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【特別企画】フォーサーズ用マクロレンズ4本を比較

~使いこなしテクとそれぞれの実写画像
Reported by 吉住 志穂

比較に使った4本のレンズ。左からシグマ105mm F2.8 DG、オリンパスZuiko Digital 35mm F3.5、オリンパスZuiko Digital 50mm F2、シグマ150mm F2.8 DG HSM
 マクロレンズは接写を主な目的としたレンズで、もともとは写真や紙資料などの複写用に開発されました。しかし、草花や小物を撮影するのに便利なので、あらゆるジャンルのカメラマンに使われています。現在、各メーカーともにさまざまな焦点距離のマクロレンズを発売していて、例えば、フォーサーズマウントではオリンパスの35mmと50mm、シグマの105mmと150mmの計4本のマクロレンズが選択できます。

 小さいものを大きく写せるという点ではどのマクロレンズも同じ。では、どのような違いがあるのでしょうか。ここではフォーサーズマウント4本のマクロレンズを例に挙げ、使いこなしのポイントをご紹介しましょう。


ポイントは「焦点距離」と「最大倍率」

 まず、大きな違いは焦点距離です。35mmフィルムカメラにおいて、焦点距離35mmは広角マクロレンズ、50mmは標準マクロレンズ、105mmは中望遠マクロレンズ、150mmは望遠マクロレンズと呼ばれます。広角側になるほど画角が広いので、当然、広く写ります。被写界深度は深くなり、また、遠近感が強調されます。一方、望遠になるほど画角が狭くなり、遠くのものを大きく写せます。広角レンズとは逆に、背景がボケやすくなる上、遠近感は消失し、密集感が出ます。これらは一般的なレンズの傾向と同じです。

 カタログを見ると、焦点距離は「35mm判換算で◯◯mm」などと表記されていますが、これは撮像素子の大きさに違いがあるためです。フォーサーズではレンズ表記の焦点距離に対して2倍相当の焦点距離の画角になり、例えば35mmが70mm相当、50mmが100mm相当となります。ただし画角は変わりますが、背景のボケやすさは50mmなら35mm判の50mmと同じなのです。単純に、画面の中心部を切り抜いたと考えればわかりやすいと思います。これはAPS-Cサイズ相当の撮像素子を持つデジタル一眼レフカメラでも同じです。よく「デジタル(APS-Cサイズ相当の撮像素子)はボケにくい」、「フォーサーズはボケにくい」といわれるのはそのためです。

 焦点距離が違うと、具体的に写真がどう変わるのでしょう。まず、背景のボケ方が変わってきます。私の場合は良く背景をボカすので、どのようなボケが得られるかで使用するレンズを選びます。望遠ほどボケが大きく、広角ほど被写界深度が深くなる特性があるわけですから、被写体を同じ大きさに撮ってみると、背景のボケ方の差がよくわかります。また被写体と背景との距離によっても変わるので、どの程度ボカしたいのか、どの程度背景を取り込みたいのかによって、使用するレンズを決めましょう。

◆焦点距離によるボケの違い

  • 作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 写真下の作例データは、レンズ名/ボディ名/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランスを表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。


35mm
オリンパス35mm F3.5 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/125秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天
50mm
オリンパス50mm F2 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/125秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

105mm
シグマ105mm F2.8 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/125秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天
150mm
シグマ150mm F2.8 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/125秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

 もうひとつ大きな違いとして、最大撮影倍率が挙げられます。といっても、現在各社が出しているマクロレンズは、等倍(被写体の大きさと、撮像素子に写る大きさが同じ)での撮影が可能なのものがほとんどです。ただし、例外的にオリンパスのZuiko Digital 50mm F2 Macroは2分の1倍まで。最短撮影距離で撮影した写真を見比べると、50mmマクロで撮ったものだけ、拡大率が低いことがわかります。また、等倍というのは被写体と撮像素子に写る大きさが同じということなので、フルサイズカメラと比べた場合、APS-Cサイズのカメラやフォーサーズのカメラでは、撮像素子のサイズの違いから撮影範囲が狭くなり、被写体がフルサイズの等倍以上に大きく写ります。

◆最大撮影倍率


オリンパスZuiko Digital 35mm F3.5 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/15秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 オリンパスZuiko Digital 50mm F2 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/15秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

シグマ105mm F2.8 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/15秒 / F3.5 / 1EV / ISO100 / WB:晴天 シグマ150mm F2.8 / E-330 / 3,136×2,352 / 1/15秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

 また、レンズによってワーキングディスタンスが異なります。ワーキングディタンスとは、レンズの先端から被写体までの距離のことです。望遠レンズほどこの距離が長くなります。

 撮影倍率が同じであっても、遠くにある被写体を大きく写したい場合は、ワーキングディスタンスの長い望遠系のマクロレンズが便利です。一方、引きがとれない、つまり被写体との距離をとれない場合は、ワーキングディスタンスの短いレンズが便利です。

◆各レンズのワーキングディスタンス(被写体からの最短距離)


オリンパスZuiko Digital 35mm F3.5 オリンパスZuiko Digital 50mm F2

シグマ105mm F2.8 EX DG シグマ150mm F2.8 EX DG HSM

 開放F値にも違いがあり、今回用意した4本の場合、35mmマクロレンズはF3.5とちょっと暗めで、105mmと150mmマクロレンズはともにF2.8、50mmマクロレンズはF2と明るくなっています。開放F値の違いによって、背景のボケ方に多少の差はあるものの、これくらいの差なら大きく違いは出ません。むしろ、得られる光量に差を感じます。マクロ撮影では拡大率が上がるため、被写体ブレが目立ちやすくなります。そのため、明るいレンズでちょっとでも速いシャッターが切れた方が、安心感があります。

 以上がスペックからわかる主な違いですが、当然、操作性にも違いがあります。一番気になるのは、ピント合わせに関する問題です。マクロ撮影では被写界深度が極端に浅くなるため、ピント合わせが非常にシビアです。さらに、「コサイン誤差」といって、AFを使って中央でピントを合わせてから、AFロックしながらフレーミングを変えると、ピントがずれてしまいます。

 そこで、カメラ側をAF+MF(E-330とE-500の場合)に設定し、おおよそのピント合わせをAFで行ない、MFで微調整しています。ここで気になるのは、電動ズームリングを採用したオリンパスのレンズ。オリンパスのデジタルカメラはピントリングの回転方向を右、または左から選択でき、ほかのボディからの乗り換えが容易なのですが、MF派の私としては、たくさん回転させないといけないところに不便さを感じます。一方シグマの105mmマクロは、ピントリングを前後にスライドさせることによってAF/MFを切り替えられ、AF操作の後、瞬時にMFへと切り替えられます。さらにシグマの150mmマクロは、いわゆるフルタイムマニュアル操作が可能。AFで合わせたあと、そのままピントリングを回してMFの調整ができ、大変便利です。


レンズ別作品と解説

◆オリンパスZuiko Digital 35mm F3.5 Macro


E-330に装着したところ。オリンパス曰く「世界最軽量のマクロレンズ」。価格は37,257円
 このレンズの最大の特徴は大きさと重量。最大径×全長は71×53mmで、何と165gと超軽量・コンパクト。同じく軽量のデジタル一眼レフカメラ「E-500」と組み合わせれば、気軽にマクロ撮影が楽しめます。しかし、レンズが小さいぶん、開放F値は他のマクロレンズに比べ、F3.5とわずかに暗くなっています。

 絞り羽枚数は7枚で円形絞りを採用。F4までは丸く、F5.6からF8ぐらいでボケが角張ってきます。レンズ構成は6群6枚。最大撮影倍率は1:1。最短撮影距離は0.146mなので、ワーキングディスタンスはとても短いです。被写体に触れてしまうぐらい近づかないと等倍での撮影はできないため、近寄れる被写体に向いています。35mm判換算で70mm相当の画角となります。

 ★絞り別作例


F3.5
E-330 / 3,136×2,352 / 1/400秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天
F4
E-330 / 3,136×2,352 / 1/320秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

F5.6
E-330 / 3,136×2,352 / 1/160秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天
F8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/80秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

 ★作品


E-330 / 3,136×2,352 / 1/80秒 / F8 / 1EV / ISO100 / WB:晴天 E-330 / 3,136×2,352 / 1/320秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

E-330 / 3,136×2,352 / 1/250秒 / F3.5 / 1EV / ISO100 / WB:晴天 E-330 / 3,136×2,352 / 1/500秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

◆オリンパスZuiko Digital 50mm F2 Macro


初のフォーサーズ用マクロレンズ。価格は85,050円
 35mm判換算で100mm相当の画角のため、中望遠マクロレンズといえる製品。しかし、焦点距離は50mmのままのため、ボケにくく感じます。感覚としては、100mmマクロを扱うときよりも被写体に一歩迫ると、同じようなボケが得られます。

 今回試した製品の中で唯一のF2という開放F値を実現。とても明るいのが特徴です。開放では丸いボケになりますが、F2.8に絞ると角が出始めます。また、ピント部からの位置によっては像が重なったようなボケが出ます。コンパクトさは35mmマクロレンズと大差ありませんが、レンズの大きさや枚数の違いにより、300gと重みはあります。

 レンズ構成は10群11枚、ED(特殊低分散)レンズを使用していて、とてもシャープ感があります。最大撮影倍率は1:2と等倍に達していません。もっと、大きく写したい場合は別売のエクステンションチューブEX-25
(16,800円)を使用すると、ほぼ等倍での撮影が可能になります。
背景をボカしたい場合には、1.4倍のテレコンバーター「EC-14」(58,800円)も利用できます。

 ★絞り別作例


F2
E-330 / 3,136×2,352 / 1/1,000秒 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天
F2.8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/500秒 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天

F4
E-330 / 3,136×2,352 / 1/200秒 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天
F5.6
E-330 / 3,136×2,352 / 1/100秒 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天

F8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/60秒 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天

 ★作品


E-500 / 3,264×2,448 / 1/800秒 / F2.5 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 E-500 / 3,264×2,448 / 1/250秒 / F2 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

E-330 / 3,136×2,352 / 1/200秒 / F3.2 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 (エクステンションチューブ「EX-25」を使用)
E-330 / 3,136×2,352 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天

◆シグマMacro 105mm F2.8 EX DG


デジタル対応を表す「DG」と高性能ブランドネーム「EX」を冠したマクロレンズ。価格は68,250円
 花を撮るときにワーキングディタンスが一番扱いやすい中望遠マクロレンズ。中望遠といっても210mm相当になるので、遠くの被写体を引き寄せることもできます。望遠レンズほど背景がボケやすいので、後述する150mmマクロレンズの方が大きくボケますが、ボカしすぎるとぺたっとした背景になり、雰囲気が損なわれてしまう場合があります。そこでこのレンズを選べば、背景をボカしながらもある程度状況を見せるという、程よいボケ方になります。

 レンズ構成は10群11枚。最大撮影倍率は1:1。ねじ込み式のフードを採用し、フードを回せば、前枠に付けたPLフィルターも一緒に回転するので便利です。また、フードの先端に77mm径のフィルターを装着できます。強い逆光時、周辺部に縁取りのような線が出ることがありますが、中心部では見られません。ピントを合わせた部分はとてもシャープ感があります。

 ★絞り別作例


F2.8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/640秒 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天
F4
E-330 / 3,136×2,352 / 1/320秒 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天

F5.6
E-330 / 3,136×2,352 / 1/160秒 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天
F8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/80秒 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天

 ★作品


E-330 / 3,136×2,352 / 1/320秒 / F3.5 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天 E-330 / 3,136×2,352 / 1/160秒 / F3.5 / 0.7EV / ISO100 / WB:晴天

E-330 / 3,136×2,352 / 1/100秒 / F2.8 / EV1.70 / ISO100 / WB:晴天 E-330 / 3,136×2,352 / 1/320秒 / F2.8 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天

◆シグマAPO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM


300mm相当の望遠マクロレンズ。純正にはない超音波モーターも特徴。10万3,950円
 大口径の望遠マクロレンズ。レンズ構成は12群16枚。SLDガラスが2枚使用され、色の滲みが出にくく、また、ボケはとてもなめらかで、ざわざわした描写になりがちな二線ボケも見られません。F4まではボケは丸く、F5.6まではほぼ円形。F8になってやっと角がはっきりと出始めます。

 最大撮影倍率は1:1と他のレンズと差はありませんが、焦点距離が150mmとフォーサーズマクロレンズで一番長いので、遠くの被写体を大きく写したいときにとても便利です。望遠レンズの特徴である圧縮効果を出したいときや、背景を大きくぼかしたいときにはこの焦点距離を選びましょう。

 フォーサーズマウントでは35mm判換算で300mm相当になり、コンパクトながらサンニッパ(300mm F2.8)の大きさで写るのが魅力です。三脚座がついているので、光軸をずらすことなく、瞬時に瞬時に縦横変換ができます。また、フルタイムマニュアルで細かなピントの微調整もスムーズです。コストパフォーマンスは非常に高いといえるでしょう。

 ★絞り別作例


F2.8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/400秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天
F4
E-330 / 3,136×2,352 / 1/200秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

F5.6
E-330 / 3,136×2,352 / 1/100秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天
F8
E-330 / 3,136×2,352 / 1/50秒 / 0EV / ISO100 / WB:晴天

 ★作品


E-330 / 3,136×2,352 / 1/40秒 / F2.8 / -2EV / ISO100 / WB:晴天 E-330 / 3,136×2,352 / 1/320秒 / F2.8 / 0.3EV / ISO100 / WB:晴天

E-330 / 3,136×2,352 / 1/200秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:晴天 E-330 / 3,136×2,352 / 1/800秒 / F4 / -1EV / ISO100 / WB:晴天

まとめ

 このようにマクロレンズといっても、さまざまな種類のものが発売されています。今回はフォーサーズ用のマクロレンズに限定して解説しましたが、どのメーカーも複数のマクロレンズを発売していますし、レンズメーカーのものを加えると、選択肢はさらに広がります。

 実際に使ってみなければわからない部分もありますが、掲載した写真を参考にしていただければと思います。被写体は花に限らず、これからのイルミネーションやモデル撮影にも有効です。カメラ選び以上に、好きなレンズに出会い、そのレンズが使えるボディをチョイスする、というカメラの選び方もあります。ぜひ、マクロレンズを通した世界を楽しまれてください。


【11月16日】等倍に関する定義を述べた箇所と、それに続く内容に修正を加えました。また、EX-25の解説を加えました。
【11月16日】150mm F2.8の解説における「最短距離が38cmなので」を「焦点距離が150mmとフォーサーズマクロで一番長いので」に変更しました。



URL
  オリンパス
  http://www.olympus.co.jp/
  製品情報(Zuiko Digital 35mm F3.5 Macro)
  http://olympus-esystem.jp/products/lens/35_35M/
  製品情報(Zuiko Digital 50mm F2 Macro)
  http://olympus-esystem.jp/products/lens/50_20M/
  シグマ
  http://www.sigma-photo.co.jp/
  製品情報(Macro 105mm F2.8 EX DG)
  http://www.sigma-photo.co.jp/lens/macro/105_28.htm
  製品情報(APO Macro 150mm F2.8 EX DG HSM)
  http://www.sigma-photo.co.jp/lens/macro/150_28.htm



吉住 志穂
(よしずみ しほ)1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信事務所に入社。 2005年4月に独立。現在、自然の「こころ」をテーマに、花や風景の作品を撮り続けている。『月刊カメラマン』、『デジタルフォト』で連載中。日本自然科学写真家協会(SSP)会員。フジクロームクラブ講師、ズイコーアカデミー講師。http://www.geocities.jp/shihoyoshizumi/

2006/11/14 00:19
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