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自らの作品の前で、Veras ImagesメンバーのShanaさん(左)と南さん
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International Center of Photograph(ICP)は、米国・ニューヨークにある写真専門学校だ。同センターを2005年に卒業した学生12名がフォトエージェンシー「Veras Images」(ヴェラス・イメージズ)を立ち上げ、活動を始めた。メンバーは20代から30代で、米国だけでなく世界へそのフィールドを広げている。
メンバーの何人かは、日本のメディアにも写真を提供しているので、すでに誰かの写真を眼にしている可能性はある。ただ、こうして12名の作品を並べて見ると、これまでのドキュメンタリー写真とは違う何かが感じられる。それがVeras Imagesのカラーとして、新しい潮流を作っていくのかもしれない。
「Veras Images Exhibition」は6月8日(金)から28日(木)まで、東京 品川のキヤノンSタワー 2F オープンギャラリーで開催される。日曜、祝日は休館。開場時間は10時から17時30分まで。入場無料。
■ 写真学校の卒業生が設立したフォトエージェンシー
まずICPについて少し説明すると、同センターは写真家のロバート・キャパの弟で、同じく写真家のコーネル・キャパが1974年に設立した組織だ。その名称通り、著名写真家の作品を所蔵、発表する「国際写真センター」としての役割のほか、写真教育機関としても機能している。
教育プログラムは1年間で、アートやファッション写真を学ぶ「ジェネラルスタディ」と、Verasのメンバーが卒業した「フォトジャーナリズムおよびドキュメンタリーフォトグラフィ」の2つのコースがある。ICPの目的はプロ写真家の育成にあるが、今回のように卒業生がフォトエージェンシーを設立したのは初めてのことらしい。
「明確な目的意識があって始めたことではありません。気のあった仲間が集まり、お互い励ましあってやっていこうという、勢いで生まれたところが大きいですね」とメンバーの1人で、日本からICPに留学した南しずかさんは説明する。
Verasのメンバーは南さんとアメリカ人8名、そしてフランス人、スペイン人、ポルトガル人が各1名。それぞれが活動するフィールドは、同じドキュメンタリーというくくりはできるが、まったく異なる。
彼らが選ぶモチーフは紛争地、アメリカの農業、医療現場、日常生活などさまざま。ただ共通しているのは、ドキュメンタリー写真の方法論だ。彼らが志向するのは「写真家の主観を重視し、アート的な要素もプラスした写真」だという。
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(c)Willie Davis/veras images
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それぞれが追うモチーフはさまざま。紛争もあれば日常生活にもある
(c)RJ Mickelson/veras images
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これまでそれぞれが個々の活動を行ないながら、Veras Imagesに所属する写真家であることをPRしてきた。「アメリカだけでなく、イタリアのグラリナリー、フランスのコスモス、ドイツのフォーカスといった代理店と契約を結んでいますし、Veras Imagesに写真の問い合わせや撮影の依頼が入るようになってきました」。
現在は共同の事務所があるわけではない。それぞれがグループ内での役割を担い、週に1度、Skype(スカイプ)で電話ミーティングを行ない、業務をこなしている。
■ 入学は10倍の競争率
ICPには毎年、世界中から写真家を目指す若者が集まってくる。南さんが入学した2004年には、600人が願書を提出して、入学できたのは60人だ。その選考は、入学希望者が撮影、プリントしたポートフォリオで行なうというのだが、南さんは日本で写真の勉強をしたことはまったくなかったという。
それまでは東海大学航空宇宙学科で、ロケットについて学んでいた。在学中、指導してくれていた教授がNHKのドキュメンタリー番組で取り上げられ、TVクルーがやってきた。「それを見てドキュメンタリーに興味を持ち、写真を学ぼうと思いたったのです」。
写真を学ぶにあたっては、異文化がたくさん存在するニューヨークがいいと考え、そこにある学校としてICPを選んだという。「自分の中には、日本人であるひとつの価値観しかない。そこから生まれた表現は、ほかの人と同じになってしまう可能性があると思ったのです。違う価値観を知りたい、それにはアメリカ、ニューヨークだって、考えました」。
入学した60名中、ドキュメンタリーコースを選んだのは20名強。学校で教わるのは、フリーフォトグラファーとして活動していくための具体的なノウハウだ。「編集部とのコンタクトのとり方、プレゼンテーションの方法などです。現役の写真家、編集者を講師に招くことも多かった。イラクから帰ったばかりの写真家がきたことがあります。今、何が起こっているのか、リアルな情報を得られることがとても刺激になりました」。
撮影技術面では、最初はフィルムを学んだが、大半はデジタルフォトを徹底的に勉強させられたという。モニターのキャリブレーションからレタッチ、エディティングなどを習得し、南さんは仕事での撮影はほぼ100%デジタルカメラを使っているという。
スピーディに対応できること。それがデジタルを使う一番の理由だと言う。何より大切なのは「自分が写真で何を表現したいかという思いです。それがあれば、技術は後からついてきます」。
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展示準備を行なうスタッフとメンバーたち
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1人3点ずつの作品が、向かい合う壁面に並べられた
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■ スペイン「トマト祭り」で直面した難題
では、南さんが表現したいものはというと、カーニバルやフェスティバル、音楽イベントなどで喜び、躍動する人たちの姿だ。毎週、イベントをチェックし、アンテナに引っかかったものは撮影を行ない、新聞社や雑誌社に売り込む。「今はありがたいことに、仕事の依頼が入るようになりましたが、それでも自分で被写体を探して、売り込むことが基本です。卒業して1年目はまったく仕事がありませんでしたからね」。
昨年、フランスで開かれた国際フォトジャーナリズム大会にVeras Imagesが出展したとき、その出席にあわせて、スペイン・ブニォール市で毎年行なわれる「トマト祭り」を取材することにした。「市にプレスカードを申請したら、この祭りで撮影した写真のクレジットを市に譲渡するよう言われたのです。大きなイベントを持つ小さな街ではよくあることなんです。ここぞとばかりに誇大な要求をしてくる。ある国のTVクルーは、スポット撮影で1,500ユーロ(約24万円)支払ったと聞いています」。
では、南さんはどうしたか。祭りの前日、街の大きな酒場に行って、大声で「英語を話せる人にはビールを奢る」と呼びかけ、英語ができるスペイン人を見つけた。その人に祭りが開かれる場所にあるアパートへ同行してもらい、当日、撮影で部屋を貸りる交渉をしたのだ。「この写真の売り込みもいくつかの新聞社にして、日本の中日新聞社で掲載してもらえることになりました。ただ、それだけではまだ赤字なんですけどね」
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スペインで行なわれるユニークな「トマト祭り」
(c)Shizuka Minami/veras images
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スポーツ写真でも迫力でなく、余韻の味わいが深い
(c)Capucine Bailly/veras images
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■ ドキュメンタリーにファインアートの表現を
メンバーの1人であるShana Wittenwylerさんも、1度、大学を卒業しICPに入学している。大学では芸術史を専攻し、ペインティングを学んだという。「写真でファインアート作品を制作していましたが、経済的に安定させるため、ICPでドキュメンタリーフォトを学ぶことにしたんです」。
彼女の作品は、今回の写真展のメインビジュアルに選ばれたのだが、写真にはうつむいた少年が写っている。彼が腰かけているのは農耕器具のようだ。「アメリカでは農業従事者が全人口のおよそ1%ほどに減ってしまった。その現状をテーマのひとつに写真を撮っています。報道写真の中で、これまで学んできたファインアートがそこに生かせないか試みています」。
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ちなみに1775年、独立戦争のときはアメリカの人口の95%が農業に従事していたそうだ
(c) Shana Wittenwyler/veras images
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人生をまずは肯定する眼が、彼らのもうひとつの共通点かもしれない
(c) Joao Pina/veras images
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Veras Imagesでは、モデルとする組織としてマグナムの名を上げている。マグナムには、多種多様な国籍とバックグラウンドを持つメンバーが存在し、自由に活動を行ないながら、グループとしてのアイデンティティを保ち、存続している。マグナムは今年で創設60周年を迎えた。
この会場を訪れることで、新しい歴史のスタートに参加できるかもしれない。Verasの名前は、スペイン語で「You will see」だそうだ。
■ URL
Veras images
http://www.verasimages.com/
キヤノンSタワー 2F オープンギャラリー
http://cweb.canon.jp/s-tower/floor/2f/gallery/veras/index.html
市井 康延 (いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。 |
2007/06/11 19:19
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