デジカメ Watch

【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】ニコン AF-S VR マイクロニッコール ED 105mm F2.8G(IF)

〜純正ならではの作りのよさが光るマクロレンズ
Reported by 伊達 淳一

 「デ、デカッ! っていうより太ッ!」

 それが、このレンズを見た第一印象だ。なにしろ、ニュースリリースを見ただけで、実写どころか実物も見ないで注文してしまったので、初めて現物を見たのはフォトイメージングエキスポ2006のニコンブース。手に取ってじっくり見たのは、注文したレンズが届いてからだったからだ。一般的な100mm級のマクロとは思えない太めの鏡胴で、シグマ150mmマクロにあと一歩、といった大きさ。付属のフードがこれまたマクロとしては懐が広く、フードを付けると大口径中望遠レンズ、といった感じだ。

 そもそも本連載を始めた最大の動機は、レンズを買う前にメーカーから“執筆”という名目でレンズを借りることができるからだ。にもかかわらず、現物も見ずにこのレンズを注文してしまったのは、それだけのインパクトがあったからだ。まず、惹かれたのは、一眼レフのマクロレンズとしては世界で初めて「手ブレ補正(VR II)」機構を搭載、ニコン最強の“ナノクリスタルコート”が施されているという点。ニコン独自の最新テクノロジーが惜しげもなく注ぎ込まれているのだから、悪いレンズなはずがない。

 また、超音波モーター“SWM”でレンズ駆動を行なうので、フォーカシングが静かで、AF-S時にも合焦後にそのままMF操作ができる。被写界深度が浅いマクロ撮影では、MFの利用頻度も高いだけに見逃せないポイントだ。絞り羽根も9枚で、絞ってもキレイな形状を保つ円形絞り。インナーフォーカス採用で、ワーキングディスタンスや重量バランスが変化しないのもイイ。

 それと、ボクが持っている100mm級のマクロレンズはタムロンやトキナーで、ニコン純正のマクロレンズは60mmだけ。カメラテスト用にニコン純正のマクロレンズが欲しかった、というのも購入理由のひとつだ。


100mm級マクロとしては鏡胴が結構太めだが、レンズ前玉はフィルター径62mmと普通 付属のフードを装着したところ。100mmクラスのマクロレンズとは思えないほど巨
大になるが、この焦点距離域のマクロには珍しく、花形フードを採用しており、遮光
効率に期待が持てそうだ

左がニコンAF-S VR マイクロニッコール ED 105mm F2.8 G、右がタムロンSP AF 90mm F2.8 MACRO ニコンはインナーフォーカスを採用しているので、最短撮影距離にしても鏡胴の長さに変化はないが、タムロンは無限遠時にはコンパクトだが、撮影距離が短くなるほど鏡胴が繰り出してくるので全長が長くなる

 ただ、問題は価格だ。タムロンやトキナー、シグマの同クラスのマクロレンズに比べ、“手ブレ補正&ナノクリスタルコート & SWM”という大きなアドバンテージがあるものの、実売で2倍近い価格の開きがある。18-200mmズームのように開放F値が暗く、手ブレ補正があるとないとでは大違いで、なおかつ、手ブレの危険度が高くなるズームテレ端でわずかでも開放F値が明るい、というのなら、2倍以上の実売価格差でもそれだけのありがたみが感じられる。

 しかし、100mm級のマクロだと、手ブレよりも被写体ブレやピンぼけの危険度のほうが高く、手ブレ補正がなくてもさほど不便は感じない。しかも、シャッタースピード4段分の手ブレ補正効果が見込めるのは、撮影倍率が1/30倍程度まで。撮影距離に直すと約3m以遠の被写体を撮影するときだ。これより近い被写体を撮影する場合には、徐々に手ブレ補正効果が薄くなる、という。

 それだけに、スペックに魅力を感じつつも、購入するかどうか、迷っているニコンファンも多いのではないだろうか? 正直な話、ボクも勢いで買ってしまった面もある。(クレジットカードの請求書を見るまでは)現実感の薄いインターネットでの買い物の怖さだ(苦笑)。

 とはいえ、今や春真っ盛り。東京では桜は散ってしまったが、これからチューリップを始め、さまざまな花が咲き乱れ、マクロの被写体には事欠かない季節だ。デジカメ本体と違って、レンズ(特に純正レンズ)はしばらく待ったからといって劇的に価格が安くなるわけでもないので、欲しいと思ったときが買い時。さっさと買ってしまって、思う存分、写真を撮ったほうが得るものは大きいのではないだろうか?

 実際にこのレンズを使ってみて感じたのは、フォーカシングが静かでスピーディなこと。SWM(超音波モーター)駆動なので当然といえば当然なのだが、これまでニコンのマクロレンズでSWM仕様はなかっただけに、撮影していて非常に気持ちがイイ。MF時のフォーカスリングの感触も適度な粘りがあり、往年のMFレンズと比べても極上のフィーリングが味わえる(リングを回すときに乾いた音がするのがちょっと残念だが…)。

 最大撮影倍率は等倍で、約31cmまでの接写が可能。インナーフォーカスなので鏡胴の繰り出しがなく、等倍撮影時で約15cmのワーキングディスタンスが確保できる。ただ、付属のフードは約7cmほどの深さがあるので、光の方向によってはフードを外して撮影したほうがいいだろう。


側面には、フォーカスリミッターやVRのON/OFF、AF/MFの切り換えレバーが配置さ
れている
レンズの下側には「SWM」、「VR」、「ED」、「Nano Crystal Coat」と、ニコンの技術が誇らしげに記されている

 最大の売りであるVR IIの効果はというと、VRを効かせるとファインダー像が安定するので、フォーカシングスクリーン上でピントをじっくり確認できる。シャッタースピード4段分までの手ブレ補正効果は期待できないまでも、被写体ブレの心配がなければ1/30秒程度まではブレずに撮影できることが多い。ニコンD200での実撮影画角は157mmレンズ相当なので、手ブレ限界の目安は約1/150秒。マクロ撮影時でもシャッタースピード2段強の効果はありそうだ。

 最近は、絞りを開けてアウトフォーカス部分を大きくボカした幻想的なマクロが主流だが、学術目的のマクロ撮影では、被写体の細部までしっかり見せることが求められる。このようなマクロ撮影では、被写界深度を稼ぐため、しっかり絞り込んで撮影する必要があるので、シャッタースピードが遅くなってしまう。こうした撮影には、VR IIを搭載したこのレンズがあると非常に心強い。

 もっとも気になる写りは、F5.6まで絞れば絶品の写りが得られる。F2.8の単焦点レンズ、しかもマクロレンズなんだから開放から2段も絞れば写りが良くてあたりまえじゃないか、と言われそうだが、決して絞り開放の描写が悪い、というわけではない。

 ただ、絞りを変えてボケ味を比較したサンプルを見ればわかるように、絞り開放とF4まではピントを合わせた金属部分に紫色のにじみ(いわゆるパープルフリンジ)が生じている。F5.6まで絞ると解消するので、通常撮影時には問題とならないような微量な軸上色収差が残存している可能性もあるが、EDまで使ったニコン最新のマクロレンズで軸上色収差が残っているのも意外だ。もしかすると、レンズの性能というよりデジタルの撮像素子周りのいたずらという可能性も考えられる。いずれにせよ、少なくともD2XやD200ではパープルフリンジが出てしまうケースもあるので、“F5.6まで絞れば”という条件を付けたのだ。


ニコンD2XやD200と組み合わせると、大きさや重量のバランスが取れる(写真はD2X)
 また、“ナノクリスタルコート”採用ということで、逆光にもむちゃくちゃ強い、という期待を持ってしまうところだが、実際にいろいろいじめてみると、光の入射角度によってはしっかりフレアが生じるし、微少なゴーストも発生する。

 落ち着いて考えてみれば、ナノクリスタルコートが施されているのはレンズ後群の1面だけだし、VR IIユニットという“余計な光学系”が増えているので、逆光性能面ではその分不利となる。おそらく、撮像素子との面間反射を抑えるために、ナノクリスタルコートが施されているのではないだろうか? したがって、撮影時には、付属のフードを装着すべきなのはもちろん、レンズに直射する光を遮ることができるのなら遮って(いわゆるハレ切りをして)撮影すべきだ。

 個人的に気に入っているのは“円形絞り”だ。F5.6〜8まで絞っても、あまり絞り形状が角張らず、丸みを帯びたキレイなボケ形状を保っている。そのため、チューリップの茎や芝など二線ボケになると目障りな被写体が背景にあっても、安心して撮影できる。また、前述したようにMFの感触がいいので、気持ちよく撮影できるのも買ってよかったと思う点だ。

 ニコンの最新テクノロジーを結集して作られたマクロレンズということで、絞り開放画質や逆光性能に過大な期待をしてしまいがちだが、写りだけを見れば、タムロンやトキナーのマクロレンズも水準を超えた描写力を誇るので、それほど劇的な差があるわけではない。絞りを開けてボケを活かした撮影であれば、手ブレ補正機能の恩恵もさほどないので、タムロンやトキナーのマクロのほうが小型で軽量だし、価格も手ごろだ。

 ただ、室内でのポートレート撮影や夕暮れ時や雨天など、絞りを開けても十分なシャッタースピードが得られない状況では、やはり手ブレ補正があったほうが有利だし、SWM駆動の静かなAFに慣れてしまうと、カム駆動のギア音は耳障りだ。そうした純正レンズならではの作りの良さこそ、このレンズ最大の魅力だし、高いお金を払うだけの満足感が得られる部分だ。

 価格が価格だけに、かなり辛口のコメントになってしまったが、ボク個人としては買って悔いはなかったと思っているし、D2XやD200といった1,000万画素超のニコンデジタルで、ここまでの画質が得られれば満足だ。ただ、ここまでレンズが大きくなるなら、オプションで三脚座が使えるような仕様にしてほしかった。手ブレ補正がついていても、三脚を使える環境なら三脚を使ったほうが確実だし、よりシビアにフレーミングを追い込めるからだ。


作例

※作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
※写真下の作例データは、使用ボディ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランスを表します。


◆絞りによる描写変化


D2X / 4,288×2,848 / 1/1,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート D2X / 4,288×2,848 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート

4,288×2,848 / 1/320秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート 4,288×2,848 / 1/160秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート

4,288×2,848 / 1/80秒 / F11 / 0EV / ISO100 / WB:オート 4,288×2,848 / 1/40秒 / F16.0 / 0EV / ISO100 / WB:オート

◆一般作例


D2X / 4,288×2,848 / 1/250秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル 4,288×2,848 / 1/400秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル

D2X / 4,288×2,848 / 1/500秒 / F4 / 0.3EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/2,000秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート

D2X / 4,288×2,848 / 1/350秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート D2X / 4,288×2,848 / 1/1,600秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート

D2X / 4,288×2,848 / 1/320秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート D2X / 4,288×2,848 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート

D2X / 4,288×2,848 / 1/800秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/500秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル

D2X / 4,288×2,848 / 1/350秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/400秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル

D2X / 4,288×2,848 / 1/640秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/400秒 / F4.5 / 0.3EV / ISO100 / WB:マニュアル

D2X / 4,288×2,848 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル

D2X / 4,288×2,848 / 1/800秒 / F4 / -0.3EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/400秒 / F5.6 / 0.3EV / ISO100 / WB:マニュアル

D2X / 4,288×2,848 / 1/250秒 / F10 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル D2X / 4,288×2,848 / 1/750秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル

D200 / 3,872×2,592 / 1/500秒 / F5 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/800秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/1,500秒 / F3.2 / 0EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/1,000秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/250秒 / F11 / 0EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/750秒 / F4 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/640秒 / F5 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート D2X / 4,288×2,848 / 1/350秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル

D200 / 3,872×2,592 / 1/1,250秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/1,250秒 / F3.5 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/750秒 / F4.5 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/200秒 / F5.6 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/320秒 / F7.1 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/160秒 / F11 / 0EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/640秒 / F5.6 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/320秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/250秒 / F10 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート

D200 / 3,872×2,592 / 1/250秒 / F6.3 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート D200 / 3,872×2,592 / 1/350秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート


URL
  ニコン
  http://www.nikon.co.jp/
  製品情報
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/lens/af/singlefocal/telephoto/af-s_vr_micro_ed_105mmf28g_if.htm

関連記事
ニコン、接写用初の手ブレ補正付きレンズ「AF-S VR マイクロニッコール ED 105mm F2.8G」(2006/02/21)



伊達 淳一
1962年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。

2006/04/17 18:54
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.