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【新製品レビュー】キヤノン PowerShot G9

~実用的なRAW機能を備えたハイエンドコンパクト
Reported by 本誌:田中 真一郎

 PowerShot G9は、ほぼ1年前に発売されたPowerShot G7の後継機種だ。コンセプトや外観はG7とほぼ変化がなく、撮像素子の高画素化がメインのマイナーチェンジのように見える。しかし、RAW撮影が可能なるなど、“マイナー”とは言い切れない進化も遂げている。


高級感が増した外観、操作感のよさも継承

 直線基調のボディの中央にレンズを着け、控えめな軍艦部を載せたカメラらしい外観は一見G7とほぼ同じだ。顕著な違いはレンズ基部のリングと、リング取り外しボタンが銀から黒になり、より精悍さを増したことと、背面の液晶モニターが2.5型から3型に大きくなったことくらいだ。

 だが実は、塗装がやや変更されていて、より質感が高くなっている。G7と並べて見るとこの違いはよくわかる。また、この塗装は頑丈で傷もつきにくいそうだ。

 ただしリングはアルミ製で、やや傷つきやすい。このリングはテレコンやワイコンなどのアクセサリーを取り付けるためのジョイント部をカバーするもの。豊富なオプションでシステムアップが図れるのもG7と同様だ。テレコン/ワイコンなどを取り付けるときにはこのリングをはずすが、リングのみを補修部品として取り寄せることもできるから、傷が気になるなら交換も可能だ。価格は1つ2,100円で、納期は1週間ほどかかる。

 ちなみにこのリングはG7に取り付けることもできるので、G7の外観をG9に近づけることもできる。また、キヤノンのオンラインユーザーサービス「iMAGE GATEWAY」か同社オンラインショップに登録すると、ブルー、オレンジ、シルバーのリングを1セット2,940円で手に入れることもできる。


アクセサリー取り付け部のリングは取り外しや交換が可能
塗装の質感が高くなった

 液晶モニターが3型になったがボディサイズは変わっていない。そのため、液晶モニター上部と右手側のダイヤルやボタン類が、G7よりも外側に押し出されている。移動したのは1mmにも及ぶかどうかといったところで、撮影時のホールドには影響がない。しかし、右手だけでボディを持って、右手親指でモニター右のダイヤルやボタンを操作しようとすると、うまくホールドできずにボディを落としそうになった。特に露出補正は外側にあって、ホールドしながらの操作がしにくい。両手でしっかり保持して操作するようにしたい。

 ボディ左手側上部のISOダイヤルもG7から継承されている。感度を自在に変更できるデジタルカメラらしさを味わえる、人気の高い装備である。感度を軽快に変更できるのは新鮮だ。右手側上部のモードダイヤルともども、感触やクリック感、擦動感に高級感があって心地よい。


3型液晶の視認性は良好だが、その代償に操作系がややせせこましくなった ISOダイヤル、モードダイヤルともに心地よい操作感

 ISOダイヤルの下にはショートカット/イージーダイレクトボタンがあって、任意の機能を割り当てることができる。このボタンはG9から搭載されたISOブースターボタンでもある。ISOブースターは、低速シャッター時にワンプッシュで増感してくれる機能だが、シャッター半押し状態で操作する必要がある。このボタンは小さく、斜めに着いているので、右手でカメラのホールドと半押しをしながら押すのは、やりにくく感じた。ただし、ISOブースターは半押しで自動的に働かせるようにもできるので、この機能を活用したい場合は自動設定がおすすめだ。

 液晶モニター右手側にはコントローラーホイールが設けられ、露出設定やメニュー操作、再生画面の操作などに使える。ダイヤル操作からのタイムラグも少なく、適度なクリック感とあいまってこれも快適に操作できる。コントローラーホイールの内側には4方向ボタンと、FUNC./SETボタンがある。こちらはすこしせせこましいレイアウトになっていて、4方向ボタンを操作しようとしてFUNC./SETボタンを押してしまうことがあった。


シャッタースピードが遅いとショートカットボタンが青く光り、ISOブースターボタンとして機能する
快適なコントローラーホイール

確実に進化したモニターやAF

 3型液晶モニターは約23万画素ながら、「クリアライブ液晶」から「クリアライブ液晶II」に進化した。日中の屋外でも見やすいうえに、視野角が広く使いやすい。液晶はバリアングルではないが、斜めからの視認性がよいので、バリアングルでなくてもそう困らない。表示画質は「良好すぎる」と表現したくなるほどで、PCで表示したときよりも2割くらいよく見える。

 液晶モニターが大きなおかげで、ヒストグラムなどの各種情報を表示しても、情報が見にくくなったり、あるいは情報表示が撮影の邪魔になったりすることもない。再生画面では、画像の全体とフォーカス部分の拡大画像を同時に2画面で表示する「フォーカスチェッカー」が新設されているが、これも大型液晶を利した機能といえるだろう。撮影した画像と画像情報を同時に表示する画面も、画像も情報もともに見やすい。


情報量が多くても見やすい3型液晶モニター。銀塩カメラ風の露出インジケーターも健在
フォーカスチェッカー

 欲を言えば、情報表示量の多さを生かして、ヘルプ機能が充実してくれるといいなと思う。たとえば、スポット測光枠をAFフレームに連動させるかどうかは、AFフレームが「アクティブ」になっていないと選択できない。しかしメニュー画面ではスポット測光枠を設定できないときは、項目がグレーアウトしているだけで、なぜ設定できないのか、どうしたら設定できるようになるのかがわからない。説明書を読めばわかることだが、出先でとまどうこともある。こんなとき、スポット測光枠の項目に移動すると、「AFフレームをアクティブにしたときだけ設定できる」と説明してくれるとうれしい。

 AF関連の機能が強化されているのは2007年秋モデルの同社製コンパクトカメラと同じで、大/小2つのサイズのAFエリアを選べたり、画面内で自在に移動できたりする。前述のように、「アクティブ」モードにしておけば、スポット測光の枠もAFエリアに連動してくれる。AFモードは、メニューを表示しなくてもAFフレーム選択ボタンを押せば変えられ、エリアの大きさや位置も調整できて便利だ。日常のスナップや旅先の記念写真、子どもやペットを撮るぶんにはAFのスピード、精度ともにとくに問題を感じることはなく、快適に撮影できた。


AiAFはエリアの大きさを2段階で変えられるようになった。小のときはこのように、中央だけでなく画面内のどこにでも移動させることができる アクティブモードでもエリアの大きさが選べるが、このモードではエリアが大きいまでもエリアを移動させることができる

 「フェイスキャッチテクノロジー」と呼ばれる顔検出機能はすでにおなじみのものになった。被写体の顔に合わせてAF、AE、赤目補正を行なう機能だが、G9では新しくストロボ調光が行なわれるようになったほか、「顔セレクト機能」が搭載された。顔セレクトは、複数の顔が検出されたときに、どの顔を主要被写体として追尾し続けるかを設定できる機能だ。セレクトの操作には、AFフレームボタンを押して、十字ボタンの左右を押すという操作が必要になる。動体を追いかけながらの操作はちょっと困難に思えた。カメラを固定して、ステージ上の特定の人物を指定する、といった使い方はできそうだ。


複数の顔を検出すると、どの顔を追尾するかを選べる

 デジタル一眼のサブ機としても候補になりそうなG9だが、デジタル一眼になくてG9にある機能のひとつに、動画撮影がある。AVI(Motion JPEG)形式で、1,024×768ピクセル/15fpsのラージ動画のほか、スタンダードでは最大640×480ピクセル/30fpsの撮影が可能と、G7からの変更はないが、このサイズのままで圧縮率を上げて、記録時間を2倍に延ばしたLPモードが追加されている。

 また、640×480ピクセルで1秒または2秒に1コマを撮影する「インターバル動画」も設けられている。静止画のインターバル撮影機能の代わりとも言えるが、せっかくスチルカメラなのだから、静止画でより高い解像度のインターバル撮影ができるといいと思う。また、撮影間隔もより長い時間を選べるようになっていれば、面白い撮影ができるのだが。

 このほか機能面では、外部ストロボ「580EX II」との連携機能が搭載され、ワイヤレス調光などができるようになったほか、スピードライトトランスミッター「ST-E2」による多灯ライティングも可能になった。ストロボボタンを長押しすると、ストロボメニューが表示されて、調光やシンクロモードを簡単に設定できるようにもなっている。

 CIPA準拠の撮影可能枚数は240枚となっている。大きな液晶モニターや高画素CCD、手ブレ補正機構のように電気を食う仕組みを積んでいるコンパクトデジカメとしては納得のいく枚数だが、デジタル一眼のサブ機として使っていると、バッテリーがもたない印象を受けるかもしれない。なお、バッテリーと充電器はEOS Kiss Digital NやXと同じものが使える。


キヤノン画質を維持

 レンズはG7と同様に、35mm判換算で35~210mm、F2.8~4.8の光学6倍ズームレンズで、レンズシフト式の光学手ブレ補正機能が付く。広角側が35mmであることに不満な意見も見かけるが、設計に無理のない焦点域で、広角端、望遠端ともにディストーションが少ないところがこのレンズユニットのメリットだと筆者は考えている。6倍ズームも風景撮影などに非常に便利で、このカメラの性格にマッチした、よく考えられたスペックだと思う。より広角、望遠が必要ならば、コンバージョンレンズも用意されている。

 最小絞りはF8で、広角端で3段、望遠端で1と1/3段の絞りを、1/3ステップで選べる。Gシリーズではおなじみの内蔵NDフィルターも備えるが、これは絞りの調節には使われていないようで、F2.8からF8まで微妙ながらボケ具合も変わる。

※作例のリンク先のファイルは撮影した画像です。クリックすると、等倍の画像を別ウィンドウで開きます。

●ズーム


広角端
望遠端

広角端
望遠端

●絞りによる描画の違い


広角端 F2.8(開放)
広角端 F4

広角端 F5.6
広角端 F8

望遠端 F4.8(開放)
望遠端 F5.6
望遠端 F8

 撮像素子は1/1.7型有効1,210万画素CCD。G7が1/1.8型だったから、やや大きくなっている。画素が増えたものの、G7と比して画質に問題は感じられない。最高感度はISO1600で、シーンモードでISO3200も選べるが、こちらは画像サイズが1,600×1,200ピクセル、つまり約200万画素になる。

 ISO400以上の領域ではさすがに小型CCDらしくノイズが増えるし、ダイナミックレンジの点でも大型CCDには劣るが、低感度では一部のデジタル一眼レフを凌駕するほどの画質に感じられた。目安としては縮小したりLサイズ程度にプリントするなら夜間はISO800、昼間はISO400あたりを上限にして、それ以上は非常用といったところだろうか。

●感度による違い(昼間)


ISO80
ISO100
ISO200

ISO400
ISO800
ISO1600

ISO3200(シーンモード)

●感度による違い(夜間)


ISO80
ISO100
ISO200

ISO400
ISO800
ISO1600

ISO3200(シーンモード)

●長秒露光


5秒
10秒
15秒

実用になるRAW撮影機能

 G9最大のトピックスと言えるのがRAW撮影機能の復活だろう。スナップ主体のコンパクトデジカメにRAWは不要とという考え方もあるが、画質的にどうしても不利な小さい撮像素子のカメラにこそ、後から画像を救える可能性の高いRAW撮影機能は必要ではないか。また、G9のように趣味性の高い作りのカメラには、現像工程を楽しめるRAW撮影機能はよく似合った機能のように思える。

 コンパクトデジカメのRAW撮影機能は「おまけ」扱いになりがちで、記録に時間がかかったり、連写ができなかったりする。G9ではそのようなことはなく、JPEG撮影時よりはレスポンスは劣るものの、最短で2.8秒(メーカー発表値)、実測で平均4秒弱程度の間隔程度での撮影が可能だし、2秒に1枚程度ながら連写さえできる。G9のRAW撮影機能は、実用的なものといえるし、筆者はG9の試用中のほとんどの期間をRAW+JPEGで過ごした。

 RAWデータはJPEGの最大記録解像度と同じ4,000×3,000ピクセルで記録される。JPEGとの同時記録も可能だが、JPEGの記録サイズは4,000×3,000ピクセルに固定され、より小さなサイズは選べない。RAWファイルのサイズは小さくて約10MB、大きいもので約20MBと、かなりの開きがある。

 拡張子は同社のデジタル一眼レフのRAWファイルとおなじ、「CR2」だが、デジタル一眼レフに付属する画像処理ソフト「Digital Photo Professional」はG9のRAWに対応していない。だから、デジタル一眼とワークフローを統一したかったら、Ver.6以降のZoomBrowser EXかSILKYPIXなどのG9に対応した社外品のソフトを使うことになる。

 G9のRAW現像は、ZoomBrowser EXから起動される「RAW Image Task」で行なう。RAW Image Taskでは、露出補正、ホワイトバランスとマイカラーの調整(どちらもプリセット変更のほか微調整も可能だ)、トーンカーブによる明るさとコントラストの調整が可能だ。

 また、RAW Image Taskでは「適応ノイズ制御」という機能もある。RAW画像のノイズを除去する機能で、除去の度合いは0~10のレベルで調整できる。次の作例は左が適応ノイズ制御0、右が10としたものを200%拡大表示して画面キャプチャしたものだが、10のほうがノイズが減っている代わりに、ややディテールが失われているのがわかる。処理後のファイルも参考までに掲載しておく。

 ちなみにEOS Kiss Digital XやEOS 40Dで撮影したRAWデータをRAW Image Taskに読み込ませてみたら、適応ノイズ制御のコントロールが表示されなかった。どうやらG9だけで利用できる機能のようである。


トーンカーブ機能も備えるRAW Image Task
Digital Photo ProfessionalはG9のRAWに対応していない

RAW Image Taskの適応ノイズ制御は0~10のノイズレベルを選べる
左が適応ノイズ制御0、右が10。200%に拡大表示してキャプチャした

適応ノイズ制御0で現像した画像(クリックすると現像された画像そのものを表示します)
適応ノイズ制御10で現像した画像(クリックすると現像された画像そのものを表示します)

ハイエンドコンパクトの名に恥じない

 G9はそのクラシカルな外観や、銀塩カメラのシャッター音をサンプリングした擬似シャッター音のようなギミック、革ケースのようなオプションから、どこかおもちゃっぽさが先立ったカメラのように見えてしまう。ちなみにシャッター音は、G9になってシャッタースピードに連動して変わるという凝り具合だ。

 しかしその内側には、コンパクトデジタルカメラでは当代随一と呼べる実力を備えており、それをサポートするソフトウェアのできも満足のいくものだ。レンズのバリエーションやレスポンス、連写性能、高感度域や悪条件下での画質などはデジタル一眼レフが優れているのだが、肩肘張った作品作りではなく、日常のスナップや旅行の記録などでの使い勝手はデジタル一眼レフを上回るものがある。また、RAW撮影を活用すれば、作品作りにだって使えるだろう。量販店では5万円を超える価格が付けられているが、この内容ならバーゲンプライスに感じられる。

 コンパクトデジタルカメラとしては大柄なボディとせせこましくなった操作系という点を差し引いても、ハイエンドコンパクトの名に恥じないカメラと言えるだろう。


作例

※画像下の撮影データは、シャッター速度/絞り/露出モード/感度/実焦点距離/備考です。
※すべてJPEG/L、オートホワイトバランス、露出補正なし、分割測光で撮影しています。


1/500秒 / F4.8 / プログラムAE / ISO80 / 44.4mm
1/1,000秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 18.89mm

1/500秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 18.89mm
1/800秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 18.89mm

1/640秒 / F4.8 / プログラムAE / ISO80 / 44.4mm
1/1,000秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 7.4mm

1/1,250秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 12.73mm
1/640秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 7.4mm

1/640秒 / F5 / 絞り優先AE / ISO80 / 7.4mm
1/160秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 12.73mm

1/1,250秒 / F4.5 / プログラムAE / ISO80 / 16.82mm
1/125秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 14.78mm

1/30秒 / F2.8 / プログラムAE / ISO80 / 7.4mm

1/50秒 / F2.8 / プログラムAE / ISO200 / 7.4mm / マクロモード
1/1,250秒 / F4.5 / プログラムAE / ISO80 / 7.4mm / マクロモード

1/1,250秒 / F4 / プログラムAE / ISO80 / 29.17mm
1/200秒 / F4 / プログラムAE / ISO160 / 25.03mm


URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/powershot/g9/

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本誌:田中 真一郎

2007/11/08 00:11
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