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メインストリームは一眼「レフ」であり続ける

~キヤノン事業本部長 真栄田雅也氏に訊く

会期:2008年9月23日~9月28日
会場:ドイツ・ケルンメッセ


キヤノンイメージコミュニケーション事業本部長の真栄田雅也氏
 前回、2006年のフォトキナまで、キヤノンは“3つの市場に対して、3つの王道を行く製品”を投入するという、変化球なしの直球勝負で一眼レフ市場を戦っていた。2005年秋に発売したEOS 5Dがひとつの変化球だったとは言えるだろうが、プロ向けにEOS-1Dシリーズ、アマチュア向けにEOS x0Dシリーズ、エントリー向けにEOS Kiss Digitalシリーズを置き、それぞれのクラスで完成度を上げ、時代ごとに変化するニーズの中心を外さぬよう注意を払った機種を展開することで、大きなシェアを築き上げた。

 しかし今、キヤノンの一眼レフカメラは多様化への対応を始めているように見える。前回のフォトキナでキヤノンは「今はまだ多様化へと向かう時期ではない」と話していたが、3年ぶりのリニューアルとなったEOS 5D Mark II、EOS Kiss Fの追加など、少しづつラインナップに幅を持たせるようになってきた。

 今年のフォトキナで、キヤノンはどのようなビジョンを来場者にアピールしようとしているのだろう。デジタルカメラ事業を統括するイメージコミュニケーション事業本部長の真栄田雅也氏に話を訊いた。[インタビュー:本田雅一]


動画機能を搭載してもスチルカメラの本分を忘れない

――このフォトキナでキヤノンが訴求したいテーマを挙げるとするなら、それは何でしょうか?


EOS 5D Mark II
「この秋のデジタルカメラでは、一眼レフ、コンパクト双方において、バリューアップした製品を訴求したいと考えて商品開発を行なってきました。低価格化が進む中で、数字上のスペックばかりで比較されることも多くなってきていますが、今一度、品物の質感や操作感といった商品として手に取った際の良さを実感してもらえるような、表面で見えるところだけではなく“バリュー”の高さを感じてもらいたいと思ってブースを計画しました」

「具体的には、PowerShot G10、自社CMOSセンサー採用のPowerShot SX1 IS、IXY Digital 3000 IS、それにEOS 5D Mark II、EOS 50Dといった製品になります」

――EOS 5D Mark IIは、新型CMOSセンサーの画質もさることながら、素晴らしい画質を実現した動画撮影機能も話題です。業界を見渡すとニコンが直前にD90で動画機能を盛り込みましたが、動画機能はいつ頃から意識していたのでしょう?

「動画撮影機能はかなり以前から社内で検討していました。高画質を謳う一眼レフカメラだけに、それなりに期待に応えられる機能でなければなりません。若干、求められる領域に達していないと自認している要素も残ってはいますが、画質に関しては認めてもらえる品質レベルにまでは達することができたこと、AFに関してもコントラストAFが使えるレベルになってきたことなどを考え合わせて、EOS 5D Mark IIのタイミングで搭載しました」

――EOS 5D Mark IIの動画を見ると、やはり静止画向けの高性能レンズが持つ力というのを強く感じますが、一方で静止画レンズは絞りやAFがスムースに動くように作られていないなど、動画用レンズとは異なる部分もありますよね。今後、どこまでこの機能を育てようと考えているのでしょう?

「実際に製品へと搭載してみると、自分たち自身でも“フルサイズのセンサーを使った動画というのは、かなりおもしろいな”と感じました。約60種類のEFレンズを使って、動画の中でレンズの表現力を活かした撮影ができる。確かに動画用として完全なものではありませんが、まずはEOS 5D Mark IIでユーザーに一眼レフの動画を使いこなして欲しいと思います。我々も一眼レフの動画に関して、すべてのニーズを掴み切れていませんから、ユーザーが使いこなしてくれることで、今度は次への要望が見えてくると考えています。しかしスチルカメラとしての本分を忘れることはありません」

「撮影という作業の中で、瞬間を止めて捉えることと、時間の流れを切り取るということも、それぞれに異なる使い勝手があります。あくまでも一眼レフカメラはスチルカメラが本分ですから、スチル優先で設計をしています。今回の製品でも動画撮影中にシャッターボタンを押すと、その瞬間にスチルカメラとして静止画を撮影できるようにしました」


――ここまで場の雰囲気を捉えた動画をキャプチャできるとなると、もっと映画的にガンマカーブを整えたり、あるいは色再現にしても映画的な表現のカラールックアップテーブルを載せるなどすれば、もっと作品としての幅を広げられそうですね。

「今回の製品は一番最初ということで、ビデオカメラの映像に慣れた方々を意識し、若干固めの画質に仕上げています。しかし、映画ライクな撮影という領域に関しては先達がいらっしゃいますから、いろいろと研究しながら、次の方向を模索したいと思います」


2つの大きな進化が同時に到来

――EOS 5D Mark IIは、新たに作った新しいCMOSセンサーの生産ラインから生まれた最初のセンサーが搭載されています。フォトセンサー部の上に配置された配線の高さを抑えたり、マイクロレンズの改良を行うなど製造プロセスの面で新しい要素が加わっていますが、結果として目に見えてS/Nが良くなり、それに伴って絵作りの自由度も広がっているように見えました。

「今回のセンサーはピクセルに入ってくるフォトン(光子)をめいっぱいセンサーに集め、さらにセンサーに外部から飛び込むノイズを分離、取り除く技術を入れています。センサーそのものの信号も、大幅に改善されています。その上で、後段のデジタル処理におけるノイズリダクションのアルゴリズムも、プロセッサのパワーが上がった分、新しい要素を取り入れました。特に暗部の描写力が向上していると思います」

「大幅に画質が変化したと感じていただけるのは、内製のCMOSセンサーと映像エンジンの両方の大きな進化タイミングが同時にEOS 5D Mark IIのタイミングでやってきたからです。それぞれ別々に開発を進めていますが、今回はその両方を全く新しい世代に更新することができました」

――センサーとプロセッサの両方が最新世代になったという意味では、PowerShot SX1 ISも同じですね。これに使われているCMOSセンサーも、基本的にはEOS 5D Mark IIと同プロセスのものなのでしょうか?

「もちろん画素ピッチの違いによる諸元の違いはありますが、基本的には同じ世代のCMOSプロセスを用いて開発されています。その結果、このクラスのセンサーとしては、かなりレベルが上がったと考えています。小さなセンサーでも、そこそこの品質の信号を取り出せるようになりました」


EOS 5D Mark IIのCMOSセンサー 同映像プロセッサ「DIGIC4」

「フルサイズとAPS-Cサイズは共存していく」

――EOS 5D Mark IIに関しては、2007年、打土井さんが4月に開発を指示したとお話ししていましたが、かなりの短期間で開発されたことになります。

「要素開発としては継続的にフルサイズ機向けの研究開発は続けていました。打土井が申し上げたのは、それらの技術をまとめて商品化に向けたスタートの指示なので、実際に1年半ですべての開発を終えているわけではありませんよ。ひとつの機種に長い時間と手間をかけて商品化するというEOSシリーズの開発スタンスに変化はありません」

――キヤノンの中級一眼レフカメラに言われていた、遊び心がない、つまらない、といった声にも対処したいと言っていました。売れているメーカーの王道を行く製品というのは、どうしても“つまらない”と評価されがちな側面もありますが、今回は何か対策を考えてみましたか?

「EOS 5D Mark IIに関しては、ぜひ本体の剛性を実物で確認していただきたいと思います。ひっぱたいたり、ねじったりしてみてください。以前よりも筐体全体の剛性が大きく向上し、それが手に持った時の質感を変えています。CFカードのフタなども剛性を強化しました。EOS-1Dsとまでは行きませんが、本体の剛性はかなり良くなってきました。その結果、シャッター音も先代の5Dとは違ったテイストになっています。もちろん、先ほどから話題になっている動画撮影も、キヤノンなりの回答の一つです」

――EOS 5D Mark IIは、先代モデルよりも販売開始時の価格が10万円近く安く設定されています。この先もフルサイズセンサー機の価格が下がっていけば、趣味性を追い求めるハイアマチュアはフルサイズへと移住し始めるかもしれません。センサーサイズのトレンドをどう読んでいますか?

「フルサイズ機の価格がさらに下がっていったとしても、APS-Cサイズ機とは併存していくと思います。ご存じのように、両者は互いの短所が互いの長所になっています。EFレンズの特性をすべて活かしきった撮影をしたいお客様はフルサイズ機を選んで欲しいと思いますが、しかし、もっとカジュアルでコンパクトなカメラも必要という方はいらっしゃいます。APS-Cサイズ機にはフルサイズ機ではない、小型軽量という利点がありますから、フルサイズセンサーだけではニーズに応えられません」

――ではレンズ開発も、EF、EF-Sの両方の開発ペースを維持していくということですか?

「はい。EFとEF-S、両方に対してどんどん新しいレンズを開発していきます」


「一眼の市場を広げるという意味でも、DMC-G1の登場は歓迎」

EOS Kiss F
――パナソニックがEVF搭載のマイクロフォーサーズ機LUMIX DMC-G1を展示しました。フィールドシーケンシャルの高精細EVFが話題です。EVFが光学ファインダーの見え味を超えることはないかもしれませんが、ユーザーに対して撮影をアシストするインフォメーションを与えるという切り口で考えると、EVFには将来の発展の余地が大きく残されています。中長期的な視点からEVFをどのように見ていますか?

「将来という意味では、我々も様々なバリエーションは考えています。DMC-G1のような手法もひとつの形だとは思います。特に動画撮影機能を盛り込んでいくならば、リーズナブルな手法ですしね。一眼の市場を広げるという意味でも、DMC-G1の登場は歓迎しています」

「長期的に見れば、デバイスの進化に応じてどんどん性能や品質は改善していくでしょうから、そのうちキヤノンもEVFに行かなければならないかもしれないなぁ……とは思います。可能性はあると思いますよ。しかし、メインストリームの製品は、あくまでも一眼“レフ”であり続けるでしょう」

――一眼レフにはファインダーの見え味以外にも、速写性やAFの速度や精度など、高い完成度と性能を有する要素がたくさんありますが、一方で銀塩フィルム時代からの進歩という面では、“レフ”の部分が進化の壁になっている面もあります。コンパクト機が銀塩時代とは想像もできないような進化、変化を遂げているのとは対照的です。もちろん、それだけ一眼レフが完成度の高い製品とも言えますが、“レフ”を残したまま世代が変わるような進化はできるでしょうか?

「正直いって、現時点ではわかりません。一眼レフに限らず、世の中のパラダイムを変えるような製品を作りたいとは考えていますし、様々な方向での研究開発はしていますが、具体的な方向が見えているわけではありません。一眼レフは現時点での完成系ですからね。しかし、今後、もっと進化していく可能性はあるとも思っています。具体的な進化の方向は、まだこれから判断しなければなりません。ただ、私はデジタル一眼レフの歴史は始まったばかりだと思います。まだまだこれからです」

――EOS Kiss Fを発売し、エントリークラスが2機種構成になりましたが、EOS Kiss FとEOS Kiss X2の関係は上下関係ですよね。入り口の幅を広げるといったアプローチは考えていませんか?

「社外向けの建前論としては、流通チャネルやユーザーごとに最適な製品を提供するために上下に展開したということですが、確かにローエンド製品にこそ“幅”が必要という議論はあります。デジタル技術の上に成り立っている商品ですから、我々が考えている以上に進化が早いところもあります。ですから、一眼レフカメラも多様化を前提として、コンセプトごとに製品を用意するといったやり方をしていく必要があるのかもしれません」


“眺めながら寝たい”と思ってもらえるカメラ作りを目指す

――一眼レフではありませんが、たとえばPowerShot G10などはマニア心をくすぐるようなモデルチェンジをしましたね。コンパクト機の方は、ターゲットとするユーザーごとに細かい調整にこだわっている。2段式のダイヤルなど、コストを考えれば採用しづらいでしょうが、あのシリーズを買ってくれるユーザーの顔が見えているのでしょう。

「実は私はまだ、時間が許す限り、開発現場で設計を見ています。G10の2段ダイヤル、実は私がそうしろと言ったんですよ。今のデジタルカメラの商品構成から言うと高価な高級機ですから、やっぱり味気ないカメラにはしたくない。一眼レフに関しても、方向へと進むスケッチがあって、その中から幅を広げる製品にも取り組んでいきたいですね」


PowerShot G10 IXY DIGITAL 3000 IS

――冒頭で真栄田さんがおっしゃった“バリューアップ”を考えると、もちろん、機能や性能も重要ですが、やはり製品を手にして感じた品質感が大事だと思います。しかし、スペック競争と価格競争が激しくなり、昨今はほんの少し品質感が落ち始めている。これはキヤノンがというよりも、業界全体の緩やかな変化として感じていることなのですが、その点はいかがでしょう?

「実は同じようなことを、つい先日、開発の現場に話したことがあります。我々が取り組んでいるバリューアップに関しては、たとえばIXY Digital 3000 ISを見てください。機能が増えて面白いだけではダメということで、カメラとしての完成度を高めています。表面のフィニッシュや曲面を活かしたデザイン、それに0.12秒と素早いレリーズラグ。画素や高感度性能なども重要ですが、レリーズラグの少なさというのは、良い写真を撮るためのカメラの基本ですよね。そうした部分をおろそかにしてはいけない。基本を突き詰めた上で、デザインや質感にもこだわりたい。まだまだ改善の余地はあります」

「そして、本質の追究の中には、品質感向上ももちろん含まれると考えています。カメラは生活必需品ではありません。カメラは所有して喜び、うれしくて寝る時も寝床の近くに置いて眺めながら寝たい。キヤノンのカメラがそんな風に大事に思ってもらえる製品であるよう、今後の製品を丁寧に大切に作っていきたいと考えています」



URL
  フォトキナ
  http://www.photokina-cologne.com/
  キヤノン
  http://canon.jp/

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( 本田雅一 )
2008/09/27 19:53
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