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【新製品レビュー】リコー「R8」

~絶妙なバランス感覚の高級スタンダード機
Reported by 中村 文夫

 リコーは数あるデジタルカメラメーカーの中で、最も広角レンズにこだわる企業と言えるのではないだろうか。その代表は「GR DIGITAL II」。28mm相当の単焦点広角レンズを搭載した高級機として、先代の「GR DIGITAL」以来、根強いファンを獲得している。これに対し「Caplio GX100」は広角24~72mmに相当する広角ズームを搭載。ウェストレベルファインダーとして使用できる着脱式EVFを用意するなど、非常に個性的なコンパクトデジタルカメラだ。以上の2機種はカメラ好きのために開発された製品で、それだけに、どちらかというと万人向きの製品ではない。

 今回レポートする「R8」は、これら2機種よりも、さらに広いユーザー層を狙って開発された製品だ。レンズは28~200mmに相当する高倍率ズームレンズを搭載。望遠側の焦点距離がグンと伸び、本格的な望遠撮影が可能になった。また絞り優先AEやマニュアル露出などを省き、オート撮影の多様さを重視した撮影モードも一般ユーザーを強く意識した仕様と言えるだろう。

 こう書くと、普通の入門機のように思われてしまうかも知れないが、R8の雰囲気はどこか違う。これは「道具」というコンセプトに基づいて設計されているからだ。製品を見れば分かる通り、スタイリッシュで、とても洗練されたカタチをしている。ユーザーの間口を広くとってあるとは言え、一般的なデジカメと比べ、かなりシャープな切り口を持ったコンパクトデジカメと言えるだろう。本体色として、シルバーとブラックを選べる。


28~200mm相当の高倍率ズームレンズ

 R8に装着されたレンズの焦点距離は、4.95~35.4mmでズーム比は7.1倍。画角は35mm判の28~200mmに相当し、パースペクティブを強調した本格的な広角から、遠くの被写体をグンと近くに引き寄せる望遠まで、ズーム域の広さが特徴である。35mm判カメラ用の高倍率ズームとしては28~200mmが一般的だが、まさにこのレンズをコンパクトなボディに収めてしまったようなデジタルカメラだ。





 スイッチをオフにするとレンズが完全にフラットに収納。レンズカバーも内蔵しているので、裸のままポケットに入れても安心だ。レンズの開放F値はF3.3~5.2。望遠側でもそれほど暗くならない上、CCDシフト方式の手ブレ補正機構を内蔵しているので、望遠撮影時の手ブレの心配もない。

 またデジタルズームをオンにすれば最大で960mm、オートリサイズズームを選べば1,130mm相当の超望遠撮影も可能である。ただしこれらの機能を使用すると拡大率が高くなり、手ブレ補正の効果が下がってしまう。それにに画角が極端に狭くなるので、液晶モニターで目標物がとらえにくくなる。超望遠撮影の際は三脚を使用した方が良さそうだ。


左から広角端、望遠端、電源オフ。ズーム比は高いが、ズーミングしても鏡筒長はそれほど変化しない。電源スイッチをオフにするとレンズはフルフラットに収納される


 R8は広角側で1cm(レンズ面から被写体までの距離)、望遠側で25cmまでの接写ができる。広角側だと背景を活かした接写ができるほか、望遠側では背景をボカすなど本格的なネイチャーフォトにも威力を発揮する。さらにAF測距と測光エリアを自由に動かせるAF/AEターゲット移動機能を使えば、フレーミングを固定したまま任意の位置にピントを合わせることが可能。この場合、ジョイスティックを小型にしたようなADJボタンで、ターゲットが自由に動かせるので操作もしやすい。


背面の液晶モニターは2.7型で、ドット数は約46万

撮影した画像のサムネイルは20個まで表示できる


操作系は右手側に集中。ボタン類の数が少なくシンプルで分かりやすい 撮影した画像を8倍に拡大した状態。最大で16倍まで拡大できる。拡大する位置はADJボタンで自由に移動できる


ADJボタンはジョイスティックの背を低くしたようなデザイン。指一本で上下左右に動かせる。露出補正、ホワイトバランス、ISO感度などの機能を4種類まで登録できる ADJボタンからメニューを呼び出したところ。撮影設定メニューを表示させることなく、設定変更が即座にできる。GR DIGITALやGX100にも搭載されている機能だが、R8には電子ダイヤルがなく、ADJボタンだけで操作するため、慣れないと使いにくい

便利なマイセッティングポジション

 有効画素数1,000万の1/2.3型CCDを搭載。画像エンジンは「Smooth Imaging Engine III」。GR DIGITAL IIやCaplio GX100とは別の画像エンジンで、高い解像度とノイズの少ないクリアな映像が特徴である。またデュアルサイズ記録撮影機能を使えば、記録サイズの小さな縮小画像を同時記録することが可能。メールに添付したりブログに貼り付ける際、いちいち画像サイズを変換する手間が省ける。ISO感度は64~1600。800を越えるとかなりノイズが目立つようになるが、補正しすぎてのっぺりしたような感じはなく、高感度フィルムに似たザラツキ感が出て、高感度らしい描写になる。

 アスペクト比1:1モードは遊び心に溢れた機能だ。GR DIGITAL IIやCaplio GX100で好評を得た機能で、長方形画面の左右をカットして、正方形フォーマットで撮影することが可能。6×6判の中判カメラのような楽しみ方ができる。このほか、撮影後に画像の明るさやホワイトバランスが調整できるほか、ワンショットでカラー、モノクロ、セピアの3カットが記録できるカラーブラケット、シャッターの開口径を最小に固定してパンフォーカス撮影をするモードなど、高級機顔負けの機能を備えている。

 R8に搭載されたシーンモードは全部で11。モードダイヤルには2つのマイセッティングポジションを備え、撮影モードを含め使用頻度の高い機能を登録しておけば、ダイヤルを合わせるだけで、好みの機能をすぐに使うことができる。ただ残念なのは、撮影モードがオートのみで絞り優先AEやマニュアル露出が選べないこと。これだけ多くの機能を搭載したのだから、思い切ってこれらのモードを搭載しても良かったのでは? だが、あまり欲張ると上級機のGR DIGITAL IIやCaplio GX100との差別化が図れなくなる。恐らくリコーとしても大いに悩んだ末の選択だろう。


モードダイヤルには2つのマイメニューのポジションを装備

それぞれに使用頻度の高い撮影メニューを登録できる


ボディ側面にはストラップ取り付け穴が2つあるので、ネックストラップを取り付けて首からぶら下げた際にカメラが回転しない

電源は専用リチウム電池、記録メディアはSD/ SDHC/マルチメディアカードを使用。約24MBのメモリも本体に内蔵している


まとめ

 リコーのホームページでは、R8は「スタンダード」に分類されている。これに対しGR DIGITAL IIやCaplio GX100は、「プロフェッショナル」という位置付け。R8の実販価格は3万台後半で、5万円台のGR DIGITALやCaplio GXとは大きな価格差がある。

 要するにR8は、GR DIGITAL IIやCaplio GX100ほどの高機能は必要としないが、持つからには、きちんとカメラが欲しいというユーザーのためのカメラなのだ。早い話が、適度な高機能と高級感を兼ね備えたカメラということ。別の言い方をすれば、絶妙なバランス感覚を持って誕生した高級スタンダード機と言えるだろう。


 

●作例

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、記録解像度(ピクセル)/露出モード/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。


画角の変化


広角端
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/440秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm
望遠端
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/410秒 / F5.2 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 35.4mm

最小絞り固定によるパンフォーカス

 広角28mmで撮影すると、広い範囲が写るだけでなく、遠近感を強調した表現ができる。このときセットアップ画面で「最小絞り固定」を選択すると、被写界深度が深くなりパンフォーカスになる。最小絞り固定はマイメニューに登録することもできる。

 ただし最小絞りと言っても広角側だとF値は5。数字だけを見るとそれほど絞ったように思えないが、このときの絞りの口径は約1mm。レンズの焦点距離が短いので、これでも十分な被写界深度が得られる。


F5(最小絞り固定)
2,736×3,648 / 絞り優先AE / 1/73秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm
F3.3
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/217秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm

F5(最小絞り固定)
2,736×3,648 / 絞り優先AE / 1/73秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm
F3.3
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/217秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm

F5(最小絞り固定)
2,736×3,648 / 絞り優先AE / 1/810秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 5mm

高感度

 感度を上げるととノイズが目立つが、ISO800くらいまでは適度にノイズが乗って高感度らしい描写だ。ISO1600にすると画面全体が粗い感じになる。


ISO800
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/79秒 / F5.2 / 0EV / WB:オート / 35.4mm
ISO1600
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/143秒 / F5.2 / 0EV / WB:オート / 35.4mm

1:1モード

 アスペクト比1:1モードを選ぶと、中判カメラの6×6判のような表現ができる。


2,736×2,736 / プログラムオート / 1/203秒 / F4.5 / 0EV / ISO114 / WB:オート / 27.4mm

2,736×2,736 / プログラムオート / 1/143秒 / F5.2 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 35.4mm


マクロ撮影

 AF/AEターゲット移動機能を使えば、カメラを固定したまま画面内の任意の位置にピントが合わせられる。


3,648×2,736 / プログラムオート / 1/64秒 / F5.2 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 35.4mm

3,648×2,736 / プログラムオート / 1/52秒 / F5.2 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 35.4mm


最望遠側では、約25cmまで被写体に近づいて撮影できる
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/620秒 / F5.2 / -0.3EV / ISO64 / WB:屋外 / 35.4mm
広角側では、約1cmまで被写体に近づくことが可能。背景を活かした接写ができる
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/440秒 / F3.6 / -0.8EV / ISO100 / WB:オート / 5.7mm

デュアルサイズ撮影機能

 デュアルサイズ記録撮影機能を使えば、縮小画像を同時に記録できる。


2,736×3,648 / 風景 / 1/189秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 8.9mm

240×320 / 風景 / 1/189秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 8.9mm


色の濃さ

 「普通」、「濃い、「薄い」の3種類から選ぶことができる。


普通
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/710秒 / F4.3 / 0EV / ISO64 / WB:屋外 / 10.4mm
濃い
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/710秒 / F4.3 / 0EV / ISO64 / WB:屋外 / 10.4mm

薄い
3,648×2,736 / プログラムオート / 1/710秒 / F4.3 / 0EV / ISO64 / WB:屋外 / 10.4mm

ブラケット

 カラーブラケット、ホワイトバランスブラケット、オートブラケットの3種類を利用できる。


カラーブラケット:モノクロ
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/203秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm
カラーブラケット:カラー
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/203秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm

カラーブラケット:セピア
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/203秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm

ホワイトバランスブラケット:赤
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/217秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm
ホワイトバランスブラケット:ノーマル
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/217秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm

ホワイトバランスブラケット:青
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/217秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm

オートブラケット:-0.5EV
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/290秒 / F4.5 / -ISO100 / WB:オート / 13.1mm
オートブラケット:±0EV
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/203秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm

オートブラケット:+0.5EV
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/143秒 / F4.5 / +0.5EV / ISO100 / WB:オート / 13.1mm

一般作例

すべてオートに任せて撮影。提灯の露出が適度で、背景の桜もつぶれることなく再現された
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/52秒 / F4.2 / 0EV / ISO168 / WB:オート / 8.9mm
焦点距離約150mm相当で撮影。背景の緑色に深みを出すため、マイナス補正した
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/45秒 / F4.5 / -0.5EV / ISO200 / WB:オート / 27.4mm

太陽が写り込んだ部分はトビぎみだが、全体のバランスは良い
2,736×3,648 / プログラムオート / 1/440秒 / F7.7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 24mm


URL
  リコー
  http://www.ricoh.co.jp/
  製品情報
  http://www.ricoh.co.jp/dc/r/r8/

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中村 文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2008/04/23 00:33
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