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【特別企画】D700でカールツァイス/フォクトレンダーレンズを試す

Reported by 赤城耕一

 Carl Zeiss(カールツァイス)とコシナの提携が発表されてから4年ほどが経過する。

 これまで誕生した製品はフィルムレンジファインダーカメラの「Zeiss Ikon」(ツァイスイコン)、これに用意されたZM(ライカMマウント互換)レンズ、一眼レフ用MF交換レンズ(ニコンFマウント互換のZF、M42マウントのZS、Kマウント互換のZK)である。

 商品の性格上、いずれも趣味性の強いものであるから、万人のカメラファンにおすすめできるという製品ではないものの、マニアのココロをくすぐるニッチな製品であり、ライカや以前の京セラコンタックスの製品と比べても、入手しやすい価格設定になっていることから、確実にファンは増えてきているようだ。今では、アドバンストアマチュアや、プロにも多くの愛用者がいる。
 

●世界のどこで作っても、ZeissはZeiss
 この4年間の、Carl Zeissとコシナ提携の流れを見てみよう。

 両者の提携が発表されたのは2004年だ。はやくも2005年にはレンジファインダーカメラのZeiss Ikon、交換レンズとしてZMレンズシリーズがラインアップされる。

 2006年には新たに35mm判一眼レフ用の交換レンズシリーズとして、ZFシリーズ、ZSシリーズが登場、2007年にはZKシリーズが発売され、現時点で25mmから100mmまでの焦点域の7種類のレンズが揃い、種類を増やしながら現在に至っている。この秋にはDistagon T* 3.5/18 ZFも登場する予定だ。


銀塩レンジファインダーカメラ「Zeiss Ikon」
Distagon T* 3.5/18 ZF

 京セラのContaxカメラ事業撤退後、Contaxユーザーは完全に宙に浮いたカタチになってしまったのだけれど、これに代わって前記した各種マウントのレンズシリーズがZeissファンの救世主となり、また新たなZeissユーザーを生み出すことにもなったのである。

 旧来の京セラContaxユーザーの中にはマウントアダプターを使用して、キヤノン EOSデジタルカメラ各種にYC(ヤシカContax)マウントのレンズを装着して撮影することで、溜飲を下げている人もいるようだが、やはりカメラにダイレクトに装着できる完全な互換マウントのほうが、カメラの操作性に影響を与えず、光学的にも精度的な安心感が得られることはたしかであろう。

 これらのレンズはすべてMF(マニュアルフォーカス)だから、AFの利便性はないものの、そのぶんデザインや作り込み、フォーカスリングのロータリーフィーリングやトルクまでも加味して設計されており、モノとしても非常に凝った製品になっていることは特筆したい点である。また光学設計もMFならでは、という特性を持っている製品もあるので、メーカー純正のAFレンズでは決して得ることのできないZeissの、個性的な描写が期待できるというわけである。


T*(ティー・スター)コーティングを示すエンブレム。このコーティングもZeiss独自のもので、ブランド化されている
 設計はCarl Zeiss、製造はコシナということで、あくまでも「ドイツ製」にこだわるZeissマニアの一部にはいまだに不満の声もあるようだ。しかし、私はコシナの工場において、実際にZeissレンズの製造工程を見学したことがあるが、1本1本がクリーンルーム内で手作りされ、何度も検査や光学ベンチの測定が繰り返される工程を見て、本当に驚いた。現代の大量生産される光学製品の製造方法とはまったく異なり、相当な手間がかかっているのである。

 なるほど、Zeiss自らが、世界のどこで作られようが、Zeissが認めればZeissであるとアナウンスしたのは決して大げさではないのだ。

 「多品種少量」どころか「多品種微量」のカメラ、光学製品、OEM製品の製造を得意とするコシナでなければ、厳格なZeissの要求を受け入れつつ、これだけ凝った趣味性の高い製品を現代において実現させ、なおかつ買いやすい価格に設定することはできなかったかもしれない。理想とされる光学設計を行なうZeiss、そしてこれを実際に製品として具現化するコシナのコラボレーションが、見事に成功しているのである。

 Zeissレンズの精度を上げるためのコシナのものづくり精神は、いささかストイックに見えるほどで、製造現場にいると、見ているこちらが緊張してしまったほどだ。正直なところ、かつて見たZeissの本家オーバーコッヘンのレンズ工場のそれを凌駕するほどであると言ってよかろう。これらの工程をみて、もはやドイツ製だの日本製だのを論議するのがバカバカしくなってしまった私である。


Planar T* 1.4/85 ZFの鏡胴組み立て工程。手作業によるものだ
クリーンルーム内におけるZeissレンズ製造工程の一部。静粛な作業環境である

Planar T* 1.4/85 ZFのレンズエレメントを鏡胴内に組み込む プロダクト用のCarl Zeiss製MTF測定装置を使い、組み上がったレンズの測定をする。Zeissの基準は厳格で有名だ

測定にかけられるPlanar T* 1.4/50 ZF。レンズ前部の化粧板は外されている 測定装置による検査を経たあと、最終的に行なわれる目視による検査。非常に厳格な「Zeiss基準」により行なわれている

 

●ZFレンズ7本とVFレンズ2本で撮影
 さて、今回の編集部からのオファーは、新発売のニコンD700にこれらのCarl Zeiss ZFレンズを全て使い、この組み合わせにおける描写の特性を個々のレンズについてレポートせよとのことだ。

 個人的にはこれまで、ニコンフィルム一眼レフはもちろん、D2X以降、ほとんどのニコンデジタル一眼レフでZeiss ZFレンズを試した経験をもっている。

 いずれも描写に関しては満足のゆくものであったが、もとは35mmフルサイズのイメージサークルをカバーするZFレンズだから、APS-Cサイズの撮像素子をもつデジタル一眼レフでは、周辺部を無駄にしてしまい、また、本来の50mmレンズの画角をそのまま生かせないという不満も強くなってくる。

 理論的にはレンズの中心部よりも周辺部のほうが画質が低下するのは当然なので、APS-Cのデジタル一眼レフでもよいという意見はあるのだが、周辺部の性能低下など、実際の写真の制作では瑣末なことである。私たちはZeissを使って新聞紙を複写しているわけではない。相手は立体物なのだ。周辺の画質のみが、画像の優劣を決めるわけではなかろう。もっとも今回使用したZeiss ZFレンズのなかで、周辺像が極端に悪いというものはなかった。

 単焦点レンズの場合は、あたりまえだけど画角が固定されているから、使い慣れたフィルム一眼レフカメラの経験則を生かすには、フルサイズの撮像素子をもつデジタル一眼レフは理想的なものに感じるのである。

 D700の画像はフラッグシップのD3とほぼ同じというから、D700とZFの組み合わせは、現時点でZeissレンズのチカラをもっとも発揮できる最良の組み合わせだともいえるだろう。

 ZFレンズには、CPUが内蔵されていないため、D700のTTLメーターを機能させ、なおかつRGBマルチパターン測光を生かすためには「レンズ情報」をあらかじめ入力する必要がある。これは9本までが登録できるので、いったん登録してしまえばレンズ交換時に逐一入力する必要はなく、切り替えは容易に行なえる。

 なお、今回はZeissZFのほか、コシナから発売されているもうひとつのブランド、「Voigtlander」(フォクトレンダー)の2本のVFマウントレンズ、Ultron 40mm F2 SL II Aspherical(Ai-S)と、Nokton 58mm F1.4 SL II(Ai-S)も試してみた。

 これら2本はCPUが内蔵されており、マウントに電子接点が設けられているので、D700に装着すると、ダイレクトにレンズ情報を伝えることができるから、レンズ情報入力は不要。フォーカシングがMFであるほかは、AFレンズと同等の機能性をもつ。Ai連動ピンが採用されていないD60などに装着した場合も、メーターを使うことができるのがいいのだ。ZeissZFにも、ぜひCPUを内蔵してほしいものである。

 D700の設定はデフォルトのまま、ピクチャーコントロールは「スタンダード」で撮影し、アクティブD-ライティング、ヴィネットコントロール、ノイズ低減はすべてOFFとなっている。またホワイトバランスは一部を除き、撮影時にグレーカードでマニュアル設定している。RAW(12bit)で撮影し、Nikon Capture NX2で現像したが、画像の明るさなど、見かけ上の最低限の整合性のみをとっている。


D700のレンズ情報入力画面
Ultron 40mm F2 SL IIのマウント部。電子接点が設けられ、レンズとボディ間で各種の情報のやりとりが行なわれる

D700のファインダー
 先に述べたように、今回取り上げたレンズはすべてMFだから、撮影者はD700のファインダースクリーン内で、最良のピントを見極める必要がある。フォーカスエイドも使えるが、合焦点の前後に余裕があるので、使用にあたっては注意する必要がある。

 D700のファインダーはFXフォーマットということで倍率も高く、明るいので、D300とかD80あたりと比べるとはるかにピント合わせはやりやすいが、MF時代からのニコン一眼レフのファインダーをずっと見続けている私としては、ファインダーの倍率やピントのキレに関してはまだ改良の余地があるように感じる。

 それでも、今回撮影した画像の合焦率はけっこう高く、エラーは思いのほか少なかったので、MFによるピント合わせの経験がある人ならば、さほどストレスにはならないだろう。ビギナーでも少々慣れてくれば、MFによるピント合わせが楽しくなってくるはずだ。

 ただし、ピント合わせの位置決めというのは、撮影者の作品制作上の思想にもかかわる重要な問題である。大口径レンズになるほど、当然被写界深度は浅く、ピントの位置決めは重要になるので、油断は禁物である。


※作例のサムネイルをクリックすると、RAW撮影後に現像した画像そのものを別ウィンドウで開きます。
※すべてサイズは4,256×2,832ピクセル、露出補正なしです。


Distagon T* 2.8/25 ZF

 25mmという焦点距離のレンズはZeiss伝統のものだ。本レンズの前身はYCマウントのDistagon T* 25mm F2.8 MMだが、設計を全面的に見直している。

 金属鏡胴、バヨネットによるフード装着はZS、ZKにも共通の仕様で高級感がある。重量は460gあり、けっこうな重量感だけど、D700との組み合わせでは、バランスは非常にいい。少なくとも撮影時には重さを忘れるくらいだ。フォーカスリングの回転角は小さくはないが、ロータリーフィーリングが適宜で、指先に心地よさを感じさせる使用感である。

 絞り開放値近辺の描写は、個性的な味わいがある。画面中心部はかなりシャープネスが高く、コントラストも高い。ただし、周辺域の線の描写はやや太めだ。しかし、そのぶん画像に力強さが出てきているのは興味深い。


色再現、肌の描写もいい。髪の毛の再現性をみると画面中心から離れると少々太くなってゆく感じ。本レンズの個性であろう
1/60秒 / F4 / 絞り優先AE / ISO400 / AWB
近接撮影だが、中心部はシャープだ。前後ボケは重めだ。開放時の周辺光量低下はややあるが、D700のヴィネットコントロールで対応できるだろう
1/500秒 / F2.8 / マニュアル露出 / ISO200

 絞り羽根は9枚あり、ボケ味に配慮されているが、超広角レンズだけあって、前後のボケはやや重め。また開放絞りでは画面のごく四隅の像はわずかに乱れるが問題はない。絞り込むにつれ画面の均質性は高くなる。被写体が近距離にある時はスムーズなピント合わせが行なえるが、少し距離をおくと被写界深度が深いこともあり、最良のピント位置を見極めるのが少々辛くなる。フォーカスエイドを活用するのも方法だろう。もっとも日中晴天下など、絞り込める状況では被写界深度を応用して、目測でピントを決めたほうが連写できるし歩留まりが良い場合もある。

 最短撮影距離は0.17mだから、いわゆる「広角マクロ」撮影が可能。フローティング機構は内蔵されていないので、理論的には近接撮影時の周辺像は悪化するはずだが、実用上の問題はまったく感じなかった。カラーリバーサルフィルムでの使用では、地味な渋さを感じさせた印象をもっているが、D700ではニュートラルな再現性だと思う。個性的な描写力をもつ広角レンズであるといえる。

 ・製品情報
  http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-25/


Distagon T* 2/28 ZF

 YCマウント時代から同スペックのレンズはラインアップされているが、この時はなぜか途中で製造販売が中断している。歩留まりの悪い製造方法の弊害が出てしまったのか、高価なレンズであるから人気が出なかったのだろうか。本レンズは新設計のレンズである。最短撮影距離は0.24m。

 本レンズを装着したD700のファインダーを覗いただけでも、キレ込みのよさがわかるのがすごい。大口径の広角レンズというのは、絞り開放値近辺において、ピンボケを作りやすいものなのだが、本レンズは画面周辺部においてもピント合わせがしやすく、感覚的には標準レンズのように使える。これは、開放時の残存収差が少ないということもあるのかもしれない。


開放での合焦点はすばらしくシャープだ。かと言って、硬いという印象を受けないことも評価対称となる。ボケ味の自然さも、特筆しておきたい
1/500秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO200
 フローティング機構が内蔵されているため、近距離撮影時の画質低下は少ない。開放値F2近辺に絞りを設定した場合の画面中心画像は、Distagon T* 2.8/25の開放画像よりもF値が明るいためか軟らかい調子に感じるが、ピントの切れ込みがよく繊細な線の描写で、ハロが少ないのも特徴だ。この階調のなだらかな再現性が、画像にうるおいを与えまたディテール再現にも優れる。

 また特筆すべきなのは前後ボケの素直さで、広角レンズとは思えないほど。画面の均質性は絞り込むごとに高くなるが、中心部の性能はさほど変わらないようだ。絞りによる性能変化が小さいのは、優秀なレンズであることの証でもある。絞り開放状態で近接撮影すると本レンズ特有の画角は広いのに、被写界深度が浅いという効果を使うことができる。Zeiss ZF広角レンズの中では、代表格的な存在となるであろう。

 ・製品情報
  http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-28/


ハイライトからシャドーまでの階調の繋がりのよさに驚く。D700の基本的な画像がよいためもあろうが、レンズの力もあると思う
1/500秒 / F2.8 / マニュアル露出 / ISO200

Distagon T* 2/35 ZF

 ファインダーを覗いて久しぶりにハッとしたのが本レンズである。フォーカスリングを回して、ピントを追い込んでゆくと、最良の頂点が迷うことなく確実に1度でバシッと決まる。画面周辺部でもこれは変わらないからとてつもなく凄い性能のレンズだ。

 いささか贅沢な悩みなのだが、開放時でも「シャープすぎる」のではないかと思わせてしまうほどである。開放絞りからのハロの少なさと、コントラストの高さは特筆すべきもので、こういう広角レンズはあるようでなかなかないものだ。高性能の万能レンズは時として味わいがないのでは、という評価を下される場合があるが、とんでもない。本レンズの鋭いピントと高いコントラストは、被写体のすべてをあますところなく描写する。硬いという印象もないので、十分に個性的なレンズであるといえる。

 かつてのYCマウントレンズの35mmはDistagon T* 35mm F1.4 MMとDistagon T* 35mm F2.8 MMの2本のみ。本レンズと同じ35mm F2というスペックの製品はどういうわけか最後まで存在しなかった。本レンズはZeissの最新設計によるもので、個人的には最も待ち望んでいたスペックのレンズでもあった。


わずかに周辺光量が足りないようだが、主題を強調させるにはよい感じ。ボケの感じは長焦点レンズのようで、たいへん好ましい
1/250秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO200
艶っぽさを感じる肌の再現性があって、これもまたD700の画質とマッチングがよい証であろう。合焦点の線の再現性も細かく秀逸なレンズである
1/500秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO200

 フローティング機構が内蔵されているため、近距離撮影時の周辺像の乱れが少ないのはいい。ボケ味は広角レンズにしてはクセがなく、自然な再現になるのはいいと思う。絞り枚数は9枚あるので絞り込んだ状態でも光源のボケは素直に描写される。

 ポートレートから風景まで、応用範囲の広いレンズだが、描写の万能性や、逆光にも強い特性から考えると、光線状態を意図的に選ぶことのできないスナップやドキュメンタリーなどの撮影で最も活躍するレンズなのではないかと思う。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-35/


Planar T* 1.4/50 ZF

 1856年にパウル・ルドルフが設計した「Planar」はそのままZeissを代表する標準レンズの名称となった。

 時代をへて35mm判一眼レフ用になってもPlanarの人気は変わることがない。デジタル、しかもズームレンズ時代のいま、ともすれば50mm標準レンズは軽んじられてしまう傾向があるが、本レンズの描写を見てみると、ズームレンズの50mm設定とは異なる個性ある画像が作れるのではないかと思えてくるのである。

 本レンズの基本設計はYCマウント時代と変わらないクラシックなもの。ZFレンズに共通するフォーカシングのロータリーフィーリングがとてもよく、MFのピント合わせが楽しくなる。ただし、絞り開放時の被写界深度はかなり浅く、この条件で最良のピントに常に持ってゆくのにはそれなりの練習が必要とされるし、ピントの位置をどこに持ってゆくかで撮影者の技量が試される。


ハイライト部分にフレアがあり、薄い紗をかけたような描写。クラシックで軟らかい画像の雰囲気は女性ポートレートに向いている
1/250秒 / F1.4 / マニュアル露出 / ISO200
ひと絞り絞った程度では、極端にシャープネスが向上するわけではないが、黒が締まってくる感じで好印象
1/250秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO400

 かつてのYCマウントのPlana T* 50mm F1.4の開放時の描写特性はコントラストは高く、解像力は低めという評があり、これが開放絞り設定時の実用性を高めているという話があった。この特性は本レンズにおいても基本的に変わりはないはずだが、実際は撮影条件やフィルムとデジタルの違いによっては印象が異なったりするから一概に判断してしまうのは難しい。

 今回のいくつかの条件で撮影した総合的な印象評では、開放値近辺では、わずかなハロが確認でき、コントラストはやや低く軟らかいクラシックな調子と感じた。半絞り絞っただけでもピントの線は細くなり、コントラストも大幅に向上する。絞り込んだ時の画像の均質性はたいへん良好。絞りの設定によって、再現性は次第に変わる。階調再現性がよく、単なるハイライトの中、シャドーの中にも豊富な階調があることを認識させられる。

 ボケ味も好印象。絞り羽根も9枚ある。ポートレートには最良のレンズだが、絞り込んだ時のきわめてソリッドな描写特性もいい。Nikkor 50mm F1.4とはあきらかに異なる描写特性をもっているので、本レンズならではの画像を創ることができよう。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-50/


Planar T* 1.4/85 ZF

 Zeissといえば85mm F1.4レンズだ。という人がけっこういる。それほど数ある同スペックのなかで評価の定まったレンズなのである。

 しかし、個人的にはYCマウント時代の本レンズは、世間で言われるほど高く評価していなかった。もちろん私の力量もあったのかもしれないけど、開放絞りではハロが多く、ピントが合わせにくいこともあいまってか、ややユルい描写をする印象をもっていたからだ。

 そのかわり、F2.8あたりからF4あたりの、カミソリのようなシャープな描写はたいへん気に入っており、絞りの設定による特性が大きく変わるレンズであると考えていた。

 ところが、基本設計はYCマウントと同一のはずの本レンズの描写特性には、いささか驚いた。開放絞りに設定した場合にも、ピントの芯がしっかりと確認でき、コントラストが高いので、十分な実用性能があるのだ。本レンズの性能がYCマウントのものと比べて向上していることは間違いないと思う。Zeissとコシナからのアナウンスでは、硝材の見直しが行なわれ、従来レンズよりも性能は向上しているとされる。これは実写でも確認できた。


YCマウントレンズでは絞り開放時にここまでのシャープネスはなかった。ピントの合わせやすさからしても、性能が向上していることは間違いない
1/200秒 / F1.4 / マニュアル露出 / ISO400
 大口径レンズだけあって、ボケは輪郭を溶かしてしまうほど大きく素直で美しい。絞り羽根は9枚である。

 開放値近辺に絞りを設定した場合の被写体の浮き上がりかたは、本レンズ独自のもので、光線状態を選べば、より立体感を増す効果がある。絞り込むごとに性能は向上してゆくが、F4あたりで画質はすでに飽和してしまっているように思う。開放時の描写性能が高いだけあって、MFのピント合わせもやりやすいのが印象に残った。これも残存収差がよく補正されているからであろう。ほかの85mm F1.4レンズに不満を持つ人がいたら、本レンズを使ってみることをおすすめする。Zeissの設計思想を十分に感じることができるであろう。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-85/


手前の葉っぱのボケの輪郭の美しさは本レンズの特性でもあろう。ひと絞り絞ったことで、シャープネスとボケ味のバランスで奥行きのある描写になった
1/250秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO200

Makro-Planar T* 2/50 ZF

 「Makro-Planar」という名称をきいただけでも、Zeissファンにとっては神話めいた響きを感じるらしい、近距離から遠距離まで変わらない描写力を持つのが、Makro Planarの大きなアドバンテージである。

 スペックをみればわかるとおり、本レンズのスペックはYCマウントのものとは大きく異なる。焦点距離は60mmから50mmと短くなり、開放F値もF2.8からF2と大幅に明るくなった。通常の標準レンズなみの明るさである。マクロレンズでは、収差の増大による性能低下を避けるため、以前は開放F値はF3.5あたりが常識で、明るいほうでせいぜいがF2.8程度のものであった。つまり性能向上のためにレンズの明るさには無理をしないというのがマクロレンズの常識なのに、本レンズの場合は、まるでこの理屈を無視するかのようなスペックなのである。

 撮影してみると納得である。絞り開放から、完全に芯のあるピントが確認でき、なおかつ非常に線の細い描写力があるのだ。光量調整と、被写界深度の変化のためのみに絞りは存在しているかのようで、描写性能向上のための絞り込みはまったく必要ない。


絞り開放時の線の立ち方がすばらしい。Planar T* 50mm F1.4とはまったく雰囲気が異なる描写である。Zeissで50mmを1本だけ選べと言われたら迷わず本レンズを選択するだろう
1/250秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO200
 最大撮影倍率は1/2倍と現在のマクロレンズに比較しておさえられているが、とくに不満は感じなかった。また、通常距離から無限遠にかけての性能変化もまったく感じないほどだ。ボケ味も自然で絞り羽根は9枚あるので、点光源が入るフレーミングの場合でも、美しい光源ボケを得ることができる。

 マクロ撮影時にはAFよりもMFでのピント合わせを行なうほうが確実な場合も多い。したがって、使い勝手もまったく問題ないと思うし、AFレンズよりも滑らかなロータリーフィーリングが得られる本レンズのほうが、ピント位置の追い込みもしやすく使いやすいともいえる。標準レンズの代わりとして使うにもベストのレンズだと思う。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-m50/


歪曲収差の補正はマクロだけあって見事。ただシャープなだけではないレンズであることを立証。背景に強い光があってもフレアなどを感じさせず、文句のない再現性だ
1/250秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO800

Makro-Planar T* 2/100 ZF

 YCマウントの100mmは、Makro Planar T* 100mm F2.8 AEとPlanar T* 100mm F2の2本があった。本レンズのスペックは両者を合体させたような印象をもつ。

 鏡胴は少々長めで重量は660gと重めだが、D700とのバランスはなかなか良好で、手持ち撮影でも使いやすかった。フォーカスリングの幅が広く、ロータリーフィーリングのトルク感も適宜で、扱いやすいのも特徴であろう。

 F2の開放像のファインダーは、じつに明るく見やすいので、深度は浅いがピント位置の見極めがしやすい。ただし、絞りを開いた状況でマクロ撮影を行なうと、被写界深度は紙のように薄くなるので、撮影者は自分の表現に応じて、適切なピント位置を決める必要が出てくる。


ともすればドライな描写になるものが多いマクロレンズだが、本レンズはウェットな感じがするのがいい。ポートレートにも向いている
1/500秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO200
ニコンのスピードライトSB-800で自然光とのバランスをとってみた。3DのないRGBマルチパターン測光だが、理想的な露出になっていることに驚く
1/60秒 / F2.8 / 絞り優先AE / ISO400 / AWB

 このレンズも「Makro Planar」の名を冠しているのは伊達ではない性能をもっている。絞りによる性能変化がきわめて小さいのが特徴でF2の開放絞りを完全な実用域にあるものとしている。開放時の描写特性は、シャープながらも、硬いという印象はなく、ボケ味にもクセがないのはいい。絞り羽根は9枚である。クリアな描写は空気感すら感じさせるほどだ。

 撮影倍率は最高1/2倍と、ややおさえ気味だが、花とかポートレート撮影などでは問題にはならないだろう。本レンズはまさに中望遠の万能レンズ的存在であると言ってよかろう。少々高価ではあるが、値段だけの性能は十分に感じさせるものをもっている。重量級のレンズだが、D700とのバランスはよかった。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/co/zf-m100/


Nokton 58mm F1.4 SL II(Ai-S)

 かつての東京光学から発売されていたトプコンRE用レンズ「Topcor 58mm F1.4」がコシナから復刻されたのは記憶に新しいところだが、本レンズはこのレンズとまったく同じ設計となっている。

 焦点距離が58mmというのはいかにも中途半端なのだが、かつての一眼レフのF1.4級の大口径標準レンズの多くに採用されていた。これはミラーの駆動ための、バックフォーカスの距離をかせぐためであるが、後に設計の進歩によって、大口径レンズでも50mmの焦点距離を実現させている。本レンズの場合の58mmはあくまで趣味的なものであろうが、やはり画角の違いからくる撮影スタンスが微妙に異なるところが面白い。デザインはオールブラックで落ち着いた感じ。フォーカスリングはゴムローレットが巻かれている。

 写りは非常にクラシックな感じだ。おそらく光学ベンチによるテストなどでは、あまり高い数値ではないのであろう。


階調の再現性は中判フィルムカメラのそれに似たようなところがあるのが興味深い。ボケ味も暴れるようなこともなく素直である
1/125秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO400
 ところが実写で見ると、ハイライト部分には真綿が枝にまとわりつくような微妙なフレアがあって、軟らかい調子でたいへん美しい再現性がある。現代の標準50mmレンズにはこうした再現をするレンズはないだろう。

 1段絞ったF2あたりでピントの芯が出てくる。この時の線の再現性は繊細だ。若干のフレアは残っているものの、ピントのシャープさと、フレアのバランスがいちばんよく、本レンズの特徴を表しているように思う。女性ポートレートなどでは抜群の効果を発揮すると思う。絞りF4あたりでフレアは消失し、立ち上がってゆくように性能は向上し、非常にシャープな描写になる。絞りによる描写の変化が大きい分、使いこなしが楽しめるレンズである。CPUが内蔵されているため、D700では最小絞りに合わせることで、多彩な露出モードを使うことができる。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/voigt/v-lens/sl2/58sl2/


ソフトフィルターをかけたようなきわめて軟らかい描写。数値的な性能は高くはないのだろうが、旧来のレンズ設計を現代に再現するという試みは大成功している
1/125秒 / F2 / マニュアル露出 / ISO400

Ultron 40mm F2 SL II Aspherical(Ai-S)

 パンケーキタイプというふれこみだが、鏡胴の全長は24.5mmほどある。パンケーキと呼ぶにはいささか大げさな感じもするが、重量は200gほどで小型軽量なことはたしかだ。D700に装着してみるとボディの大きさとの比率からして、ボディキャップもどきに見えなくもない。やはりパンケーキの部類に属するレンズなのであろう。

 多くのパンケーキタイプのレンズは、比較的単純なテッサータイプの光学設計になっているものが多いが、本レンズは変形ガウスタイプなので、標準レンズとしては正統派な設計になっていいる。

 テッサータイプは性能は悪くはないけど、メーカーやレンズの種類によらず、写り具合があらかじめ予測できてしまうようなところがあり、あまり面白くはないものだ。

 本レンズでは、さらに非球面レンズを配置することで、より一層の性能向上を目指し、実写してみても非常に秀逸な画像を得ることが確認できた。


Zeissの再現性とはまた異なる現代的な感覚のレンズである。パースペクティブの再現性は35mmレンズに近いように思う
1/250秒 / F2.5 / マニュアル露出 / ISO400
40mmの画角というのはこう写るのか、とあらためて実感させられる。フルサイズフォーマットのよさはこういう画角の認識のためにも役立つわけだ
1/125秒 / F2.8 / マニュアル露出 / ISO400

 面白いのが付属のドーム型のフードだが、デザイン面だけでなく、実用的な効果も大きいだろう。このフード先端には専用のクローズアップレンズをとりつけることができ、この時の接写倍率は1/4倍になる。単体での最短撮影距離も0.38mと短い。

 非球面レンズ採用のためか、開放から像はすっきりとシャープだ。絞り羽根は9枚あり、ボケ味にもクセはなく、逆光にも強いレンズに思えた。鏡胴が短いレンズだが、フォーカスリングの幅は適宜にとられているので、MFのピント合わせはやりやすい。先に述べたようにD700とはアンバランスのようだが、そのミスマッチさが逆にモノ的に面白い感じがする。

・製品情報
 http://www.cosina.co.jp/seihin/voigt/v-lens/sl2/40sl2/




モデル:菅野優香子(メインキャスト)



URL
  コシナ
  http://www.cosina.co.jp/
  ニコンD700関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/07/03/8783.html



赤城耕一
(あかぎこういち)写真家。1961年、東京都生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。エディトリアル、コマーシャルなどの分野で活躍中。また、クラシックからデジタルまで、カメラメカニズムについての論考を「アサヒカメラ」をはじめとするカメラ雑誌で発表。著書に「銀塩カメラ至上主義!」(平凡社)、「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)ほか多数。

2008/08/21 00:30
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