.4MB / 3,312×4,416 / 1/320秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 7.7mm

IXY DIGITAL 3000 IS / 約5.2MB / 4,416×3,312 / 1/200秒 / F8 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 7.7mm


URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/ixyd/3000is/

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吉森信哉
(よしもりしんや) 1962年広島県生まれ。東京写真専門学校(現東京ビジュアルアーツ)を卒業後、雑誌や写真展などで作品を発表。1990年から写真専門誌を中心に撮影と執筆の仕事を始める。ライフワークは“素朴な農村風景”や“日常の中の花景色”など。現在のメイン撮影機材はデジタル一眼レフだが、旅のお供にコンパクトデジカメも持参する……というか大好物(笑)。気がつけば、1年間に10台近くのコンデジを買ってたりする。

2008/11/11 00:01
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