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[2008/07/09]

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[2008/06/25]

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[2008/06/11]

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[2008/05/21]

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2005年

コメディーグループを撮影した


APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM(67mm) / F3.5 / 1/80秒 / 1SO400

シグマSD14と18-50mm F2.8 EX DC Macro、小型ストロボ、ワイヤレススレーブ、手製のソフトボックス
※カメラはシグマSD14を使用。すべてRAWで撮影後、JPEGに現像。
※コメディアンの顔写真は掲載許可をもらえた11名を掲載。8×10インチのプリントに合うようにトリミングし、気になる髪の毛などを少しだけレタッチして仕上げました。
※写真下のデータはレンズ(実焦点距離)/絞り/シャッター速度/感度/ホワイトバランスです。レンズはすべてシグマ製です。
※写真をクリックすると、等倍の画像を別ウィンドウで開きます。


 ロサンゼルスでは、ハリウッドを中心にコメディー劇場が何軒もあり、毎週どこかでライブのコメディーショウが観られる。しかし、私はめったにコメディーショウを観に行かない。理由は、英語力の不足から笑えないことがしばしばあり、出演者に失礼になると思うからだ。

 狭い劇場では舞台と観客席の距離があまりないので、客の表情が舞台からは丸見え。笑わないと舞台にいるコメディアンに気が付かれてしまう。周囲のアメリカ人は、ゲラゲラ笑っているのに、1人だけ笑えない浮いた感じもあまり愉快なものではない。

 もう何年もアメリカに住んでいるから全然笑えないことはないが、コメディアンからすると少しひねった笑いを狙ったものは、言っていることが理解できても笑えないことが多い。笑いに行って笑えずに帰るのは、ストレスのたまる悲劇だと思う。

 そんな私が、「Comedy Improv Show」と呼ばれているコメディーショウに出演しているコメディアン達を撮影した。「Improv」は、「Improvisation」の略で、「即興」と訳していいと思う。このコメディーショウの特徴は、スクリプト(脚本)がないことと、そのコメディーのストーリーを作るために観客の参加を求めることだ。観客なしには成り立たないショウとも言える。


遅れて来たジムと撮影バックグラウンド。バックの布は専門店で買った。紙と違い、カメラバックに丸めてしまい込んで持ち運べるので便利
 撮影したコメディーグループは、現在16名のメンバーがいる。5月下旬の土曜の夜、彼らのコメディーショウはハモーサ・ビーチ市経営の劇場で行なわれた。ショウの直前、その夜集まった15人の各メンバーのヘッド・ショット(顔写真)を撮影した。

 彼らのショウが、2つある舞台の小さな方の第2劇場で行なわれると聞いていた私は、1時間前に劇場に着いた。劇場の入り口で、職員の女性に今晩のコメディーショウの撮影に来たことを告げると、「楽屋で撮影することになると思うから私について来なさい」と言われた。私は劇場職員に案内された、だだっ広く鏡だけがやけに立派な楽屋に機材を運び、簡単な撮影のセットを作り終えた。そして、少しある時間の余裕を楽しむことにして、古い椅子に腰をかけながら、楽屋の窓からまだ明るいカリフォルニアの青い空を何も考えず見上げていた。

 するとその時、グループのマネージャーのマイクさんが慌てて楽屋に入ってきた。「残念ながら、私たちには楽屋が与えられていないので、ここでは撮影できないのですよ」と、申し訳なさそうに言う。劇場職員の女性の確信的な誘導で、楽屋に撮影準備をして、すっかり準備万端と思って、一時の憩いの時間を楽しもうと思った私のもくろみは、一瞬にして打ち砕かれた。急いでセットをたたみ、第2劇場前の廊下に機材をすばやく、しかし焦らず無理をせず移動した。私のこれまでの人生は撮影現場だけでなく、ことあるごとに無理をして重たい物を持ち運び、腰や背中を痛めることが多かった。しかしマイクさんの手を借り、怪我をしないよう用心しながら機材を移動した私は、無理をすれば身体は壊れるのだという事実を最近になってようやく学び始めたのかもしれない。

 移動した第2劇場前の廊下近辺で撮影できそうな場所は、2階から下に降りる階段の踊り場しか見当たらない。持ってきた大型ストロボをつなぐ電源も近くにないし、階段の踊り場は狭いので、予備に持ってきた小型ストロボ2つで撮影することにした(写真1、2)。

 コメディーグループのメンバーたちは、ある者は椅子をきれいに並べ替え、ある者は来始めた客にプログラムを配り、皆忙しくしていた。ショウが始まるぎりぎりに現れたメンバーもいて、撮影はショウ開演15分前にスタートし、1人2、3カットずつしか撮影時間がなかった。私は「はい、低くなって!」と、カシャーとシャッターを押す。「ハイ、次の人どうぞ、後ろにバックアップ!」そしてまたカシャー。こんな調子で背丈も顔の大きさも全然違うメンバーを次々に撮るため、私とコメディアンたちは、申し合わせたように足の屈伸と首をすばやく動かし、カメラのフレーミングをして撮影した。

 その撮影光景は、どのくらい早く撮れるか、記録に挑戦しているカメラマン役の私と、撮られる人役のコメディアンたちのComedy Improv Showのようだったと思う。ライトの位置、ピント、フレーミングの確認をしなければという思いと心配は捨て去り、その場の雰囲気重視で、ドタバタだけど笑いの絶えない撮影は瞬時で終わった。


18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
レイ。メンバー最年少。高校生からImprovを始める。経験ある人たちと多くの舞台に立ちたいと思っている。イノセントな表情と演技で笑いを誘う
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
ジョー。独特な風貌でこれまで数々の劇場でコメディー・ショウに出演。Improvの経験は10年。身体に似合わず、軽快な動きが売り
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
ドリス。コマーシャル、テレビ、映画に頻繁に出演し、タイムマガジンのカバーにもなった売れっ子。Improvは優秀な先生達の下で勉強し、ディレクターもする

18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
リック。ラジオ番組出身で、なかなかいい声の持ち主。演技はハリウッドで勉強。Improvは2年の経験。シリアスなキャラクターで観客を笑わす
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
アキ。UCLA Film School卒。テレビ映画「さらばマンザナ」に出演し、俳優としても脚本家としても活躍。Improvは7年の経験。小柄だが、全身を使った演技に観客は爆笑
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
トム。正式な演技の勉強はほとんどしたことがなく、コメディーは独学。見るからにおもしろいキャラクターで観客を笑わせ、コメディーは生き甲斐

18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
クリスチャン。演技はUCLAや劇場で正式に学ぶ。大柄な彼は多くの警察官の物語に登場
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
ウイントン。Improv は友人から紹介されGroundlingsで学ぶ。一見まじめだが、クールで独自のおとぼけが笑いを誘う
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
ジム。数々の映画にも出演。定期的にスタンドアップ・コメディーに出演している。Improvは8年の経験

18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
マイケル。グループ・マネージャー。コメディーImprovのディレクター歴は10年で演技指導もする。劇場やケーブルテレビにも出演し、剣術の振付師でもある
18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F4 / 1/80秒 / 1SO100
マイク。マイケルと共にグループ・マネージャー。髪がまだ豊富だった若い頃は、コマーシャル俳優兼モデルとして長年海外で生活した経験を持つ。英国人らしい粋なジョークがおもしろい

 劇場関係の撮影はドタバタ劇が付き物で変更も多いが、私はそのドタバタ劇も含めて芸人の撮影が好きだ。有名無名に関係なく舞台に上がれば逃げ隠れができず観客に観られている芸人は、舞台の上では観客に命を預けている。長くても数時間で終わる舞台のために、日頃から鍛錬をしている。そんな正直で神聖とも思える舞台に立つ芸人の生き様に、潔さを感じるからだ。そしてその舞台裏でこまめに働く人々もまた好きである。

 忙しくドタバタな撮影後、すぐにショウは始まった。私は機材をたたみ、受付に預けてショウを観ることにした。開演5分後くらいに、観客より少し遅れて劇場に入ることができた。80人も入れば満員になる小さな劇場は、ほぼ満員状態だった。私は入口近辺の、唯一のバックグランドミュージックであるキーボードの隣に座り、舞台からは遠いところから観ることになったが、遠いので笑えなくても目立たないので都合がいいと思った。しかし、比較的ストレートな笑いが多かったせいか、この夜はよく笑えた。ショウの撮影は予定していなかったが、少し撮影した。

 1つ1つのショートコメディーは、「ゲーム」と呼ばれていた。このゲームはあらかじめ考えられていて、どのメンバーがどのゲームを演じるかのみ決められている。この夜は13個のゲームがあった。お題は、観客から提案してもらう。例えば、「誰が、どこで、何かをしている」という文章を作り、それを読み当てるゲームでは、観客から「ブッシュ大統領」、「月」、「洗濯」、などの言葉が提案され、それを1人のメンバーが演じ、会場の外に出ていてその言葉を知らされていないメンバーが、ステージに戻りそれを読み当てるのだ。冒頭の写真は、「スポーツセンターにて、よくする家事」というゲームをしているところ。「アイロンがけ」というお題が観客から提案され、アイロンがけの大会が開催された。


18-50mm F2.8 EX DC Macro(50mm) / F3.5 / 1/60秒 / 1SO400
「一番言ってはいけないこと」というゲーム。観客から、言ってはならい言葉を提案してもらい、その言葉を使ってはならないおもしろい状況を作り出して笑わせる

APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM(50mm) / F3.2 / 1/60秒 / 1SO400
「生きたシーン」というゲームでは、4人のメンバーが登場し、そのうちの2人が観客から提案された物になる。写真は双眼鏡という言葉が提案されて、2人が双眼鏡になり、あとの2人がその双眼鏡を面白おかしく操る
APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM(mm) / F3.5 / 1/80秒 / 1SO400
「耳の不自由な人のための通訳」というゲームでは、ある本のタイトルが観客から提案され、そのタイトルを左手の女性が通訳になりおかしく演ずる。中央の男性は本の著者、右手は聞き手。聞き手が変な質問をし、本を書いた著者も的外れな答えをするのがポイントだった

 ただ当てるだけではおもしろくない。その演じ方で観客に笑いを誘い、答える相手もその答え方で笑いを誘わなくてはコメディーにはならない。頭の回転が速くないと到底できない芸当だ。天然ボケのようなキャラクターもいるかもしれないし、一口にコメディアンと言ってもいろいろなタイプがあると思うが、Comedy Improv Showで人を笑わすことは、かなり頭の回転が速く、物知りでないと難しそうである。

 ロサンゼルスではGroundlingsがComedy Improv Showでは有名だ。劇場と学校を経営していて、月曜日と火曜日以外はほぼ毎日コメディーショウが観られる。そこには多くのクラスがあり、多くのコメディアンが勉強しているそうだ。

 「コメディーで生計を立てるのは至難の業だよ」と、マネージャーのマイクさんがしみじみ言っていた。笑うにもある程度の知識とセンスが必要だが、笑わす方はその何倍も上を行っているのだろう。傍から見ていると楽しそうで華やかだが、コメディアンの道は厳しく深い世界のようだ。


APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM(67mm) / F3.5 / 1/80秒 / 1SO400
「動く人」というゲーム。観客から「宇宙船」という言葉が提案され、観客がステージに登場。あやつり人形役のコメディアンと競演
APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM(67mm) / F3.5 / 1/80秒 / 1SO400
観客から提案された言葉からディレクターが、役者に無理難題を与える「ディレクターの特権」というゲーム

18-50mm F2.8 EX DC Macro(43mm) / F4 / 1/60秒 / 1SO400
「無声映画」というゲームでは照明が変わった。観客から実存しない映画のタイトルを提案してもらい、そのタイトルに合う無声映画のストーリーを作りながら笑いを誘う


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。日本からの仕事も開拓中。

2007/06/27 00:45
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