デジカメ Watch

【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】
smc-PENTAX DA 21mm F3.2 AL Limited

~安くなくても欲しくなる薄さと質感、描写力
Reported by 伊達 淳一

 最近はズームレンズが全盛で、マクロレンズや超高価な大口径レンズを除いては、単焦点レンズが新製品として発売されることは少なくなってきた。そんな中で、ペンタックスだけは、“Limitedレンズ”シリーズとして、個性的な単焦点レンズを続々と拡充しつつある。

 “Limitedレンズ”シリーズは、試験機などによる数値評価だけでなく、実写による画質評価を繰り返し、設計にフィードバックすることで“レンズの味”までも追求したレンズだ。これまでに発売されたLimitedレンズは、35mm一眼レフ用に開発されたFA 43mm F1.9 Limited、FA 77mmF 1.8 Limited、FA 31mm F1.8AL Limitedの3本と、デジタル専用のDA 40mm F2.8 Limitedの計4本で、今回発売されたDA 21mm F3.2 AL Limited で5本目のLimitedレンズとなる。なお、フォトイメージングエキスポ2006では、DA 21mm F3.2 AL Limitedと合わせ、DA 70mm F2.4 Limitedも参考出品されており、こちらの発売は10月頃を予定しているという。

 DA 21mm Limitedの特徴はなんと言っても“全長25mm”という薄さだ。重さもわずか140gしかない。いわゆる“パンケーキレンズ”と呼ばれる薄型レンズだが、先に発売されたDA 40mm Limitedに比べると少しだけ厚く、パンケーキというより水ようかん、という感じだ。ただ、DA 18-55mm F3.5-5.6と並べてみると圧倒的にコンパクトだ。*ist DS2に装着したときのバランスもなかなかだ。


フードを外した状態
フードを取り付けた状態

レンズキットのDA 18-55mm F3.5-5.6との大きさ比較。フードを装着した状態でも半分ほどの長さだ
ist DS2に装着したDA21mm F3.2AL Limited

 そして、なによりも嬉しいのは21mmという焦点距離。APS-Cサイズのデジタル一眼レフでは画角が狭くなるので、40mmでは60mm相当の画角になってしまい、お散歩のお供には少し望遠過ぎる。その点、21mmなら32mm相当の画角になるので、スナップ撮影に非常に適している。

 最短撮影距離は20cmで、この画角のレンズとしては水準以上に寄れる。薄いレンズなのでMFリングの幅は非常に狭いが、左の親指と中指で下からMFリングをつまむように操作すれば、レンズのヘリコイドを持ち替えることなく、最短撮影距離から無限遠までクイックに動かせるのは快適。被写界深度目盛付きの距離指標も備えているので、サッと目視で距離を測り、距離指標を目安にピントを合わせスナップする、といった昔ながらの撮影法も楽しめる。Quick-Shift Focus Systemも備えているので、S-AF合焦後にMFモードに切り換えなくても、そのままMF操作が行えるのも便利だ。

 絞り羽根は7枚だが、絞りの形状が角張っているのが残念。ペンタックスは絞り羽根が多くても絞り形状が角張っているレンズが多いが、せめてLimitedを名乗るレンズくらいは、開放絞りから2~3段くらいまでは丸みを帯びた円形絞りを採用して欲しいと思う。

 DA 21mmのフードはバヨネット着脱の金属製フードで、一般的なレンズのフードとは異なり、レンズキャップに長方形の穴が開けたような形状をしている。フレアカッター的な役割が期待できそうだ。フィルター径は49mmで、フード装着時にはフィルターは取り付けられないが、フードの裏側に43mmのフィルター溝が刻まれているので、ここにフィルターを装着可能だ。ただし、フィルターは逆向きに装着することになるので、サーキュラーPLは効果を発揮できないし、フィルター枠を回転させることも困難なので、PLフィルターを使いたいときは、おとなしくフードを外して使うしかなさそうだ。


DA 21mmの絞り形状。7枚絞り羽根としてはやや角張っている
付属のフードはバヨネット着脱式。フードに43mm径のフィルター溝が設けられている

 ところで、DA 21mmを持って初めて撮影に出て、わずか3時間でこのフードが行方不明になってしまうというアクシデントに見舞われた。って、要は知らない間にレンズから外れて落としてしまったのだ。あわてて歩いてきた道を引き返し、フードが落ちていないか、探し回ったがどうにも見つからない。

 結局、ないものはない、ということであきらめ、再び撮影を再開したが、もしやと思って、買い物袋代わりのデイパックを探してみると、ありました! どうやら買い物をして商品をデイパックにしまう際に、首から提げていたカメラに商品が当たって、そのときにフードがずれてデイパックのなかに落ちてしまったようだ。もし、フードのバヨネットのクリック感が弱めだったら、注意したほうがいいだろう。


ピント合わせはシビアだが、魅力的な描写力

 さて、肝心なのは描写性能だが、今回、作例サンプルの大半をRAWで撮影し、SILKYPIX Developer Studio 2.0でデジタル現像している。というのも、*ist DS2には、“鮮やか”と“ナチュラル”の2種類のJPEG画質モードがあるが、“鮮やか”だとシャープネスが強すぎて輪郭強調の縁取りが解像感を損なうし、“ナチュラル”だと素材性重視で逆にシャープネスが弱過ぎて、ボヤッと甘い描写に見えてしまう。これではせっかくのLimitedレンズの描写が味わえない。

 そこで、撮影枚数や撮影レスポンスは低下するものの、上質な画質を引き出せるRAWで記録し、SILKYPIX Developer Studio 2.0でパラメータをいじらず、デフォルト設定でデジタル現像したものを掲載することにした。ちなみに、7月下旬に発売されるK100Dに同梱されるPENTAX PHOTO Laboratory 3.0(PPL3)はSILKYPIXのエンジンを採用しており、従来の*ist Dシリーズで撮影したRAWもPPL3で現像し直すことで、さらなる高画質を引き出すことが可能だ。

 まず、歪曲収差と周辺光量のチェックだ。単焦点レンズということで、歪みの少なさを期待していたが、陣笠傾向のあるタル型収差だ。絞り開放では周辺光量低下も多少あるが、F5.6まで絞れば解消する。単焦点レンズとはいえ、薄さを最優先した結果だろう。しかしながら、PPL3やSILKYPIXには歪曲収差や周辺光量補正機能が備わっているので、どうしても気になるならRAWで撮ってPPL3やSILKYPIXで現像すればいいし、個人的には広角系の周辺光量低下は作画効果として活かすこともできるのでそれほど気にならない。周辺光量低下は絞れば回避できるのだから、それほど目くじらを立てることもないと思う。


歪曲収差と周辺光量

※作例のリンク先はRAW画像を現像して生成したJPEGファイル、または、JPEGで撮影したファイルです。
※画像下のデータは画像サイズ / 露出時間 / F値 / 露光補正値 / ISO感度です。


【F3.2】
3,008×2,008ピクセル / 1/3,200秒 / F3.2 / 0EV / ISO200
【F4】
3,008×2,008ピクセル / 1/2,500秒 / F4 / 0EV / ISO200

【F5.6】
3,008×2,008ピクセル / 1/1,250秒 / F5.6 / 0EV / ISO200

 次にボケチェックだ。開放F値がF3.2とそれほど明るくはなく、しかもAPS-Cサイズのデジイチ(デジタル一眼レフ)なので、かなり撮影距離が短くないと大きなボケは望めないが、絞り開放でも色ニジミや色ズレは少なく、口径食もほとんどないようだ。ただ、中途半端にボケた部分がうるさく感じられることもあり、ボケが美しいレンズとまではいかないようだ。それと、絞ったときに、やはり角張った絞りの形状が出てしまうのが残念だ。


絞りごとのボケ

【f3.2】
2,008×3,008ピクセル / 1/800秒 / F3.2 / 0EV / ISO200
【F4】
2,008×3,008ピクセル / 1/500秒 / F4 / 0EV / ISO200
【F5.6】
2,008×3,008ピクセル / 1/320秒 / F5.6 / 0EV / ISO200

【F8】
2,008×3,008ピクセル / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO200
【F11】
2,008×3,008ピクセル / 1/60秒 / F11 / 0EV / ISO200

 逆光性能はなかなかいいようだ。画面内に強い光源を入れて撮影しても盛大なゴーストが発生したり、画面全体がフレアっぽくなってしまうことはなかった。うるさいことを言えば、絞り値によるボケ変化のカットを見るとわかるが、F11まで絞ると左から2本目の樹木にかぶるように淡いゴーストが発生している。絞りを開けると、このゴーストが大きく広がって淡くなるので、F8よりも絞りを開けたカットではほとんど目立たない。また、パープルフリンジも少なめで、木漏れ日など輝度差の大きな部分を見てもほとんど色づきは生じていない。

 開放F値を無理していないこともあって、ごく四隅を除けば絞り開放からキレのいい描写だ。ただし、わずかでもピントのピークを外すと少し甘い描写になる。ボクの*ist DS2ではわずかに後ピンになるケースも多く、絞り開放での撮影は神経を使うが、F8程度まで絞って撮影すると被写界深度も深くなるので、ピント合わせもだいぶ楽になる。

 実売で5万円前後とこのスペックの単焦点レンズとしては安くないものの、それでも欲しくなる薄さと質感、そして描写力を備えたレンズだ。7月下旬発売のK100Dなら、シャッタースピード2~3.5段分の手ブレ補正効果が得られるので、このDA 21mmと組み合わせて夕暮れや街の夜景など薄暗いシーンでのスナップ撮影を楽しんでみたいものだ。


作例

3,008×2,000ピクセル / 1/60秒 / F8 / 0.7EV / ISO200 2,008×3,008ピクセル / 1/15秒 / F3.2 / 0EV / ISO800 2,008×3,008ピクセル / 1/125秒 / F3.2 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/10秒 / F3.2 / 0EV / ISO800 3,008×2,008ピクセル / 1/60秒 / F3.2 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/100秒 / F3.2 / 0EV / ISO200
3,008×2,008ピクセル / 1/200秒 / F5.6 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/40秒 / F3.5 / 0.3EV / ISO200 3,008×2,008ピクセル / 1/30秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/50秒 / F3.2 / 0.3EV / ISO400 3,008×2,008ピクセル / 1/60秒 / F3.5 / 0EV / ISO400

2,008×3,008ピクセル / 1/20秒 / F4 / 0.3EV / ISO200 2,008×3,008ピクセル / 1/40秒 / F8 / 0EV / ISO400 2,008×3,008ピクセル / 1/60秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO400

3,008×2,008ピクセル / 1/25秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO400
3,008×2,008ピクセル / 1/800秒 / F3.2 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/80秒 / F4.5 / 0EV / ISO200
3,008×2,008ピクセル / 1/60秒 / F4.5 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO400
3,008×2,008ピクセル / 1/800秒 / F4 / 0EV / ISO400

2,008×3,008ピクセル / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO400
2,008×3,008ピクセル / 1/60秒 / F8 / 0EV / ISO200
2,008×3,008ピクセル / 1/320秒 / F4.5 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/60秒 / F4 / 0EV / ISO400
3,008×2,008ピクセル / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200

3,008×2,008ピクセル / 1/50秒 / F4 / 0EV / ISO400
3,008×2,008ピクセル / 1/60秒 / F8 / 0EV / ISO400

2,008×3,008ピクセル / 1/50秒 / F5.6 / 0EV / ISO400
2,008×3,008ピクセル / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO400
2,008×3,008ピクセル / 1/50秒 / F11 / 0EV / ISO400

3,008×2,008ピクセル / 1/15秒 / F9 / 0EV / ISO400
3,008×2,008ピクセル / 1/60秒 / F4.5 / 0EV / ISO400

3,008×2,008ピクセル / 1/100秒 / F4.5 / 0EV / ISO400
3,008×2,008ピクセル / 1/100秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO400

2,008×3,008ピクセル / 1/50秒 / F8 / 0EV / ISO800
2,008×3,008ピクセル / 1/13秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO800
2,008×3,008ピクセル / 1/250秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO800

2,008×3,008ピクセル / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200
2,008×3,008ピクセル / 1/50秒 / F10 / 0EV / ISO200
2,008×3,008ピクセル / 1/20秒 / F5.6 / 0EV / ISO400

3,008×2,000ピクセル / 1/1,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO200
3,008×2,000ピクセル / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200

3,008×2,000ピクセル / 1/8秒 / F4.5 / 0EV / ISO800 / JPEGで撮影 3,008×2,008ピクセル / 1/13秒 / F4.5 / 0EV / ISO400

3,008×2,008ピクセル / 1/15秒 / F5.6 / 0EV / ISO400


URL
  ペンタックス
  http://www.pentax.co.jp/
  製品情報
  http://www.digital.pentax.co.jp/ja/lens/index35_wide.html#09

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写真で見るペンタックス「DA 21mm F3.2AL Limited」(2006/05/26)



伊達 淳一
1962年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。

2006/07/05 00:59
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