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【新製品レビュー】エプソン、 「PX-G5100」 「PX-G930」

~迷わずに選べるハイアマ向け定番モデル
Reported by 本田 雅一

PX-G5100

PX-G930
 エプソンが2月に発売した新型フォトプリンタ2機種を試用した。「PX-G5100」および「PX-G930」は、その名称からもわかるとおり、光沢顔料インクのPX-Gインクを用いた製品となる。両機種は、それぞれPX-G5100、PX-G920の後継機種であり、ハードウェア仕様に関しては従来機種を踏襲する。ハードウェア面での違いは、一見してわかるシルバーとブラックの組み合わせによるカラーリングのみだ。

 なぜ年末ではなく? と訝しむ声も聞こえてきそうだが、エプソンは年末商戦向けには染料系インクを用いた複合機で一般層に対して強くフォーカスした新製品を投入している。一方、今回のような単機能機は主にハイアマチュア向けと分類され、年末商戦の時期をあえて外して投入している。ターゲット層は主に一眼レフカメラを所有する、特に画質と保存性を重視する層である。

 今後、キヤノンと日本ヒューレット・パッカードから、顔料インクを搭載したハイアマチュア向け機種が登場する。対するエプソンはプロ向けに特化したPX-5500、それにカラリオProセレクションと名付けられたPX-Gシリーズで対抗する事になるが、果たして低価格のPX-Gは、マイナーチェンジによりどのように変化したのだろうか。


EPSON

 昨年末のエプソンは、プリントヘッドはそのまま、主にドライバの熟成をテーマに新製品を展開した。もちろん、複合機に関しては新しい機能の提案や、各種基本機能の強化が図られたが、その中でもプリンタハードウェアの変化は少ないものだった。ノズル数増加や吐出サイクルアップによる高速化などは行われていない。これは今回テストした二つの機種でも同じである。

 その一方で、ドライバの新機能や熟成に伴う絵作りの完成度の高さを背景に、EPSON Colorという新しいブランドを定着させる事を目指した。EPSON Colorには絵作りの要素もあるが、主体となるのはDPEプリントに対抗しうるインテリジェントな自動補正印刷機能がEPSON Colorの主役と言える。

 もちろん、従来からのEPSON基準色や用紙に合わせたICCプロファイルの提供、ドライバオプションでのAdobe RGB対応といった要素はそのまま残っている。普段のスナップ写真は自動補正で見栄えよく印刷し、作品として思い通りの絵を狙いたい時にはICCプロファイルを使うといった使い分けにも対応できる。レタッチ出力を行なわないまでも、RAW現像で好みの絵に調整し、それをAdobe RGBで現像して印刷すれば、ディスプレイ上では再現できないが、カメラ上にはデータとして存在している色の階調が印刷結果として(可能な限り)再現される。

 また、カラリオProセレクションシリーズのみに添付されるいくつかのソフトウェアを駆使すれば、よりシンプルな操作で好みの印刷結果を得ることも可能だ。上記のようなカラースペースをマッチさせての印刷を正しく行なっても、実際にはRGBデータとプリンタの色再現域の違いにより、必ずしも“ばっちり同じ色”で印刷されるわけではない。色再現域の違いを考慮しつつ、階調を失わないように配慮しながら色の割り当てが行なわれる。さらに追求するならば、カメラがキャプチャした色そのままが好みの色調ではないという場合もある。


「ProLabプリント」でのプリントサンプル
 本当の意味でこだわって色味を調整しようと思えば、トライ&エラーを繰り返して好みの絵を探すことになるが、カラリオProセレクションシリーズの長所のひとつは、そうしたコダワリの印刷を簡単に行なえる事だ。付属の「ProLabプリント」では、いくつかの切り口で色調を変化させたサムネイルを印刷し、その中から好みの色味を選んで番号で指定すればその色味に仕上げてくれる。

 シンプルなユーティリティだが、こうしたツールの使い勝手の良さは、顔料系インクでの写真プリンタを先行開発していたエプソンのアドバンテージと言えるだろう。染料系インクで同様のツールを作っても、色が安定するまでに半日以上を要するが、顔料系インクならば印刷直後でも色味の判断を行なえる。この特徴を良く活かし、画面表示ではなく印刷結果を見ながらのプリント作業を支援しているわけだ。

 また付属ソフトとしてPhotoshop Elements 3.0が付属。最新版より一つ前のバージョンだが、機能面において不足はない。PX-G5100のみだが、しっとりとした仕上がりを期待できるPX-5500向けに開発されたファインアート用紙が対応用紙として追加されている。

 なお、インク滴の配置解像度や1.5plのインク滴サイズ、それにCMYRBKにマットブラックとグロスオプティマイザーを加えた8色印刷システムなどは共通で、印刷速度にも変化はない。CD/DVDレーベル印刷、ロール紙印刷対応、インターフェイスのUSBとIEEE1394両対応なども同様だ。


顔料らしからぬ透明感のある仕上がりが魅力

 さて、その画質や印刷速度だが、ハードウェアがほぼ同一という事もあり、やはり従来機と印刷速度の面ではほぼ同じだ。A4とA3ノビ対応の違いこそあれ、テストした2機種の画質も同じである。ファインアート紙へと新たに対応した以外の違いは見つからない。

 ただしドライバの熟成はさらに進んでいるのか、いずれも非常に安定感がある。ここで言う“安定感”とは、ねじれた位置関係にある色間のグラデーションや、急峻な明度の変化、微妙に色調が変化しながらシャドウへと落ち込む場面など、破綻しやすい部分での振る舞いが実に自然という意味である。

 このため、どんな写真でもエクスキューズを加える必要がない。絵作りの好きずきはともかく、まずは写真データが持っている階調情報を丁寧に描き分けられるか。このあたりは同じプラットフォームで継続的にドライバを追い込んできたからこその熟成度の高さと言えるだろう。

 PX-Gインクを用いたプリンタの魅力は、顔料インクの耐候性および耐光性が高く、あらゆる環境で印刷結果が劣化しにくいという特徴を持ちながら、染料インクにも似た透明感溢れる色表現。顔料系インクは、とかく濃度の高い部分でやや重い質感になりがちだが、グロスオプティマイザーの効果や、メディア表面の顔料堆積がなるべく均一になるよう設定されたインクの組み合わせが、クリアさを引き出しているようだ。

 顔料の退色の少なさは魅力だが、仕上がり感は染料の方が好きというのであれば、PX-Gインク採用機は良い選択となる。

 また同じエプソンでも染料系のPM-Gインク採用機と比較すると、高濃度の色における彩度感の高さや、シャドウ部の階調、色の深みといった点で上回る部分を感じる。純粋に透明感や明るい色の質感表現ではPM-Gインク採用機の方が上回ると感じる部分はある。粒状性に関しても染料系インクの方が目立たない。クリスピアを用紙として用いたときの、用紙の質感もPM-Gインクの方が上だ。しかし、絵作りで見るとPX-Gインクを採用する今回の2機種の方が良く感じる。

 以前、PX-G900ではじめてPX-Gインクの印刷を見た時には、染料インク的な仕上がりを意識しすぎ、顔料系インク機が本質的に持っているはずの高濃度部分での深みがやや失われていると感じたものだが、1年以上の開発の結果なのか、現在のドライバはバランスが良くなっている。

 また、同様にドライバの熟成によるものか、階調の出方もとても素直だ。プロ向けと位置付けられているPX-5500ほどの正確性はないものの、ハイアマチュア向けプリンタとしては十分。このあたり、一般ユーザー向けの味付けとプロっぽさのほどよいミックスが、この2機種を選択する上でのキーと言えそうだ。


速度はやや不満も完成度は高い

 このように非常にユニークな特徴が与えられた両機種は、完成度も高く安心して勧められる製品になっている。ただ、基本的なハードウェアスペックが長く変化していないこともあり、印刷速度にはやや不満が残る。

 実は両機とも意外なほど普通紙での印刷速度が高速なのだが、より時間のかかる写真出力の方が、より速度に対する渇望感は強いはずだ。特にA3ノビ出力が可能なPX-G5100では、それを強く感じる。

 しかし、他製品を圧倒する製品ではないものの、染料コンシューマ機と顔料プロ機の間という独特の位置付けはこの製品だけ。その意味では、推薦するしない以前に、ニーズに合うならば迷わずに選べる定番のモデルになったと言えるのかもしれない。


印刷テスト

 印刷テストは昨年末のプリンタテストで使われた4枚の写真を継続して使用している。サムネールをクリックすると、印刷結果をスキャンしたデータがそのまま表示される。

 なお、女性ポートレートのみAdobe RGBデータとなっており、今回はこれをICCプロファイルによる変換ではなく、プリンタドライバをAdobeRGBに設定して印刷している。他の3枚はsRGBデータ。色設定はデフォルト(本機の場合はオートフォトファイン!EX)で印刷した。このため自動の画像補整処理が加わっている。

 なお、プリントに使用したデータは下記URLに掲載してあるので参照してほしい。

http://dc.watch.impress.co.jp/static/2006/05/epson/sample.htm


【女性ポートレート】

 黒の濃度が非常に高く、実によく沈んでいるが、きちんと階調表現はされている。スキャン結果からはわかりにくいものの、背景の暗幕にあるシワなども再現されており、黒い衣装の質感までわかるなど、暗部の再現性がとてもいい。

 Adobe RGBモードでの印刷になるが、オリジナル画像との色や階調の一致性も大変に高い。ただし、光源による色の変化は比較的大きなもので、通常の蛍光灯下では赤みが強く感じられ、肌色はもっと赤みが濃く見える。D65光源下では正しい色調となるが、光源による色変化の大きさが、プロ向けのPX-5500と比較した場合におけるもっとも大きな違いの一つと言える(このほかモノクロ印刷時の品質もPX-5500の方が良い)。

 とはいえ通常の利用であれば、色の一致性は高く、複雑なカラーマッチングの設定を行って印刷しなくとも、Adobe RGBで現像してAdobe RGBモードで印刷すれば、大きな失敗なく印刷を行なえるはずだ。


【めがね橋】

 空の色が若干濃く感じられ、暗部もオリジナルデータ比較で沈むなど、コントラストがやや強調された印象に仕上がった。他の結果でもわかるように、オートフォトファイン!EXはやや白ピークを立て、シャドウを落とし気味に表現することでコントラスト感を強調するチューニングのようだ。

 やや気になったのは橋の表現。黒側に階調が引き込まれるため、潰れ気味に見えてしまい、結果として細かな立体感が希薄に感じられた。女性ポートレートでの結果では、黒の階調がすばらしく良かったのだが、オートフォトファインによる画像処理が、ここでは悪く作用したのかもしれない。


【チャイニーズシアター】

 「めがね橋」とほぼ同じ印象で、コントラスト強調効果がやや強めに感じられ、空色もあまりにも抜けが良すぎる色になってしまった。朱で塗られた柱の色も同様で、全体に色空間を拡大したような写真になっている。

 自動補正としては悪くない結果だとは思うが、他の写真同様、蛍光灯下における色の変化がやや気になった。赤みが強く、全体に色が濃く感じられてしまう。


【ペンギン】


オートフォトファインによるプリント結果 エプソン基準色によるプリント結果

 ペンギンの黒い部分が強調され、全体に彩度が高い。特に背景になっている池の色がまるで別の色の用に濃くなっている。

 これらの結果から見るところ、オートフォトファインは、すでに満足できる露出や彩度が出ている場合には適用しない方が良さそうだ。なお、“エプソン基準色”や“自然な色あい”での印刷結果はたいへん良かった事を付け加えておきたい。



URL
  エプソン
  http://www.epson.co.jp/
  製品情報(PX-G5100)
  http://www.i-love-epson.co.jp/products/colorio/printer/pxg5100/index.htm
  製品情報(PX-G930)
  http://www.i-love-epson.co.jp/products/colorio/printer/pxg930/index.htm

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本田 雅一

2006/05/19 01:12
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