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【新製品レビュー】キヤノン EOS 5D
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~フルサイズセンサーならではの画質とファインダー
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Reported by
若林 直樹
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装着レンズはEF 24-105mm F4L IS USM(以下同)
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35mm銀塩カメラのフィルムと同じサイズのCMOSセンサー(1,280万画素)を搭載したEOS 5Dがキヤノンから発売された。35mmフルサイズセンサーといえば同じキヤノンのEOS-1Ds Mark IIや、コダックのDCS Pro SLR/nを思い浮かべるが、どちらも高く手の届かない価格で、一部のプロ用カメラとされている。今回発表されたEOS 5Dは、ハイアマチュア仕様として37万円前後と背伸びすれば届く値段で発売されている。
現在あるレンズ交換式デジタル一眼レフはAPS-Cサイズ相当など、従来のレンズを使ってもレンズ性能をフルに使っていないカメラばかりで、APS-Cサイズセンサー専用のレンズも充実しつつある。もはやフルサイズのアマチュア向けカメラは出ないのか? と長年銀塩時代から撮り続けている多く人は危惧したのではないだろうか。
そこに登場したEOS 5Dは、これからのデジタル一眼レフカメラの行く末を大きく左右しかねない布石となっている。二極化するのかどちらかのサイズに淘汰されるのか……私は雑誌や広告の仕事でニコン D2Xを使っているが、前々からフルサイズのカメラがほしくて仕方がなかった。しかし、すでにそろってしまったニコンレンズを活用するためにはニコンかコダックしか選択肢はなく、フルサイズはコダックDCS Pro SLR/nしかない。テストをしつつ悩んでいるところでもあった。
そこにキヤノンからEOS-1Ds Mark IIの下のクラスになる、ハイアマチュア用フルサイズのEOS 5Dが出た。ついに浮気したい衝動に駆られているが……レンズを揃えるとなると、当分車が買えなくなる。
フルサイズが欲しいのは、レンズサイズと撮れる画角の違い、それに伴う絵作りの違いなどなどが理由だ。今まで80mmレンズで撮っていた物が50mmで撮れることになり、しかも今まで以上のパースが付くようになってしまうなど、フィルム時代から長年やってきた人なら誰しも不満に思うことだと思う。しかもキヤノンユーザーなら今まで持っているEFレンズが使える。そう中年アマチュア&プロカメラマンの救世主になるかもしれないのだ。
そこで、これからのデジタルカメラの可能性を探りながらEOS 5Dをテストをしてみることにする。
■ 高級でも意外に軽いボディ
まずボディだ。筐体はEOS 20Dよりやや大きいものの、操作系のボタン類はEOS 20Dと同じ仕様である。表面は黒色サテン調梨地とグリップなどのラバー仕上げは、十分高級感を感じるよい作りである。
ボディはマグネシウム合金とステンレスシャーシなどでできており、高耐久性や高剛性に優れているという。底面に別売りバッテリーグリップを付ければ、重量感増して縦位置シャッターレリーズもあるのでまさにプロ用になる。
重量は本体のみで810gとEOS 20Dよりも125g重い。持ち比べたわけではないが、さほど重く感じない。というか、見た目より軽く感じた。
さて、大きな違いといえばTFT式カラー液晶モニター画面の大きさが2.5型と大きくなり見やすくなった。屋外でメニューで設定を変える時など見やすい仕様になっている。またペンタ部の内蔵ストロボがなくすっきり感はあるものの、あったらあったで重宝するのにと思うのは私だけだろうか。
丸みを帯びた筐体の上部に対して、下の角はほぼ直角で、ちょっとかっこ悪いなと思いきや、その下にオプションのバッテリーグリップを装着することによって完成されたスタイルになる。バッテリーグリップにより手全体でのしっかりとしたホールド感も増すはずだ。
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右手だけで持った時に、この親指上部の膨らみでしっかり持てるし、片手でぶら下げても滑り落ちる危険は少ない
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「C:カメラユーザー設定」には露出補正、ホワイトバランスや記録画質、ピクチャースタイルなどなどあらゆる設定が登録できる。メインで使う設定を登録すれば、他の撮影モードからもすぐに戻せる。便利だ!
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グリップ側のボタン配置は20Dと同じ。表示パネルを見ながらの設定はもちろん、ファインダーを覗いたままで露出補正からストロボ補正までできる
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電池はリチウムイオン充電池
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記録メディアにCFを採用。1GBのCFでJPEG LARGE FINEで約200枚撮影できた
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電源スイッチとサブ電子ダイヤルを作動させるスイッチが同じ位置にあり、マルチコントローラーとサブ電子ダイアル、設定ボタンの関係が理解できれば操作は楽になる
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USB 2.0、外部ストロボシンクロ、リモコン、ビデオ出力などの端子がまとめて収納されている
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35mmサイズCMOSセンサーはミラーの奥に目一杯詰まっている。まさにフルサイズだ! 画素ピッチはEOS 20Dよりも大きい8.2μm
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液晶モニターの視野角は広い。人に見せるにも操作するにも使いやすい。屋外では輝度を最大にしておけばよく見えた
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■ 好みのフィルムを作れる「ピクチャースタイル」
モニターで再生表示中にINFOボタンを押すと、3パターンの情報表示を選べる。ヒストグラムや白トビがわかるのだが、私は撮影中はこのグラフに頼ることが多いので、グラフをもう少し大きく見せてくれるといい。
特別な機能としてWB補正/BKT設定がある。1回のシャッターを切ることで3段階の色温度をブラケット保存してくれたり、色補正が手動でできる。
設定画面のポイントを右に動かすと「アンバー」よりに。右に動かすと「ブルー」よりになる。同じように上下で「マゼンタ」「グリーン」よりになる。極端に補正すればフィルターワークのようにもなる。
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INFOボタンで現在の設定を確認できる
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各種設定はダイヤルを回して項目を選択する
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メニューの中にカスタム機能があり21の設定項目が含まれている
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WB補正/BKT設定の設定画面
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アンバー寄りに設定
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ブルー寄りに設定
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※作例のリンク先は撮影画像をコピーしたものです。
※作例下のデータは、記録解像度/露出時間/レンズF値/露出補正値/ISO感度/実焦点距離を表します。
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WB補正ノーマル
4,368×2,912 / 1/160秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 24mm
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WB補正後
4,368×2,912 / 1/160秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 24mm
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さてEOS 5Dで撮影するには、ピクチャースタイルを理解したほうがよい。ピクチャースタイルは、EOS 20Dなどの「現像パラメーター」やEOS-1D Mark IIなどの「カラーマトリックス」を統合したもので、設定はわかりやすく使いやすい。それはあたかもフィルムを選んだりフィルターを使うようである。「スタンダード」、「ポートレート」、「風景」、「ニュートラル」、「忠実設定」の5種類を選択できる。
しかもピクチャースタイルそれぞれについて「シャープネス」、「コントラスト」、「色の濃さ」、「色あい」を微調節できる。ただし、各ピクチャースタイルでこれらの設定を同一にしたとしても、同じものにはならない。すでに各ピクチャースタイルの色やコントラストは決まっており、そこからの微調整が可能ということだ。
熟知すれば、もはやフィルムを選ぶ、もしくは作ってしまうような使い方ができる。自分のスタイルを作り上げればレタッチソフトでの作業は少なく済むようになる。逆にいえば、多すぎて結果がわからないまま撮影することになり、マニュアルを見る前に撮りまくった馬鹿な私と同じ目にあうこともあるので、気をつけないといけない。
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ピクチャースタイルメイン画面
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詳細設定
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ユーザー設定。HPからダウンロードしたピクチャースタイルもここに登録
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■ フルサイズならではの広いファインダー
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9点のAFフレーム表示。そのほかアシスト6点AFも装備する(露出などのファインダー内LED表示は省略しています)
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ここまでわかれば大丈夫。EOS 5Dを撮影の旅に持って出てテストしてみよう。レンズは同時発表の「EF 24-105mm F4L IS USM」。光学系の手ブレ補正機構、そして超音波モーターUSMを搭載するレンズでのテストだ。
現地でさっそく気になったのが、ファインダー内のAFフレーム表示だった。中央に集まっているために、ちょっと使いづらい。
9カ所のAFフレームがあり、さらに中央AFフレームの周囲に6カ所のアシストAFセンサーが備わっている(アシストAFセンサーはファインダー内に表示されない)。そのせいか合焦までの速度は速く、撮影に手間取ることはほとんどなかった。
ファインダーの視野率は96%。F4のレンズを付けているためか、ファインダー内はやや暗く感じる。しかしながらファインダー内の被写体の広さときたら、嬉しいの一言である。広く、大きく、隅々まで見ることができ、被写体の情報満載である。これは作品作りでの重要な要素でもある。ファインダーの中までフィルム撮影時代に戻ったわけだが、逆に新鮮でやたら嬉しく思う。
シャッターを切ると乾いた軽い音で、人によっては安っぽいと感じるようだ。レリーズタイムラグは、EOS 20Dよりもやや遅く感じる。スペック表を見てみると、EOS 20Dが65msなのに対してEOS 5Dが75ms。微妙な差であるが、その10msの差は大きく感じる。動く物を撮るにはそれなりのタイミングを体で覚えておく必要がある。
ついでにいえば連写速度が3コマ/秒と少なく、スポーツや動物など動体を撮るには不利。しかしLARGE FINEで60コマの連続撮影が可能である。風景やスナップの多い私にはちょうどいいかもしれない。
まずはピクチャースタイルでの撮影を試してみよう。「スタンダード」はあっさりとした色で、キヤノンらしい色はしっかり出ているものの、深みのない絵になるような気がする。何か物足りない、空気感が感じられないのである。
では「風景」と「スタンダード」と比べてみよう。「風景」は、空の色が濃くなり、緑が若干鮮やかになっている。
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【スタンダード】
4,368×2,912 / 1/100秒 / F9 / 0EV / ISO100 / 105mm
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【風景】
4,368×2,912 / 1/100秒 / F9 / 0EV / ISO100 / 105mm
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次に「ポートレート」、「ニュートラル」、「スタンダード」、「風景」とで比べてみた。「ポートレート」はスタンダードに比べてコントラストが強く赤みが増す。それに対して「ニュートラル」は白い服の階調が良く残り全体的にくすんだ感じだ。「風景」は黄色が強く全体的に彩度が強くなる。お好みのスタイルはあっただろうか?
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【スタンダード】
4,368×2,912 / 1/125秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 60mm
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【ポートレート】
4,368×2,912 / 1/125秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 60mm
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【ニュートラル】
4,368×2,912 / 1/125秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 65mm
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【風景】
4,368×2,912 / 1/125秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 65mm
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逆光に近くハイライトが飛びやすいので露出補正-1/3にして、あえてニュートラルにしてみた。結果ハイライトは飛びすぎず暗部も階調を残し無難に仕上がっている
4,368×2,912 / 1/100秒 / F8 / -1/3EV / ISO100 / 45mm
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順光で全体に光が回っていると、スタンダードはフラットであっさりした感じになりやすい。このような時はPhotoshopなどでいじりたくなる。私ならやはりRAWもしくはニュートラルで撮るだろう
4,368×2,912 / 1/250秒 / F10 / 0EV / ISO100 / 50mm
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また、ノイズリダクションの設定項目に「自動低減」が加わっている。撮影後にノイズリダクションを適用するかをカメラが自動的に判断してくれるようだ。
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ノイズリダクション自動低減でシャッタースピードは20秒。ノイズはほとんど感じられず、夜景など長時間撮影に耐えうる
4,368×2,912 / 20秒 / F14 / 0EV / ISO100 / 28mm
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風で揺らぐ楓の撮影。被写体ブレが激しくISO400にした。見事に止まりノイズも目立たない。これならISO800でも引き延ばさない限り問題なさそうだ
4,368×2,912 / 1/320秒 / F9 / 0EV / ISO400 / 105mm
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撮像面積による24mmレンズでの画角の変化。緑がAPS-C相当、赤がAPS-H相当。外枠が35mm判フルサイズ
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先に述べているように35mmフルサイズCMOSセンサー搭載のおかげで、24mmレンズが24mmで撮れる。右の絵を見てほしい。せっかく歩いて登って見に行った白根山の火口が、24mmでやっと全景が写るのである。それが「APS-H」や「APS-C」では同じレンズでは入りきらない。16mmぐらいのレンズでやっと同じ画角になる。
やはり広角に強いということは嬉しいのだ。もし望遠が弱いというのならAPSと同じサイズぐらいに「トリミング」してしまえば800万画素カメラと同じぐらいになるが、それでも十分耐えうる解像度を持っているからよいじゃないかと思う。
もう少しいろいろなシーンを想定してテストしてみる。たとえばどうしてもスローシャッターを切らなくてはいけない場合。滝などの流れを強調した写真だ。
左下は1/15秒のスローシャッターにより、水の流れを白い糸のように表現した例。手ブレ補正だけではなく、カメラのホールド感がいいのもブレ軽減に役立っている。また、右下は陽のあたらない背景の前に陽に照らされた木。木は黄色に輝ききれいだが写真にはしづらいシーン。コントラストを弱めるためにピクチャースタイルを「ニュートラル」、露出補正を-1にした。危惧した背景がみごとに意図したとおりに再現された。
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4,368×2,912 / 1/15秒 / F10 / 0EV / ISO100 / 35mm
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4,368×2,912 / 1/100秒 / F11 / -1EV / ISO100 / 67mm
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次に、ピクチャースタイルの詳細設定で、シャープネスを最大にした例。レタッチソフトでシャープを最大にするよりかかり具合は遙かに少なく、使える範囲である。目的を持って最大値にしても画像が壊れることはない。
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4,368×2,912 / 1/320秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 24mm
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4,368×2,912 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO100 / 105mm
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さて最後にとても気になる「周辺光量落ち」のテストである。フルサイズデジタルカメラがなかなか普及しないのには、撮像素子の価格に加え、周辺光量落ちが起きやすいことに起因しているといわれる。
周辺光量落ちはレンズから入る光の角度が大きくなるほど、センサーに入る光量が減るから発生する。レンズのイメージサークルぎりぎりから入る光は角度を持っているために、個々の画素の光に対するレンズの向きが合わなくなる。その辺も考慮した新設計CMOSセンサーと聞いていたので楽しみでもあった。
●絞りによる周辺の変化
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4,368×2,912 / 1/500秒 / F4 / 0EV / ISO100 / 24mm
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4,368×2,912 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 24mm
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4,368×2,912 / 1/15秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 24mm
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●焦点距離による周辺の変化
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4,368×2,912 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 24mm
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4,368×2,912 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 105mm
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見ての通りである。絞り開放のF4で、広角の周辺落ちが著しくわかる。実際フィルムカメラでも周辺は多少落ちるのだが、この結果は許容範囲なのだろうか? 被写体によって違うし、考え方によっても違うと思うが、広角の開放で撮る時は気をつけたほうがよさそうだ。
以上の撮影テストをして感じたのは、ピクチャースタイルの設定を間違えると、予期せぬ結果になりかねないということだ。入念なテストをして自分のスタイルを作り上げられる人ならPCいらずで作品作りができるだろう。しかし失敗をおそれるのなら、もしくは後からのレタッチを前提としたいならRAW+JPEGで撮影したほうが、確実でいいものが作れて、失敗が最小限で防げるだろう。記録枚数の制約があるにしても、私なら後者を選ぶ。メモリカードが安くなってきた昨今、大容量のCFを数枚持って撮りまくりたい。
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4,368×2,912 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 24mm
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色々試してみたが、やはり35mmフルサイズCMOSセンサーは魅力である。周辺光量落ちやシャッタータイムラグなどなど多少問題があるにせよ、ほかのメリットを考えると買いかもしれない。
私がキヤノンのEFレンズをたっくさん持っているのなら、即買っているだろう。とりあえずレンズ2本から始めるとして、その選択と出費にまた悩んでしまう……。
■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
製品情報
http://cweb.canon.jp/camera/eosd/5d/
キヤノン EOS 5D 関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2005/09/29/2387.html
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若林 直樹 雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や
癒される空間を求めて国内外を旅している。撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPはhttp://homepage2.nifty.com/nao-w/ |
2005/11/17 14:24
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