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【新製品レビュー】DxO Film Pack Ver1.1

~銀塩フィルムの色や粒状感をデジタルで再現
Reported by 那和 秀峻

DxO Film Pack Ver.1.1のパッケージ
 RAW現像ソフトの「DxO Optics Pro」などで知られるDxOから、フィルムの色、コントラスト、粒状感などをデジタル画像上でシミュレートできるユニークなソフト「DxO Film Pack」が登場した。

 このDxO Film Pack(1万2,890円、現在はVer.1.1)は、カラーポジフィルム7種、モノクロフィルム9種、カラーネガフィルム5種と、デジタル画像を21種類のフィルムにシミュレート可能。さらに、調色(トーニング)も5種類が可能で、フィルムと現像液のクロス処理という珍しい機能も備えている。

 スタンドアローンのソフトとして作動するほか、Photoshop CS2/CS3のプラグイン、DxO Optics Pro Ver4.2以上のプラグインとしても動く。OSはWindows 2000、XP、Vista(Pentium 4以上、Pentium Dual Core以上、または同等のAMDプロセッサを推奨)、およびMac OS X 10.3.9または10.4(G4、G5またはIntel Mac)。メモリは1GB以上を動作条件としている。筆者はWindows XP SP2(Pentium D 3GHz、メモリ2GBの自作機)を使用した。


簡単なインストールとドラッグ&ドロップの操作

画像を読み込むと、シミュレートするフィルムの種類や、粒状感を設定するダイアログが現れる
 DxO Film Packのインストールはきわめて簡単で、HDDの必要空き容量も80MBだから、すぐにインストールは終了する。あとはインターネット越しにライセンス認証を受けておけばいい。

 操作系もきわめて簡単で、ウインドウにデジタル画像ファイルをドラッグ&ドロップするだけ。そうすると、右側にダイアログボックスが開いて、シミュレートしたいフィルムの種類を選ぶことができる。また、コントラスト、彩度、そのほかの特性、粒状性、輝度、アスペクト比、さらにファイルサイズを選ぶことができる。


フィルムとは微妙に異なるシミュレート

 カラーポジ(カラーリバーサル)フィルムだけで7種類のシミュレートができるというので、まずどのぐらいの差があるか見てみよう。

 オリジナルのデジタル画像はペンタックスK10Dで撮影したものである(写真1A)。このカメラはもともとフィルムに近いナチュラルな描写をしてくれるのだが、それをシミュレートするとどうなるのだろうか。


写真1A
オリジナルのデジタルカメラ画像
写真1B
エクタクローム100VSモード

写真1C
コダクローム25モード
写真1D
コダクローム64モード

写真1E
コダクローム200モード
写真1F
フジクローム・アスティア100Fモード

写真1G
フジクローム・プロビア100Fモード
写真1H
フジクローム・ベルビア50モード

 その結果は写真1B~1Hのようになった。黄色の発色、とくに影の部分に違いが出ている。いちばん大きく変化したのは写真1H(フジクローム・ベルビア50モード)で、影の部分がやや赤みがかっている。これはベルビア50(新しいベルビアIIでもほぼ同じ)の傾向として納得できるものだった。

 また、写真1B(コダクローム25モード)ではややオレンジがかり、写真1C(コダクローム64モード)ではやや黄色が強くなる傾向になっている。これはどちらかというと、逆のような感じでコダクローム25が黄色く、コダクローム64が赤っぽくなるのだが、被写体にもよるのだろう。この比較写真ではかなり微妙な差しか出なかった。

 そこで、こんどはフィルムをスキャンしたものをオリジナル画像とし、それを各フィルムにシミュレートさせてみた。スキャンに使ったのはニコンSuper COOLSCAN 4000 EDであり、スキャン後にPhotoshop CS2でオリジナル(ポジフィルム)に忠実するため、多少のレタッチは加えている。


写真2A
オリジナルのフジクローム・アスティア100Fのスキャン画像
写真2B
エクタクローム100VSモード

写真2C
コダクローム25モード
写真2D
コダクローム64モード

写真2E
コダクローム200モード
写真2F
フジクローム・プロビア100Fモード

写真2G
フジクローム・ベルビア50モード

 スキャンしたフィルムは、ニュートラルで彩度が高すぎないフジクローム・アスティアFである。写真2Aがそのオリジナルのスキャン画像だが、被写体にかなりカラフルなものを選んでいるため、アスティアFと言ってもかなり派手な色になっている。これでもやはりコダクローム25のシミュレート(写真2B)は赤っぽくなり、コダクローム64モード(写真2C)は黄色っぽくなった。

 コダクローム200モード(写真2D)は赤黄色になっているが、これは写真1のクルマの場合とちょっとちがう傾向だ。やはり被写体の元の色に左右されるのだろう。ベルビア50モードがかなり赤くなったのは予想通りである(写真2G)。

 意外だったのは、フジクローム・プロビア100Fモードもかなり赤くなったことだ(写真2F)。アスティアFと比べて、これほど赤くなるとは思っていなかったのだが、やはり被写体の色情報により、シミュレートが微妙に変化するアルゴリズムになっているのだろう。いずれにしても、いままでの経験とそれほどかけ離れてはいなくて、納得できるシミュレートになっていた。


フジクローム・プロビア100Fと比較してみると

 このDxO Film Packと、同一被写体の比較にはフジクローム・プロビア100Fを使用した。筆者が日頃使っていて、いちばんナチュラルな描写をしてくれると思っているからだ。

 まず最初は夕方、街角で見かけたバイクだが、曇り日だったので光はかなり回っている条件だった。フィルムにはキヤノンEOS-1V、デジタルにはキヤノンEOS 5Dを使い、レンズは両方に共用できるEF 24-105mm F4 L ISを使用した。


写真3A
オリジナルのプロビア100Fのスキャン画像(ISO400に増感現像)
写真3B
オリジナルのデジタルカメラ画像

写真3C
フジクローム・プロビア100Fモード

 フィルムはやわらかい描写になっている(写真3A)。色も記憶色に近くていいのだが、ISO400に増感して撮影しているのと、スキャンしてからJPEG圧縮しているので、粒子の荒れと圧縮ノイズが出ている。スキャンはしてあるが、やはりフィルムという感じがよく出ている。

 これに対して、デジタル画像のオリジナルはコントラストが高く、彩度も高い。また粒子などは出ないのがデジタル画像であるから、一見するとフィルムをスキャンした画像よりもよく見える(写真3B)。これをプロビア100Fにシミュレートしてみると、やや赤寄りになり、さらに派手になる。一般的にはこのほうがきれいと評価されるのだろう(写真3C)。

 つぎは晴天の日に影を中心にした、ちょっとむずかしい被写体を選んでみた。こんどはフィルムにはニコンF6とAF 85mm F1.4 D、デジタルにはニコンD200とAF-S VR 18~200mm F3.5-5.6 Gを使用した。


写真4A
オリジナルのプロビア100Fのスキャン画像(ISO100)
写真4B
オリジナルのデジタルカメラ画像

写真4C
フジクローム・プロビア100Fモード

 フィルムだと、影がやや青くなり、いかにもフィルムという感じが出ている。晴天日陰は色温度が高いので、青っぽくなるのはフィルムではとうぜんなのである(写真4A)。

 ところが、デジタルでは影があまり青くなく、むしろ全体にやや黄色っぽい(写真4B)。これはデジタルカメラおよびレンズがそういう傾向にあるからだ。そして、プロビア100Fをシミュレートしてみると、やや赤みがかってきた(写真4C)。これは写真1、写真2のシミュレート結果と一致する。しかし、どちらかというと影の雰囲気がやや少ない感じがした。

 プロビア100Fとの比較の最後は、かなりむずかしい撮影条件で行なってみた。


写真5A
オリジナルのプロビア100Fのスキャン画像(ISO100)
写真5B
オリジナルのデジタルカメラ画像
写真5C
フジクローム・プロビア100Fモード

写真5D
彩度やコントラストを低めにしてみた
写真5E
コダクローム64モード

 これにも写真3と同じカメラとレンズを使った。フィルムは渋めだが、やや青みの強い発色で、フィルムらしいナチュラルな色再現だ(写真5A)。

 デジタルのオリジナル画像はかなり彩度が高く、またわずかに黄色がかっているが、コントラストが高く、一般にはきれいと評価されるだろう(写真5B)。プロビア100Fモードにシミュレートすると、わずかにコントラストが低くなった(写真5C)。フィルムとはかなりかけ離れた結果になったが、これはオリジナルのデジタル画像がもともと彩度が高いため、このような結果になるのは納得できる。

 そして、このようなメリハリのきいた画像がデジタル画像に慣れた目にはむしろ親しみやすいと思う。では、フィルムに近くするにはどうしたらいいかと試行錯誤して、まず彩度やコントラストを低めにしてみた(写真5D)。これだけ色味を除くと、かなりフィルムに近くなる。

 さらに実験として、コダクローム64モードにシミュレートすると、やや地味になり、独特の描写になった。これも面白い(写真5E)。しかし、色味はやや黄色方向に傾いているのはこのシミュレートがそういう方向性を持っているから当然だ。色再現性は別にして、ちょっと渋めにフィルムに近い感じにしたければ、むしろコダクローム64モードを選ぶのがベストだ。


コダクローム、アスティア、トライXをシミュレート

写真6
オリジナルのコダクローム64プロのスキャン画像
 ほかのフィルムの傾向もチェックしてみることにした。ただし、コダクロームなどは入手困難であったので、同一被写体ではなく、同じような被写体をフィルムとDxO Film Packのシミュレート機能でどうなるかを見た。

 最初は1980年代の終わりまではメインのフィルムだったコダクローム64プロである。このフィルムでスナップしたのが写真6だが、渋めの描写の中に赤い色がやや強調されている、いかにもコダクロームらしい描写だ。


写真7A
オリジナルのデジタルカメラ画像
写真7B
コダクローム64モード

 デジタル画像はオリンパスE-1とZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5で撮影したが、このカメラはマゼンタ系の発色になる(写真7A)。このため、もともとコダクロームに近い発色傾向だった。そして、コダクローム64モードでシミュレートすると、やや赤みが強まってコダクローム調になった(写真7B)。この組み合わせはなかなか面白い。


写真8
オリジナルのフジクローム・アスティア100Fのスキャン画像
 つぎに、現在でもときどき使用するフジクローム・アスティアFを使用して撮影したもの(写真8)とシミュレートを比べた。

 カメラはミノルタα-9とAF Macro 100mm F2.8である。アスティアは彩度が低めと言っても、赤い色などはかなり鮮やかに出る。デジタル画像はニコンD40xとAF-S DX 18-55mm F3.5-5.6 G IIで撮影したものだが、もともと彩度が高めの設定になっている(写真9A)。


写真9A
オリジナルのデジタルカメラ画像
写真9B
フジクローム・アスティア100Fモード

 そこで、アスティアFモードでシミュレートしたら、さらに赤傾向が強くなり、鮮やかになった(写真9B)。これもデジタルカメラの画像に目が慣れてしまうと、いちばんきれいに見えるのだろう。個人的にはここまで彩度が上がらないほうがいいのだが、雨の中での撮影でこれだけ鮮やかに出るというのはさすがにデジタルである。


 最後はトライXのシミュレートで、フィルムはニコンF3にAF ED 80-200mm F2.8 Dズームで撮影した。

 フィルムらしいトーン豊かなモノクロ写真となっている(写真10)。また、少し露出アンダー気味なので、ピクセル等倍に拡大すると、トライXらしい粒状感になる。デジタルのほうはニコンD40xにAF-S DX 18-55mmレンズで、オリジナルはカラー画像で、曇り日だった(写真11A)。


写真10
オリジナルのTri-Xのスキャン画像
写真11A
オリジナルのデジタルカメラ画像

写真11B
Tri-Xモード
写真11C
写真11Bのトーンカーブを補正

 これをウィンドウにドラッグ&ドロップすると、モノクロに変換され、フィルムのような粒状性も出てくるという(写真11B)。しかし、デジタル画像を変換したため、コントラストが高く、やや「硬い」調子になっている。Photoshopのトーンカーブで少し調節したら、よりモノクロ写真らしい画像になった(写真11C)。モノクロの場合にはとくに階調が重要だから、このソフトを使うときには最終的な仕上げも考えておいたほうがいい。

 フィルムをシミュレートするという独創的なソフトで、またDxOのOptics ProやAnalyzerで得たノウハウが生かされている面白いソフトである。完全にフィルムと一致させるためにはかなりレタッチで追い込む必要があるが、簡単に疑似フィルム体験をデジタルカメラでしてみるには、このソフトは推奨できる。

 デジタル技術というのはまだまだいろいろな可能性を秘めていることを教えてくれたソフトである。



URL
  DxO
  http://www.dxo.com/
  ソフトウェア・トゥー
  http://www.swtoo.com/
  製品情報
  http://www.dxo.com/jp/photo/dxo_filmpack

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DxO Labs、「DxO FilmPack」最新版を公開(2007/03/13)



那和 秀峻
(なわ ひでたか)写真家およびテクニカルライター。1976年以来、カメラ雑誌を中心に活動。現在はほとんどデジカメ関係の仕事が多い。PC Watchに「那和秀峻の最新デジカメレビュー」を2003年より不定期連載。1989年よりMS-DOS 3.3CでPC入門。趣味のウェブサイトもあります( http://www.nawa-jp.com )。

2007/07/09 00:00
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