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キットレンズのDT 16-105mm F3.5-5.6を装着したα700
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現在はソニーになったが、αシリーズの生みの親であるミノルタにとって、製品名に付ける数字の7は特別な存在である。これは1962年、アメリカの有人飛行船フレンドシップ7号にハイマチックというコンパクトカメラが搭載されたことに遡る。これ以来、ミノルタにとって7はラッキーナンバーとなり、宮崎美子をCMに起用して一躍有名になった35mm一眼レフカメラのミノルタX7、ヨーロピアンカメラオブザイヤーを受賞したミノルタX700、本格的AF一眼レフ時代の口火を切ったのミノルタα7000と、これはという自信作に7の称号を与えてきた。
デジタル一眼レフカメラでは、コニカミノルタの時代に発売したα-7 DIGITALが、カメラグランプリ2005を受賞。同社にとって、7は非常に縁起の良い数字なのである。
コニカミノルタがソニーにデジタルカメラ事業を譲渡して、最初に発売した製品はα100。残念ながら製品名に7は入っていない。あくまでも私の勝手な想像だが、ソニーブランドになって初めての一眼レフカメラということで、あえて7という名前を避けたのではないだろうか。今回の新製品の名前はα700。ソニーは2機種めにして、自信作を開発し得たと想像できる。
ソニーはα700のためにAPS-Cサイズ相当の1,220万画素のCMOSセンサーを開発。そして従来からある映像エンジンのBIONZをさらに進化させ、これまでにない高画質を実現した。このほか、前機種のα100から引き継いだ機能として、シャッタースピード換算で約2.5~4段分の補正効果が得られるボディ内手ブレ補正機能や、撮像素子にゴミを付きにくくするアンチダスト機能。11点AFセンサーなど、多彩な機能を備えている。
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α700の液晶モニターは3型と大きく見やすい。右は2.5型を採用したコニカミノルタα Sweet DIGITAL
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グリップは大きめで筆者の手に余る。CFカードとメモリースティックのダブルスロットになっているので、このしわ寄せがグリップの来たのだろう
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バッテリー表示部の数字はバッテリーの残量。インフォリチウムバッテリーの採用で%表示で詳細な残量が出る。バッテリーの撮影可能枚数の公称値は650カット。今回は約350カット撮影して残量44%だから数値はかなり正確だ。ただ%表示に慣れていないせいか、ちょっと減りが早い気がする
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これから8回わたり、これらの機能を紹介してゆくわけだが、第1回目のレポートとなる今回は、小手調べという意味を兼ねてソニー独自の機能であるDレンジオプティマイザーを使ってみることにした。
フィルムカメラに比べるとデジタルカメラのダイナミックレンジは狭く、黒ツブレや白トビが問題になる。特に露出補正を使用した場合、主要被写体の明るさを適正露出に合わせると、それ以外の部分が犠牲になることが多い。この理由は、画面全体の露出を上げ下げした結果、ハイライト部あるいはシャドー部がデジカメの再現できる輝度範囲からはみ出してしまうからだ。ソニーの開発したDレンジオプティマイザーは撮影した画像の絵柄を解析。露出だけでなくコントラストも調整し、最適な露出と階調表現を実現してくれる。
α700に搭載されているDレンジオプティマイザーは、スタンダードとアドバンスモードの2種類。さらにアドバンスモードは、カメラが自動的に最適化してくれるアドバンスドオートと最適化のレベルを5段階に設定できるアドバンスレベル設定に分かれている。もちろん「切り」を選んで作動させないこともできる。
スタンダードは画面全体の明るさとコントラストを均一に調整するモード。画面をエリア別に補正するアドバンスモードの場合、条件によっては補正が過剰になるなど不自然な印象を与えることがあるが、このモードなら、そんな心配は無用。いわば押しつけがましさを排除した無難なモードと言えるだろう。
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Dレンジオプティマイザーの設定画面
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アドバンスオートは,画像を細かな領域に分けて解析し、各領域ごとに黒ツブレや白トビの両方を補正。たとえば逆光で黒くツブレたシャドー部だけを明るくする補正する場合、全体に明るくすると背景が明るくなりすぎることがあるが、このモードならシャドー部だけを補正するのでハイライト部がとばずに済む。フィルム時代にプリントの際に暗室で行なっていた覆い焼きを撮影時に行なうようなもので、デジタル的に表現するとレタッチソフトの領域に一歩踏み込んだ補正方法である。
アドバンスオートは、カメラが自動的に補正レベルを決めていたのに対し、アドバンスレベル設定では、使用者が最適化のレベルを5段階に調節できる。実際に試したところ、いちばん補正効果の弱いレベル1でも想像以上に補正が効く。記念撮影などでは劇的に失敗が減るかも知れないが、「場合によっては、ちょっとやりすぎ」といった感じに仕上がるので、注意が必要だ。
いずれにしても、アドバンスオートとアドバンス設定は、デジタルカメラの特性をよく研究した補正方法と言えるだろう。たが、すでに述べたように、やりすぎると不自然になる。また、このさじ加減は非常に難しく、私のようにフィルムカメラの時代を長く経験してきたユーザーと、デジタルで写真に入門したユーザーでは判断基準が当然違う。恐らくこれからの時代、後者のようなユーザーが増えると過剰補正が当たり前になるだろう。しかし慣れとは恐ろしいもので、Dオプティマイザーをオンにした映像を見続けていると、オフで撮影した画像が失敗のように思えてくることがある。古い話で恐縮だが、富士フイルムが実際の色より鮮やかに写るカラーリバーサルフィルム、ベルビアを発売したときが、ちょうどこんな感じだった。最初はあまりに鮮やかすぎて違和感を憶えたが、次第に「これも、ありかな?」という気になり、結局、今は完全に受け入れている。Dオプティマイザーについても、最終的な善し悪しは使用者の主観に委ねるしかないだろう。
α700を使い始めて間がないので、それほど多くのシチュエーションで試したわけではない。したがって現時点で結論を出すことできないが、Dレンジオプティマイザーは、いわば「両刃の剣」。特性を理解した上で使いこなせば、強力な味方となるが調子に乗りすぎると火傷をする。また今回は使用しなかったが、Dレンジオプティマイザーは、補正量を変えて3コマを同時記録するブラケット機能も装備。上手く使いこなせば撮影後の後処理が楽になりそうだ。レポートはまだ始まったばかりなので、いずれ、もう少し深くつっこんだ報告をしたいと考えている。
- 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
- 撮影データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。
- 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。
■ Dレンジオプティマイザー:検証その1
- 共通データ:DT 16-105mm F3.5-5.6 / 4,272×2,848 / 1/60秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 35mm
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オフ
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スタンダード
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オート
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レベル1
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レベル3
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レベル5
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画面右側がステンドグラス、左側が壁面で、完全に逆光の条件で撮影 。スタンダードはオフに比べるとは、ほんの少し露出が明るくなっている。オートでは逆に画面左側のシャードー部が少し暗い。恐らく明暗差のある被写体の雰囲気を壊さないため、このよう補正方法を選んだのだろう。
Dレンジオプティマイザー設定レベル1では、シャドー部の露出がかなり明るくなっているが、この程度なら、まあ許容範囲といったところ。レベル3では、かなり明るくなり、まるで補助光を当てたようになってしまった。レベル5では逆光であることを忘れさせるほど補正が強くなり、かなり不自然。右側のステンドグラスも明るくなっている。
■ Dレンジオプティマイザー:検証その2
- 共通データ:DT 16-105mm F3.5-5.6 / 4,272×2,848 / 1/250秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 105mm
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オフ
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スタンダード
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オート
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レベル1
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順光だが背景が暗いシチュエーションで撮影。スタンダードはデコイの胸の白い部分の白トビを押さえるためか全体に暗め。オートでは背景が明るくなった。レベル1は明らかに補正のしすぎに感じられる。
■ Dレンジオプティマイザー:検証その3
- 共通データ:DT 16-105mm F3.5-5.6 / 4,272×2,848 / 1/400秒 / F5.6 / ISO100 / WB:オート / 70mm
- 作例により露出補正を加味
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オフ / 0EV
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レベル1 / 0EV
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レベル5 / 0EV
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オフ / +0.7EV
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オフ / +1.3EV
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Dレンジオプティマイザー設定レベル1では、右側の水仙の花びらの白トビが改善されると同時に背景が明るくなった。コントラストはやや弱めで全体に軟らかい感じ。レベル5は、その場の雰囲気が失われ、まったく違うイメージになってしまった。
ただこの写真だけを見せられたら、特に欠点はないので納得してしまうかも知れない。Dレンジオプティマイザーなしでプラス補正したものは、やはり花びらの白トビが気になる。個人的な好みでは、Dレンジオプティマイザーなしとレベル1の中間くらいが望ましい。こうなると判断はかなり微妙だ。
■ URL
ソニー
http://www.sony.co.jp/
製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/dslr/products/body/DSLR-A700
ソニーα700関連記事リンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/09/07/6998.html
気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー(現在進行中・2008年終了分)
http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm2008.htm
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中村 文夫 (なかむら ふみお)
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。 |
2008/01/15 13:29
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