2006年の元旦は、東ベルリンで迎えた。大晦日にコペンハーゲンから移動し、年越しの瞬間はブランデンブルク門で騒ぐ予定にしていた。しかし夕方に下見に行ったら門の手前で封鎖され、観光客が立ち入れない状態だった。電車が最寄りのウンター・デン・リンデン駅を通過したときから妙な感じはしていたが、隣のフリードリヒ・シュトラーセ駅から歩いたところ、門に近寄ることさえできなかった。
しかたがないので、年越しの場所を東ベルリンのアレキサンダー・プラッツに変更した。ベルリンに来た目的が東ベルリンを見て歩くことだったので、シンボルのひとつであるテレビ塔の真下で新年を迎えるのもいいかも、と思ったのだ。ホテルは西側いちばんの繁華街クーアフュアステンダム(クーダム)から少し南下した場所で、連日そこから東側に通った。クーダムはパリのシャンゼリーゼを数段野暮ったくした感じで、まったく興味をもてなかった。こんなことなら東側に泊まればよかったと思った。
ベルリンの新年は、市民が勝手に打ち上げる花火で祝われた。元旦はその残骸で無惨なほど街が散らかっていた。電車の車内でさえも。私はというと、深夜にビールを飲み過ぎたために起きたのが昼近かったうえ、ふつか酔いだった。ふつか酔いは自業自得だが、寝坊したのは痛い。ヨーロッパ北部の冬は日照時間が短いのだ。大晦日、ベルリンでは手持ちで撮影できるのはせいぜい午後3時すぎまでだと感じたので、あと3時間しかない。ホテル最寄りの駅からUバーン(地下鉄)1号線に乗って東側を目指した。
※作例のリンク先は撮影画像をコピーしたファイルです。
※各作例下のデータ表記は、記録解像度(ピクセル)/露出時間/レンズF値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/焦点距離(35mm判換算)を表します。
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東ベルリンは、間もなく新年を迎えようとしていた。静寂に包まれているように見えるが、次々に打ち上がる花火と爆竹で騒々しい
3,264×2,448 / 4秒 / F4 / 0EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm
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Sバーンのヴァルシャオアー・シュトラーセ駅の陸橋にて。隣のベルリン・オスト(東)駅発着の長距離列車がスピードを落として通過するので、鉄道写真を撮っている人が数人いた
3,264×2,448 / 1/540秒 / F4 / -0.7EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm
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私は公共交通機関をロケハンに使う。乗りもの自体が好きなこともあるが、路面電車やバスに乗り、よさそうな場所で降りて歩く。ベルリンではSバーン(郊外電車)とUバーンの高架区間で、車窓を見ているだけで楽しい。さらに東ベルリン限定で路面電車もある。最初の目的地は、西ベルリンの最東端に位置するクロイツベルク。この都市は戦争でかなり破壊されたが、クロイツベルクは被害が少なかった地区だということで、古い街並みが撮れると思ったからだ。
クロイツベルクには有名な観光物件がないので、日本語のガイドブックでは紹介されていない。観光客も皆無で、写真なんか撮っているのは私だけだ。住民はトルコからの移民が多い。私はドイツ語はほとんど聞き取れないが、それとは違った響きのことばが飛び交っている。だんだん写欲が高まってきた。
あちこちロケハンし、元旦にもかかわらず開館していた技術博物館に寄ったら日が暮れてしまった。撮影は翌日にまわして、ケバブを食べにクロイツベルクに戻った。ロケハンの結果、SバーンとUバーンの乗換駅のひとつであるヴァルシャオアー・シュトラーセを拠点に動くと効率がいいことがわかった。そこからUバーンでクロイツベルクへ行ったり、路面電車で東ベルリンのプレンツラオアー・ベルクに行ける。ここは乱暴にいってしまえば、ベルリンの“裏原宿”だ。
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GR DIGITALの画質・サイズ設定。アスペクト比の違うRAW画像を記録できるのは珍しい
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翌日はきちんと起きた。といっても早起きではない。完全に明るくなるのは午前9時ごろだ。ホテルを出たときから写欲は満々で、RAWモードでガンガン撮るつもりで歩きはじめた。RAWモードで撮影できるのもGR DIGITALの大きな魅力だ。独自形式ではなく汎用性の高いDNGファイルで記録されるため、Photoshop CS2、Photoshop Elements 4.0、SILKYPIX 2.0、Photoimpact 11といった具合に、対応する現像ソフトがいくつもあるのがいい。
だがGR DIGITALは、私の写欲についてきてくれないのだ。RAW・JPEG同時保存はありがたいが、あまりに待たされる時間が長い。10~15秒程度とはいえ、日本で撮っていたときよりも長く感じるのは、まさに撮りたいベルリンが目の前にあるからだろう。撮ったすぐあとにまた撮りたい瞬間があっても、GR DIGITALはがんばってSDメモリーカードに書き込んでいる最中だ。私は心の中で「急げよ~」といっていた。
撮影現場ではあせりといらだちを感じさせたRAWモードだが、日本に戻って現像してみると、待ってよかったと思える成果になっている。現像にはAdobe Photoshop CS2とSILKYPIX Developer Studio 2.0を使い、パラメーターはシャープネスをゼロにしたほかはデフォルト設定にし、現像ソフト側が自動で補正しないよう、RAWデータの内容を極力変えないように現像した。RAW現像の初心者なので、勉強のためにGR DIGITALのJPEGと比べてみたかったのだ。
やはり階調表現がカメラ側で生成したJPEGに比べて微妙ながら増している。しかしGR DIGITALのJPEGもかなり素直な色表現なので、ひと目でわかるほど顕著な差は見られない。現像時にシャープネスをゼロに設定したこともあり、これについてははっきりした違いが出た。カメラ側の画像設定ではシャープネスをプラスマイナスゼロにしているが、GRエンジンは少しシャープネスを上げているようだ。
今回の旅にはノートPCを携行しなかった。特に現地で確認しなくてもいいと思ったし、荷物を最小限にしたかったのだ。HDDストレージもなく、SDメモリーカードの1GBが2枚と2GBが1枚。でもRAWモードを多用するなら次回からノートPCを持っていくかもしれない。宿泊先のホテルでデータ保存のうえ現像して確認作業、ではなく、ビールを飲みながらRAWモードでの写りを楽しめるからだ。
話は突然変わるが、以前使っていたコンパクトデジタルカメラは寒い屋外から暖かい屋内に持ち込んだときに結露でレンズが曇っていた。しかし、GR DIGITALではレンズが曇って撮影を待たされない。前回お伝えしたようにGR DIGITALのボディは低温下ではかなり冷えてなかなか暖まらないが、それが関係しているのかも知れない。
ベルリンの東のほうでRAWモードで撮り続けているうちに、GR DIGITALがSDメモリーカードに一所懸命書き込んでいる待ち時間も、だんだん撮影のリズムになっていった。はじめのうちは液晶モニターを見つめて「まだかよ」と思っていたのだが、やがて撮ったら少し歩くようになっていった。撮っては歩き、歩いてはまた撮る。
■ DNG現像結果比較
RAW・JPEG同時記録で撮影した画像のうち、RAW(DNG)ファイルをPhotoshop CS2とSILKYPIX 2.0で現像した。現像設定はPhotoshopおよびSILKYPIXの主要な設定は次の通り。
【Photoshop CS2】色空間=sRGB、ホワイトバランス=撮影時の設定、露光量=0.00、シャドウ=5、明るさ=50、コントラスト=+25、シャープ=0、偽色の低減=25
【SILKYPIX】色空間=sRGB、露出=0.0、ホワイトバランス=カメラ設定値(撮影時設定、Sharp=なし、調子=標準、Color=ふつう、NR(偽色抑制)=80、NR(キャンセラ強度)=256、NR(ノイズ除去)=0、NR(ノイズレベル)=0、NR(ジオメトリックNR)=0
東ベルリン側からチェックポイント・チャーリーを見て。3,264×2,448 / 1/90秒 / F4 / 0EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm
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DNG同時記録
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Photoshop CS2
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SILKYPIX 2.0
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シュプレー川を渡るオーバーバオム橋。戦争で塔の部分が破壊されたが、現在は見事に修復されている。対岸が東ベルリンで、1961~1995年の間、Uバーンのこの区間は運転休止だった。3,264×2,448 / 1/130秒 / F4 / 0.76EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm
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DNG同時記録
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Photoshop CS2
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SILKYPIX 2.0
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シュプレー川沿いに残っている「壁」。ブレジネフとホーネッカーが気持ち悪い。3,264×2,448 / 1/180秒 / F4 / 0EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm
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DNG同時記録
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Photoshop CS2
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SILKYPIX 2.0
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ベルリンで人気のみやげは「アンペルマン」グッズだ。直訳すると「信号男」だが、かわいいので「アンペルメンヒェン(信号男ちゃん)」とも呼ばれている。東ベルリンにしかない。3,264×2,448 / 1/100秒 / F4 / 0EV / ISO64 / WB:昼光 / 28mm
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DNG同時記録
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Photoshop CS2
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SILKYPIX 2.0
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ウンター・デン・リンデンの夕方。この交差点からフリードリヒ・シュトラーセを南下すると、チェックポイント・チャーリーがある。3,264×2,448 / 1/4秒 / F2.4 / 0EV / ISO200 / WB:昼光 / 28mm
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DNG同時記録
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Photoshop CS2
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SILKYPIX 2.0
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■ URL
リコー
http://www.ricoh.co.jp/
製品情報
http://www.ricoh.co.jp/dc/gr/digital/
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( ケニー・オブライエン )
2006/01/16 00:01
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