デジカメ Watch

キヤノン PIXUS MP950

最新メカとヘッドが与えられた“もうひとつの”フラッグシップ



 昨年、単機能機において背面トレイと前面カセットの2ウェイ給紙や両面印刷など、新機能をふんだんに投入したキヤノンだったが、複合機に関してはライバルの後手を踏んでいた。

 普通紙画質を重視したPIXUS MP790は実用志向が強く、FAX機能や自動原稿フィーダなどは備えていたもののフィルムスキャン機能はなく写真印刷も不得手。コンシューマ向けカラーイメージング機器をひとつに集めた、フォトユーザーのための複合機としてフィルムスキャン機能も備え、6色2ピコリットルのヘッドを備えたMP900も用意されていたが、こちらは普通紙での黒文字の鮮明度が低い。単機能機に採用されていた最新のメカも使われていなかった。

 写真印刷やフィルムスキャンが主用途ならば、それでも良いという考え方もあるが、複合機の場合、雑誌や書類のコピーをする機会もあるだろう。また家族も一緒に使う事を考えれば、デジタル写真関連の機能ばかりに偏った製品は選びにくい。

 しかし今年投入されたMP950は、写真印刷から普通紙印刷まで幅広い用途での画質と、フィルムスキャン、メモリカードダイレクトプリントなどの機能性を両立させた。残念ながらFAXやネットワークプリントといった機能は統合されていないが、複合機に求められる多様性、柔軟性を備えるようになった。

 メカニズムの面でも、2ウェイ給紙システムに自動両面印刷機能が導入され、使い勝手の面で評価の高かったキヤノン製単機能機と同等の機能を備えるようになっている。操作性の面でも、スキャナの圧板部分に操作ボタン、大型化された3.6型チルト式液晶パネルが配置され、使いやすさはそのままに本体のボリューム感を減らす事に成功している。

 また、フィルムスキャン用に3,200dpi対応CCDを搭載しつつ、通常の反射原稿用に800dpi CCDも搭載している点もユニーク。フィルムスキャンを行なうには高解像度である事が望ましいが、一方で画素数が小さくなるため感度が下がり、結果としてS/N比が悪化する。そこで800dpiセンサーを別途搭載し、800dpi以下でのS/Nを改善すると共にスキャン速度もアップさせている。

 これにより、一般ユーザー向けインクジェットプリンタとしては、単機能機としてiP8600が昨年に引き続いて販売されているが、もう一方の写真ユーザー向けフラッグシップとしてMP950が並び立つラインナップとなった。


ふたつの異なるニーズに対応する新ヘッド

 キヤノン製品の概要で触れたように、今年のキヤノンは写真と普通紙の画質をバランス良くサポートするための新ヘッドを開発した。顔料系黒インクによる普通紙における文字描写のシャープさと、1pl(ピコリットル)の極小ドットを用いた6色インクの写真画質が行なえるようになったのである。

 また、顔料系黒インクには改良が施されており、カラーインクと隣接する際に滲みが発生する事がなくなり、濃度も向上しているという。さっそく新型の顔料系黒インクを使ってみたが、確かにブラックの品質は上がっているようだ。従来のキヤノン製顔料系黒インクは、ヒューレット・パッカードが採用するものに比べ、乾きは高速だったものの、濃度や滲みの点ではやや劣る印象があった。

 しかし、新型のBIC-9bkは、最近のHP製ビジネスインクジェットプリンタに近い品質を出している。十分な品質だ。また乾燥速度も十分に速い。

 一方、写真印刷はすべて染料系インク。CMYKに薄いシアンと薄いマゼンタを加えた一般的な写真印刷向けのインク構成である。昨年までの多色インク機用ヘッドの進化版ではなく、やや幅の狭い各512ノズルの新型ヘッドだ。

 ただし512本のノズルは半分が5plで、もう半分が1pl。つまり濃度を出したい(インクをたくさん吹き付けたい)ところや普通紙への印刷では5plノズルが使われ、1plノズルは階調表現を細やかにしたり、ハイライト部での粒状性を下げるために利用される。

 薄いフォトインクと1plの組み合わせで、どこまで画質が向上するのか? が、写真ユーザーにとっての注目点となる。だが、単機能機のトップエンドに全弾2plのPIXUS iP8600が残されている事からもわかるとおり、本機は写真画質での最高を狙った製品ではないようだ。


写真画質の基本性能はかなりの実力派

 新ヘッドでの写真画質が高い事は、染料系6色インクを1ピコリットルと5ピコリットルのインク滴で打ち分ける、というスペックからも想像できる通り、一般的なインクジェットプリンタのレベルから言えば、かなり高い位置にある。

 しかし、画質至上主義的に評価する場合、気になる点が2つある。

 まず異なるサイズのインク滴を混在させる事による画質低下。異なるサイズのインク滴を用いる手法は、これまでエプソンがMSDTと名付けた技術で行なってきた(キヤノンも4~5色インク機で用いている)。しかし、これは画質を上げるための技術ではなく、小さいインク滴との使い分けを行なうことで、最小インク滴サイズを変えずに印刷速度を上げる技術である。

 印刷結果としては、精細感や細やかなテクスチャがわずかに失われるといった弊害が起こる場合がある。故に、写真印刷を行なう際、どの程度の濃度部分から大きなインク滴が使われ始めるのか? が気になるところだった。5plノズルを使う頻度が高いほど、弊害が表面化しやすい。

 しかしMP950の印刷結果を見る限り、そうした心配は無用のようだ。

 ハイライトから中間調にかけてのトーンは繊細で、さすがに最小インク滴の小ささが活きる。明るい部分でのインク滴は、肉眼で見る限りではほぼ見えない。インク滴サイズの切り替えは自然で、階調表現の中でそれを意識させる部分は見受けられない。

 一方、空のグラデーションなどで見えやすい薄いインクから濃いインクへの切り替え部分に関しても、やはりインク滴の小ささが好影響を及ぼし、めだったザラツキ感は見えない。この部分に関しては、iP8600よりも優れている(キヤノン製プリンタはフォトインクの濃度が他社フォトインクよりも薄めに設定されており、空の階調表現で不自然な場合があった)。

 ただし、iP8600の出力と比較すると、若干ではあるが高濃度部分のテクスチャが、やや弱めに出る印象を持った。特に赤やオレンジ、緑といった部分の純度が今ひとつ伸び切らない。ひとつには、本機が他社製品に比べ、明るめのトーンで印刷されることが原因と思われるが、iP8600で使われているレッドインク、グリーンインクの影響もあるかもしれない。

 キヤノンによると、基本的な絵作りの方針は変化していないとの事で、確かに似た傾向ではあるが、実に微妙な部分でiP8600との画質的な差が出ているように思う。ただ、その差は大きなものではない。画質面において、MP950は上位クラスの単機能機に匹敵する実力があるとは言える。なお、細かな出力結果に対するコメントは、別途、印刷結果とともに掲載することにしたい。


画質だけではないMP950のマルチな性能

 デジタルカメラユーザー向けということで、主にプリンタとしての画質について述べてきた。本機の画質は写真画質機としてもトップレベルにあり、普通紙への印刷でも滲みが少なく濃度の高い黒文字を実現している。が、こうした製品の基本プロフィールは、印刷速度、あるいはスキャナとしての性能などでも同じだ。

 MP950のモノクロ印刷は、今回の特集で取り上げる製品中、もっとも高速である。これまでの常識から言えば、モノクロ印刷の高速な製品は、概して写真印刷速度が遅いものだ。ところが、MP950は写真印刷の速度も(iP8600には及ばないものの)、他社上位クラスと同等レベルの速度をたたき出す。L判フチなしでの印刷速度は、最高画質でも1分を切り、標準画質ならば40秒程度。

 普通紙への文書出力を中心にした実用性と写真印刷の美しさと速さ。どっちつかずの中途半端な製品ではなく、幅広くマルチな適応性を持ち合わせた、隙のない製品に仕上がっているようだ。

 これは内蔵スキャナに関しても言える。3200dpiの最高光学解像度は昨年のMP900と同じで本スキャンの速度も特に秀でいるわけではないが、フィスムスキャン時のプレビュー速度がすこぶる速く、作業がやりやすい。また、別途800dpiセンサーを用い、低解像度時の速度やS/Nを改善している点も評価せねばなるまい。

 すべての性能が一番とは言わないが、デジタル写真の活用を重視した使い方だけでなく、複合機らしい実用本位の使い方まで、幅広く、まんべんなく最上位あるいはそれに近い位置にあるマルチな性能が、MP950の最大の魅力と言えよう。

 詳細は別途表で紹介するが、このほかメモリカードからのダイレクト印刷の速度も、かなり高速だ。MP950はコピー速度も高速であり、内蔵されているプロセッサ、あるいはその周辺の設計パフォーマンスが高いのかもしれない。

 画質を優先させるなら、やはりPCを経由しての印刷の方が思い通りの出力が得られるとは思うが、今年のモデルは本機だけでなく、多くの製品が600万画素程度の画像をストレスなく扱えるようになっており、画質面でもさほど遜色はない。デジタルカメラの普及でひとり1台のデジタルカメラを持つ時代を考えれば、ダイレクトプリントの速度改善はうれしい。

※印刷結果は印刷結果と近似するよう配慮したが、完全に同一の色にはなっていない点に注意して欲しい。また階調の残り具合を見せるため、黒側は意図的にやや浮かせる調整としている。

※テスト方法についてはこちら。

 女性の写真は黒浮きして見えるが、実際には十分な沈み。色付きがないため暗部の階調が安定し、艶っぽい黒の表現ができた。スキャン画像ではその実力を見せる事が難しい。

 全体に好ましい色への演出はあるものの、さほど不自然さは感じられない。また色数、階調がパッと見で良いのが印象的。肌はやや赤みが強く出る傾向がある。



( 本田 雅一 )
2005/12/08 15:14
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