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【写真展リアルタイムレポート】
宮嶋康彦写真展「脱『風景写真』宣言」二〇一〇年の花鳥風月

~デジタルでも銀塩でも、もっと自由に
Reported by 市井 康延

宮嶋康彦氏
 この写真展は、できれば最初、なんの予備知識もなく見てもらいたい。モノクロームを中心にしたプリント45点が展示されているが、とくに黒と白の階調が生み出す映像は、その世界に吸い込まれるような深みがあり、じつに美しい。その写真展とは13日~19日まで開かれる“宮嶋康彦写真展「脱『風景写真』宣言」二〇一〇年の花鳥風月”。開館時間は10時~18時、最終日は15時まで。会場は東京・神田小川町のオリンパスギャラリー。日曜、祝日休館。

 4月15日(土)には13時~14時と、15時~16時の2回、作者による「スライド映写とトーク」が同ギャラリー内で開かれる。申し込みは電話で先着30名まで受け付ける。参加費は無料。申し込み先はオリンパスギャラリー(Tel.03-3292-1934)。


もっと自由に写真を楽しむ

この日、宮嶋氏が携帯していたカメラはオリンパスE-500に、ニコンのAi Nikkor 45mm F2.8Pを装着したものだった
 この写真展は、3月25日に岩波書店から発売された宮嶋さんの新刊「脱『風景写真』宣言」に掲載された作品から新作を抜粋して、展示している。脱「風景写真宣言」とは、自然の美しい風景だけを撮ることを風景写真と限定せずに、眼に見えるものすべてを被写体と考え、もっと自由に風景写真を楽しみませんかという趣旨だ。

 この自由なスタンスが宮嶋さんの行動のすべてに現れている。現在、12のテーマを平行して追い続け、1年の約半分は撮影の旅に出かける結果になっている。ひとつのテーマを追いかけている途中で、新たなテーマを発見してしまうからだ。それができるのは、つねにニュートラルな感性でものを見ているからだと思う。

 それは使うカメラ選びにも現れている。ときにはデジタル、ときにはフィルムカメラと自由気まま。その日、使うカメラは「その日の気分で決める」からだ。だから、今回、展示された作品はデジタルカメラあり、フィルムカメラありで、使用しているカメラの機種もさまざま。

 35mm判カメラはニコンF3が主に活躍し、中判以上はペンタックス645、エボニーの4×5、ディアドルフの8×10(こちらはモノクロオンリー)。デジタルカメラはオリンパス「E-1」から始まり、「E-300」、「E-500」を使っている。ちなみにこの日、バッグにしのばせていたカメラは「Ai Nikkor 45mm F2.8P」を装着したオリンパスE-500だった。

 「このカメラには、オリンパスのレンズも使うけど、ニコンもよくつける。今日の気分はこれだったんだよね。このレンズはフィルムカメラ用だから、周囲の描写が落ちる。その感じがいいんだ」。


すべてインクジェットで出力

 今回の写真展で展示した作品は、ベルベットファインアートペーパーを使い、すべてエプソンの「PX-5500」で出力した。フィルムで撮った作品はエプソンの「GT-X700」でスキャニングしている。

 「このプリンタが出るまで、インクジェットプリントは、銀塩プリントに比べて軽薄な感じがあったけど、いまは満足できるプリントが出せるようになった。銀塩プリントとは紙の質が違うから、同列では比べられないけどね」。

 今回、展示された1枚に、夜の闇のなかに照らし出された満開の桜がある。全体的に薄いトーンの黒で表現された作品だが、闇の深さと、そのなかでライトアップされた桜は、桜そのものが発光しているような神秘的な雰囲気を漂わせている。美しいモノクロームプリントの醍醐味だ。


「雨後」新潟県村上市 「丸石神」山梨県塩山市

 「プリンタの癖がわかって、身についたから、前より少しモノクロームのインクジェットプリントがうまくなった」という。その技術は簡単に説明できるものではないが、Photoshop上で、プリンタの出力を想定したカラーマネージメントが作れるようになったことと、画像によって、ペーパーの表面に最初に薄くのせる色を微妙に変えることにあるらしい。

 「それでも何枚もテストしたうえでしか、満足できるプリントはできない。それは銀塩プリントのときもそうだったから、当たり前なんだけどね」。

 最初に予備知識なく見てほしいといったのは、ここに展示されたプリントがデジタルなのか、銀塩なのかなど、そんなことは関係なく、作品を鑑賞してほしかったからだ。写真を見たとき、なにを感じたかが一番大切なことなのだ。それは脱「風景写真」宣言の考え方にも通じることだろう。


テーマはひらめきで

 そんな宮嶋康彦さんがどういう風に作られてきたのか。これまでを振り返ってみよう。

 写真を始めたきっかけは、高校1年生のとき、写真部に所属していた先輩から「名前を貸せ」といわれ、名簿上、部員にさせられたことだ。すでに剣道部に入っていたが、好奇心旺盛な性格のため、写真部にも顔を出すようになった。

 「通っていた高校には図書館に勤務していた非常に美しい女性がいて、学生の憧れでした。初めて暗室作業を先輩に教わったとき、プリントからその女性の姿が浮き上がってきたんです。そのとき覚えた感動がいまだに継続していますね」。

 そうして写真を始めたが、趣味はそれだけではなかった。音楽と文学にも興味があり、オリジナルの詩と曲を作り、夜になると道で詩集を売りながら、ギターとハーモニカを演奏しながら唄っていたという。当時の佐世保で、ストリートミュージシャンが流行っていたわけでは決してない。

 「このときからやっていることは一緒ですね。いまだに写真を撮り、文章を書き、歌を唄っているんですから」。

 現在の自宅2階には防音設備を施した音楽ルームがあり、グランドピアノとギターなど楽器がある。そして1階の一番いい場所には暗室がある。

 高校生の吟遊詩人には、オリジナル曲が32曲あり、自作の詩集は14集まで作った。8~12ページのホッチキス止めの本で、1部100円。一晩で20冊以上売れたこともあったり、次に詩集を出す日をたずねてくる人もいたそうだ。

 「何しろ表現することに興味があった。高校を卒業して、上京してからも、最初は道で歌っていましたし、ライブハウスでギャラをもらって出演していたこともあります」。


対談中の宮嶋さん。最終的にはデジタルに移行したいとも話していた。銀塩写真は廃液が出るから、そこがどうしても気になるという
 東京では大学の通信教育部で学び、働きながら、写真を撮り続けた。そのころは新宿の街のあらゆるものが被写体だった。人や建物や、道についたキズなど、「白と黒の階調に風景を置き換える美しさに魅了されて」いたのだ。

 科学雑誌の「ニュートン」が創刊したてのころ、売り込みに行くと、関東地方の特集に関われることになった。3週間の取材期間で、各地を回り、銚子の漁港で漁師の夫婦に出会った。

 「船の上で酒盛りをしているので、写真を撮らせてもらうと、一緒に飲めって誘われた。そこで、その夫婦が1年のうち約300日は家を離れ、漁をしているという話を聞いたので、その場で継続して撮らせてもらうことをお願いしたんです」。

 このルポは2年ほど続き、この作品を月刊PLAYBOYが主催していた「ドキュメントファイル大賞」に応募した。結果は、見事大賞。このときの賞金は200万円で、このとき、最も賞金が高いコンテストだったそうだ。当時の芥川賞が15万円だったというから、その金額の大きさがわかるだろう。

 現在は、自分のテーマを撮り続け、たまってくると企画を雑誌社に持ち込み、発表する形を続けている。そのテーマのひとつが桜であり、宮嶋さんの場合は、満開のときだけでなく、四季を通じて撮り続けている。桜の世界は深いですよ、としみじみ言う。

 テーマをどういうときに見つけるかをたずねると、「ひらめき」という答えが返ってきた。例えば対馬に行ったとき、ユーラシア大陸の端が見える。その海には渡来物がたくさん打ち上げられていることを知り、そこから興味が広がっていく。

 二〇一〇年の花鳥風月は、あなたになにを訴えかけてくるだろう。



会場:オリンパスギャラリー
   東京都千代田区神田小川町1-3-1
   NBF小川町ビル
   Tel.03-3292-1934
会期:4月13日(木)~19日(水)(日曜、祝日休館)
開館時間:10時~18時(最終日は15時まで)
入場料:無料



URL
  オリンパスギャラリー
  http://olympus-imaging.jp/plaza/gallery/2006/gallery060413.html



市井 康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。久しぶりにギャラリーめぐりに1日を使った。これまでのように自由にギャラリーに足を運べないので、見たい写真展を効率よく回れる日を選ぶ。通常より早く終わる最終日は要チェックだ。良い写真展を見るには事前の情報収集が不可欠。ということで、写真展情報を掲載したホームページ( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp )を作りましたので、一度、ご覧ください。

2006/04/13 19:04
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