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「D90」の正常進化を見て欲しい

~ニコン開発担当者に訊く

会期:2008年9月23日~9月28日
会場:ドイツ・ケルンメッセ



左からニコン映像カンパニー開発本部第二設計部第二設計課マネジャーの泉水隆之氏、同映像カンパニー開発本部 第一設計部第三設計課マネジャーの原正治氏、同映像カンパニーマーケティング本部第一マーケティング部第一マーケティング課マネジャーの笹垣信明氏
 ニコンは今回のフォトキナに向けた新製品を特別には用意しなかった。しかし、そこは実績のあるニコンのこと。ブースの方は常に賑わいを見せる盛況ぶりだった。

 昨年、D3とD300をほぼ同時期に発売し、今年に入ってからもD60、D700、D90と続けたニコンの一眼レフカメラだが、いずれも非常に保守的な印象を受けている。いずれもD3、D300の開発で培ったと思われる技術を各クラスに移植した正常進化版の性格が強いためだろう。

 だがその中にあってD90は、一眼レフカメラとして初めて動画撮影機能を搭載。当初は保守的なユーザーからの批判も見られたが、一眼レフカメラ用レンズを通して得られる動画品質が知られるにつれ、そうした声も少しづつ収まりつつあるようだ。

 今回は一眼レフカメラの商品企画を担当する笹垣信明氏、およびD90とそのキットレンズに携わった開発者たちにフォトキナ会場で話を訊いた。[インタビュー:本田雅一]


新しい楽しみを提案するのはメーカーの義務

――前回のフォトキナでは、笹垣さんの前任者である風見さんが、“カメラネス”というキーワードを使って、風見さんが考えるニコンの一眼レフカメラの企画開発ポリシーを話してくれました。あれから2年、いくつかの製品が出てきましたが、笹垣さんは風見さんのやり方を引き継いで、どのように発展させようと考えていますか?


D90
「2年前というと、ちょうどD80を発売して挑んだフォトキナでした。その後、D40、D40Xを発売し、昨年末のD3、D300へとつながっていきます。これらの製品はいずれも大変に好評を得ることができました。今後も、基本的なカメラらしさ、カメラとしての基本性能を追求していく姿勢に変化はありません」

「ただ、基本的なカメラらしさに加え、ライブビューや動画撮影機能など、新しい映像表現の手法にも継続的に取り組んでいきます。ただし、そうした付加機能が加わってきたとしても、最高の静止画を撮影するというカメラ本来の目的を最優先にした設計とすることに変わりはありません」

――ニコンは保守的と言われますが、一方で新しい機能も積極的に取り入れる方ですよね。コンパクトデジタルカメラへの顔検出、無線LAN、GPSレシーバなどへの組み込みは業界で最も早いタイミングでしたし、顔認識以外はいずれも一眼レフカメラにも取り入れていました。Capture NXにも見られるように、社内にない技術ならばライセンスしてでも取り入れ、顧客からのフィードバックをもとに洗練させていく。デジタル化以降は、むしろアグレッシブさが目立っていたように思います。D90の動画機能も、まだ完全ではない面が残っていることを承知で、良い面を引きだそうと搭載したように見えました。

「自分たちが考えているのは、一眼レフカメラの動画とビデオカメラの動画は、その目的も意義も全く違うということです。ニコンという会社はとても慎重派で、完成度を高めてからでなければ使わないといった風潮が本来的にはあるのですが、ここまでできたなら、まずは提案してみようと考えました。まずは市場に投入し、そこから何らかのフィードバックをもらえば、新しいステップに進むこともできます」

「アグレッシブさに関しては、古い殻を破らなければという強い思いも、慎重な反面でとても強いんです。新しい楽しみ方をユーザーに提案するのはメーカーの義務だと考えています」


動画機能に対するユーザーの認識が変わった

――実際に動画機能を組み込んでみて、ユーザーからはどのような反応が出ていますか?

「新技術を一眼レフカメラに導入するパターンは主に2つあります。報道分野で必要に迫られて付け加える機能。もうひとつはニーズの掘り起こしをするため、ニコン側で出したアイディアを実装した機能です。動画はニーズ掘り起こしのために入れた機能なのですが、実際に組み込んでみると多方面から、多くの反応をいただきました」

「加えてD90を発表し、動画サンプルが公開されると、それまで“一眼レフには動画は必要ない”と言われていたのに、お客様の認識が大きく変化し、現在は肯定的な意見をいただけるようになっています。D90登場前は、“一眼レフは静止画命であってほしい。これではコンパクトデジカメと同じだ”という声が強かったのが、今では“コンパクト機にはない一眼レフの良さを活かした動画だ”という認識に変化しました。また、もともとコンパクト機にはあるのに一眼レフには存在しなかった機能ということで、そうした意味では前向きな反応が多かったですね」

「とはいえ、完成形にはほど遠いということは自認しています。“一眼レフカメラらしい動画”という切り口で、今後の機能向上をはかっていきたいと思います」

――今後、どのような方向で動画機能を発展させるつもりですか?

「他社にも動画撮影ができる機種が登場し、これからはユーザーがまた増えていくでしょう。そうした中で、一眼レフカメラのユーザーが動画機能をどう使うのかを見ながら、進化の方向を探っていきたいですね。ただ、基本的な部分、動画向きのコントラスト調整や撮影機能の最適化、それに露出変化の挙動など、動画の中で各種の撮影パラメータが変化しても鑑賞できるレベルにまでは持って行きたいと思いますし、カット編集などの機能もできれば入れたい」

「ビデオカメラというと、運動会などで同じ場所にカメラを置き、そのまま流してとり続けるといった使い方が多いのですが、しかし、一眼レフの動画では鑑賞形態がそれらとは異なる作品を撮ってもらいたいので、そうした人たちに提供できる機能を盛り込みたいですね」

――D3などのプロ機にも、将来的には動画機能を組み込むのでしょうか?

「撮りたいという要望は受けています。一眼レフの動画機能は始まったばかりで、お客さんの使い方もまだリサーチしきれていません。正直言って、ここまで動画機能が注目されるとは思っていませんでした。動画が注目されることでD90がクローズアップされるのは本意ではありません。ただ、D80からの“カメラとしての正常進化”という部分も、きっとユーザーには伝わると思っています。デジタル機器といっても、一眼レフカメラはレンズ次第、使い方次第で絵が千差万別に変化するアナログな機械なので、正常進化を続けていくことはとても大事なんです」


2年間の進化は多岐にわたる

――では、その正常進化についてですが、開発サイドから特にユーザーに伝えたい正常進化部とはどこでしょう。

「先代モデルとの一番大きな違いは心臓部の撮像素子、画像処理がD300と同等になり、ゴミ除去機能も装備したということですが、一見、地道だけれども効果的なのが、シーン認識能力の向上です。シーン認識というと、ライブビューしていない時には撮影シーンをキャプチャできないじゃないかと言われるでしょうが、我々のカメラはこれまでもセンサーで撮影シーンを捉え、シーンを的確認認識させる機能を盛り込んできました。AFは11点のままですが性能を向上さえていて、AF測距離情報と420分割RGBパターン測光センサーなどの情報を活かし、それを露出やAFにフィードバックするというシステムを作り上げています。これにより、撮影シーンを自動判別する精度が格段に上がっています」

「またアクティブD-ライティングも進化しています。従来のアクティブD-ライティングは極端な補正にならないよう、かなりコンサバティブな動きしかしないよう設定してありましたが、設定の幅を広げて従来よりも強く効かせることも可能になりました。その他、処理速度も速くなり、連写速度に影響を与えませんし、AEブラケットでも使えるようになりました。耐久性向上やシャッターを押した時のキレの良さ、小気味よさのようなものも上位機種に近いものに仕上げています。ライブビューに関しても、地道に特に操作性の改善を図り、いつでも動画撮影へと移行できるような簡単操作を追求しています」

「D80とほぼ同じ価格、同じ形状をしていますから、一見地味には見えるかもしれませんが、この2年の進化は非常に多岐にわたっています」

――非常に幅広い堅実な進歩という印象ですが、その中でも特にひとつを上げるなら何になりますか?

「ニコンの他社に対する一番大きなアドバンテージは、やはりシーン認識だと思います。的確に被写体の特徴、光の状況を捉えて、露出制御、AF、オートホワイトバランスへと反映するシステムはひじょうに完成度が高いと自負しています。あとひとつ追加させてもらうなら、魚眼モードや歪曲、色収差の電子補正機能もニコンのカメラが持つユニークな機能です」

「自画自賛というわけではありませんが、この価格、このサイズで画素数を増やした上で連写が速くなり、基本機能を全体に底上げした上で動画機能を盛り込めたことことは、自分たちでも驚いています。今回はAF-S DX 18-105mm VRも標準レンズとして用意し、トータルのシステムとして完成度の高い商品になりました。

――D40、D40xは戦術的にも戦略的にもうまく行った製品でした。製品そのものも、割り切りの仕方という意味で今から考えれば良かったとも思います。しかし現在、ニコンのエントリークラスは少々手薄という気がします。このエリアをどのように強化する考えでしょう?


D700
「エントリークラスに関しては、より小型、より軽量、より低価格を目指したいとは思っていますが、一眼レフカメラの老舗として、いい加減な製品は作りにくい。トップからボトムまで、中心になる機種をきちんをやっていかないといけません。D40やD60も、しっかりと市場の中心に完成度の高い製品を届けなければなりません」

「振り返ってみると、ニコンはD100のあとD200までの期間が長く、その間にD70が登場して中級クラスのユーザーだけでなく、エントリークラスのユーザーも取り込んで大ヒット製品になりました。あの頃は、まだ市場がクラスレスでコストパフォーマンスの良いカメラなら、ユーザー層に関わらず売れた時代でした。現在はもっとユーザー層の分化が進んでいますが、D50、D40などは、うまくエントリークラスのユーザーに最適化し、うまく割り切ったとは思います。そうした視点で、今後もバランス良く考えていきます」

――キヤノンに続いてニコンがD700でアマチュア向け35mmフルサイズセンサー機を発売し、このフォトキナではソニーもフルサイズ機をとうとう投入しました。低価格な普及機にまで降りてくるには時間がかかるでしょうが、フルサイズセンサー搭載機が買いやすい価格帯に降りてきそうな雰囲気は整ってきています。DXセンサーとFXセンサーは、それぞれの長所を活かして使い分けるというのがニコンのスタンスですが、そうした戦略とは別に、アマチュア向け高級機はフルサイズ化してしまい、中級機の一部までがフルサイズといった形で、センサーサイズが価格クラスの一部に組み込まれたような状況になるかもしれません。この点、どのように考えていますか?

「繰り返し申し上げてきていることですが、DXにはDXの良さがあり、FXにはFXの良さがあります。今後はFXばかりになるのでは? という声を聞くこともありますが、DXレンズにも引き続き力を入れていますし。レンズの設計の自由度もDXの方が上だと思っています。それぞれに有利なところがあり、フルサイズが高級機のスタンダードになるとは思っていません」

「また、“なんでFXが必要なのか?”という意見もあります。実際、特に欧州ではプロカメラマンからも“D300で十分なのに、なぜD700なのか”と問われることが少なくありません。趣味性の高いユーザーがFXを選ぶというわけではないですよ。趣味性の高いDXセンサー機もありますからね」


「単純な画素数競争はしたくない」

――フルサイズセンサー搭載のアマチュア機が3つ出そろい、画素数に関してはかなり大きな差を生まれています。しかもEOS 5D Mark IIのセンサーは、画素数が多い割にはなかなかS/Nが良いという評判も出てきました。この点、どのように考えていますか?

「単純な画素数競争はしたくありません。S/Nだけでなく、ダイナミックレンジなど、トータルバランスで画質を高めるために最適な選択は何かという見方をしています。その判断の中で、さらに高画素化ができるのであれば、当然、ニコンも高画素化に取り組みます。しかし、高感度を犠牲にしてまで高画素化した製品は作りません。一眼レフカメラで、せっかく新しい世代の製品を発売したのに、昔の方が良かったとは言われたくありませんから」

――とはいえ、現在の市場トレンド、技術トレンドを見ると、高画素化はまだまだ続きそうですね。これ以上、高画素化(狭画素ピッチ化)が続けば、デジタル対応世代のレンズも、再度、高画素センサー向けに変わらざるを得ない時代が来るのではありませんか?

「レンズはモデルチェンジのサイクルも、買い換えのサイクルも長い製品ですから、当然、ボディ本体よりも先のことを見越して作っていますから、特に問題は起きていません」

――ニコンの予想した通りに画素数のトレンドは推移しているのでしょうか?

「だいたいの範囲ですが、ほぼ予想通りに進行しています。ただ、レンズのMTFはムーアの法則に則って向上しているわけではありませんから、センサーの方がレンズの設計技術を追い抜いてしまうことはあるかもしれません。ニコンとしては、相当先のことまで考えて設計をしていますが、あまり高周波数成分の特性ばかり気にしてレンズを設計すると、今度は低周波成分の質が落ちてしまいます。音で言えば、高域は伸びてるけど、低音はスカスカという状態です。いくら細かいところが解像しても、それでは良い絵にはなりませんから、バランスが重要になってきますね」



URL
  フォトキナ2008
  http://www.photokina-cologne.com/
  ニコン
  http://www.nikon.co.jp/
  D90関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/09/18/9154.html

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ニコンはGPSユニットの実機を展示(2008/09/26)


( 本田雅一 )
2008/09/29 00:53
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