デジカメ Watch

【新製品レビュー】カメラの原点を振り返る、オプティオ750Z

~フィルムカメラそのものの外観でデジタル露出計を搭載
Reported by 中村 文夫

 カメラが手に持って使う道具である以上、ライカ型のオーソドックスなスタイルに帰結するのは当然の成り行きではないだろうか。カシオQV-10以来、さまざまな形をしたデジタルカメラが登場しては消えていった。だが撮影用レンズがボディの中央にありファインダーなどの光学系が上に乗った形がいちばん落ち着くし、何よりも使いやすい。「先祖返り」というのだろうか、このオプティオ750Zの外観はフィルムカメラそのものだ。デジタルカメラの世界も成熟期を迎え、ついに原点に戻る時代がやってきたようだ。


 このカメラの最大の特徴は、クラシカルな外観と700万画素という高画質だ。外観については、最初に述べたようにオーソドックスなフィルムカメラスタイルを採用。ちょっと乱暴な比較だが、50年以上前に発売されたIIIf型ライカと並べてみると基本的なレイアウトがそっくりだ。またボディ前面に革に似せたゴムを貼るなど演出面での工夫も見られる。

 さらに、今のところ販売の予定はないが、「クラシック調両掛けホルダー」が販促品として用意されている。このホルダーにカメラを入れれば、両サイドにあるストラップ取り付け用金具を利用してカメラを水平にぶら下げることが可能。ノスタルジックな気分が味わえる。

※編集部注:「クラシック調両掛けホルダー」は、10月31日まで実施中の「秋のOptio祭」におけるプレゼント品です。期間中、オプティオ750Z購入時のレシートまたは領収書、および保証書のコピーをペンタックスまで送付するともれなく進呈されます。詳しくは同社のキヤンペーン案内ページをご覧ください。


オプティオ750Z ライカIIIfとオプティオ750Z。フィルムカメラとデジタルカメラでは内部のメカニズムがまったく異なるが、撮影用レンズ、ファインダーなど外部から見えるレイアウトはとても良く似ている

 撮像素子は総画素数741万画素の1/1.8型原色CCDを採用。現在ペンタックスから発売されているデジタルカメラのなかでは、一眼レフも含めて最大の画素数を誇っている。気になるのは1/1.8型という小さなCCDに7メガという画素を詰め込んでいることだ。メーカーの説明によると「新設計の高速エンジンASIC(Application Specific Integrted Circuit:特定用途向け集積回路)による高度な処理技術で、高画質と高速レスポンスを可能にしました」とある。具体的な内容については不明だが、実際に撮影した画像を見る限り、画面全体に渡って欠点らしい欠点は見当たらず、細部に渡って良く解像している。

 ただし画作りはやや地味な印象で*istDに近い。恐らく製品ポジション的に上級者を意識した結果、このような画作りになったのだろう。今回は画像仕上げ「標準」をメインに撮影したが、派手めな発色を望むのであれば、「鮮やか」を選択すると良いだろう。


※作例のリンク先は、特に記載がない限り、撮影した画像データそのものです(ファイル名のみ変更しました)。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。クリックすると撮影したの画像が別ウィンドウで表示されます。

※キャプション内の撮影データは解像度(ピクセル)/露出時間/絞り/露出モード/ISO感度/露出補正値/ホワイトバランス/35mm判焦点距離です。


標準で撮影。
3056×2296 / 1/20(秒) / 7.8 / プログラムAE / 80 / 0 / 72(mm) / 昼光
「鮮やか」で撮影すると画面全体が明るくなったように写る。赤ピーマンのテカリも強調されている。
3056×2296 / 1/20(秒) / 7.8 / プログラムAE / 80 / 0 / 72(mm) / 昼光

 搭載しているレンズは焦点距離7.8~39mmの光学5倍ズーム。35mm判換算で37.5~187.5mmに相当する。ここで疑問に思うのは広角側の画角だ。上級者をターゲットにした商品にしてはもの足りない。せめて35mm、贅沢を言えば28mm相当の画角が欲しいところだ。コンバージョンレンズが取り付けられない構造なので、この点は非常に惜しい。また高性能レンズを売り物にしている割に歪曲収差が大きく、広角側で糸巻き形のディストーションが目立つ。


焦点距離7.9mm(35mm判換算37mm)で撮影。
3056×2296/1/1250(秒) / F3.2 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 37(mm)
焦点距離17.4mm(35mm判84mm相当)で撮影。
3056×2296 / 1/1600(秒) / F3.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 84(mm)

焦点距離39mm(35mm判換算187mm)で撮影。
3056×2296 / 1/1000(秒) / F4.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 187(mm)
ズーム全域で糸巻き型の歪曲収差が認められる。特に広角側で撮影するとかなり目立つ。
3056×2296 / 1/125(秒) / F5.6 / 100 / 0 / プログラムAE / 自動 / 62(mm)

 搭載されているsmc PENTAXレンズには、ペンタックス独自のマルチコーティングが施されている。実験の意味で極端な逆光で撮影してみたが、ゴーストの発生が少ないうえフレアによる画質の低下も最小限に抑えられている。この点については高く評価できる。

【お詫びと訂正】記事初出時、「smc」が「スーパーマルチコーティング」の略であるかのような表記をしましたが、両者に関係はありません。お詫びして訂正させていただきます。

 ピント合わせは外部のパッシブセンサーと撮像素子によるTTLコントラスト式を組み合わせたハイブリッド式。低輝度時にAFをアシストするAF補助光も装備している。AFエリアはワイド測距とスポット測距の切替式で11点選択測距も利用できる。

 マクロモードに切り替えるとズーム全域で15cmの接写が可能。さらにスーパーマクロモードを選ぶとワイド端でレンズ面から約2cmにピントが合う。このとき画面に写る範囲は約33.7mm×約24.7mm。かなり高倍率の接写ができる。


極端な逆光で撮影したが、画質の低下は非常に少ない。
3056×2296 / 1/80(秒) / F5.6 / 100 / 2.0 / マニュアル / 自動 / 62(mm)
スーパーマクロモードで松葉ボタンの花を撮影。絞りを開いているので被写界深度は非常に浅いが、ピントが合っている部分はとてもシャープだ。ボケ味も悪くない。
3056×2296 / 1/60(秒) / F2.8 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 37(mm)

多彩な撮影モードを装備

 撮影モードは、プログラムAE、絞り優先AE、シャッター優先AE、マニュアル露出、USER、ピクチャー、パノラマアシスト、3D撮影、デジタルフィルター、動画の10種類。これらのモードはボディ上面のダイヤルでダイレクトに選ぶ方式だ。ピクチャーモードは全部で12種類。撮影する被写体にあせてモードを選ぶことができる。

 3Dモードはペンタックス独自の立体写真を撮るためモードで、カメラの指示に従い2カットの写真を撮り、プリントを別売りのビューワーで覗くと立体的に見える。

 USERポジションには、撮影モードや画像サイズなどの組み合わせを3つまで憶えさせることができる。使用頻度の高い組み合わせを予めセットしておくと便利なモードだ。さらにFn(ファンクション)設定機能を使えば、記録サイズ、画質、ホワイトバランス、AFエリア、ISO感度など全部で18ある項目から4種類の機能を十字キーに割り当てることができる。この機能を使えば、メニュー画面で変更したい項目を呼び出す面倒な作業を省くことができる。

 このほか電源をオフにし、再度オンにした際、前回の設定をクリアあるいは保持するかを細かく設定することもできる。さらに撮影画面に表示される情報も細かく設定することが可能。とにかく設定変更については、これでもかというくらい何でもできるカメラだ。かなり使い込まないと設定は固まらないだろうが、設定が一旦決まってしまえば、世界に1台しかない自分仕様のカメラができ上がるはずだ。

 モードダイヤルの前側に設けられたフロントレバーも特筆に値する。このレバーを左右に操作するとAE時に露出補正ができるが、十字キーではなく独立したレバーを使うので操作に迷うことがない、露出補正を多用する上級者にとって歓迎すべき機能だ。


1.6秒というスローシャッターで撮影。暗部にノイズは認められない。
3056×2296 / 1/200(秒) / F4.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 手動 / 187(mm)
オートブラケットでホワイトバランスを選んで撮影。カラーモードは「標準」。
3056×2296 / 1/200(秒) / F4.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 手動 / 187(mm)

オートブラケットでホワイトバランスを選んで撮影。カラーモードは「青っぽい」
3056×2296 / 1/200(秒) / F4.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 手動 / 187(mm)
オートブラケットでホワイトバランスを選んで撮影。カラーモードは「赤っぽい」。
3056×2296 / 1/200(秒) / F4.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 手動 / 187(mm)

 液晶パネルは、1.8型13.4万画素の微反射型を採用。透過型液晶モニターと比べると日中の屋外でもクリアで高い視認性が得られという特徴を備えているが、やはり炎天下では、パナソニックDMC-FX7のようにバックライトの輝度を上げる方式の方が見やすいようだ。モニター部は左右180度、上下270度まで回転させられるので、あらゆるアングルで撮影ができる。さらに完全に裏返すことができるので、光学ファインダーを使うときなど裏返してしまえば、画面にキズが付くことが防げるし、見かけもフィルムカメラのようになる。

 最近では光学ファインダーを省いた機種も増えてきたが、このカメラの場合、光学ファインダーにも手抜きがない。光学系は実像式で視度補正機構を内蔵。ただしフォーカスエリアの表示がないので、光学ファインダーで撮影するときはAFモードをワイドエリアに切り替えると良いだろう。


モニター部は左右180度、上下270度まで回転可能。裏返すこともできる モニターを裏返したところ

閉じたところ 光学ファインダーには視度補正機構も備えている

電源は専用リチウムイオンバッテリー。記録メディアはSDメモリーカードを使用 ボディ側面にあるDC入力端子とAV/USB端子

デジタル露出計について

 デジタルカメラの機能にはまったく関係ないが、このカメラはデジタル露出計を内蔵している。それも被写体の非常に狭い部分の露出を測るスポットメーターだ。ペンタックスは単体露出計としてスポットメーターを古くから発売しているが、機能的にはこれを越えた内容になっている。

 まずモードダイヤルをデジタル露出計モードに合わせると、測光エリアを示す○印と露出計モードになっていることを示すマーク、そしてISO感度が液晶パネルに表示される。このときメニューボタンを押すと設定変更画面になり、ISO感度(ISO6~6,400)、表示ステップ(1/2または1/3EV)、画面モード(カラーまたはモノクロ)の選択ができる。

 次に測光だが、画面中央の○印を被写体の測光したい部分に重ねシャッターボタンを半押しすると輝度を表すEV値とシャッタースピードと絞りの組み合わせが表示される。そしてシャッターを全押しすると測光値を記憶。この状態でフロントレバーあるいは十字キーの左右のボタンを操作するとシャッタースピードと絞りの組み合わせが変更できる。またレンズをズーミングすると露出計の受光角が変化。望遠側で1度、広角側で5度になる。以上が基本的な使い方だ。

 さらにOKボタンを押すとバーグラフ表示のEVスケールに切り替わるが、これはメモリー機能を使い2点の露出の平均値を求めるときに便利な機能だ。また黒いものを黒く再現するためのブラックポイント(シャドー測光)、白いものを白く再現するためのホワイトポイント(ハイライト測光)を表示する機能も装備。いずれにしてもこれらの機能を使いこなすには、反射式露出計の原理を完璧に理解していることが前提になる。特にスポット測光の場合、測光する場所がわずかにずれるだけで、測光値が大きく変化してしまうので注意が必要だ。


デジタル露出計モードにセットしたときの画面。画面中央部の○が測光範囲だ 露出計モードの設定画面。設定できるISO感度の範囲は6~6400。1/2、1/3の露出ステップが選べるほか画面のカラー/モノクロの選択ができる

シャッターボタンを押すと、シャッタースピードとF値の組み合わせとEV値で測光値が表示される。このときフロントレバーあるいは十字キーの左右のボタンを押すとシャッタースピードとF値の組み合わせの変更ができる 測光を記憶した状態でOKボタンを押すとEVスケール表示に切り替わる

測光は2点まで記憶することができ、フロントレバーあるいは十字キーの左右のボタンを使えば平均値が求められる。故意にどちらかへ露出を振ることも可能だ カギ印のボタンを押すと、記憶したEV値に対するホワイトポイント(白い□で表示)、
DPOFボタンを押すとブラックポイント(黒い□で表示)が表示される。白いものを白く再現するにはホワイトポイント、黒いものを黒く再現するにはブラックポイントの露出で撮影すれば良い

 恐らくこのカメラのデジタル露出計を使いこなせるユーザーは、ごく少数だろう。だが、デジタルカメラには無縁とも思える機能を敢えて組み込んでしまうところにペンタックスの設計者の遊び心とフィルムカメラに対する情熱が強く感じられる。私のようにフィルムカメラで育ってきた人間にとっては、なおさらである。


3056×2296 / 1/160(秒) / F7.8 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 62(mm) 3056×2296 / 1/125(秒) / F7.2 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 45(mm)

3056×2296 / 1/2000(秒) / F2.8 / 80 / 0 / プログラムAE / 手動 / 37(mm) 3056×2296 / 1/800(秒) / F3.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 手動 / 84(mm)

3056×2296 / 1/20(秒) / F4.6 / 80 / 0 / プログラムAE / 自動 / 187(mm) 3056×2296 / 1/50(秒) / F4.6 / 80 / 0.7 / マニュアル / 自動 / 134(mm)

3056×2296 / 1/200(秒) / F5.6 / 100 / 0 / プログラムAE / 自動 / 37(mm) 3056×2296 / 1/250(秒) / F5.6 / 100 / 0 / プログラムAE / 自動 / 98(mm)

3056×2296 / 1/40(秒) / F4.4 / 400 / 0 / プログラムAE / 自動 / 156(mm) 3056×2296 / 1/800(秒) / F5.6 / 400 / 0 / プログラムAE / 自動 / 45(mm)

3056×2296 / 1/10(秒) / F3.5 / 400 / -0.7 / 手動 / 自動 / 72(mm) 3056×2296 / 1/125(秒) / F5.6 / 400 / 0 / プログラムAE / 自動 / 37(mm)


URL
  ペンタックス
  http://www.pentax.co.jp/
  製品情報
  http://www.digital.pentax.co.jp/ja/compact/optio750z/



中村 文夫
(なかむら ふみお) 1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。

2004/10/08 01:03
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