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【新製品レビュー】リコー GR DIGITAL

~見た目や色再現性など玄人好みの広角専用機
Reported by 中村 文夫

 リコーGR1の発売は1996年。超薄型ボディに28mmの高品位レンズを装着した高級コンパクトカメラとして誕生し、カメラマニアを中心に高い評価を得た。

 その後GRシリーズはモデルチェンジを重ね、より完成度を高めたGR-1Vに発展。しかしリコーの銀塩市場撤退により惜しまれながら姿を消す。この一方で、リコーはPhotokina 2004でデジタル版GRの発売を予告。それから1年を経て、遂に「GR DIGITAL」が発売になった。


ホールディング感優れるボディ

 銀塩カメラのGR-1と並べてみると、GR DIGITALがGR-1のデザインを踏襲していることは一目瞭然だ。銀塩カメラの場合、フィルムという制約があるため、パトローネを収納する場所が自ずと限られてしまう。GR-1はグリップ部にパトローネを収め、それ以外の部分を薄くするという離れ業をやってのけた。その点GR DIGITALは、レンズとCCDを除けば内部メカニズムの自由なレイアウトが可能である。

 だがGR DIGITALは敢えて銀塩カメラと同じスタイルを採用。その結果、ホールディング感に優れ、非常に使いやすい操作系を実現した。最近はコンパクト化を優先するあまり、どう持ったらよいのか悩むようなデジカメが増えているが、これはデジカメ業界にとってゆゆしき問題である。下手な手ブレ補正機構よりも、きちんと構えられるカタチのほうが、手ブレ防止には有効であると私は思うのだ。





GR1V(奥)との比較。GR DIGITALのほうが少し小さい 背面の雰囲気も似通っている

シャッターボタンやモードダイヤルのレイアウトなども似ている。手前がGR DIGITAL GR DIGITAL(手前)のモードダイヤルにはロック装置が追加された

ボディの前後に電子ダイヤルを装備。主に前ダイヤルで絞り、後ダイヤルでシャッタースピードをセットする。前ダイヤルでプログラムシフトも可能 後ダイヤルは押し込みが可能。押すと露出補正、ホワイトバランス、ISO変更などのメニューがモニターに現れる。さらにオートブラケットを追加することも可能。表示させた状態で前ダイヤルまたは上下ボタンを押すと各項目を変更できる

ISOメニューを表示させた状態。セットしたいISO感度を選び、OKボタンを押すとセットされる ストラップ取り付け用の穴が3か所にあるので、横吊りもできる

 考えてみれば、銀塩カメラのカタチは、数十年という歳月を経て完成したもの。やはりカメラが手に持って使う道具である以上、構えやすさはデザイン上の最大のテーマだ。GR DIGITALが銀塩カメラのスタイルを採用したのは、決して懐古趣味ではなく、カメラ本来の姿を追求したからにほかならない。

 また機能とは直接関係ないが、カメラの両サイドにネックストラップが取り付けられるので、首からカメラをぶら下げて歩いてもカメラがゴロンと裏返えらない。それからデジカメのように見えない点も、なかなかよい。


マニアックかつ贅沢な単焦点28mmレンズ

 残念なことにGR DIGITALには光学ファインダーがない。そのためオプションとして光学ファインダーが用意されている。外付けファインダーの光学系は逆ガリレオ式で、ブライトフレームの表示方式はアルバダ式。ライカなども採用している本格的なものだ。

 レンジファインダー機用ファインダーとしては標準的なサイズだが、GR本体に比べるとちょっと大きめ。といっても光学性能を保つためには、これだけの大きさが必要なのだ。確かにこの大きさのものをボディに組み込むと、ボディが大きくなってしまう。恐らくGR DIGITALの開発者も悩んだ末に光学ファインダーを省略したのだろう。

 ファインダーの取り付けにはボディ上面のアクセサリーシューを利用。アクセサリーシューは標準的なタイプなので汎用性が高く、いろいろなアクセサリーを取り付けることができる。さらにアクセサリーシューはマグネシウム製ダイカストボディに直接取り付けられているので堅牢性が高く、大きなストロボなども安心して取り付けが可能。またアクセサリーシューには、独自の電気接点があり、シグマ製のストロボを組み合わせれば自動調光ができる。


オプションのビューファインダーを取り付けた状態。LCDモニターはOFFにできるが、シャッターボタン半押しでモニターがONになる。視野の下が急に明るくなり煩わしいので、完全にOFFになるモードもほしい ビューファインダーのブライトフレーム表示はアルバダ式。21mm用と28mm用のフレームが同時に表示される

ポップアップさせたストロボとぶつからないよう、ビューファインダーのシューは、オフセットしてある このファインダーをライカに取り付けるとシャッターダイヤルが隠れてしまう。コンタックスなら大丈夫だ

他社製のビューファインダーを取り付けると、ひと味違ったスタイルが楽しめる。ただしほとんどの場合、内蔵ストロボは使えなくなる

アクセサリーシュー。大型ストロボでも安心して使える。シグマ製ストロボに対応する電気接点を装備している 昔、リコーがコンパクトカメラ用に発売していたストロボ。メーカーが同じだけあって妙に似合う。もちろん自動調光は作動しないが、発光位置が高くなるので、補助光として利用価値が高い

ワイドコンバーターやフードを取り付けるときは、リングキャップを外すと現れるバヨネットを使用 アダプターの前枠には電気接点に連動した突起があり、ワイドコンバーターを取り付けるとカメラ側に信号を送る。これによってExifにレンズの焦点距離情報が書き込まれる

アダプターをカメラに取り付けた状態。前枠には37mm径のフィルターネジが切られているので、市販のフィルターが装着可能。なお、アダプターは指標が見にくく取り付けにくい アダプター付属の角形フードを取り付けたところ

ワイドコンバーターと専用フード。コンバーターの倍率は0.75倍。このときの画角は35mm判の21mmに相当する 専用フードはゴム製でかぶせ式。ケラレを防ぐために取り付け位置に指標があるが、アダプターがプラスチック製のため使っているうちにネジが摩耗し、いつの間にか位置がずれる。注意しないとフードによるケラレが発生する

 GR DIGITALには、単焦点レンズが搭載されている。ズームレンズ主流のデジタルカメラの中で、単焦点レンズというだけで、かなり珍しい存在だが、画角は35mm判の28mmに相当。玄人好みの広角専用機だ。そのうえ専用のワイドコンバーターを装着すれば、21mm相当の超広角撮影も可能。要するに28mmレンズのGR1と、21mmレンズのGR21を合体させてしまったようなカメラなのだ。

 GR DIGITALに搭載されたレンズの最大の特徴は高性能を追求したこと。特殊低分散ガラス1枚、ガラスモールド非球面レンズ2枚を含む5群6枚構成という贅沢な光学系が、コンパクトデジカメとは思えない高画質を提供してくれる。また単焦点のため、ズームレンズにありがちなディストーションがなく、とても気持ちのよい広角表現ができる。さらに開放F値もF2.4と明るく、室内でも自然光による撮影が可能。撮影距離が近ければ被写界深度の浅い表現もできる。

 広角レンズ特有の周辺光量不足も目立たない。ただしこの点については、あまりにも見事に排除されてしまい根っからの銀塩ファンは、もの足りなさを感じるかも。特にワイドコンバーターを付けたときなどは、周辺光量不足を特殊効果として再現する機能があってもよいのではと思うほどだ。


自然な色再現性と優れた解像感

写真のリチウムイオン電池のほか、単四型乾電池2本でも駆動可能。長持ちはしないが非常時に便利。記録メディアはSDメモリーカード、あるいはMMCを使用
 レンズの絞りには、虹彩絞りを採用。絞り羽根は7枚と多く、ボケ味にも気を遣っている。特筆すべきは撮影モードによって絞りとNDフィルターを使い分けていること。モードダイヤルをカメラマークに合わせると、虹彩絞りは開放からF3.5まで作動。この先はNDフィルターを併用し、F7.1からF11まで光量を調節する。これに対し絞り優先AE(A)とマニュアル露出(M)、プログラムシフト(P)のときはNDフィルターを使わず、虹彩絞りだけでF9まで1/3ステップで絞ってゆく。これは回折現象による解像度の低下を考慮しているからだ。

 要するに全自動モードのときは画質を優先。絞り優先AEやマニュアル露出ときは撮影者の意志を尊重し、画質が少しくらい落ちようとも選択したF値まで絞りが律儀に絞られる。つまりF値通りの被写界深度が得られるということ。この場合、解像度の低下が起こると言っても実際はほんのわずか。ここまでこだわるとは、さすがGRの名を冠しているだけある。

 GR DIGITALの撮像素子は、1/1.8型で有効画素数は813万。中級機以上ではおなじみのサイズだが、新開発のGRエンジンにより、自然な色再現性と優れた解像感を実現した。また普及クラスの製品のように、やたらと鮮やかさを強調していないので、LCDモニターでは画像がやや地味に見える。

 恐らく店頭で他社製品と比較した場合、第一印象で損をするかも知れないが、GRのコアターゲットなら、この点は理解できるはずだ。高性能レンズのポテンシャルを的確に判断する意味で、適切な判断といえるだろう。もちろん手動でパラメーターの変更ができるので、自分の好みに合った設定を選ぶこともできる。

 RAW形式はAdobeのDNGフォーマットを採用。専用ソフトを使わなくてもPhotoshopなどで現像ができる。しかし、GR DIGITALに同梱されているPhotoshop Elements 3.0は、体験版のため30日を過ぎると使えなくなってしまう。決して安いカメラではないのだから、正規版をバンドルして欲しかった。

 またRAWを選ぶとJPEGも同時に記録されるが、転送速度20MB/secのメディアでも書き込みに10秒ほど時間がかかる。RAWを多用するなら少しでも転送速度の速いメディアを選ぶべきだ。


まとめ

 実勢価格は8万円前後とコンパクトタイプのデジカメとしては決して安くない。またスペック的に多機能ではなく、カメラファンにそれほど興味がない一般ユーザーにとって魅力の乏しい製品に見えるだろう。しかし銀塩の時代からGRシリーズを知る者にとっては、よくぞここまで頑張ってくれたと、思わず拍手を送りたくなるような製品である。

 私は根っからの銀塩カメラファンで、どちらかというとデジカメは仕事の道具と割り切っているが、こんな私でも首から下げて歩きたくなる。28mm単焦点レンズ付きという潔さと高画質。これだけならまだしも、ストレスを感じさせない操作性や落ち着いたデザインなど、銀塩カメラファンの心理を研究し尽くしている。

 いち早く銀塩市場からの撤退を表明し、銀塩カメラを見捨てたようなイメージが強かったリコーだが、今回のGR DIGITALでカメラメーカーとしての意地をはっきり見せてくれた。銀塩GRシリーズの人気のように、GR DIGITALも末永く続いて欲しいものだ。


作例

※作例のリンク先は撮影画像をコピーしたものです。

※写真下の作例データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/レンズF値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm判換算の焦点距離を表します。

※焦点距離28mm相当はワイドコンバーターなし、21mm相当はワイドコンバーターありの作例になります。


 ●ISO感度


3,264×2,448 / 1/2秒 / F2.4 / 0EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm 3,264×2,448 / 1/3秒 / F2.4 / 0EV / ISO100 / WB:昼光 / 28mm

3,264×2,448 / 1/6秒 / F2.4 / 0EV / ISO200 / WB:昼光 / 28mm 3,264×2,448 / 1/12秒 / F2.4 / 0EV / ISO400 / WB:昼光 / 28mm

3,264×2,448 / 1/24秒 / F2.4 / 0EV / ISO800 / WB:昼光 / 28mm 3,264×2,448 / 1/52秒 / F2.4 / 0EV / ISO1600 / WB:昼光 / 28mm

 ●そのほか


3,264×2,448 / 1/55秒 / F2.4 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 28mm 3,264×2,448 / 1/40秒 / F2.4 / 0EV / ISO68 / WB:オート / 21mm

3,264×2,448 / 1/160秒 / F2.7 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 28mm 3,264×2,448 / 1/250秒 / F3.4 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 21mm

3,264×2,448 / 1/250秒 / F3.4 / 0EV / ISO64 / WB:オート / 28mm 3,264×2,448 / 1/20秒 / F2.4 / 0EV / ISO154 / WB:オート / 21mm

3,264×2,448 / 1/10秒 / F2.7 / 0EV / ISO200 / WB:昼光 / 21mm 3,264×2,448 / 1/20秒 / F2.4 / 0EV / ISO154 / WB:オート / 21mm

3,264×2,448 / 1/30秒 / F2.4 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 21mm 3,264×2,448 / 1/10秒 / F2.4 / 0EV / ISO400 / WB:昼光 / 21mm

3,264×2,448 / 1/2秒 / F2.4 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 21mm


URL
  リコー
  http://www.ricoh.co.jp/
  製品情報
  http://www.ricoh.co.jp/dc/gr/digital/
  GR DIGITALリンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/compact/2005/09/15/2305.html



中村 文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2005/12/06 00:28
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