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【新製品レビュー】リコー「GR DIGITAL II」

~コンセプトを正統に継承した高級単焦点モデル
Reported by 中村 文夫

 リコー「GR DIGITAL」の発売は2005年10月。以来28mm相当(35mm判換算)の単焦点レンズを搭載した高品位コンパクトデジカメとして、多くのカメラファンの支持を獲得してきた。それから2年余りが過ぎ、ついに後継機の「GR DIGITAL II」が登場。めまぐるしい世代交代が当たり前のデジタルカメラ業界において、これだけのロングランは異例としか言いようがない。なお、本記事では特に断りがない限り、初代GR DIGITALをGRD1、新製品GR DIGITAL IIをGRD2と表記する。

 私が初めてGRD2を目にしたのは、11月初旬に横浜美術館で開催された新製品発表会。写真展のオープニングパーティを兼ねていたため、落ち着いて製品のチェックはできなかったが、このときの正直な印象は「あれ? 全然変わってない!!」。デザインはまったく同じだし、製品ロゴにも「II」の表示はない。黙って置いてあったら新製品だと気付かないほどそっくりなのだ。

 だがスタッフの説明を聞くうちに「なるほど」という気になった。やはり2年という間に技術は飛躍的に進歩。それに初代のGRD1にも弱点がなかったわけではなく、すぐに気付かない部分に大きな改良が加えられていたのだ。GRのような趣味性の高いカメラは、基本スタイルを変えないことが何よりも大切である。目新しさを狙った仕様変更は、最初の設計が間違っていたことを認めることにもなりかねない。とにかく変わらないことが「名機の証明」なのだ。


GRD2(左)と銀塩フィルムカメラのGR1V。初代GR DIGITALは、フィルムカメラのGRシリーズのデジタル版として2005年に誕生した

GRD2(左)とGRD1。よく見ると細部に違いを見つけることができる。正面から見て目立つのは赤外線式AFセンサーの有無。旧製品は赤外式とCCD式を組み合わせたハイブリッド式だったが、新製品はCCD式だけになった


大型化した液晶モニターと便利な電子水準器

 最大の改良点は、CCDの画素数が813万から1,001万に増えたこと。レンズは従来と同じだが、有効画素数約1,001万の1/1.75型CCDを搭載。これまでと同等のS/N比とダイナミックレンジを維持しながら、高画質を実現した。

 画像エンジンは新開発の「GR ENGINE II」。GRD1の鮮明な解像感と自然なノイズ低減処理、忠実な色再現性を維持しながら、高感度時のノイズ処理能力が大幅に向上。解像感や彩度の低下を気にすることなく、高感度域を駆使できる。I感度レンジはISO80~1600。AUTO-HIを選べば、ISO感度の上限を設定することもできる。

 背面の液晶モニターは2.5型から2.7型へと大きくなったほか、低温ポリシリコンTFTからアモルファスシリコンTFTへ変更。斜めから見たときの視認性が大幅に改善された。さらに液晶モニターの画像は非常に鮮やかで、色再現性が高い。GRD1だけを使っていたときは気にならなかったかったが、2台を使い比べてみると差は歴然で、GRD1を使う気がなくなるほどだ。


GRD2(左)とGRD1の背面。IIでは液晶モニターが2.5型から2.7型へと大型化した

GRD2のモニターは鮮明で色再現性に優れ、斜めから見たときの視認性も格段に良い


 さらに新たに加わった機能として電子水準器が挙げられる。これは液晶モニター上にカメラの傾きを表示する機能で、これを利用すれば、カメラの水平出しが簡単にできる。特にGRDのような広角専用機は、ほんの少しのカメラの傾きが全体全体のバランスを台なしにしてしまう。手持ち撮影を基本としたカメラにとって、電子水準器はまさに「痒いところ手が届く」機能だ。


電子水準器の表示例。バーグラフの黄色い表示を中央に合わせると水平になり、表示全体がグリーン表示に変わる。かなりシビアに反応するので、これに気を取られすぎるとシャッターチャンスを逃すことも。不要ならば消すこともできる

 もちろん、水準器はカメラを縦位置に構えたときにも有効で、モニター上の表示が自動的に切り替わる。さらに水平を音で知らせる機能も備えているので、外部ファインダー使用時にも利用可能。なおカメラを極端に上下に向けるなど、水平出しが困難なときは表示が赤くなる。

 このほかモニター関係では、被写界深度表示機能が追加された。これは液晶モニター上に被写界深度の目安を表示する機能で、MF、スナップ、∞を選ぶと、画面の左側にフォーカスバーを表示。マニュアル露出あるいは絞り優先AE時にF値を変えると被写界深度が緑色で表示される。いわばMFレンズの被写界深度目盛をバーグラフに置き換えたような機能で、速写性を重視するスナップ撮影に威力を発揮する。

 GRD1のアスペクト比は、4:3と3:2の2種類だけだったが、GRD2では、これに1:1モードを追加。ハッセルブラッドやローライフレックスのような正方形フォーマットの撮影が楽しめる。実際には長方形画面の両サイドをカットしているだけだが、撮影時に正方形画面を意識して撮影するのと、後から長方形画面をトリミングするのでは、作品の意図がまったく違ったものになる。これは姉妹機の「Caplio GX100」で好評を得た機能で、広角専用機のGRD2ならワイドローライのような気分が味わえる。


細かい改良で使い勝手が向上

GRD2(左)とGRD1の上面。操作系のレイアウトは基本的に同じが、GRD2のモードダイヤルにはMY1、MY2のポジションが追加された

 冒頭でGRD1と2の外観デザインは瓜二つと説明したが、落ち着いて細部を比較すると、さまざな相違点を見つけることができる。

 GRD2のモードダイヤルに追加されたMY1とMY2のポジションはCaplio GX100で採用されたもので、撮影モードをはじめ、画質や記録サイズ、ホワイトバランスやISO感度、測光方法や露出補正など、全部で24にも上る項目を記憶可能。ダイヤルを合わせるだけで、自分だけのセッティングで撮影できる。

 ボディ背面にあるADJレバーにも全部で4つの機能が登録できる。ADJレバーはプッシュボタン機能も備えていて、ワンプッシュするとモニター上に予め登録した機能を表示。十字キーの←→ボタンで機能を選び、↑↓ボタンで設定する。なおGRD1のADJレバー は回転式の電子ダイヤルだったが、GRD2ではレバーが左右に動くタイプに変更されている。

 このほか十字キーの←ボタンがFn(ファンクション)ボタンを兼ねていて、ここにもさまざまな機能が登録できる。さらにズームボタンにもWBや露出補正、デジタルズームの登録が可能。とにかく登録機能は「これでもか!!」というほど充実している。いずれにしても、すべての登録機能を利用することは、とうてい無理。自分の撮影スタイルに合わせて、使いやすい機能だけを選ぶと良いだろう。

 GRD2の十字キーはボタンの背が高く、GRD1に比べると押しやすくなっている。さらに←のクイックレビューボタンをFnに、クイックレビューボタンをモードボタンにするなど機能の割り当てを変更。このほかGRD2ではボディ側面にストロボオープン用スイッチを新設し、ワンタッチでストロボがポップアップできる。これまでのようにモード切り替えることなく直感的にストロボのオン/オフができるので、とても便利だ。また細かい部分ではバッテリー収納部に落下防止装置も追加された。


GRD2の操作部。ボタンの背が高くなった GRD1の操作部

GRD2は、ボディ側面にストロボのスイッチを新設

こちらはGRD1のボディ側面


GRD2の電池室。バッテリー落下防止用のツメを装備

GRD1。電源はGRD2、GRD1で共通。単4形電池2本も使用できる


GRD2底部の銘板。商品名の表示はここにあるだけ

こちらはGRD1。よく見ると消費電力が変わっている


 アクセサリー類はGRD1と共通だが、新たに外部ファインダーミニ、テレコンバージョンレンズ、ソフトケースがラインアップに加わった。

 GRD本体は光学ファインダーを内蔵していないので、液晶モニターを利用しないときは、外部ファインダーをアクセサリーシューに取り付ける。これまでワイドコンバーターを取り付けた際とコンバータなしの画角を同時に表示する「GV-1」という外部ファインダー発売されていたが、GRD発売と同時に外部ミニファインダー「GV-2」が登場。28mmの画角専用だが、GV-1よりふたまわりほど小さく、デザインも角形でGRDによく似合う。またGV-2を取り付けたまま収納できるソフトケース「GC-2」も用意された。

 コンバージョンレンズ関係では35mm判の40mmに相当する画角が得られるテレコンバーターGT-1も登場。GRD1にも取り付け可能で、標準レンズに近い画角で撮影できる。なおGT-1をGRD1に使用する場合は、ファームウェアを最新版の2.40にバージョンアップする必要がある。


GRD2と同時発表の外部ミニファイダー「GV-2」(2万4,150円、左)と従来からの「GV-1」(2万3,100円) ブライトフレーム表示はアルバダ式。GV-2は28mm専用でGV-1は21/28mm兼用

コンバージョンレンズはフード&アダプター「GH-1」(5,250円)を併用して取り付ける。取り付けたコンバーターの種類を検知するためカメラ本体とアダプターに電気接点がある ワイドコンバーター「GW-1」(1万5,750円)を取り付けた状態


フードを取り付けた状態。アタッチメントサイズは37mmなので市販のフィルターが取り付けられる

GV-2を取り付けたまま収納できるソフトケース「GC-2」(4,725円)も用意


40mm相当のテレコンバージョンレンズ「GT-1」(1万5,750円)


まとめ

 GRD1のユーザーにとって一番気になるのは、「GRD2に買い換えるかどうか」だろう。すでに説明した通り、GRD2の見た目はGRD1とほとんど変わらない。したがってたとえ新機種に変更したとしても、第三者にアピールすることはほぼ期待できないだろう。もし見栄を張りたければ、外部ファインダーだけを新製品のミニファインダーに変えるという奥の手もあるが、あまりお勧めはできない。

 比較作例を見れば分かる通り、GRD2になって画質が劇的に向上したわけではない。別の言い方をすれば、すでにGRD1の段階で、かなり高度なレベルを実現していたということだ。ただし高感度時のノイズについては、かなり進化しているので、夜間撮影の多いユーザーは買い換える価値が十分にあると思う。

 また使い勝手で大きく違うのは液晶モニターの視認性である。本文中にも書いたが、GRD2のモニターの味を一度知ってしまうと、もうGRD1には戻れない。このほか、私が大きな魅力を感じたのは、1:1の正方形画面が選べることだ。GRD1は、この11月に最期のファームウェアのバージョンアップを終えたばかりだが、残念ながら技術的に不可能ということで、この機能は追加されなかった。ただ、正方形画面にこだわるならCaplio GX100という選択肢もあり、このあたりは大いに悩むところだ。

 いずれにしても、GRD2はGRD1のDNAをしっかりと受け継ぎ、軸足は何らブレていない。改良された部分に、どれだけ価値を見出すかが、買い換えを決める重要なポイントになるだろう。


作例

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランスを表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。


◆ISO感度(GR DIGITALと比較)

 ISO200まではほぼ互角だが、GRD1はISO400を越えると急にノイズが目立ち出す。これに対しGRD2はISO400までOK。ISO800を越すとノイズが増える。

(GRD2はノイズリダクションONで撮影)


GR DIGITAL II・ISO80
3,648×2,736 / 1/3秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート
GR DIGITAL・ISO64
3,264×2,448 / 0.4秒 / F2.4 / 0EV / ISO64 / WB:オート

GR DIGITAL II・ISO100
3,648×2,736 / 1/4秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート
GR DIGITAL・ISO100
3,264×2,448 / 1/4秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート

GR DIGITAL II・ISO200
3,648×2,736 / 1/8秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート
GR DIGITAL・ISO200
3,264×2,448 / 1/8秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート

GR DIGITAL II・ISO400
3,648×2,736 / 1/15秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート
GR DIGITAL・ISO400
3,264×2,448 / 1/15秒 / F2.4 / 0EV / WB:オート

GR DIGITAL II・ISO800
3,648×2,736 / 1/30秒 / F2.4 / 0EV / ISO800 / WB:オート
GR DIGITAL・ISO800
3,264×2,448 / 1/30秒 / F2.4 / 0EV / ISO800 / WB:オート

GR DIGITAL II・ISO1600
3,648×2,736 / 1/60秒 / F2.4 / 0EV / ISO1600 / WB:オート
GR DIGITAL・ISO1600
3,264×2,448 / 1/60秒 / F2.4 / 0EV / ISO1600 / WB:オート

◆低速シャッター

 1秒程度の露光だとノイズの影響はまったくと言って良いほど出ない。シャッタースピードとは関係ないが、絞り開放だと描写に甘さが残り、絞ると全体に締まった画面になる。


1/4秒
3,648×2,736 / F2.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート
1/2秒
3,648×2,736 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート

1秒
3,648×2,736 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート

◆正方形(1:1)フォーマット

 下の写真はどちらも正方形なので縦位置・横位置が存在しないが、左の写真は被写体の右上からストロボを照射させるため、カメラを縦に構えて撮影した。


2,736×2,736 / 1/100秒 / F2.4 / 0EV / ISO125 / WB:昼光

2,736×2,736 / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:昼光


◆一般作例


白いテーブルと背景の境界が見事に分離している。ただし絞り開放だと周辺部はやや流れ気味だ
3,648×2,736 / 1/80秒 / F2.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート
完全に逆光だが、フレアによる画質の低下はほとんどない
3,648×2,736 / 1/400秒 / F4.5 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート

マクロモード。花びらの質感描写が見事。背景のボケもキレイだ
3,648×2,736 / 1/200秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート
オーナメントの表面が、細部までよく再現されている
3,648×2,736 / 1/203秒 / F2.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート

 広角28mmの画角を活かすために被写体に思い切り近づいて撮影。皺の寄ったヒゲの部分のディテールや銀のモールのハイライト部も良く再現されている。ただしオートWBにしたところ、全体にマゼンタっぽくなってしまった。


3,648×2,736 / 1/1,150秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート

3,648×2,736 / 1/1,070秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート



URL
  リコー
  http://www.ricoh.co.jp/
  製品情報
  http://www.ricoh.co.jp/dc/gr/digital2/

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中村 文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2007/12/19 00:58
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