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【特集】フォトプリンタレビュー
キヤノン SELPHY CP710

カードリーダ内蔵で活用範囲が広がった昇華型プリンタ
Reported by 多和田 新也

 キヤノンが8月23日に発表した、同社の昇華型フォトプリンタであるSELPHY CPシリーズの最上位モデルとなる「SELPHY CP710」。CPシリーズでは初めてカードリーダーや画像参照用の液晶パネル、巻き取り式のUSBケーブルを内蔵する、昇華型プリンタとしては充実のスペックを持つ。一方で、価格は従来製品よりも抑えられ、より魅力を増している。


液晶搭載製品ながらシンプルな操作体系

 L判対応の昇華型ダイレクトフォトプリンター「CP-100」からスタートした同社の本シリーズは、着実な進化を遂げてきた。昨年12月にSELPHYブランドが冠せられる前後、つまりここ最近は、印字速度の向上という点に重きが置かれてきた。しかし、ここで紹介する「SELPHY CP710」は機能面でも大きな進化が見られるのが特徴だ。

 その大きな進化のひとつが、前面部である。前面カバー内の向かって右上部に、CPシリーズ初となるカードリーダーを搭載。CF/SD/MSを装着してのダイレクトプリントに対応する。

 また、向かって左部には「くるくるケーブル」と呼ばれる、巻き取りタイプのUSBケーブルを装備する。MiniBタイプのUSBコネクタを持つデジカメなら、ケーブルを用意することなく利用できるわけだ。もちろん、ここにはPictBridgeに対応しているならば、キヤノン製デジカメ以外も接続でき、実際、D70でも問題なく利用できた。

 ちなみに、MiniBタイプ以外のコネクタを持つデジカメは、本製品で利用できないのはないかという危惧を持たれる方もいるかも知れないが、従来のCPシリーズ同様、本製品の左側面に通常のUSB Aコネクタを装備している。ケーブルを用意すれば、利用できるので安心してほしい。

 ちなみに、このUSB Aコネクタには、オプションのBluetoothユニット(BU-20)を接続することができる。これを利用すれば、Bluetooth対応の携帯電話からもダイレクトプリントが行える。ただし、本製品の出荷時期によってはファームウェアのアップグレードが必要になる。


前面部には用紙の吸排紙口、CF/SD/MSに対応したカードリーダー、くるくるケーブルと呼ばれるUSBケーブルを備える
USBケーブルは巻き取り式で、一定量伸ばすとストッパーが働く仕組み。ケーブル長は25cm強といったところで、プリンタとカメラを手元に置いて利用するスタイルを想定しているようだ
本体左側面にはデジカメやBluetoothアダプタを装着するためのUSB Aコネクタ、PCとの接続に利用するUSB Bコネクタを備える

 さて、もうひとつ、本製品の大きな進化を感じ取ることができる部位が、本体上面だ。接続したメモリーカード内の画像を確認する1.5型の液晶パネルや、画像を選択する十字ボタンなどが用意されたのだ。CPシリーズといえば、先々代となるSELPHY CP500/400までは電源スイッチすら持たない極めてシンプルな製品だったのが、カードリーダーの搭載に伴って、高機能化を感じさせる外観になっている。

 ただ、機能面では大きく強化されている一方で、操作はシンプルさを残している。カードリーダーと液晶パネルを搭載する機種の多くは、印字品質設定や簡単なレタッチ等を行えるようメニューが用意されているのが一般的になっているが、本製品は違う。

 カメラやPCと接続した場合は、接続中の画面に切り替わり、メモリーカードを装着した場合は画面選択の画面が表示されるといった具合に、自動的に必要な画面が表示され、そこから画面を移り変わる必要はない。メモリーカードからの印刷の場合は、印字内容を決める3つのアイコンと、この各アイコンに対して独立した操作ボタンで操作できてしまう。

 この3つのアイコンの各機能だが、まず左端がメモリカード内の画像すべてを印刷するか、DPOFに従うか、選択して印刷するかを決めるModeボタンとなる。上面に設けられた十字ボタンは、この画像選択に利用するもので、左右で画像変更、上下で枚数指定が行なえる。

 中央はLAYOUTボタンとなっており、これはフチあり/なしの指定や8分割/インデックス印刷の指定を行なう。右端は日付を入れるか否かの指定で、3種類の日付表記方法を選択できる。

 本製品がダイレクトプリンタとして持つ機能は、以上だ。液晶パネルや十字ボタンを持った外観にはなったが、シンプルな操作体系はCPシリーズの良さを残している印象だ。


上面部には1.5型の液晶ディスプレイと十字ボタンを備えるほか、電源/印刷ボタンを備える。代わりに従来製品にあった装着しているインクカートリッジの種類を確認できるのぞき窓が廃止されている 液晶は主にカードリーダーからの印刷時に利用。3つのアイコン+各ボタンのみで設定を行なうシンプルな操作で印刷が実行できる

サプライの多くは従来のCPシリーズを継承

 では、ここまでで触れていない、本製品の特徴をまとめておきたいが、基本的には従来のCPシリーズから大きな変化はない。まず、インクカートリッジは、以前のCPシリーズと同等のものが利用でき、セットする場所も本体右側面とレイアウトも同じだ。

 本製品のサプライは、インクカートリッジと用紙がセットになって販売されているので、当然、用紙も従来製品と同じものになる。従って、4辺フチなし印刷を指定した場合でも、正確には2辺フチなしで印刷され、ミシン目に沿って切り離すことで4辺フチなし状態にできる仕組みだ。最近では、この切り取りによる4辺フチなしという手法をとる製品は減りつつある。従来製品の用紙やインクカートリッジの資産が活かせるという利点の一方で、他製品に比べるとこの点で見劣りするのも側面であり、賛否分かれそうな仕様だ。

 当然ながら、用紙トレイも同一の仕様だ。用紙ごとにトレイが用意されるが、L判、カードは本体付属。100×200mmのワイドサイズ、はがきサイズは対応トレイを別途購入する必要がある。


本体右側面部にはインクカートリッジ装着部を備える
長辺の両端に余白を設けて印刷され、ミシン目に沿って切り取ることで4辺フチなしとなる 用紙トレイはL判とカードサイズ用が付属。ちなみにL判のトレイには用紙を20枚装填できる

 本体背面部には、バッテリーも装着できる。バッテリーはオプションのNB-CP2Lで、先代のSELPHY CP600に付属していたものと同一の製品となる。なお、CP-330以前のモデルに付属またはオプション販売されていたNB-CP1Lは利用できないので注意されたい。ちなみに、用紙は前面給紙/前面排紙となるが、印刷中は用紙が背面にせり出してくる。このせり出し口はバッテリ装着部のさらに下に用意されているので、背面方向に物が置いてあると用紙送りの妨げとなってしまう。

 このほか,背面部にはACアダプタの接続口も用意されている。ACアダプタはACケーブルと分離するタイプのものだが、わりと大ぶりなものとなっている。

 最後にPCで本製品を利用する場合のドライバの設定だが、こちらも従来製品と変化のないものだ。本製品の印刷解像度は300×300dpiに固定されているので、ドライバ上からは印字向きやサイズの設定、色合いの調整などが行なえるに留まっている。


本体背面部にはオプションのバッテリを装着できるので、外出先等、コンセントからの電源供給が得られないシチュエーションでも印刷できる
印刷実行時は背面に用紙がせり出してくる。せり出し量は6cm余りなので、余裕を持って背面部は10cm程度のスペースを設けておきたい
ACアダプタはACケーブルと分離するタイプ。ケーブルバンドが備わっているのは嬉しいが、少々大ぶりなACアダプタなのでバッグ内でもかさばる印象

ドライバの設定画面からは用紙サイズ、印刷向きなどの指定が可能
また、色合いの補正も行なえるが、このほかはプリンタ内部温度上昇等のメッセージを表示するかの設定程度で、総じてシンプルな機能に留まる

派手な補正はなく、あっさりした色合いに

 それでは、実際に印刷した結果を紹介したい。ここでは、すべてNikon D70(JPEG/Fine/L)で撮影した画像を、CFからダイレクトプリント。エプソンの「PM-A850」を使い600dpiでスキャンしたものを、トリミングし、JPEG形式に変換した上で提示している。この際のトリミングには多少余りを持たせているので、本製品によるトリミング量の参考にしてほしい。なお、テストに使用した画像は下記に掲載した。

http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2005/12/20/2928.html

 さて、結果を見てみると、まず昇華型プリンタ特有のざらつきのない印刷が好印象を残す。その結果、1枚目・4枚目で見られるよう、ボケの部分のグラデーションの表現は、インクジェット機には見られないなめらかさで、写真らしさを引き出している。また解像感もまずまずで、これもインクジェット機にはない粒状感がもたらしたものといえるだろう。

 一方で、色合いは彩度が弱めの傾向に感じられる。また、3枚目の暗部の持ち上げも最小限で、全体的に元画像の雰囲気を損なわない程度にカラーバランスを補正しているに留まる仕上げだ。




機能と操作感のバランスに優れた製品

 ちなみに、印刷に要した時間は、

CFからの印刷:1分16秒
D70からのPictBridgeを利用して印刷:1分16秒
PCから印刷:1分8秒


と、ダイレクト印刷はやや遅めの印刷時間となる。ただ、デジカメからのダイレクト印刷に関しては、同社製のDIGIC II/DIGIC搭載機の場合はそれぞれ50/54秒、PictPridge接続時は73秒と公称されている。最近の同社製デジカメで利用するならば、もう少し高速な印刷が期待できそうである。

 本シリーズの魅力は、シンプルな操作で写真印刷が行なえる、という点が大きかったと思うが、一部機種には対応できないもののUSBケーブルの内蔵でその手軽さはさらにアップしているし、カードリーダーを採用したことでPictBridge未対応のデジカメでも利用可能になった。

 一方で高機能化に伴うことでありがちな操作の複雑さは感じられない。それでいて、発売直後の実売価格も従来製品よりも安価に抑えているあたり、戦略的商品の一面も感じさせるが、手軽に写真を印刷できるL判プリンタを求める人にお勧めできる製品だ。



URL
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/selphy/cp710/

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多和田 新也
1976年岐阜県生まれ。2002年より,主に自作ユーザー向け記事を中心にライターとして活動している。野鳥を中心に自然に親しむのを趣味とするが,写真撮影に使っているNikon D1H+Nikkor 500mm/F4P(と三脚)に押し潰されそうになる程度の体力しか持たないあたりが 悩みの種。

2005/12/20 14:05
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