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薬師洋行 & Arthur THILL報道写真展 / 第29回北京夏季五輪
「同一ケ梦想 -想いは一つ、アスリートの夢-」

――写真展リアルタイムレポート
Reported by 市井康延

閉会式で催されたアトラクション「記憶の塔」。 (c)薬師洋行




 北京オリンピックが閉幕して2週間強。その余韻がいまだ冷めやらぬ中、2人のスポーツカメラマンが撮った写真展が開かれる。カメラマンはオリンピックをはじめ、世界の大舞台を40年以上撮り続けてきた薬師洋行さんと、アーサー・ティルさんだ。アスリートたちの一瞬を捉えた迫力あるシーンとともに、「ZUIKO DIGITAL ED 8mm F3.5 Fisheye」で競技場の空間をすっぽりと切り取ったイメージなどを展示している。普段、新聞、雑誌などで目にする写真とは、ちょっと違う世界が楽しめるはずだ。写真展設営中の会場で、薬師洋行さんにお話をうかがった。

「薬師洋行 & Arthur THILL報道写真展」はオリンパスギャラリー東京で開催。会期は2008年9月11日(木)~ 17日(水)。日祝日は休館。開館時間は10~18時で、最終日は15時まで。入場無料。「最寄り駅は都営地下鉄新宿線・小川町駅(東京メトロ千代田線・新御茶ノ水駅、丸の内線・淡路町駅と地下で接続)A6エレベーター出口から徒歩0分。

 なお9月13日(土)14時からは、作者の薬師洋行氏を招き「ギャラリートーク」を開催。展示作品を解説しながら、撮影エピソード、撮影ノウハウなどを語る。参加費は無料。先着30名には椅子席が用意されるが、立ち見も可。会場の都合で、入場を制限する場合もある。問合せはギャラリー(TEL 03-3292-1934)へ。

 さらに巡回展がオリンパスギャラリー大阪で2008年9月26日(金)~10月2日(木)、神戸・元町アートギャラリーで10月24日(金)~28日(火)に行なわれる。


一瞬を捉える緊迫感が醍醐味

薬師洋行さん。フェンシングのすばやい動きは、スポーツカメラマンにとって撮りがいのある被写体だ
 スポーツ撮影の現場は、連写によるシャッター音が鳴り響いているイメージが強い。実際、連写を使うカメラマンが多いらしいが、薬師さんはあまりそれをしない。ここぞと思う一瞬にシャッターを切ることを重視しているのだ。

 この五輪で一躍脚光を浴びたフェンシングは、とりわけ動きの速いスポーツだ。試合中、観客席はライトが落とされ、2人の選手にスポットライトが当たり、剣が触れると選手のマスクの上に装着されたランプが赤や緑に発光する。非常にフォトジェニックな競技でもある。

「フェンシングは初めて。今回は最初から撮影したかった競技の一つでしたが、太田雄貴選手の大活躍で13時から22時まで、プレスルームと競技場を往復し続けることになりました」

 薬師さんが狙ったイメージの一つは剣が相手をつく瞬間。だがその一瞬を捉えるのは至難の技だ。

「連写すれば撮れるかといえば、やっぱり外れるんですよ」と笑う。会場には肉眼では見ることのできない瞬間を止めた2点が展示されている。


できれば単焦点レンズで撮りたい


ビーチバレーに熱狂する観客を8mm Fisheyeで撮影。(c)薬師洋行

 薬師さんのこだわりのもう一つは、ノートリミング。今回展示した作品もほとんどがそうだ。

「どんなイメージを撮りたいかがまずあって、そこから撮影位置を決め、レンズを選ぶ。レンズもできれば単焦点でいきたいんですよね。ズームだと、どうしても画角を合わせにいってしまうから。単焦点レンズにはどう撮るかを即座に判断する楽しみがあるし、多少、被写体が切れても、リアルな迫力が得られると僕は思っています」

 今回、用意したレンズは9本だが、会場に多く持っていったのは「ZUIKO DIGITAL ED 8mm F3.5 Fisheye」と「同90-250mm F2.8」か「同300mm F2.8」。そして「同12-60mm F2.8-4 SWD」、「同35-100mm F2」だ。「動きやすいようにできるだけ機材は少なくしたい。初めて会場に行く時は 90-250mm と300mmを用意し、次はどちらか一つを選んだ」という。

 今回、活躍したのは「8mm F3.5 Fisheye」。スポーツ写真に魚眼レンズとは意外な取り合わせだが、薬師さんはスナップ風に競技の一瞬を切り取っている。中心となる選手の躍動感を見せつつ、周囲の選手の動き、競技空間の状況を捉えたのだ。

「去年、祇園祭を撮った時、このレンズの面白さを発見した。人の動きがいい感じで撮れるんだよね」


魚眼レンズをスナップ風に使った写真が面白い空間を捉えている。(c)Arthur THILL

1日で撮影できるのは3競技まで

 北京オリンピックの会期は8月8日から24日の17日間。プレス関係者には1カ月ほど前から、競技日程と会場図、会場間を結ぶバス時刻表などが渡される。

「撮れるのは多くて1日3競技です。その中で競技を選び、移動の方法を事前に計画します。現地での情報や、状況によって計画通りにはいきませんけどね」

 前回のアテネ五輪で薬師さんは前半しか滞在できず、その時、撮れなかった女子競技、レスリング、シンクロナイズドスイミング、新体操などを中心に組んだとという。

「予選からも撮っていきますが、最終的に選ぶ写真は決勝でのものに集中します。強い選手にはやはりよいシーンが多いんですね」


プレス向けのガイドブックは五輪公式言語である英語、フランス語、そして開催国の中国語版。トライアスロンの競技場がバスで1時間、サッカーと新体操は45分程離れた場所にあったので、バスの時刻表も必需品だった 使い込まれた日程表。一日が終わるとホッとしたが、残りが3日くらいになると「もう少し会期があればいいなと思った」とか

薬師さんの使用カメラ、プレスバッジなども会場に展示されている スポーツ写真の醍醐味がぎっしり詰まった会場

 とはいえ、シャッターチャンスは非常に限られている。たとえば水泳の北島康介選手を撮った時、100m決勝はプールサイドに撮影位置を選んだ。スタート位置から40mから45mの場所だ。

「これは競技者の目線で撮りたかった。ただターンしたら、この位置は水中で通り過ぎてしまうので、往路しか撮るチャンスがないんです」

 プールサイドでは水しぶきが上がり、選手の姿が見えなくなることもあるという。そう考えていくと、シャッターチャンスとなる瞬間は予想以上に限られていることが分かる。

 200m決勝は画角のイメージを変えるため、上段の席に場所を移した。当然、高い位置にいた方が全体が見渡せ、撮りやすいし、200mの場合、選手は2往復するので撮影の機会も多い。それを分かりつつ、100m決勝でプールサイドを選ぶところが薬師さんの真骨頂なのだ。


ショット数が増える新体操はJPEGファインで撮影している。 (c)薬師洋行

平均4,000~5,000カット、データ量は約150GB

 スポーツカメラマンのなかで、ショット数が少ない薬師さんでも、今回の撮影データ量は150GBほどになった。1日平均4,000~5,000カットくらい。

 屋外での撮影と、カット数が少ない競技はRAWで撮る。JPEGファインでしか撮れない種目の一つが新体操で、そうでないと撮影が間に合わなくなるからだ。

「動きが多彩だから、カット数が増える。撮りながら、選手の動きのパターンを観察して、後はカンを鋭くして一瞬をつかむんだ」

 薬師さんがオリンパスのE-3で特に評価している点は色再現。とてもニュートラルでよいという。

「露出さえちゃんと決めれば、コントラストを少しいじるだけでよいプリントが得られる。今回も肌の色は撮ったそのままで出力しています」

 スポーツ写真はイメージを作り、一瞬に反応しながら撮る。薬師さんとティルさんが描いたオリンピックの残像を味わおう。これから運動会を控えているアマチュア写真家には、特に学ぶところが多いはずだ。


(c)薬師洋行


URL
  オリンパスギャラリー
  http://www.olympus.co.jp/jp/gallery/
  展示情報
  http://olympus-imaging.jp/event_campaign/event/photo_exhibition/080911_yakushi/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/09/12 00:43
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