デジカメ Watch

【新製品レビュー】ライカ M8

〜ついに登場した“デジタル版M型ライカ"
Reported by 中村 文夫

装着レンズはM8と同時発表のエルマリートM 28mm F2.8 ASPH
 昔からのライカファンは、デジタルと聞いただけで拒否反応を示すかも知れないが、ライカM8は、紛れもなくライカそのものである。

 かく言う私も「なんでM8という由緒ある名前をデジカメなんかに付けるんだ!!」と、半ば呆れていたクチだが、実際にこのカメラを手にして、ライカカメラがM8という名前を与えた理由がよくわかった。要するにM8は画像の記録方式がデジタルに変わっただけの話。従来のM型ライカとまったく同じ感覚で撮影が楽しめる。


M型ライカを踏襲したデザイン

 外観デザインは、M型ライカの形を見事なまでに踏襲している。特に正面から見たスタイルは、従来のM型ライカそのものだ。ただし、よく見ると巻き上げレバーや巻き戻しクランクがなく、どこか不思議な感じがする。そして後ろを見ると、そこにはデジタルカメラのシンボルである液晶モニターがあり、明らかにデジタルカメラであることを再認識させられる。

 ボディサイズはM7より少し大きめで、高さと厚みが約2mmずつ増加。これに対し重量は65g軽くなっているが、実際に手にしてみると見た目以上に重く、ライカらしい存在感がある。

 最初は巻き上げレバーがないことに戸惑いを憶えるが、ホールド感が非常に高く、すぐに慣れてしまう。モーターでシャッターをチャージする速度は、2コマ/秒と決して速くはないが、手動でフィルムを巻き上げる感覚に近く、特に不満は感じない。シャッターチャージの音は比較的静かだが、シャッターの作動音は金属質で甲高い。金属羽根を使用した縦走りシャッターを採用しているので、従来の布幕横走りシャッターのように静かにできなかったようだ。

 ただし、特筆すべきは、シャッターの最高速が1/8,000秒にアップしたことだ。これまでM型ライカの最高速は1/1,000秒で、特に大口径レンズを使ったときなど、明るい場所では絞り開放で撮影できないことがウィークポイントだったが、M8でついにこの問題が解決した。シャッタースピードの設定はダイヤル式だが、倍数系列の目盛の中間にクリックがあり、1/2ステップの設定も可能である。





ライカM7との比較。正面から見ると、まさにウリふたつ。特にブラックボディの場合は、よく見ないと見分けが付かない

ライカM3(右)との比較 巻き上げレバーと巻き戻しノブがないことを除き、M8と従来のM型ライカの操作系はほとんど変わらない

ただしM8の背面には大きな液晶モニターがあり、デジタルカメラであることがひと目でわかる

M8はM型ライカとして初めて縦走りのフォーカルプレンシャッターを採用。中央部のブレードは、TTL測光の反射率を高めるため白く塗られている シャッターの最高速は1/8,000秒。Xスピードは1/250秒で、4秒までの長時間露光に対応している。このダイヤルには中間にクリックがあり、1/2ステップの設定も可能。シャッターボタンは3段式で、最初の段で露出計表示がオン、次いでAEロックが作動し、さらに押し込むとシャッターが切れる。AEロックのストロークは、浅すぎて感触がつかみにくい

露出計の測光分布図 露出補正はメニューから行なう。従来のM7のようにダイヤルでセットできるようにして欲しかった

 撮影モードはマニュアル露出と絞り優先AEの2モードを搭載。シャッターダイヤルをA位置に合わせると絞り優先AE、それ以外の位置だとマニュアル露出になる。測光方式はシャッター幕に反射した光をボディ内のセンサーでとらえる方式で、中央部に重きを置いた部分測光だ。絞り優先AEの場合、シャッターボタンの半押しでAEロックが作動するので、これと組み合わせると使いやすい。

 ただし露出補正は液晶モニターにメニュー画面を表示させ、十字キーまたは電子ダイヤルとボタン操作でセットする方式だ。最初にSETボタンを押してメニューを表示。十字キーの上下ボタンか電子ダイヤルでEVを選び、再度SETボタンを押す。そうするとサブメニューが現れるので、ここで電子ダイヤルか十字キーの上下ボタンで補正量を設定。そしてセットボタンを押すとようやく露出補正が可能になる。最後にセットボタンを押し忘れるとセットされずに終わってしまう。ISOやホワイトバランスなども同様の操作方法だ。これだけ従来のM型ライカの操作性を尊重しながら、この操作だけをデジカメ式にするとは興ざめである。やはり、露出補正はM7のようにダイヤル式にして欲しかった。


レンズ情報を利用して補正

 M8が搭載しているCCDのサイズは18×27mmで画素数は1,030万。画角を35mm判に換算するときの倍率は1.33だ。いわゆるAPS-Cサイズより一回り大きいので、思ったより画角が狭くならない。たとえば28mmは約37mm、35mmは約47mmに相当し、35mmレンズがこれまでの50mm標準レンズとして利用できる。

 M8にはローパスフィルターがなく、ソフトウェアでモアレの除去を行う方式だ。この点は一眼レフ用のRモジュールと同じだが、Rモジュールの場合はモアレ除去ソフトのオン/オフが選べたのに対し、M8は絶えずオンになる仕様である。

 さらにこのCCDに採用されているマイクロレンズは、周辺部のレンズが中央に向かってすこしずれて配置されている。これはフランジバックの短いライカMマウントの短所を補うための工夫である。80年以上前に決められた規格を守る以上、それなりの工夫が必要なのだ。また後で説明する6bitコードの採用により、画像処理段階でも周辺部の画像の低下を防ぐようになっている。

 M8のレンズマウントは、ライカMマウント。従来のM型ライカとほぼ完璧な互換性を保っている。もちろんMマウントカプラーを用意すれば、ねじ込み式のライカスクリューマウントレンズも装着可能だ。ただし、ホロゴン15mm F8,デュアルレンジズミクロン50mm F2、1954〜68年製造の沈胴式エルマー90mm F4は装着不可。スーパーアンギュロンM 21mm F4、スーパーアンギュロンM 21mm F3.4、製造番号2314921以前のエルマリートM 28mm F2.8は、装着できるが測光が働かない。


CCDサイズは18×27mmで画素数は1,030万 一部を除き、ほとんどのMマウントレンズが利用可能。Mマウントカプラーを使えばスクリューマウントレンズも装着できる

 さらにM8のマウントには6bitコードを追加。これをボディ側の光学センサーで読み取り、画像処理に利用する。6bitコードとは、レンズのマウント面に白と黒のドットを合計6個ペイントしたもので、レンズの焦点距離、開放F値、レンズタイプの新旧などの情報をカメラ側に伝えている。レンズの焦点距離はExifに書き込まれるほか、オートズーム式ストロボの照射角の自動調節に利用。焦点距離と開放F値、現行品か旧タイプのレンズであるかという情報は、画像データを処理する際に、周辺光量不足の補正などに利用される。

 またMマウントは、レンズ側の絞りリングでセットしたF値をボディに伝える機構を備えていないが、M8の場合、非常にユニークな方法で、この問題を処理している。M8の正面、ライカマークの左上に小さな受光部があるが、ここで検知した光量をTTL測光で得られたデータと比較。開放F値から何段程度絞っているかを割り出し、周辺光量不足の補正に利用しているのだ。

 6bitコードを持たないレンズを取り付けた場合は、このような補正は行われないが、広角レンズを使わない限り、大きな差は出ないようだ。またライカカメラジャパンでは、旧製品を6bitコード付きに改造するサービスも有料で行なっている。6bitコードの検知は、オフにすることも可能。新タイプのレンズでもクラシックレンズで撮影したようなテイストが味わえる。


レンズ側に白と黒で塗り分けられた6bitコードを装備。ボディ側にはこれを読みとる光センサーがある 6bitコードを画像処理に利用するか否かは、任意に選択できる

0.68倍のファインダーを装備

 ファインダーは二重像合致式距離計を内蔵した一眼式。倍率は0.68倍で、CCDサイズに合わせて倍率とブライトフレームの視野が変更されている。フレームを切り替える方式は従来のM型ライカと同じで、レンズ側のバヨネットの爪の長さをボディ側で機械的に検知する方式。24mmと35mm、50mmと75mm、28mmと90mmがセットになって表示される。スクリューマウントレンズを使用する際も、従来からある3種類のMマウントカプラーを使い分ければ大丈夫だ。なおM8は135mm用のフレームを内蔵していないが、これは、ファインダー内の視野があまりにも狭くなり実用的でないためだ。

 距離計の基線長は69.25mm。従来のM型ライカと長さ同じなので、ズミクロン35mm F1.4やエルマリート135mm F2.8などアタッチメント付きのレンズも使用できる。

 ファインダーの視野率はレンジファインダー機としては普通だが、一眼レフに比べると数値が低い。たとえば無限遠で撮影したとき、28mmレンズだと9%、90mmだと最大で23%広い範囲が写る。そのためシャッターを切った直後にレビュー画面を見ると、余計なものが写っていること感じることが多い。フィルムカメラなら、現像するまでの間に撮ったときの画を忘れてしまうが、この点、デジカメは始末が悪い。M8を従来のM型ライカと同じ感覚で使うなら、レビュー機能はオフにするべきだ。

 M8背面の操作部は、モニターの左側にボタン類、右側に電子ダイヤルと十字キーを備えたのレイアウトになっている。特に十字キーの外周が電子ダイヤルになったデザインは秀逸である。ただし、総合的な操作性はライカ独自のポリシーに基づいているので、慣れないと混乱しやすい。たとえばメニュー画面で各項目を選んだ後、最後にセットボタンを押さないと設定が完了しないなど、フェールセーフが過剰すぎる部分もある。特に他社製の一眼レフを使い慣れていると失敗しやすく注意が必要だ。


距離計の基線長は従来と同じなので、ファインダーにアタッチメントが付いたレンズも活用できる レンズ脇にあるフレーム切り替えレバー。このレバーを倒すとファインダー内のフレームが切り替わり、レンズ交換の際の目安として利用できる

ファインダー表示例。装着したレンズの焦点距離に合わせて、自動的にブライトフレームが表示される

28mmレンズ装着時のファインダー内 実際に撮影した画像。フレームが示す視野は意外と狭い

十字キーの外周が電子ダイヤルになっている バッテリーやSDカードは、ボディの底板を外して行なう方式。ライカの伝統がこんなところに現れている。三脚ネジ穴はボディ中央に移動し使いやすくなった

当然のことながらメニュー画面は日本語に対応 外部インターフェースはUSB

かなり大きめの専用充電器。ライカ製のACアダプターや充電器は、なぜか昔からむやみにデカイ。これもライカの伝統か?

まとめ

 M8のシャッターを押すまでの機能は、従来のM型ライカ、特に絞り優先AEを搭載したM7と、ほぼ同じと考えて良いだろう。したがって、これまでM型ライカを使ったことのあるユーザーなら、何の抵抗もなく使いこなせるはずだ。また旧くからのライカファンからすれば、フルサイズのCCDを採用しなかった点が問題かも知れないが、フランジバックの短いライカMマウントの規格で実用に耐えるデジタル画像を得るには、今回M8が採用したCCDが限界なのではないだろうか。確かに35mmフルサイズには及ばないが、エプソンR-D1sなどに比べると画角は格段に広く、少なくとも35mmレンズが標準レンズの代わりになる。

 余談になるが、現在、中古カメラ市場では、従来M型ライカの値崩れを懸念する声が上がっている。というのは、旧いM型ライカを処分し、M8に乗り換えるユーザーの増加が予想されるからだ。ライカファンは一般に保守的といわれるが、M8に対しては非常に好意的であるという。たとえばM6などは、発売当初は評価が低く、ライカファミリーの一員と認められるまでに数年を歳月を要した。だがM8は、発売前から、すでに大歓迎されている。

 時代の流れと言ってしまえば、それまでだが、やはりM8は、それなりに完成度が高い。定価はボディのみで58万円と高価だが、M7 Engraveと11万円強しか違わない。あくまでも相対的な比較だが、こう考えるとM8は意外と安く、ライカファンにとってお買い得なカメラといえるだろう。


作例

  • 作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 写真下の作例データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランスを表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した写真もあります。また、レンズ名を省略した場合もあります。


◆6bitコードによる補正

 6bitコード検出を「切」で撮影した画像は画面周辺部が暗くなっているのに対し、「入」で撮影した画像は、全体に均一な明るさになった。ただし全体に明るくなりすぎる傾向があるようだ。


レンズ検出「入」
エルマリートM 28mm F2.8 ASPH / 3,936×2,624 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO160 / WB:オート
レンズ検出「切」
3,936×2,624 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO160 / WB:オート

◆ISO感度による違い

 ISO640まではそれほどでもないが、ISO1250を越えると急激にノイズが増える。


ISO160 ISO320

ISO640 ISO1250

ISO2500

◆エルマリートM 28mm F2.8 ASPH

 M8と同時発表の新レンズ。


28mmは35mm判の37mmに相当。遠近感が自然で使いやすい焦点距離だ
3,936×2,624 / 1/360秒 / F5.6 / 0EV / ISO160 / WB:オート
水面に写った空の部分も飛ぶことなくトーンが残っている
3,936×2,624 / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO160 / WB:オート

被写体にグンと近づくと、遠近感が強調され広角レンズらしい表現ができる。花びらの1枚1枚が緻密に描写されている
3,936×2,624 / 1/1,502秒 / F2.8 / 0EV / ISO160 / WB:オート
薄曇りの条件だが、赤い欄干の色が鮮やかに再現された。前ボケも自然で美しい
3,936×2,624 / 1/1,502秒 / F2.8 / 0EV / ISO160 / WB:オート

ファインダーでは画面上部の天窓をカットしたつもりだったが、視野率が低いので写り込んでしまった
3,936×2,624 / 1/30秒 / F2.8 / 0EV / ISO320 / WB:オート

◆そのほか


35mm判の47mmに相当する35mmは、ライカの定番標準レンズである50mmの代用になる。M8はシャッター速度の最高速が速いので、日昼でも絞り開放で使える。従来のM型ライカでは、決してできなかったことだ。男性の左肩の部分を拡大してみるとモアレが発生している。細かい模様は苦手のようだ
ズミクロンM 35mm F2 / 3,936×2,624 / 1/2,000秒 / F2 / 0EV / ISO160 / WB:オート
画面中央の白い部分にピントを合わせた。黒い砂粒が克明に描写されている
ズミクロンM 35mm F2 / 3,936×2,624 / 1/750秒 / F2 / 0EV / ISO160 / WB:オート

パステルトーンの壁面と原色のテーブル色が忠実に再現された
ズミクロンM 35mm F2 / 3,936×2,624 / 1/125秒 / F2 / 0EV / ISO160 / WB:オート
AEロックを使い、窓の外の風景に露出を合わせた
ズミクロンM 35mm F2 / 3,936×2,624 / 1/1,000秒 / F2 / 0EV / ISO160 / WB:オート

50mmは66.5mmの中望遠レンズに相当。開放で撮影すると被写界深度の浅い表現ができる
ズミクロンM 50mm F2 / 3,936×2,624 / 1/3,003秒 / F2 / 0EV / ISO160 / WB:オート
手前の星形にピント合わせて撮影。立体感の感じられるボケ味が得られた
ズミクロンM 50mm F2 / 3,936×2,624 / 1/1,000秒 / F2 / 0EV / ISO160 / WB:オート

【11月18日】ISO感度別作例を差し替えました。



URL
  Leica
  http://www.leica-camera.us/
  レンズ交換式デジタルカメラ機種別記事リンク集(M8)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/dslr.htm#m8



中村 文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2006/11/17 13:42
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