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松下電器 LUMIX DMC-FX01【第1回】
ワイドは楽し

Reported by 北村 智史


 実をいうと、ズームの中間の焦点距離を使うことはあまり多くない。カメラの試用レポートのための撮影では、意識して中間域も使うように気をつけているけれど、そうでないときは、広角端と望遠端だけしか使ってないなんていうケースも少なくない。28mmからのズームの機種だったりすると、さらにその傾向がひどくなる。広角が広いほうが面白いからだ。

 もっとも、デフォルトでアスペクト比4:3のコンパクト機の場合、筆者の感覚では、28mmは35mmフィルムカメラの35mmよりちょっと広い程度でしかない。対角線画角はデジタル、フィルムともほぼ同じかもしれないが、見え方はずいぶん違う。パースペクティブも広がり感も、画面が正方形に近ければ近いほど、薄れていくものだからだ。4:3比率のコンパクト機で、3:2比率の35mmフィルムカメラの28mmと同じ感覚で撮れると思ってはいけないのである。

 とはいえ、35mm相当とか38mm相当からのズームの機種よりはずっと広いから、それなりにワイド感のある画が撮れる。先日、某誌のロケの合間にFX01でパチパチやってきたのだが、予想どおり、広角端で撮ったカットが全体の6割強だった。

 なにしろ、35mm相当では画面に入りきらない被写体が、28mmならすんなり収まってくれる。引きが取れない室内での撮影や、大きな被写体を撮りたいときに、28mmの広角はとてもありがたい。それに、ある程度は遠近感も出てくるので、画づくりの楽しさもある。35~105mm相当とか38~114mm相当の3倍ズームは、自然な広角から自然な望遠までの範囲のズームなので、なかなか面白い画になってくれないのだ。その点、28mmともなると、広角らしい広角になる。だから楽しいのである。

 FX01の最大の魅力は、大きさや重さは前作のDMC-FX9とほぼ同じままで、ズームの広角端を28mmにまで広げた点にある。大きく重くなってもよければ、広角だって望遠だって、つくるのは難しくない。天文台サイズでいいなら焦点距離15mでF1.8なんていうレンズだってある(天体望遠鏡「すばる」の望遠レンズとしてのスペック。ちなみにすばるのCCDは8,000万画素だ)。

 余談はさておき、いくら広角が面白いといっても、それで大きく重くなったら誰も買う気にはならない。ちょっと大きく重くなるぐらいなら勘弁してあげようという感じだが、松下さんはすごく頑張った。FX9と比べて高さが0.6mm、重さが5g増えただけ。これで35~105mm相当だったレンズを28~102mm相当にしているのだから、苦労は相当なものだったはずだと思う。

 ボディサイズを変えずにズームの広角端をワイド化するのは難しい。焦点距離が短くなる分、屈折力の高いレンズが必要になるが、レンズの「度」を強くすると分厚くなってしまうために、収納性が悪くなる。電源をオフにして沈胴した状態での光学系全体の長さが大きくなるからだ。当然、その分はボディの厚みを増やさなくてはならない。


いちばんの魅力はレンズ。望遠端が暗いとか、広角端の歪曲収差が残ってるとかはあるけれど、やっぱり28mmからのズームというのはうれしいものだ
 もちろん、抜け道(と書いたら失礼かもしれないが)はちゃんとある(コダックのV570のようにレンズをふたつ付けるとか、リコーのGR DIGITALのような単焦点レンズにしてしまうのも、上手に「抜け道」を利用した例だ)。

 ひとつは、屈折率の高いガラスを使うこと。屈折率が同じなら屈折力を高くするには曲率を強くして「度」を強くするしかないが、屈折率の高いガラスを使えば曲率を強くせずに「度」を強くできる。つまり、収納性のいい薄いレンズのままでレンズのワイド化が可能になるわけだ。

 もうひとつはレンズの明るさを抑えること。レビューにも書いたとおり、FX01のレンズの開放F値はF2.8~5.6。FX9のF2.8~5よりも望遠端が1/3段ほど暗くなっているのである。数字上は望遠端だけが暗くなっているように見えるが、実際は焦点距離5.7mmではF3(FX9は5.8mm時にF2.8である)といったふうに、全体が少しずつ暗くなっているわけだ。口径を小さくすることは、おもにレンズの直径に影響するが、その分レンズを薄くできるので奥行き方向も少しは小型化できる。

 それから、我慢できる範囲でだが、性能を落とすという手もある。これもレビューに書いたとおり、FX01の広角端は、一般的な光学3倍ズームと同じ程度の歪曲収差が残っている。LUMIXのライカDCレンズは歪曲収差の少なさも売りにしていたことを考えると、やはり少しばかり譲歩したのだなと思えてしまう。

 もちろん、28mmのワイドで、なおかつFX9などの広角端と同等の歪曲収差を実現しようとすれば、このサイズでは作れないか、作れてもうんとお高くなってしまうだろう。レンズが出っ張ってもいいから歪曲収差をきちんと抑えるか、少しぐらい歪んでもいいからボディサイズをキープするか、そのどちらが正しいかは微妙な問題になるが、筆者個人としてはFXシリーズなら後者でいいと思っている。

 なんだかんだいって、ワイシャツの胸ポケットにすんなり収まるスリムさで、なおかつ35mm相当からのズームでは撮れないワイドな画が撮れるのは楽しい。レンズが暗くなったにもかかわらず、ウェブサイトでは「F2.8の明るいレンズ」とうたっているあたりは気にくわないが、気軽に持ち歩ける広角コンパクトはやっぱり素敵だと思う。

※作例のリンク先ファイルは、撮影画像をコピーおよびリネームしたファイルです。
※写真下の作例データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm判換算相当の焦点距離を表します。


初代南極観測船として有名な「宗谷」。もともとは貨物船だったそうな。35mm相当のレンズだと、この位置からは画面に収まりきらない
2,816×2,112 / 1/100秒 / F2.8 / 1EV / ISO80 / WB:オート / 28mm
こちらは旧国鉄の青函連絡船「羊蹄丸」。今は船の科学館別館のフローティングパビリオンになっている
2,816×2,112 / 1/500秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 28mm

移動中にひょいと撮ったカット。こういうときは水平が傾きやすいので要注意だ。
2,816×2,112 / 1/400秒 / F2.8 / 1.33EV / ISO80 / WB:オート / 28mm
PC-18型深海潜水艇。中が見えないのが残念。28mmだと35mm相当のレンズとは違うパースペクティブが出てくる
2,816×2,112 / 1/200秒 / F5.6 / 0.3EV / ISO80 / WB:オート / 28mm

これも歩きながら撮ったカット。きちんと水平を合わせて撮る余裕がないときは、わざと大きく傾けてしまう。画面が少しだけ傾いているとかっこわるくなるからだ。
2,816×2,112 / 1/250秒 / F5.6 / 0.33EV / ISO80 / WB:オート / 28mm
深海用の潜水服というかスーツのレプリカ。たしか「ジム」という名前で、ついガンダムを思い出してしまった
2,816×2,112 / 1/250秒 / F2.8 / 0.33EV / ISO80 / WB:オート / 28mm

お台場プロムナード内の倉庫らしき建物。水平、垂直の線は画面の端に入れると歪曲が目立ってしまう。なので、ちょっと内側にフレーミングしている。
2,816×2,112 / 1/200秒 / F5.6 / 0.3EV / ISO80 / WB:オート / 28mm
さすがに1/6秒の手持ちはきついが、ちょいブレ程度ですんだのは、光学式手ブレ補正のおかげ。画質を考えると感度は上げたくないから、手ブレ補正は大助かりである
2,816×2,112 / 1/6秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 28mm

休憩で入った喫茶店の壁。LUMIXのオートホワイトバランスは白熱灯の色味を残すタイプなので、プリセットの白熱灯に切り替えている
2,816×2,112 / 1/20秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:白熱灯 / 28mm
某ホテル内で別の雑誌のロケ中に撮ったカット。ホテルの中は暗いことのほうが多いが、ここは格別。ISO400相当にアップしてもF2.8で1/4秒。F5.6の望遠端なんか使いようもない。
2,816×2,112 / 1/4秒 / F2.8 / 0.33EV / ISO400相当 / WB:オート / 28mm


URL
  松下電器
  http://panasonic.jp/
  製品情報
  http://panasonic.jp/dc/fx01/
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm.htm


( 北村 智史 )
2006/04/03 00:01
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