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プレスツアーで自作を解説するジョエル・マイロウィッツ氏
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2007年11月、写真作品を展示、販売する場所としてオープンした「Gallery White Room Tokyo」。そこで米国を代表する写真家の1人であるジョエル・マイロウィッツ氏の個展「The Elements:Air/Water Part 1」が開催されている。
マイロウィッツ氏はモノクロームが主流だった1970年代に、カラーによる写真集「Cape Light」を発表し、注目を集めた。2001年9月11日に起きた世界貿易センタービルへの同時多発テロでは、発生直後から唯一、グラウンドゼロでの記録写真を撮り続けた写真家でもある。
その写真家が新たなシリーズとして取り組んでいるのが、この「The Elements: Air/Water」だ。写真展初日には作家が自作品を解説するプレスツアーを行ない、2日目にはヒューレット・パッカード(HP)の大判プリンタ「Designjet Z3100」を使ったプリンティング・セミナーを開催した。今回はその模様を中心に、写真展を紹介する。
「The Elements:Air/Water Part 1」の会期は2008年3月7日~6月8日。日曜、祝日休館。開館時間は11~20時。入場無料。
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「The Elements:Air/Water Part 1 #1」
Photograph(C)Joel Meyerowitz
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ギャラリーは表参道ヒルズの斜め向かいにある好立地
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■ ビデオ撮影時にインスピレーションを得た
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このギャラリーはフロントルームとサイドルームの2つのスペースがあるが、今回は両方を使っている
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ギャラリーに入ってすぐの部屋には新作が展示されている。プールと、そこに飛び込むオリンピック選手の姿が捉えられた大判プリント(1,524×1,778mm)が並んでおり、爽やかな青のイメージに包み込まれる。
新作のタイトル「The Elements」は、「元素」のことだが、作品では特に4大元素(空気、水、土、火)を指している。今回のシリーズでは空気と水がテーマとなっているが、すでに火と土、土と水をテーマとした作品を撮り終えており、引き続き、空気と土、水と火、火と空気についての作品を制作するという。
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「The Elements:Air/Water Part 1 #3」
Photograph(C)Joel Meyerowitz
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「The Elements:Air/Water Part 1 #8」。普段は意識しない空気、水、土、火の4大元素が、見る人にその存在を訴えかけていく
Photograph(C)Joel Meyerowitz
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プレスツアーでマイロウィッツ氏は、今回のシリーズを始めるきっかけを、「2007年7月に、フロリダのオリンピックプールで、飛び込み選手たちの様子をビデオで撮影していた」ときと説明した。「私はプールの中が見渡せる水中見学室でカメラを回し、その映像を見ているときにインスピレーションを感じた。飛び込んだ選手はたくさんの気泡を身にまとい、水中に滞在し、選手が水上に浮かび上がったあとでも気泡はプールの中に漂っている。瞬間に現れて、集まり、水中に上っていく気泡が、何かの爆発のように見えた。そして、その気泡が大気の中に入り込み、雲になり、水蒸気となって水に、海に戻るのが感知できた」。
そして、「大型カメラでこの現象をつぶさに記録したいと考えた。見る人がプリントを間近にして、この現象を体験できることを目指している。今回の作品はその端緒であり、制作は2年ほどかかると考えている」と述べた。モチーフは具体的で明確だが、作者がそのイメージから喚起させようとするものは抽象的で、哲学的なようだ。
■ 当初、インクジェットには懐疑的だった
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マイロウィッツ氏がインクジェットプリントの高い色再現性に気付いたのが、このプリント。左手に持っているのが銀塩プリント、右手に持っているのが同じネガをインクジェットでプリントしたもの
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新作はラムダプリント(銀塩印画紙へのデジタル出力)だが、彼の代表作である「Cape Light」から選ばれたイメージを、Z3100でインクジェット出力した作品も飾られている。
プリンティング・セミナーは、立ち見が出る人気だった。セミナーではスライドで自作品を上映しながら、作家としての変遷を語ったが、まず指摘したのはおよそ5年前の「デジタル表現との出会い」だ。「グラウンドゼロの撮影を終え、イタリアのトスカーナで新たな作品を撮影していた。8×10のビューカメラを使い、自分で暗室に入りプリントを作っていた。そのとき、アメリカのHPの担当者が、インクジェットプリンタの開発プロジェクトへの参加を呼びかけにきた」。
そこで指し示したのが、同じネガの銀塩プリントと、HPのインクジェットプリントだ。「インクジェットプリントで、草原は緑と黄色が混在していて、1本ずつの木が違う色をしていたことに気付かされた。また、それまでインクジェットプリントの耐久性を懸念していたが、HPのプロジェクトに参加し、それが杞憂であることを知った」。
■ カラーで写真に入り、モノクロを経て再度カラーへ
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メインルームの奥にあるビューイングルーム。この左手にある写真が、初めてビューカメラで撮ったものだ
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その後、1960年代からのキャリアを解説。最初、カラー写真を撮り始めてからモノクロに移り、そして1973年ころから再びカラーを撮り始めた。76年からはカメラも35mm判から8×10のビューカメラに変えた。それは親交があり、影響も受けたアンリ・カルティエ・ブレッソンから離れ、自らの道を創造するための選択だった。
「ブレッソンの目はとても速くて、起きたことをすぐ捉えられた。私も何年もそのやり方を踏襲し続けたが、あるとき、同じことを繰り返すのはやめようと思った。出来事だけを撮るのではなく、被写体と背景の両方をとらえられないかと考えたのです」。
大型カメラをスナップ的に使い、街の風景を切り取っていったほか、ポートレートにも領域を広げた。
「撮りたいと思った人に対して、まず『あなたの人間性の何かが私に話しかけてくるので撮らせて欲しい』と説明します。相手は大概『どうすればいいのか』と聞いてくるので、『あなたが一番楽なポーズをしてください』と答える。秘密を分かち合える瞬間を待って、シャッターを切る。その大切な瞬間は1/125秒の一瞬にしか存在しません」。
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スライド上映された過去の作品。この写真は3つのネガをつないでいる。そのため、同じ人が3カ所に同時に入っている
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スライド上映された、グラウンドゼロを撮った1枚
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■ グラウンドゼロのアーカイブに日本のフィルムを使った理由
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プリントを手に解説するマイロウィッツ氏
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スライド上映しながらの解説の後はフリータイム。マイロウィッツ氏はプリントを手に、具体的なノウハウについて語った。
撮影時に重要なのは「観察と記録」だと氏は言う。「撮影するとき、被写体をよく観察して色の状態を見る。まずニュートラルグレーを探す。被写体に雲があれば、その下の部分がニュートラルグレーだ。プリントするときはそこを基準に調整する。あとはカラーバランスの状態など、たとえば夕刻はちょっとの時間でマゼンタが強くなったりする。それをちゃんと記録して、プリントのときに反映させるんだ。それが自分の写真を撮るということだよ」。
最後に彼が語ったエピソードは、グラウンドゼロを撮り始めたときのものだ。「事件が起きたとき、ニューヨーク市民として撮らなければいけないと思い、すぐにKodakに電話した。応対したスタッフの回答はノー。『今、コダック自体がアタックを受けていて、それどころじゃない』という。すぐにニューヨークにあった富士フイルムのオフィスにかけると、話を聞き終わる前に『必要なだけフィルムが使えるようにしておきます』と約束してくれた。ニューヨークの重要なアーカイブに対して貢献してくれたのは、アメリカの会社ではなくて、日本の会社だったんだ」。
■ URL
Gallery White Room Tokyo
http://www.g-whiteroom.com/
ニュースリリース
http://www.g-whiteroom.com/exhibitions/fr_a006jm/pressrelease.htm
市井 康延 (いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。 |
2008/03/11 18:51
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