デジカメ Watch

【写真展リアルタイムレポート】
写真新世紀展2005

~デジタルパワーの台頭著しい、新人発掘イベント
Reported by 市井 康延

 今回から、お奨めの写真展を紹介していくことになった。2週間に1回程度の不定期ではあるが、これまでフォトギャラリーに足を運んだことのない人は、ぜひ、これを足を向けるきっかけにしていただきたい。

 第1回目は、12日から東京 恵比寿の東京都写真美術館で始まった「写真新世紀展2005」を取り上げる。この展示は入場無料なので、まだ1度も東京都写真美術館に行ったことのない人は、ぜひこの機会に「都写美デビュー」を果たしておこう。

 ご存知の方も多いだろうが「写真新世紀」は、1991年よりキヤノンが「新人写真家の発掘と育成」を目的にスタートさせた公募展だ。これまでにHIROMIX、佐内正史、野口里佳、蜷川実花といった写真家を輩出してきた。ちなみにデジタルカメラマガジンで「見るまえに撮れ」を連載中の内原恭彦氏は2003年のグランプリ受賞者だ。

 こうした実績から、多くの意欲ある若手写真家がこぞって作品を応募してくるわわけだ。だから見応えもあるし、話題にもなる。今年度も1,324名の応募から選ばれた6組7名の優秀賞と、佳作26名の作品が会場に展示されている。


会場の様子。作品サイズはもちろん、展示の仕方にもひとひねりがされているのが分かるだろうか。右から「internet images[p.n.001]」(林口哲也+松村康平)、「A DAY[Women of 30 years]」(小澤亜希子)、「TSURU」(新垣尚香)
こちらは恵比寿駅側の東京都写真美術館の入り口だが、本当の正門は反対側だったって知ってました?

全員がデジタルプリントで出品

自作の前で梶岡禄仙さん。左上の印象的な泣き顔の女性は作者の奥様
 今年度の特徴は、ずばりデジタル技術を使った作品がぐんと増えたこと。優秀賞の中では2名がデジタルカメラを使い、全員がデジタルプリントで出力しているのだ。デジタルプリントに対して共通して指摘している点が「作業スピードが速いことと、画質がよくなってきた」の2点。

 この日は会場で、優秀賞の1人である梶岡禄仙さんに話を聞いた。梶岡さんは1964年生まれで、応募作は彼が高校時代から今年4月までに撮った膨大な作品からセレクトして「to the past」としてまとめたものという。フィルムで撮ったものはスキャニングして、すべてインクジェットで出力している。

 彼の写真歴はモノクロ写真から始まり、カラーへ。ただその間も撮るだけではなく、自ら現像し、プリントするこだわり派だった。それが2年ほど前からデジタルカメラに切り替えた。プリントまでの作業スピードとコスト、そしてプリント画質をトータルで考えた結果だ。さらに梶岡さんの場合、そのスピードが作品制作にも大きく影響したという。

 「デジタルカメラだと、撮影から帰って、即プリントアウトができますよね。撮影したそのままの気持ちで撮影からフィニッシュワークまでできるのは、創造力が途切れず、僕にとって大きかったです」。

 それまで撮ることだけで完結していた気持ちが、作品を発表することへ広がり、2003年の第4回新風舎・平間至賞に応募し、優秀賞を受賞した。ここでの受賞作は日常のスナップを、粒子を粗くして表現した作品で、写真集「デジタリアン」としてまとめられている。

 「自分が作った作品でも写真集になるんだという自信が、さらに次の発表の舞台を求め始め、去年、エプソンカラーイメージングコンテストで佐内正史賞をいただきました」。


銀塩とデジタルの壁を越える

 その梶岡さんとの話で、もうひとつ興味深い証言を紹介しよう。彼は3年前までは、デジタルカメラを使いながらも、いわゆる「写真」を撮ろうと思うときはフィルムカメラを選んでいた。デジカメはダメなら消せることで、撮影が安易になり、何か大切なモノが見えてこないような気がしていたからだ。デジカメはスキャナー的要素が強かったともいう。

 「フィルムは消去できない。そこが写真だと思う。デジタルは撮った後で捨てていく作業だが、フィルムは撮る前に捨てていく作業が必要になる。撮る前に捨てる、シャッターチャンスを選ぶことで、そこで観る目が養われると思う」。

 これはデジタルカメラを使う撮影の欠点として、よく指摘されてきたポイントであり、彼も当初はそう思っていた。だが梶岡さんは今はデジタルカメラしか使わなくなった。それは「デジタルでも銀塩写真が創れるとわかったから」だという。

 デジタルカメラだから撮影が安易に流れる。デジカメが持つ絶対的な欠点のように考えられていたきらいがあったが、撮影者の意識ひとつで簡単にクリアできる問題なのかもしれない。だからプリント品質も拮抗してきた今、梶岡さんにとっては「デジタルカメラでも銀塩写真が創れる」のだ。


インクジェットプリントのよさも

西野壮平さんの「Diorama Map」。1,500~3,000枚というプリントから、記憶を辿りながら都市を再構築していく
 もう1点、会場で目を引いたのは西野壮平さんの「Diorama Map」だった。東京、大阪、京都といった大都市を俯瞰したジオラマだが、よく見るとコンタクトプリント(フィルムを等倍で印画紙に焼き付けたもの。インデックスプリント)がコラージュされて構成されている。そのプリントは、街を鳥瞰できる位置から35mm銀塩カメラで撮影したもので、都市をスケッチした白い紙の上に貼りつけてある。東京ならば山手線の円があり、それに沿って皇居や新宿の駅前の風景が目に飛び込んでくる。大阪の場合は40~50カ所で撮影を行なったという。

 その後、貼りあわせた1枚の都市のコラージュを4×5カメラで複写し、デジタル出力させている。最終的にデジタル化した理由について西野さんは、オリジナルを長く保存できることと、展示/発表するときにフレキシブルに対応できることともに、次のようにも話している。

 「貼りつけ作業が持つ“手作業”という身体性を面白いととられ、それが評価の中心になってしまい、そのレベルで評価が止まってしまうことを心配したからです。この作品の面白さは、個々が持つ最大公約数的な記憶としての都市を、客観性を持つといわれてきたメディアで、虚構の空間を作ることにあるからです」という。

 作品としてあるのは作者がイメージした都市であり、その提示したイメージの差異を観る人に考えてほしいのだ。

 このほか、今回の写真新世紀展では「インクジェットプリントによるカラー作品とモノクロ作品のマッチングのよさ」も感じた。これまでカラーとモノクロが混在した展示は、どうしても落ち着きの悪さを感じたものだが、先の梶岡さんの作品にしても、その隣に展示されている、とくたはじめさんの「さざめき」も、違和感なく両者が存在しあい、よいイメージを作り上げていた。もちろんそれはひとつには作者の功績によるものであるわけだろうが、インクジェットプリントの特性として活用できる表現方法かもしれない。

 12月7日に、会場で公開審査会(参加受付は終了)が開かれ、この6点の中からグランプリ1点が決定される。まずは7日以前に会場に足を運び、グランプリ候補を想像するのも楽しいだろう。


梶岡禄仙さん(右)と、とくたはじめさんの展示。カラーとモノクロ作品がうまくかみ合っている
昨年のグランプリ受賞者は1年間で新作を制作し、ここで個展として発表できる。2004年はイレギュラ-で2名が準グランプリとして受賞になった

会期:12月11日(日)まで
休館日:月曜
開場時間:10時~18時(木/金曜は20時まで)
問合せ先:Tel.03-3280-0031



URL
  写真新世紀展2005
  http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/news/20051007.html
  写真新世紀
  http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/

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市井 康延
(いちい やすのぶ)1963年、東京都生まれ。あの北島商店の肉を食べて育つが、水泳は大の苦手だった。写真とは無関係の生活を送り、1995年から約9年間、フォトギャラリーのスケジュール情報誌の制作に携わる。「写真に貴賎はない」が持論。

2005/11/16 16:59
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