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ペンタックス K10D【第5回】
MTF優先プログラムを検証

Reported by 中村 文夫


今回の使用レンズ。手前からDA 40mm F2.8 Limited、FA 43mm F1.9 Limited、装着中のレンズがDA 16-45mm F4
 K10Dに搭載されているMTF優先プログラムは、他社にないペンタックス独自の機能だ。最初にこの機能を搭載したのは1992年に発売されたフィルムカメラのペンタックスZ-1で、後継機のZ-1Pのほか、MZシリーズの最上位機であるMZ-Sにも採用された。この機能を使えばレンズ性能を最高レベルまで引き出すことができるが、ユーザーの反応は今イチで、それほど話題にならずに終わってしまった。

 だがペンタックスはデジタルカメラ第1号機である*ist Dにこの機能を採用。その後の機種では採用を見合わせたが、K10Dで再度復活させた。この背景には、画質のチェックが誰でも簡単にできるというデジタルカメラならではの事情がある。

 デジタルカメラの画像はパソコンのモニターで簡単に画像を拡大すること可能。特に*ist DやK10Dのような上級機では画質にこだわるユーザーが多く、MTF優先プログラムが役に立つと判断したのだろう。そこで5回目の今回はMTF優先プログラムをテーマにレポートしたいと思う。


MTFとは?

FA 50mm F1.4を装着したときのMTF優先プログラム
 MTFとはレンズ性能を評価する基準のひとつで、Modulation Transfer Factorの略。簡単に説明すると、被写体のコントラストを、そのレンズがどこまで再現できるかということを数値で表したもので、1974年にドイツのCarl Zeissと日本のヤシカが組んで一眼レフカメラのコンタックスRTSを発売したとき、盛んにPRしたため有名になった。

 一般的に、それまでの日本のメーカーは解像力を重視したレンズ設計を行っていたのに対し、Carl Zeiss設計のレンズはMTFを重視しているので性能が良いといわれるが、実はコンタックスがMTFを有名にする以前から日本のメーカーも同様の考え方を導入していたらしい。またMTFは、あくまでもレンズ性能を評価するための、ひとつの基準でかしなく、これだけでレンズの善し悪しが決まるわけではない。だがMTFがレンズ設計において重要な役割を果たしていることは、まぎれもない事実で、レンズの性能を示すためにMTFのデータをカタログで公表しているメーカーもあるくらいだ。

 MTFの数値はレンズのF値によって変化する性質がある。これはレンズを絞ることで、色収差や球面収差など、画質を下げる要因である各収差が減少するためだ。原則的に絞りを絞ると各収差は低減するが、やみくもに絞れば良いというものではない。それは絞りを絞ると回折現象の影響が出るからだ。回折現象とは光が絞りを通過するときに裏側に回り込むことで,絞りを開いたときは、それほど問題にならないが、絞りを絞って像が暗くなるとその影響が大きくなる。一般的にレンズの性能は、絞り開放から1~2段絞ったときに最高になるといわれているのは、このためだ。


MTF優先プログラムは、カスタムファクションのプログラムラインメニューで選択する
 前置きが長くなったが、K10Dに搭載されているMTF優先プログラムは、そのレンズのMTFが最高値を示すF値で撮影するプログラムAEだ。たとえばFA 50mm F1.4を例に取って説明すると、1/60秒のシャッタースピードを境に低輝度側はF2、高輝度側はF4をキープ。さらに輝度が上がり、シャッタースピードが1/2,000秒を過ぎたあたりから絞り込まれる。

 つまり、このレンズでMTFがベストの値を示すのは、F2あるいはF4ということだ。このF値はレンズごとに異なり、その情報はレンズ内のROMに書き込まれている。またROMを内蔵していないAレンズの場合、1/200秒を境に、低輝度側は開放から1段、高輝度側では2段絞られる。

 プログラムラインを見れば分かる通り、MTF優先プログラムは、任意のF値をできるだけ保つことが最優先になっていて、手ブレの危険性が高い低輝度時でも絞りを開放にすることはしない。もちろん高輝度側では露出がオーバーにならない限り、決して所定のF値以上、絞りを絞らない。誰もが失敗なくきれいな写真が撮れるという、プログラムAE本来のコンセプトから大きく外れるが、あくまでも上級者を狙った機能なので、これで良いのだ。


MTF優先プログラムの実際

 今回の実験に使ったレンズは、DA 40mm F2.8 Limited、FA 43mm F1.9 Limited、そしてDA 16-45mm F4の3本。レンズ性能の比較がわかりやすい被写体としてステンドグラスを選んだ。またこれら3本のレンズのMTF優先プログラムのプログラムラインは公表されていないが、実際にカメラにレンズを取り付け輝度を変えてみた結果、以下のようになった。あわせて、絞り優先AEによる絞りごとの画質もチェックしている。


DA 40mm F2.8 Limited
FA 43mm F1.9 Limited

DA 16-45mm F4


  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。


●DA 40mm F2.8 Limited

・MTF優先プログラム

 1/125秒までF4をキープ。ここから1/2,500秒までF5を保ち、さらに輝度が上がると絞りを絞り込む。MTFが最高になるF値の幅は意外と狭く、F4~5がベストの絞りになる。


3,872×2,592 / 1/4秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm

・絞り優先AE

 F2.8の絞り開放では、ハイライトとシャドー部の境にパープルフリンジが目立つが、F4に絞ると少し改善される。もう1段絞るとさらにパープルフリンジが減るが、黒の締まりが少し低下。F11ではコントラストが全体に低下し、ハイライト部の中にある黒い線がにじんで見える。

 F16ではハイライト部の透明感がなくなり、F22まで絞ると軟調な描写になる。パープルフリンジだけを見れば、絞りを絞った方が良いが、全体のバランスから判断するとF4からF5.6までがベストのF値と言えるだろう。


F2.8
3,872×2,592 / 1/8秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
F4
3,872×2,592 / 1/4秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
F5.6
3,872×2,592 / 1/2秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm

F8
3,872×2,592 / 1秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
F11
3,872×2,592 / 2秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
F16
3,872×2,592 / 4秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm

F22
3,872×2,592 / 8秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm

・MTF優先プログラムでの作品


屋外の明るい条件だったので、絞りがF5になった。ノーマルプログラムだと、もう1段ほど絞りが絞られる条件だ。想像以上に被写界深度が浅く、旗がボケの中に浮かび上がった
3,872×2,592 / 1/500秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
Limitedレンズなのでレンズのボケ味を考慮した設計になっている。F4のボケ具合は、浅すぎず深すぎずといった感じで使いやすい
3,872×2,592 / 1/30秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm

●FA 43mm F1.9 Limited

・MTF優先プログラム

 1/125秒までF2.8をキープ。1/125秒のままF8まで絞り込み1/3,200秒までF8を保ち、さらに輝度が上がると絞りを絞り込む。ベストの絞りはF2.8からF8と意外と幅が広い。またこのレンズはフィルムカメラと兼用なので、フィルムカメラのMZ-Sで試してみたところ、F2.8とF8をキープする点は同じだが、F値が切り替わるシャッタースピードが1/60秒になっていた。


MTF優先プログラム
3,872×2,592 / 1/13秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm

・絞り優先AE

 F1.9絞り開放だと画面全体にソフトな印象を受ける。F2.8まで絞ると同じレンズと思えないほどシャープさが一気に増す。また40mmに比べるとパープルフリンジも少ない。F5.6を過ぎると徐々にコントラストが低下。F11では黒の締まりが悪くなり、F16以上絞ると像が全体に甘くなる。MTFプログラム上ではF2.8~8がベストの絞りになっているが、実写した結果を見る限り、F2.8~F5.6程度で、最も良い結果が得られるようだ。


F1.9
3,872×2,592 / 1/25秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm
F2.8
3,872×2,592 / 1/13秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm
F4
3,872×2,592 / 1/5秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm

F5.6
3,872×2,592 / 0.4秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm
F8
3,872×2,592 / 0.6秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm
F11
3,872×2,592 / 1.6秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm

F16
3,872×2,592 / 3秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm
F22
3,872×2,592 / 5秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 43mm

・MTF優先プログラムでの作品


MTF優先プログラムは暗い条件だと絞りが開く。比較的速いシャッターが切れることとK10Dの手ブレ補正の相乗効果で、手ブレの危険性も低くなる ISO400に設定したまま、カメラを窓の外へ向けたらF8になった。外の風景がシャープでないのは、窓ガラスが歪んでいるためだ
3,872×2,592 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 43mm

●DA 16-45mm F4

 他の2本に比べると解像力がやや低めで、糸巻き型のディストーションも気になる。単焦点レンズに比べると欠点が目立つが、これはズームレンズの特性上、仕方のないことだ。デジカメ用レンズとしての評価は高く、決して性能が悪いわけではない。

 作例では他の2本に画角を合わせるため焦点距離を38mmに設定。MTF優先プログラムが選んだF値はF5になった。開放とF5では2/3段しか絞りの差はないが、F5に絞ったときの方がコントラストが高い。F8に絞ると黒い線が黄色っぽくなり始める。F11だとハイライト部のにじみが増え、F22では画面全体のシャープさが低下。すっきりしない画像になる。

 16mm時は1/2,500秒までF4をキープ。これを過ぎると絞りを絞り始める。45mm時は1/2,500秒までF5.6をキープ。これ以後は絞り始める。意外だったのは、広角側では開放F値がベストの絞りになっていたこと。またこのF値は輝度によって変化しない。

・MTF優先プログラム


3,872×2,592 / 0.3秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm

・絞り優先AE


F4
3,872×2,592 / 1/4秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm
F5.6
3,872×2,592 / 1/2秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm
F8
3,872×2,592 / 0.8秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm

F11
3,872×2,592 / 2秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm
F16
3,872×2,592 / 4秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm
F22
3,872×2,592 / 8秒 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm

・MTF優先プログラムでの作品


F値は開放のままだが、焦点距離が短いので被写界深度は意外と深くなる
3,872×2,592 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 18mm
被写体を斜めから撮影したので、全面にピントが合うか心配だったが、撮影距離が離れているのでF5でも適度な被写界深度になった
3,872×2,592 / 1/400秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm

MTF優先プログラムは、暗い条件でも絞りを開放にしないので、そのぶんシャッタースピードが遅くなる欠点がある。だがK10Dなら手ブレ補正が作動するので安心だ
3,872×2,592 / 1/13秒 / F5 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
彫刻の質感が忠実に再現され立体感のある描写になった。MTFは平面チャートを基準にしているが、立体物にも応用が利くようだ
3,872×2,592 / 1/13秒 / F4 / 0.3EV / ISO400 / WB:オート / 28mm

まとめ

 3本のレンズに共通した特徴は、絞るにしたがってパープルフリンジが減るが、絞りすぎるとコントラストが低下し、シャープさの欠ける画像になってしまうこと。いずれもPCモニターの画面上で画像を拡大しないと判断しにくいようなレベルだが、FA 43mm F1.9 Limitedのようにレンズの味を追求したレンズでは、それほど拡大しなくても、その違いがわかる。また最小絞りまで絞ると回折現象の影響が顕著になり、すべてのレンズで画質の低下が認められた。パンフォーカス撮影など被写界深度深くしたいとき以外は、絞りすぎな方が良いだろう。

 すでに説明した通り、MTF優先プログラムはレンズ性能を最大限に引き出すことを最優先し、レンズごとに決められたF値をかたくなに守る機能だ。シャッタースピードは露出の過不足を調節するためだけに使用。そのため通常の撮影向きではない。

 だが今回は、これを承知のうえで通常の撮影に使ってみた。F値が固定されてしまうので、使う前は抵抗があったが、実際に使ってみると、それほど絞りを絞るわけではないのでシャッタースピードが極端に遅くなることがなく、手ブレの心配も徒労に済んだ。またK10Dなら手ブレ補正が使えるし、それでも手ブレしそうな暗い場所ではISOを上げれば大丈夫だ。後から気付いたが、PモードではなくSvモードを使えば、MTFプログラムが選んだF値をキープしたままダイヤル操作だけでシャッタースピードを上げることが可能。MTF優先プログラムとSvモードの組み合わせは思いのほか実用的だ。





 最後に、smc PENTAX F 135mmF2.8の例も掲載する。このレンズは初期のAF対応望遠レンズ。コンパクトで明るいうえに最短撮影距離が0.7メートルと短く、デジタル一眼レフと組み合わせて使うことも多い。MTFプログラムが登場する以前のレンズだが、MTFの情報は備えているらしく、1/320秒まではF4、1/2500秒まではF5.6をキープする(以下の作例はすべてMTF優先プログラム)。


smc PENTAX F 135mm F2.8

特に高級タイプというわけではないが、絞り羽根の枚数は9枚と、このクラスにしては多く、ボケ味が美しい
3,872×2,592 / 1/60秒 / F4 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 135mm
暗い条件だったのでISO800にアップ。シャッターは1/5秒と依然として遅いがMTFプログラムの場合、絞りを開放にしてシャッタースピードを速くすることはしない
3,872×2,592 / 1/5秒 / F4 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 135mm


URL
  ペンタックス
  http://www.pentax.co.jp/
  製品情報
  http://www.digital.pentax.co.jp/ja/35mm/k10d/
  レンズ交換式デジタルカメラ機種別記事リンク集(K10D)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/dslr.htm#k10d
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm.htm


( 中村 文夫 )
2007/01/12 20:24
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