「ねえねえ、これって何?」
カミサンのEOS Kiss Digital Xの液晶モニターに表示されているのはピクチャースタイル選択画面である。撮影可能な状態でセットボタンを押すと表示されるので気になったらしい。歩く取り扱い説明書(注:筆者のこと)はけっこう忙しい。
読者の皆さんは、ピクチャースタイルがどういうものかはすでにご存知だろうが、なにぶん、カミサンは「ど」が付く初心者である。言葉で説明しても理解できるかどうかあやしいものである。なので、ピクチャースタイルを変えて撮り比べた画像を見せる。ふうん、などと言いながら、発色の違いを見て納得した様子である。が、
「で、どう使い分ければいいの?」
見てわからんのか? と突っ込みたくなったが、しゃべる解説書には冷静さが必要である。この程度のことでぶちぶち言っていたら身が持たない。変にいじけられてもあとが厄介だし。
なので、ムスメをアップめに撮るなら「ポートレート」、自然もので青空とか樹木の緑を鮮やかに見せたいときは「風景」、それ以外は「スタンダード」でよろしい、と説明する。カミサンレベルの人間が「ニュートラル」や「忠実設定」を使うとは考えられないし、「モノクロ」もまず撮らないだろうから、その3つだけ覚えておいてもらえばいいだろう。まあ、覚えたからって使い分けなんて考えない可能性のほうが高いと思うけど。
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撮影可能な状態で十字ボタンの中央のセットボタンを押すと、ピクチャースタイル選択画面が表示される(カスタム機能で変更できるけど)
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セットボタン押しで表示されるピクチャースタイルの選択画面。SETボタン押し→十字ボタンの上下で選択→SETボタン押し(またはシャッターボタン半押しなど)で確定。操作はいたって簡単だ
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■ 上級者には奥が深いピクチャースタイル
カミサン向けの超簡単説明では物足りないだろうから、もう少し詳しく書いておく。
ピクチャースタイルは、従来の「現像パラメーター」に代わる画づくり機能で、ピクチャースタイルを選ぶことで、シャープネス、コントラスト、色の濃さ(彩度)、色あい(肌の調子)を一括して切り替えられるようになっている。
もちろん、単にピクチャースタイルを選ぶだけではなくて、それぞれのピクチャースタイルに対して、シャープネス、コントラスト、色の濃さ、色あいを自由にカスタマイズできる。言ってみれば、現像パラメーターのプリセットが何種類か用意されているわけだが、「ポートレート」は肌色を明るめに、「風景」は青と緑を鮮やかめに、といった具合に、ひと工夫あるのがミソである。
ただし、風景を撮るから「風景」にすればいいといった単純な話ではない。「風景」で撮ると青空は日本じゃないみたいにきれいに写せるが、青い被写体がぎとぎとしてしまうことにもなりかねないので注意が必要だ。
また、黄色っぽい被写体も「風景」より「ポートレート」がいいケースもある。オレンジがかった濃いめの黄色などは「風景」だとやや沈みがちになるが、「ポートレート」だと明るめになるので、目を引く仕上がりになる。天気のいい日に撮れてないので確証はないが、朝夕の柔らかな光の風景も「ポートレート」にしたほうがいいかもしれない。
それともうひとつ。ピクチャースタイルによってシャープネスの適用量が違うところも要注意のポイント。0~7までの8段階の、「スタンダード」は3、「ポートレート」は2、「風景」は4といった具合なので、同じ被写体をピクチャースタイルを変えて撮るなんてときには、シャープネスの量を統一しておくか、「ユーザー設定」にシャープネスの量を変えたバージョンを作成しておくといいだろう。
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撮影メニューの2ページめ。ピクチャースタイルの中身をいじりたい人はこちらから
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ピクチャースタイル設定画面。標準状態ではシャープネス以外は「0」だが、この時点ですでに味付け済みなわけだ
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ジャンプボタンを押すと現れる詳細設定画面では現像パラメーターのそれぞれの項目の微調整ができる。標準の設定値はグレー、現在の設定値はブルーで表示される
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ピクチャースタイルによってシャープネスの量が異なるのが気になる方は、こんなふうに統一してしまうといいかもしれない
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「ユーザー設定」の画面。大幅にカスタマイズするならこちらを使ったほうがややこしくならないと思う。ベースになるピクチャースタイルに対して、現像パラメーターのそれぞれの項目を好きなように設定できる
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■ ピクチャースタイルよりRAWのほうが簡単?
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撮影現場で辛気くさい思いをするのが嫌なので、筆者はRAWで撮っちゃうわけ。デジカメWatchの仕事ではJPEGの作例を載せるのが基本なので、RAW+JPEGラージ・ファイン。でも、これだと4GBのカードで229コマ(表示の数値)しか撮れない
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一見、簡単そうに見えるピクチャースタイルだが、中身はやっぱり現像パラメーターなわけだから、突っ込んでいくと奥は深い。しかも、それぞれのピクチャースタイルで味付けが違っているのだから、考えなくちゃいけない要素がひとつ増えたことになる。
色の濃さとコントラストにシャープネスだけでも十分に辛気くさかったのに、さらにピクチャースタイルの味付けの違いも考えなくてはならなくなったわけで、“案外難しい”どころではない。「スタンダード」の色の濃さとコントラストを上げたのと、「風景」のシャープネスを下げたのと、これから撮ろうとしている被写体にはどちらが合いそうか、なんてことを撮影現場で悩まなくてはならないのだから大変だ。
もしかしたら、撮影現場でピクチャースタイルに悩むより、RAWで撮っておくほうがずっと簡単なんじゃないのかって気がしてしまう。RAWで撮っておけば、ピクチャースタイルは現像時に選べばいいし(キヤノンのサイトからダウンロードできるピクチャースタイルもある)、必要があればパラメーターの微調整だって簡単だ。PCの大きな画面のほうが画像だって見やすいうえに、失敗してもやり直しができる安心感まである。
ファイルサイズがどかんとでかくなるのは頭の痛いところではあるが、撮影時に考えなくてはならない要素が減らせるメリットはすごく大きい。だからって、RAWのほうが簡単と言っちゃうのは問題かもしれませんけど。
■ 今週のカミサン
「ねえねえ、なんかファインダーが汚いんだけど」
「どれどれ?」
「ほら、ここがホコリだらけなの」と接眼部を指さすカミサン。
「掃除すりゃあいいじゃん」
「そっか、一眼レフってめんどくさいんだね」
そうゆう問題じゃないと思うぞ。
■ 作例:ピクチャースタイルその1(カメラ内で設定→JPEGで撮影)
- 作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
- 作例データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離(カッコ内は35mm判での画角に相当する焦点距離)を表します。
カミサンのような「ど」の付く初心者にピクチャースタイルを説明するのに最適なのが青空である。RAW画像のピクチャースタイルをDigital Photo Professional上で「スタンダード」から「風景」に変えて見せると、「写真って、ウソつきなんだねぇ」と言われてしまった。気付いてなかったのか?
共通データ:EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / / プログラムAE / 1/200秒 / F8 / -0.3EV / WB:オート / ISO100 / 18mm(29mm相当)
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ピクチャースタイル:スタンダード
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ピクチャースタイル:風景
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先週、夢の島マリーナでピクチャースタイルの「風景」で撮った1カット。ブルーのシートがぎとぎとである。「風景」は自然風景限定なのかも
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/320秒 / F13 / 0EV / WB:オート / ISO100 / 25mm(40mm相当)
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■ 作例:ピクチャースタイル2(RAWで撮影→DPPでJPEGへ現像)
- 作例のリンク先は、RAWで撮影した画像をDigital Photo ProfessionalでJPEGに現像したファイルです。
- 現像設定は基本的にピクチャースタイルのみ変更し、シャープネスを「3」に統一しました。
- 作例データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離(カッコ内は35mm判での画角に相当する焦点距離)を表します。
「ポートレート」は黄色が明るく、赤が沈む傾向。「風景」は青色の出方が大きく変わる。ピクチャースタイルを変えて現像した画像を見比べると、それぞれのピクチャースタイルの個性の違いがわかりやすい。
共通データ:EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/100秒 / F7.1 / 0EV / WB:オート / ISO100 / 39mm(63mm相当)
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ピクチャースタイル:スタンダード
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ピクチャースタイル:ポートレート
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ピクチャースタイル:風景
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ピクチャースタイル:ニュートラル
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ピクチャースタイル:忠実設定
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ピクチャースタイル:モノクロ
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「ポートレート」は黄色系が明るくなって目を引くイメージになるが、「風景」だと沈んでしまううえに平板な表現になってしまう。
共通データ:EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/125秒 / F7.1 / +0.3EV / WB:オート / ISO100 / 18mm(29mm相当)
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ピクチャースタイル:スタンダード
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ピクチャースタイル:ポートレート
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ピクチャースタイル:風景
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「ポートレート」はレフ板を使ったみたいに黄色がふわっと明るくなる。黄色系の被写体は「風景」向きじゃないってことである。
共通データ:EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/400秒 / F5.6 / 0.7EV / WB:オート / 55mm(89mm相当) / ISO100
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ピクチャースタイル:スタンダード
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ピクチャースタイル:ポートレート
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ピクチャースタイル:風景
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空の青さが自慢の「風景」だが、きつすぎに感じられることも少なくない。で、色の濃さを落として様子を見たりする。RAWで撮っておくと、こういう微調整がパソコンの大きな画面を見ながらできてラクチン。少しずつパラメーターを変えて現像した画像を見比べたりもできるし、やり直しも利く。手間はそれなりにかかるが、好みどおりの仕上がりが得られる。
共通データ:EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / WB:オート / ISO100 / 27mm(44mm相当)
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ピクチャースタイル:スタンダード
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ピクチャースタイル:風景
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ピクチャースタイル:風景(色の濃さをマイナス2に設定)
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■ 作例:そのほか
- 作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
- ピクチャースタイルは「スタンダード」に設定し、微調整は行なっていません。
- 作例データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離(カッコ内は35mm判での画角に相当する焦点距離)を表します。
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「スタンダード」といっても、従来の「パラメーター1」に近い特性だ。つまり、色の濃さもコントラストもやや高め。なので、こういう渋めの被写体もきれいに出る
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/60秒 / F8 / -0.3EV / WB:オート / ISO100 / 18mm(29mm相当)
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レストランのテラス席。このぐらい暗い緑だと「風景」はほとんど利かない。わりと新緑向けのチューニングなのだろう
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/125秒 / F8 / 0EV / WB:オート / ISO100 / 18mm(29mm相当)
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こういう色数の少ないシンプルな画面って、けっこう「風景」向き(「スタンダード」で撮っておいて書くことじゃない気もするが)
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/200秒 / F8 / -0.3EV / WB:オート / ISO100 / 18mm(29mm相当)
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レンガ造りの柱の向こうに派手な色彩のビルが見えるという不思議な場所。「D-ライティング」が欲しい
EF-S 18-55mm F3.5-5.6 II USM / 3,888×2,592 / 1/125秒 / F7.1 / -0.3EV / WB:オート / ISO100 / 24mm(39mm相当)
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■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
製品情報
http://cweb.canon.jp/camera/eosd/kissdx/
レンズ交換式デジタルカメラ関連記事リンク集(EOS Kiss Digital X)
http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/dslr.htm#kdigix
気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm.htm
( 北村 智史 )
2006/09/22 01:23
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